一輪花の咲くまで   作:No.9646

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57話 破滅の足音①

 

 

 

超大型ヴィラン襲来の報を受け、ウラビティたちも懸命に避難誘導に走っていた。

目的地はここ蛇腔市である。

超大型ヴィランの到着まではまだ距離はあるが、事態は一分一秒を争う。

1人でも多く。

ベストジーニストによる早期の呼びかけが功を奏したのか、避難は比較的順調であった。

しかし超大型の姿が視認できる距離まで迫っても、どうしたって自力では避難できない人たちもいる。

 

「そこの二人〜‼︎助けておくれええええ‼︎」

 

寝たきりの夫がいて動かせないと助けを求める老婆に誘導され、ウラビティは路地奥の平家へ向かう。

 

「大丈夫です‼︎私が助けます‼︎」

「本当に⁉︎」

 

振り返ったのは、老婆ではなかった。

 

「トガ…ヒミコ⁉︎」

どろりと“変身“の溶けたトガは、そのままするりと家の中に入り込む。

それを追って、ウラビティは慎重に家屋の中を進む。

声はすれども姿は見えず。

 

「だから教えて、お茶子ちゃん」

 

ダンッ!と背後から、ナイフを構えたトガに、押し倒された。

 

「私をどうしたい?」

 

間一髪。

ウラビティはトガの腕を掴む。

 

「………っ!そんなこと聞く為に…!さっきのおばあちゃんの…血を奪ったの…?殺したの…⁉︎」

「“そんなこと“…」

「私は今、一人でも多くの人を助けたいの…‼︎トガヒミコ‼︎邪魔するなら、今すぐあなたを捕まえる!」

 

なぜか、トガは酷くショックを受けた顔をしていた。

僅かに攻撃の手が緩んだのを見過ごさず、ウラビティはトガを投げ飛ばす。

触れることができれば動きを封じられるが、相手に血を取られてはいけない。

“無重力“を掛けようとするウラビティとナイフで切りつけるトガ。

狭い室内で争いながらも、トガは話すことをやめなかった。

自身にとっての幸せ、麗日の個性で人を殺したこと。

 

「私は…人を落として幸せを感じたりしない。何が…さっきから何が言いたいの‼︎」不意にトガの動きが止まる。何かを拾い上げた。

それは、麗日からこぼれ落ちた、プレゼント交換でもらった、緑谷からもらった、ストラップ。

 

「それはー…!」

「大事なもの」

「…そうだよ!」

「私も、仁くん大事なお兄ちゃんでした…ヒーローに殺されました」

「⁉︎」

「葬ちゃんが言ってたんです。ヒーローたちは今の社会の枠組みから外れた者を、護るべき市民()とは見做さない、って。人を助けるのがヒーローなら、仁くんは人じゃなかったんでしょうか…?私のことも殺すのか…お茶子ちゃんたちにとって、私は、私たちは人じゃないのか、同じじゃないのか、それを聞きたかったんです」

 

トゥワイスは、自分たちは、彼らにとっての人ではない。

だからその生死など、彼らにとっては無価値で、取るに足りないモノ。

同列の人でない以上、ともだちになんてなれやしない。

 

「でも、お茶子ちゃんにとっては、“そんなこと“なんだね…」

「違う!私は、!」

「違わない?じゃあ、“私たち“一緒だよねぇ⁉︎お茶子ちゃんの好きな人って出久くんだよねぇ?」

 

あぐ、とトガはストラップに噛みついた。

 

「そうかなって思ってたの、これ、出久くんのだよねぇ⁉︎」

「それは…それはしまっとくんだ」

 

倒れ込んでいた時に触れていた家具を浮かせて、トガへと振るう。

 

「私もずっと我慢した!ちっちゃい頃にやめろって言われて!でもだめだった!しまっとくと大きくなるの!」

 

違うのだ。

彼らが、ヴィランが人でないなんて、思ったことはない。だけど、同じだなんて考えたこともこれまでなかったのは事実で。

自分は何も知らなかった。黒衣が置かれていた境遇も、トガの苦悩も。

それでも。

 

「好きに生きて他人を脅かすなら…その責任は受け入れなきゃいけない!」

 

ウラビティは見た。

 

「うん、そうだね」

 

トガの眼には、涙が浮かんでいた。

 

「ありがとうね、ばいばい」

 

お茶子にナイフが向けられたが、蛙吹が応援に駆けつけ難を逃れた。

ドオン、一際大きな足音に世界が揺れる。

その拍子に、トガは姿を消していた。

恐らく、逃げた。

ザザ、ジーとノイズが聞こえる。争っているうちに倒れて電源の入ったテレビだった。

 

『あ…映像が乱れ…電波が…』

 

ひび割れた画面に映るその男は、敵連合の荼毘。

 

「何なん…これ…」

 

それしか言葉が出てこなかった。

 

─────────────────────────────

 

ツクヨミたちがその動画を目にしたのは、医療班のテントであった。

九死に一生を得る。

突如として現れた氷の山に救われ、ツクヨミはホークスを抱え窮地を脱した。

急ぎ山荘から離れた。

早く、早く。一刻も早く、ホークスを。

 

「薄汚くなどないぞホークス‼︎」

 

どぱ、と堪えていたツクヨミの目から涙が溢れる。

ホークスが何をしたのか、何をしようとしたのか、ツクヨミは詳しくは知らない。

だけど。

 

「信じてる!皆信じてる!正しいことをしたんだと!だから!死ぬな‼︎」

 

腕の中で気を失ったホークスからは、何も返ってこない。

後方支援部隊医療班のテントまで運び、自身も処置され、その場にとどまり手伝う。

状況は、悪化の一途を辿っていた。

奇襲作戦はあえなく失敗。

更には黒影が怯えていたモノが動き出した。

地下にいたアレ。ホークスの調査で、動かないと言われていた巨人。

正しく歩く災害。

ギガントマキアが動き出したことにより多くの人員がそちらに割かれ、その隙をついて巨大な氷が山荘を覆い、超常解放戦線は幹部ほか大多数が逃走、捕縛できたのはほんの一部のみと大敗を喫した。

奴の歩みで吹き飛ばされた岩や木が、幾つものテントを押しつぶしていた。

ツクヨミも非戦闘員を飛来物から守り、動けない負傷者を運ぶ。

一度は後方に下がったミッドナイトも、シンリンカムイと共にギガントマキアを追い、瓦礫の直撃を受けて負傷した。

災害が通り過ぎ、クラスメイト等も合流していた。

誰も彼も、浮かない顔をしていた。

八百万と取陰、インターンで師事していたマジェスティックの亡骸を前にした2人は、泣くことも忘れて呆然としている。

マジェスティックは、自分たちインターン生を逃して、ギガントマキア進行の犠牲になった。

今更ながら、葬の言葉が突き刺さる。

人の死を、未来を背負うというのは、こんなにも重くて苦しいものなのか。

ヒーローを志す者として、わかっている筈だった。わかっているつもりだった。

しかし、それは結局は守られている中で、平和の中で生きていたからこそのもので。

こんな目の前で誰かが傷を負い、命を落とすのを間近で見るなんて。

死のうが生きようが地獄。

彼自身、荼毘の炎に足を焼かれている。

ギガントマキアも敵の姿もほとんど見えなくなり、もう無闇に歩き回るなとホークスと共に安静を言い渡されていた。

ホークスは、全身火傷により意識不明であった。

彼の背中は、翼は、どうなるのだろうか。

辛うじて無事だったモニターがギガントマキアの蹂躙を、蛇腔の様子を伝えている。

ひどい有様だった。

蛇腔は病院を中心に瓦礫の山と化していて、あそこにいる友は、仲間は、師は無事だろうか。

そこに住まう人々は果たしてどうなったのだろうか。

不安がうねるように渦を巻く。

 

『ジー…ザザ…電波障害の影響が強くなっているようで…』

 

音声が乱れ、ノイズが走る。

一瞬の砂嵐。それが止むと、映像が切り替わっていた。

 

『突然失礼します。僕、轟燈矢は、No.1ヒーローエンデヴァーの息子です』

 

突如として始まったそれは、衝撃の告白であった。

 

「轟さん…!」「そんな…!」

 

周囲に溢れる死にショックを受ける彼らに追い討ちをかけるように、轟家の過去が語られる。

まさか、さっきまで対峙していた荼毘が、ホークス()を灼いたヴィランが級友の兄。

 

『エンデヴァーに連なる者も同様です』

「⁉︎」

 

それはホークスが、背中からトゥワイスを刺す瞬間であった。

ツクヨミは無意識に拳を握り込む。

ホークスもボロボロだった。

きっと、止むに止まれぬ事情があったのだ、それほどの事態だったのだ。

現に今こうして惨状は目の前に広がっているではないか。

そうやって自身に言い聞かせる。

なのに。

また映像が変わる。

 

「黒衣?」

 

何故、ホークスと黒衣ー死柄木葬が一緒にいるのだ。

ホークスは葬に羽の鋒を突きつけ、壁に押さえつけた。

 

『彼女は、ある児童養護施設で育ちました。とあるヒーローが運営していた施設です。しかし、そこは恐ろしいことに、身寄りのない子供を犯罪組織に売り利益を得る、非道を行っていたのです』

 

根津校長が言っていたことだ。

初めは信じられなかった。

ヒーローを志す者は多い。それだけ、憧れの対象なのだ、ヒーローとは。

そのプロヒーローの非道な行いにより、敵組織に囚われ、犯罪に手を染めさせられた被害者が葬だった。

だから、ヒーローとして、彼女を救けようと。ヒーローとして、救けなければと。

 

『当時、彼女は救け出す代わりに組織の情報を求められたそうです。悪い人を捕まえる為に、そう言われて。しかし結局、救けは来なかった』

 

荼毘は警察や公安が事件を隠蔽したと語った。

葬も、ホークスも公安関与を口にする。

 

『頼むよ。俺は君を殺したくない』

『公安じゃ脅し方は教えても口説き方は教えてくれなかったらしい』

 

画面の中にはまだ赤々と大きな翼を携えたホークスがいる。

なぜ、そのまま連れ去ってしまわないのだ。“速すぎる男“だろう。その翼でもって空を駆ければ、追いつける者などそうはいない。

なのに何故、情報を求める。

常闇はファットガムと話したことを思い出した。ギガントマキアの詳細情報も、ホークスが調査で掴んで来たものだと。その情報はどうやって手に入れたのだ。

相澤先生たちは、死柄木葬を保護すると言っていた。

ならば何故、ホークスの口から殺害を仄めかす発言が出てくる。

 

『ヒーローによる犯罪の生き証人である彼女は助けを求めることもできず、行き場を追われ、生きるために罪を重ねるしかなかった。AFOに与したのもその為でした』

『それをして私がどうなると思う?』

『君のことは公安で保護する』

『監禁監視行動制限付きの監獄生活、或いは協力者としての飼殺し、若しくは口封じに殺されるか。それを保護だと?』

『そうならないように俺も手伝うよ。これまでの境遇から情状酌量も大いにつく。充分やり直せるさ』

 

確かに、葬はAFOに与していた。

しかし青山たちのように脅かされ、家族や仲間の命を握られて手伝わされたのではないのか。

口封じとは何のことだ。黒い脳無の襲撃に関与したとはどういうことだ。

4年も前にヒーローが彼女に辿り着いていた?ではなぜまだヴィランのままでいるんだ。

なぜホークスは否定しない。

なぜ、ホークスの羽は血に濡れているのだ。

見たくない、聞きたくなくても、目を背けることも耳を塞ぐこともできなかった。

 

(「何を救けに来た?学生(おまえ)が健気に夢見るプロってやつぁ、俺たちなんかよりよっぽど薄汚えぞ」)

 

嘲るには静かな表情で言った、荼毘のセリフが反芻する。

赤い風切り羽根が別の赤色で染まる。

 

「ああ…‼︎」「ひっ…!」

 

脳裏を掠めたのは、さっき見た偽物の死体。

偽物とは言え、級友の姿をした死は瞼の裏にこびりついていた。

ステインが乱入し、荼毘はエンデヴァーの功績さえも疑わしいと声を上げる。

何が真実なのかわからない。何が正しいのかわからない。

だけど、ホークスは、彼は。

 

「信じている…俺は信じている…」

 

自身に言い聞かせるが如く、呪文のように常闇は何度も繰り返しながら、気を失っているホークスの傍に膝を着く。

 

「だからどうか頼む…どうか眼を、早く眼を覚ましてくれ…」

 

掛けられた毛布を握りしめる。ぽたりぽたりと、落ちた雫が小さな染みを作った。

 

「あんな映像は捏造だと、あんなモノは嘘だと言ってくれ…!ホークス!」

 

返ってくる言葉は、なかった。

 

─────────────────────────────

 

「目良さん!」

 

一方、目良たちヒーロー公安委員会の者たちは、病院にいた。

デトネラット社社長四ツ谷橋こと超常解放戦線の主要幹部であるリ・デストロを本部に呼び出し捕えようとしたところ、反撃され深傷を負った。

その上、当庁したリ・デストロはトゥワイスの個性で作られた偽物で、山荘に居たらしい本物も捕縛には至らずという散々たる現状。

加えて、全国各地で相次ぐ戦線支部での爆発炎上、いくつかは想定したより多い敵勢力の抵抗により各部隊が大打撃を受けている。黒煙と市街地の荒れようがいくつもSNS上に出回っていた。

更には蛇腔市の大規模破壊と、今なお被害が広がり続ける超大型ヴィランギガントマキアの進行。

ベストジーニストの早期の避難勧告により人的被害は建物被害に比べて少ないが、現在進行形で救助活動が続けられ、被害詳細は未だ不明。

目良自身頭部からの出血がひどく、先ほど治療を終えたばかり。頭には包帯が巻かれている。

公安側にも何人もの犠牲者が出た。

会長も意識不明の重体、現在手術中であった。

そんな時駆け込んできたのは部下の悲鳴じみた声。

 

「大変です!これを…!」

 

それは荼毘による電波ジャックで公開された動画。

目良は目を見開いた。出血で蒼褪めた顔を更に青くする。

 

「…最悪だ」

 

死柄木葬と荼毘。最悪の組み合わせだった。

まさかの新旧No.1ヒーローの実子が揃い踏み。悪夢の共演である。それもこんな大々的なやり口で来られるとは。

 

「既に本部含め関係各所の回線はパンク状態です」

「そうでしょうね…」

 

恨まれていることは分かりきっていた。既に謝罪も贖罪も信じて貰える時期は過ぎている。

父親であるオールマイトの怒りも買った。第一線から引いてなお影響力の強い生ける伝説だ。根回しをしようにも支持は得られまい。

娘との再会の場を壊された彼は、その足で公安本部へと乗り込んできた。

戦えなくなったとは言え、長年その存在で犯罪の抑止力であり続けたオールマイトの圧にさらされながらも、委員長が頭を下げて、待ってもらっていたのだ。

今回の掃討作戦が終了し、彼女の身柄を確保できしだい、責任を取って委員長がその職を辞することも、ホークスに命じた刑事責任を問われることも、一切を負うと。

そのタイミングで、コレだ。

遅かった。

起結こそエンデヴァーへ非難が向くように仕向けられていた。繰り上がりとは言え、彼がNo.1(トップ)に立った今と言うのも間が悪い。いや、この時だからこそか。

名指しで挙げられたヒーロー公安委員会も的だ。

しかし実質、これは超人社会をぎりぎりのところで維持し続けてきたヒーローへの信頼を根底から揺るがすもの。

しかも真実と脚色とを入り乱れるように作られているのがまた厭らしい。

否定や沈黙すれば隠蔽と疑われ、改竄を行えば齟齬が生じ、正直に事実を公表すれば、ヒーローも、公安も、警察も、存在意義を失くす。

これまで積み上げてきたヒーローへの、社会への信頼が、がらがらと崩れる音がする。粉微塵に砕かれて、塵と化す。

目良は必死に脳を動かす。

今この場にいる動ける者の中で、最も役職が高いのは目良だった。

幾つか指示を出していると、また別の部下が駆け込んできた。

 

「委員長が…!」

 

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A組(一部除く)

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アケスケちゃんとしまっとくちゃん。
価値観の相違、お互いの状況、トガちゃん側の言葉足らずとかお茶子ちゃん側の余裕の無さとかで袂分かつ形になっちゃったかなと個人解釈。
常闇くんが被弾率高くなってしまいましたが、一応鳥師弟は前向きな決着をつけたいと思っています。本当です。
公安委員会はリ・デストロ戦での負傷。会長も悪い人ではないのが苦しいところ。アニメでは死亡と明言されましたけど、原作だとされてないんですよね。
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