一輪花の咲くまで   作:No.9646

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56話 決戦ーPlus Chaos③

 

 

為田はヒーロー好きであった。

特にエンデヴァーファンで、所謂ガチ勢である。

少し前にニュースに映った自身の発言が取り沙汰され、見ろやくん、などと愛称までつけられて少々むずがゆい思いをしている。

この日も、友人と家で駄弁りながらファントークに花を咲かせていた。

するとニュースに速報が上がった。

地元からは遠い京都の事ではあるが、大規模テロが起きたらしい。

続け様にNo.3ヒーローベストジーニストの復帰宣言からの緊急避難指示。

映像に映るのは、半壊した蛇腔市の様子や20メートルを超えるMt.レディをものともせずに引き摺っていた大型ヴィランが街を破壊しながら進む様子。

後に残るは瓦礫の山。

速報は絶えず避難指示を声高に伝えていた。

 

『ザーあれ…電波ーがーザー』

 

ニュースが流れていた画面が荒れる。音声にノイズが混じり、映像が乱れる。

パッと映像が移り変わった。

そこに映るのは、焼け爛れた肌を金具で継ぎ接ぎした上半身を曝した男ー荼毘。

なぜ、と思う間もなく、荼毘は口を開いた。

 

『突然すみません。僕、轟燈矢は、No.1ヒーローエンデヴァーの息子です』

「「…え?」」

 

思わず、2人揃って声が出た。

 

『僕、轟燈矢は、エンデヴァーの、轟家の長男として生まれました。今まで30人以上の罪なき人々を殺しました』

 

荼毘は淡々と語る。

それは衝撃の告発であった。

前時代的な個性婚。

オールマイトを超える、その目的の為だけに無理矢理妻を娶り、子を産ませた。

しかしエンデヴァーの望む個性に産まれなかった長男燈矢は、失敗作だったようで、程なくして見限られ、捨てられたと。

望む個性を持って生まれた4人目の成功作、焦凍にも、何度も何度も手を上げていた。

人を守るのが仕事であるはずのヒーローが、そのために鍛えられたはずの肉体を持った大男が、妻子に手を挙げるなど。

轟焦凍と言うと、体育祭でド派手な氷の個性を使っていた子だったか。

その子が末子という事は、本当に強い個性を作るためだけの結婚だったのか。

不要になった長男は見捨てられヴィランになり、この惨状を作り上げたなんて。

そんなことはとてもではないが、信じられなかった。

荼毘も信じてもらえるとは思っていないようで、血液鑑定証書を出してきた。

見えづらいが、それには確かに99.99%以上の数字が並んでいる。

 

『エンデヴァーは他者を思いやる心なんて持ち合わせてない。自己顕示に溺れた矮小で独りよがりの精神。そんな人間がヒーローを名乗っていいと思いますか』

「嘘やろ…こんなん…誰も信じんやろ…⁉︎こんなんでヒーローの信頼は揺らいだりせん…!俺たちはそげん馬鹿じゃなか‼︎」

 

エンデヴァーは確かに苛烈で厳しすぎる一面もある。ファンサだってろくにしてくれやしない無愛想で頑固もんで、でも誰より熱くストイックで、誰よりも事件を解決して人々を守ってきた。

彼は確かにヒーローなのだ。

実際、エンデヴァーはボロボロになりながら、血を流し傷を負いながらも脳無と闘い勝利し、住民を守ってくれたではないか。

為田は、自分たちはこれまでずっと彼を見てきたのだ。

真偽も定かでないヴィランの言葉なんかに惑わされてない、されて堪るかと、為田は誰に言い聞かせるでもなく口にしていた。

 

『エンデヴァーに連なる者も同様です』

映像が切り替わる。

 

「わ!⁉︎」

 

為田は思わず悲鳴を上げてのけぞった。

画面に映っていたのは、ホークスがその羽で男を刺す瞬間。

 

『No.2ヒーローのホークス。ホークスは泣いて逃げるヴィランを躊躇なくその刃で刺した。僕が守ろうとした目の前で』

 

男は敵連合の1人で、泣きながら這いずり、仲間の元に向かおうとしていたところだった。

ヒーローはヴィランを倒しても、殺しはしない。それが大前提。

それでも、本当に危険な時はやむをえずという場合もある。ホークスは酷い火傷で、背中の羽もほとんど残っていない有様だった。周囲も破壊されている。緊急事態だったと、そう信じたかった。

 

『ホークスがその矛先を向けたのは、彼だけではありません』

 

また映像が切り替わる。

画面に現るのは、どこかの通路か、人気のない場所。

そこにいるのは、白髪赤眼の少女と、ホークス。

 

「なあ、こん子、雄英の子だよな?体育祭準優勝の!観客席から落ちた子供助けた⁉︎こん子、その後誘拐されとったよな…?」

 

その少女は以前テレビで見たことがあった。

ヒーロー好きの為田は、未来のトップヒーロー候補である雄英生が活躍する体育祭も当然見ていた。

去年の体育祭で準優勝した子だ。

エンデヴァーの末子の焦凍にも鮮やかに勝利し、決勝戦では客席から落ちた子供を身を挺して救けた将来有望な未来のヒーロー候補生であったはず。

そしてその夏、優勝者の少年と一緒に敵連合に誘拐された、その筈だ。

歩み寄った少女を、ホークスはいきなり胸ぐらを掴んで、壁に叩きつけた。

“剛翼”で彼女の個性の起点となる眼を狙い、首元には硬化した羽根を突きつける。

よく見れば、首には薄らと赤が一筋滲んでいた。

 

「なんばしよっとね⁉︎こげん女の子相手に⁉︎」

 

抵抗するわけでもない、細身の少女に、プロヒーローが何をしているのだ。

 

『彼女は幾度となく、ヒーローに裏切られました』

 

動画に荼毘の音声が乗る。

 

『彼女は、ある児童養護施設で育ちました。とあるヒーローが運営していた施設です。しかし、そこは恐ろしいことに、身寄りのない子供を犯罪組織に売り利益を得る、非道を行っていたのです』

 

為田たちは耳を疑った。

 

「なっ…⁉︎」

『ヒーローによる犯罪行為の被害者となった彼女を、ヒーローは誰も彼女を助けてはくれなかった。それどころか、被害者が、たくさんの子供がそこにいると知りながら、利用した挙句に見捨てたのです』

 

映像の一部に新聞の切り抜きが映される。

4年ほど前のそれは多数の死者行方不明者を出した火災の記事だった。

その犠牲者の多くが小さい子どもだった。

 

『警察、ヒーロー公安委員会は、この事件を隠蔽しました』

 

友人が横で記事を検索してくれる。

それは実在した記事で、従業員の男が被疑者死亡で送検、終件していた。

真実味が増して行く。

 

『当時、彼女は救け出す代わりに組織の情報を求められたそうです。悪い人を捕まえる為に、そう言われて。しかし結局、救けは来なかった』

 

映像が再生される。

 

『死柄木弔を、敵連合を止める。その為の情報がいる』

 

それは間違いなくホークスの声だった。

 

『私に義兄を売れと?』

『頼むよ。俺は君を殺したくない』

『公安じゃ脅し方は教えても口説き方は教えてくれなかったらしい』

『君の立場なら、容易く中枢に潜り込める。超常解放戦線の拠点、構成員、協力者、行動予定、そういう情報が欲しい』

「死柄木が義兄って…」

「ヴィランなんか…?」

 

何でヴィランが雄英にいるのか。あそこには何十人とヒーローがいる。そこに、ヴィランが?

だとしたら数ヶ月の間、ヴィランに潜り込まれて気が付かなかったとでも。

まさか雄英が2度襲撃を受けたのも。

だとしてもだ。

捕まえて情報を吐かせるならまだ分かる。何故留まらせようとする。

そんな女の子に、ヴィランのままで危ない事をさせようと、罪を重ねさせようとする。

殺したくないってなんだ。まるでそうする選択肢があるような口ぶりではないか。

いろんな情報が、感情が、思いがぐるぐると渦を巻く。

 

『ヒーローによる犯罪の生き証人である彼女は助けを求めることもできず、行き場を追われ、生きるために罪を重ねるしかなかった。AFOに与したのもその為でした』

『それをして私がどうなると思う?』

『君のことは公安で保護する』

『監禁監視行動制限付きの監獄生活、或いは協力者としての飼殺し、若しくは口封じに殺されるか。それを保護だと?』

『そうならないように俺も手伝うよ。これまでの境遇から情状酌量も大いにつく。充分やり直せるさ』

「公安て、ヒーロー公安委員会だよな…さっき、警察も隠蔽に関わったって…?」

「なしてホークスはこん子が殺されるいうん否定せんの…?」

 

情状酌量って、ホークスはまるでこの子の境遇を知っていたかのような口ぶりではないか。

ならば、さっき荼毘が言ったことは本当なのか。

ヒーローが、同業者の行った犯罪行為の被害者を利用するだけ利用して見捨て、多数の死者を出して、それを組織ぐるみで隠蔽して。

それを知ったうえで、また脅して利用しようとする?

命の保証すらないのに、それが保護?

目に映る映像は、聞こえてくる音声は、全く別世界のもののように流れていた。

その思考を現実だと引き戻したのは、次の会話だった。

 

『君はまだ16だ。罪を償って再出発するには十分時間はある』

『罪を償うねえ…そうだな。罪には罰が付き物だ。で、ホークス?敵連合に近付くのに荼毘に情報を流したり、アイツに協力して市街地で脳無を暴れさせるのにも協力したのは、いつ償うんだ?死人は出さなかったようだが、怪我人や経済損失は、被害にカウントしないのか?』

 

市街地での脳無による襲撃事件。

 

『ホークスは僕らに取り入るために情報を漏洩させ、先日僕が起こした脳無による襲撃事件にも協力していました』

 

荼毘が姿を見せた脳無絡みの事件と言えば。

 

「なあ、脳無って、あん時の黒い奴だよなぁ…!俺たちも死にかけたやつだよなぁ…‼︎」

 

黒い脳無。

アレに、ホークスが関わっていたのか。

確かに、死者は誰1人として出なかった。彼が出さなかった。

でも怪我人は、建物は、そこに住まう市民の生活はどうなったか。

脳無はエンデヴァーが辛くも討ち取ってくれた。

しかし、そのエンデヴァーも顔に傷が残る怪我を負って。

それも全部?

待て、奴はエンデヴァーの息子だと言った。

まさか、あの襲撃自体、父親を狙ったものだったのか。

エンデヴァーは地元のヒーローであるホークスの元を訪れ、彼に案内されて駅前に姿を見せていた。

まさか、No.2ヒーローが、ホークスが、地元のヒーローが手引きをしたのか。

 

「あれを…ホークスが…?」

『…結局は数か。そうだな、人の命なんて所詮ただの数字だ。1人より2人、2人より3人。大人2人のため死ぬのが子供1人なら、それは差し引きプラスだろうね。流石公安の犬だ。よく躾けられている。残される側に私達はいない。いつだって引かれる側だ』

 

全国の人口に比べたら、確かに少ない。

だけど、その人たちを、より多くの市民を救う為に、自分たち住民は犠牲(踏み台)にされたのか。

 

「違う…そんなわけなか…!」

『4年前、多くの犯罪者を捕まえて多くの人を救ける為にと言われて情報を流した。私はそれに従った。従って、まだ足りないと求められ続けて、その間に私の仲間が何人死んだと思う?死んだのは皆、私よりも小さい子だった。いつか、きっと、ヒーローが救けに来てくれる。そう信じたまま死んでいった』

 

少女が今16。自分より2つ下だ。4年前ということは、当時12歳。その彼女より小さい子供たちが。

為田は思わず口を押さえた。

さっきの火災の記事。

1桁の年齢の子どもを含めて、ここ数年で最悪にも近い数の犠牲者。

しかも、生存者が見つかったという記載はどこにもない。

見捨てた。

荼毘はそう言わなかったか。

 

『知っての通り私がいた古巣は酷い所でね。人間を商品として売り捌いてたんだ。子供は主力商品で、訓練について来れる者だけ残して、他は規定値に達しなければ消耗品として売られて行く。人体実験の被験体、臓器売買、愛玩、自爆テロの爆弾運び。まあ碌でもない所だったよ。お前の先輩、公安のヒーローに会ったのも、そういう取引の現場だった。彼女は私達を救けようと動いた。けれどそれは叶わなかった。他ならないヒーロー公安委員会の命令で阻まれた。果てに私たちをまだ人殺しの道具にしようとした。お前のように』

 

悲惨。

その一言に尽きた。

ホークスは何も言わず。黙って葬の言葉を聞いていた。

 

「なしてホークスは何も言わんと…?」

 

ヒーロー公安委員会の命令?人命救助を止めた?ホークスが人殺しの道具?子供も同じように?

まるでわけがわからない。理解したくない。

そんな歪に、まるで無理やりに笑う少女を前にして、なんで。

そんな事はないと断言してやらない。大丈夫だと言ってやらない。

ホークスの言葉を待っても、無情にも映像は進んでゆく。

 

『彼らにとって、自身の意に沿わない者は救う対象ではないのです』

 

少女の首から、血が。

 

「ひっ…!」

 

白いシャツが赤く染まる。

さっき殺したくないと、保護すると言ったじゃないか。

 

「違う…ナぁホークス…!その羽は何の為についとーと…⁉︎アンタの羽はこげん事に使うもんと違うやろ…!人ば救ける為にあるんじゃなかとね…⁉︎」

『暴力が生活の一部になっているから平然と実行できてしまう。それもそのハズ、彼の父親は連続強盗殺人犯…ヴィランだった。彼が経歴も本名も隠してたのはその為でした。彼の父はエンデヴァーに捕まっています。何の因果か…そういう性を持った人間ばかりがよって集まる』

『それだけではありません』

 

映像は2人が争う場面に映る。

端から飛び込んできたのは、一時期報道で何度と見た姿。

 

「何でヒーロー殺し⁉︎コイツ確かエンデヴァーに捕まりよったよな⁉︎」

『ヒーロー殺しステイン。彼が保須で逮捕後、逃走していることを知っている人は果たしてどれだけいるでしょうか』

 

ステインが捕まったのは夏前だ。

この映像がそれより前なら、脳無の話なんて出てくるはずがない。

画面では、ヴィランのヒーロー殺しが、少女の前に立って庇うように、守るように、ヒーローのホークスと戦っていた。

 

『皆さんご存知かもしれませんが、彼は僕たち敵連合の一員でした。だから彼から話を聞くことができました。保須で彼を逮捕したのは、エンデヴァーではないと!』

「は…?」

 

何を言うのだ。

ヒーロー殺しを捕らえたのはエンデヴァーだと、ニュースも新聞もそうだったではないか。

間違うわけがない。為田はエンデヴァーのお手柄記事だから、よく覚えていた。

でも、さっきの新聞記事は?

 

「違う…」

 

無意識に口をついて出ていた。

違うと信じたかった。

 

『エンデヴァーは事件解決数最多をほこるヒーローだと、それだけ多くを守ってきたのだと、思っていたはずだ!信じていたはずだ!その功績すらもまやかしだった!僕は許せなかった!』

 

何かが崩れる音など、きっと聞こえなかったのだ。

 

『後ろ暗い人間性に正義という名の蓋をして‼︎あまつさえ“ヒーロー”を名乗り‼︎人々を欺き続けている!よく考えて欲しい!彼らが守っているのは自分だ!皆さんは醜い人間の保身と自己肯定の道具にされているだけだ!』

「“見ろやくん”…いかんよ、これ…」

 

友人は半ば唖然としていた。

 

「敵の言葉とは言え………揺れるやろ…こんなん…ごめん、俺も今そうたい…!ごめんな…!」

 

声が震えていた。信じられなくてごめんと。

 

「けど、既に信じられん程被害でとるやん…“見とう”けんこそ…揺れない方が“馬鹿”なんやないか…⁉︎」

 

神野、福岡、蛇腔、郡訝からの広範囲が瓦礫の山と化した。

既に死傷者行方不明者の数は夥しい。後者はまだ救助活動の真っ最中で、被害の詳細すらわかっていない。

揺れる。

崩れる。

言葉が出てこない。

最早、為田は目を手で覆うことしかできなかった。

 

 

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新旧No.1子s

密会現場の証拠映像撮るつもりで仕掛けたけど手出されたのでプラン変更。

都合悪いところはカットしたり荼毘のナレーションで音声差し込んだりしてる。

 

為田浩

誰?と思った方、見ろやくんです。

方言は詳しくないので雰囲気でお願いします。




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今度こそ告白回でした!
轟家の内情は原作通り+密会映像と過去記事のエビデンス付き。
ヴィランのいう事だから基本嘘と思われるけど、その中に真実があったら他は?
同じく、基本真実でなければいけない公に嘘があったら、他は?と疑わせるのが目的。信用ってそういうもの。
トゥワイス死んでないですけど、死んだと言ってないし、殺したと思わせるような場面で映像止めたのがミソ。
ステインってこれもし公判で言及されたらどうなんだろ?と思いましてネタに入れました。逮捕の手段に不法ないし不当性があった場合。なんかどっかでちらっと聞いた事があったようななかったような?タルタロスって拘置所と銘打ってるので裁判まだのはず。
まあ本人は動機の面では主義主張語るかもしれませんが犯行に関しては一切否認しないと思いますが。逮捕状況がどうって本人が言及しない限りは弁論にならないだろうし。
それにデクたちって葬の過去には直接関係ないけどステインはガッツリ絡んでるんでこっちの方がダメージソースとしてありかなと。
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