今回が短いこともあり、昨日と今日で連投しています。
64話 中の人たち
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「ーーー」
声が聞こえた、気がした。
頭はぼんやりとしてる。
白い雲のような、黒い靄のような。
誰かに呼ばれている。
沈黙を示していた脳波計がぶれる。
傍らと言わず部屋中から警報音がけたたましく鳴り響いている。
「ーーろーーぎー」
呼ばれた。
行かなければ。
彼を守るのが己の使命。
己とは誰だ。否、そんな事はどうでもいい。
薄らと開いた目。
防護ガラス越しに人が騒いでいるのが見えた。
「来いー」
「ーキ、弔…!」
男は正しく闇に消えた。
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「OFAフルカウル!マンチェスターーSMASH!」
デクの蹴りが死柄木を捉えた。
巨大な氷柱ごと叩き割り、死柄木は地面に叩きつけられた。
けれど、個性がほとんどつかえないとはいえ、
そこからは、デクのラッシュであった。
およそ常人が介入できるものではない攻撃の雨。
「AFO!お前は一体何がしたいんだ!」
拳、蹴り、乱打を加えながら、デクは叫ぶ。
「たくさんの人たちを殺して!想いを踏み躙って!人生を狂わせて!
おまえは一体何がしたいんだ‼︎」
夢で見た光景。瓦礫の山はかつて超常黎明期に壊された人々の生活。
AFOの支配の中で、彼と争った多くの人の命が失われた。
オールマイトの師である志村菜奈も。
そして彼女の孫にあたるという弔もオールマイトの娘だという葬も。
あまりに多くを奪い、多くを壊した。
「夢ノたメさ」
「夢だと⁉︎」
「君も覚エがないかイ?コミックあるいハ画面の中ノ圧倒的な存在ニ憧れル。君タちヒーロー志望の学生が、ヒーローに憧レたよウに、僕は悪役ニ、魔王に憧レタ。僕ハ世界中の未来ヲ阻みたい」
「そんなものは夢じゃない!」
「他人の夢ヲ否定するナよヒーロー」
にいと死柄木はひび割れた唇の端を上げる。
この余裕は果たして偽りか。
「僕たチはヴィランとヒーローだ。到底理解シ合えない。大キ過ぎる差異ハ不理解を生ム。不理解は畏れト排斥を生ム。ソうやっテ排斥された者たちガ、ヴィランとなり人々を脅カシ、そレを君たちヒーローが守ル。マッチポンプなんて茶番を終わらせよう。僕が上に立てば、僕と、僕以外だ」
「ごちゃごちゃうるせーよ/んだよ‼︎」
死柄木の煽るような嘲を遮るように、声が重なる。
うちひとつ、咆えたのは爆豪だった。
かつて、爆豪は緑谷をいじめた。
何もできない無個性が、道端の石ころが、自分とは何もかも違うのだと思っていた。
そのデクが張り合おうと同じ夢を語るのが不気味で、あまつさえ転んだ己に手を差し伸べてくるなど許せなくて、排斥しようとした。
時には個性まで使って。
過去は消えない。
だから、全て背負ってでも、前に進むしかないのだ。
「でかすぎる差異も不理解も、オソレもテメエで呑み込む!言われるまでもねえんだよ!」
大・爆・殺・神ダイナマイトは空中から“爆破“を放つ。
エンデヴァーから学んだ溜めて放つを昇華させた技ークラスター。
発動には大量の汗が必要だが、ここまでで激しい
一度使えば反動で掌にも多大な負荷がかかる。
完全にものにできたかと言われたらまだ納得のいかない部分も多分にある。
だが、今を乗り越えずにどうする
目も眩むような閃光と熱風、衝撃。
「死んだか⁉︎」
言葉も交わさずに爆破から退避していたデクの脳裏に電撃のような危険信号が走った。
「いや!まだだ!」
煙幕の中から焼けこげた腕が伸びた。
「なッ⁉︎」
「返して貰うヨ、
死柄木の掌がデクの頭の触れる。
3人の視界が、暗転した。
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一瞬の後。
視界が戻ると景色が一変していた。
そこは奇妙な空間で、およそ現実とは思えない地形。
地面と呼べるのは足場になっている岩のような一画のみ。
そこより外は暗闇ばかりが広がっている。
全く見覚えのない景色。
「ここは…」「ほほは…」
聞こえた声に、はっと横を見るが姿がない。
声がしたのは少し下。
「デク?」
「ふほへはん!?」
「なんて?」
たぶん、「黒衣さん!?」だろう。
「デク、その身体は!?」
彼は身体の半分以上を黒い靄に覆われていた。
「はいひょうふ。はんへひひはふぉふぉひ?」(大丈夫。なんで君がここに?)
「大丈夫?本当に?君はここがどこで、何が起きているのか知ってるのか?」
「ふん、はえひほひあおおはあう。ほほはー」(うん…前にも見たことがある。ここはー)
「OFAとAFOの境ー精神世界とでも言うべきかな」
葬ではない、女性の声。
2人が声をした方を振り向けば、黒髪の凛とした女性がいた。
デクはその人に見覚えがあった。
「ひふはははあん…」(志村菜奈さん…)
「あなたが弔の…」
祖母にあたる人。
志村は葬を見て痛ましげな表情を浮かべる。
「まさか俊典に子どもがいたとはね…すまない、君まで巻き込んでしまった」
「言うべき相手が違いませんか?」
「…そうだね」
すっと志村の視線が彼方を向く。
その先には、死柄木がいた。
「ひはあひ!」(死柄木!)
「兄さん!」
その姿は異様の一言に尽きた。
弔の身体から、AFOの上半身が生えていた。
まるで寄生、あるいは、侵食。
その背後の闇から無数の手が伸びていた。
若い女のもの、老齢の男のもの、老若男女入り混じったそれらは、AFOの上半身を掴み動きを封じようとしているようだった。
「全く鬱陶しい…!見ろよ弔!死人まで出てきた。君の祖母にして無能で哀れな志村菜奈がそこにいる!」
志村菜奈と弔。
生前で会うことのなかった、祖母と孫。
「あなたが、孤太郎の…」
「おばあちゃん…」
あの日、父の書斎で見た写真。
そこに写っていたいた姿そのままで、死んだ祖母は立っていた。
「あなたも死人でしょう」
「…ああ、そうだった」
AFOの声が一段低くなる。
「おーうほーあんがひいんっへ、ほういうほお?」(AFOが死人って、どういうこと?)
「どうも何も、そのままの意味ーああくっそ話し辛いな。それどうにかならない?」
「ほんはほといはれへも…(そんなこと言われても…)」
緑谷が眉を下げる。
他方でAFOは態とらしく長い息を吐く。
「まさか元の僕を殺されるとはね。人殺しに躊躇いってもんがない。オールマイトの奴もとんだ娘をもったものだ!」
「どこかの誰かのおかげで、実の父には育てられていないもので。私はあの人と違って、監獄にぶち込んで安心満足できるほど、
「まあいい。こっちへおいで、葬。一度の過ちくらい許そうじゃないか。僕は寛容なんだ」
あちらの身体はもともと後は消費するだけのもの。
勝手に処分されたのは腹立たしいが、今のままでは弔の怒りや憎悪がまるで足りない。
「嘘吐きだなぁ、先生」
弔が口を挟む。
「こうしてアンタに繋がれてると、アンタの考えも流れ込んで来るんだ」
「おっと、そうだった…!そういえば僕も嫌われていた。機嫌を直してくれ弔。僕には君の怒りと憎悪が必要なんだ。OFAを手に入れるために。弟は僕に似ていじっぱりだから」
AFOの視線が2人の方へ向く。正しくは、その後ろへ。
デクの後ろに、白い髪の痩せた男が立っていた。
「あなたは…」
AFOの弟。つまりは、OFAの初代所持者。
「やあ与一!会えて嬉しいぜ!何十年振りだ?」
「次はその子か、兄さん」
「おまえが僕のものにならないのが悪い!」
AFOが絡みつく腕を振り解き、手を伸ばす。
ズオォと、こちら側が吸い込まれる。
「僕たちはそっちへは行かない」
ふと与一が葬を見る。
「兄さんと彼に個性をかけていたから、AFOと OFAの繋がりに巻き込まれてしまったんだね」
ひょっとしたら、それだけではないかもしれないが、それは今考える事ではないだろう。
「与一さん、でしたか?
「それは遠慮しておくよ。八木くんに悪いからね」
「出久くん。私が言えた口ではないが、戻ったら俊典に一発入れておいてくれ。30%でいいから」
それってまさかフルカウルの30%じゃないですよねと口が利けたらデクは恐る恐る確認しただろう。
「随分と楽しそうじゃないか。僕もおしゃべりに交ぜてくれよ!」
AFOの引力が増す。嘲るように求める
「出来損ないに渡ってしまった事が間違いだって!」
「う…!」
侵蝕力も増しているのか、弔が小さく呻いた。
「兄さん!」
「しあはき!(死柄木!)」
「来るんじゃねえ‼︎」
強い制止。それはどこか悲鳴に似ていた。
「今さら、来るんじゃねえよ…!ヒーローなんか…誰も彼も、あの時は見て見ぬふりしたくせに、なんだよ今さら…!」
弔には果たして何が見えているのか、何を思い出しているのか。
「そうだ弔!怒れ!憎め!それらは全て
「憎い…ああ、そうだ、俺は、オールマイトが、ヒーローが憎くて…この世の全部が嫌いで、あの家の…全部、壊すんだ…」
ぶつぶつと弔は独り言のように呟く。
「間違いじゃない」
「他人の為に怒り、他人の為にどこまでもどこまでも頑張れる、常軌を逸する程に「救ける」思いにーとりつかれた少年に、
デクがもがく。
「もご、ふが、ぷはぁ!死柄木!」
黒靄に覆われていたデクの顎から下が現れ、口ができていた。
「それがおまえの本音か?」
「そうだよ…俺は…」
「だったら何で、何でそんな顔をしてるんだ‼︎」
譫言のように呟く弔の言葉を遮るように、デクは叫んだ。
文字通り手も足も出ない以上、届けられるのか言葉だけ。
「僕は、おまえが何を感じて、何を思っているのかわからない。どうしてそうなってしまったのか知らない…だけど!僕にはおまえが、小さな男の子が!泣いてるように、救けを求めているように見える!」
弔が目を見開く。
「兄さん」
葬の声に、弔が顔を向ける。
徐々に、視点が合い、2人の視線が交わった。
葬の瞳は、どこまでも暖かな黄緑色に染まっていた。
信頼と安心ー愛情。
「弔の心を良いように操るなんて酷いなぁ」
「あなたにだけは言われたくないな。兄さん、私にはAFOを殺す理由がある。その結果、兄さんを救ける事になるのかもしれない。まあ、ついでみたいなものさ。気楽に乗っかるといい」
「…ついでに命張るとか、お前も大概だよな」
「荼毘と一緒にしないでくれ」
葬は肩を竦める。
弔は「ハッ」と軽く笑う。すっかり落ち着きを取り戻していた。
「救けて勝つとかまんまヒーローじゃねえか」
「どっちでもいいじゃないか。ヴィランもヒーローでも。大差ないさ」
「ほんと、合わねえな」
憎まれ口の多い形だけの義妹。
AFOを殺す事を優先目的にするのなら、休眠中の弔ごと殺してしまえば良かったはずだ。
ドクターの目を盗んで設備の電源ひとつ落とせばそれで済む。
「貴方の憎悪は私が預かる」
「後で返せよ」
「気が向いたらね」
弔の意思が、決まった。
「弔!」
AFOが言い募るが、弔は全てを拒絶した。
「俺はOFAなんかいらない。アンタもいらない。これは全部、俺の意思だ。ガキじゃねえんだ、全部支配したつもりかよーアンタが始めたことだろ。責任とれよ」
「弔ぁ‼︎」
怨嗟の声が上がる。これまでの余裕が嘘のような激昂。
葬の左眼には輝きを増した光の花。
「いくよ」
「ああ」
光が弾けた。
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意識が戻る。
葬は倒れそうになる身体を咄嗟に立て直した。
その拍子に、地面にパタリパタリと血が落ちる。
個性発動起点左眼は瞼を開けることもできない。それでも薬の効果で発動が続いている。切れたらしばらく使い物になりそうになかった。
葬はハッとして弔とデクの姿を探す。
直前まで空中戦を繰り広げていた2人は、真っ逆さま。
「荼毘!Mr.!」
「っぶね」
飛べる荼毘が落下する弔を抱え、Mr.コンプレスが出したクッションの上にボフンと落ちる。
「兄さん!」
「死柄木!」
「死んだか?」
弔が薄らと瞼を持ち上げる。
「勝手に殺すなよ…」
気怠げな返答は、間違いなく弔本人のものだった。
一方のデクも爆豪がキャッチしたらしい。
全員戻ってこられたようだ。
ほっと一息吐きたいところではあるが、まだだ。
「そんで、こっからどう逃げる?」
「今呼ぶ。レディ、リ・デストロに伝達。総員撤退」
『
「逃げ道が今来る」
何もなかった空間に、黒い穴が開く。否、黒い霧が広がり口を開ける。
「助けニ、キタ」
黒靄の中に切長な黄色い目。
“ワープゲート”ー黒霧。
拘束され機能停止していた黒霧を起こしたのである。
ドクターから掠め取った資料を元に、ラブラバがハッキングしたシステムを操作して電流流したりと再起動を試みたのだが、ギガントマキア用に録っておいた弔の音声が役に立った。
「黒霧?おまえ、なんか雰囲気変わったか?」
約半年ぶりの再会に、弔は世話役であった黒霧の変化に首を傾げる。
「し…ヲ守る…俺の使命」
「マァ、いいや」
今はそれどころでないと、弔はMr.コンプレスに肩を借りて立ち上がる。
「待てや‼︎」
緑谷を抱えた爆豪が怒鳴る。
「死、柄木…」
彼も意識は戻っているようだが、効きが弱いとはいえ“超再生“を持っている弔と異なり息も絶え絶えであった。
最後のラッシュが負担だったらしく、両腕が紫色に腫れ上がっていた。
「なあ、緑谷出久のヒーロー名って何だっけ?」
「ああ“?」
「デクだよ」
爆豪の代わりに葬が答えた瞬間、荼毘が目眩しに広範囲の炎を放つ。
蒼炎が消えた頃には。
死柄木弔、葬をはじめとする敵連合は、戦場から姿を消した。
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葬
帰るよ、兄さん。
弔
後でちゃんと返せよ
葬は精神特化型個性なので意識もはっきりしてます。
あと個性って基本遺伝ですが、
OFA所持状態で子どもができた継承者いないんですよね。
譲渡の意思がないから継承はされなくても、何かしら影響受ける可能性は0ではないのでは?などと思い。
この後ら辺からpixiv版と少し変わります。
変わる予定です。
変わる、はず、です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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