一輪花の咲くまで   作:No.9646

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67話 救う人、救われる人、ヒーローの所在①

 

 

会見から日数が経過しても、情勢は荒れに荒れていた。

巨悪により引き裂かれた親子、翻弄される悲劇の少女。

陳腐な見出しで記事やニュースがひっきりなしに報じている。

あちらから仕掛けられたプロパガンダではあったが、オールマイトの娘という付加価値がついたことで急騰した。

連合のメンバーについても、意図的なものが感じられるほど、SMSやマスメディアに情報が流れている。

更にはかつての分倍河原の同僚だという人物が彼の過去を流したらしく、誰かが当時勤めていた会社や事故相手を特定して実質営業停止状態らしい。

トガヒミコについても失血死事件が再度取り沙汰され、個性教育の限界や個性カウンセリングの運用の問題点、虐待ではないかと非難を浴びている。両親は夜逃げ同然に転居し、家は荒らされていた。

スピナーに関しても地方にまだ残る異形排斥傾向の強い因習や教育の在り方への問題提起となり始めている。

こうなると死柄木弔にも何か悲しい過去があるのではないかと憶測が飛び交う。

最低72時間とした停戦期間が解かれると、全国各地でヒーローたちへの襲撃が相次いだ。

狙われるのは警察やヒーロー、その関連組織のみで、一般市民は標的にされない。

更には一般市民のデモが頻発。

現行体制への不満を持つ者や、スピナーの報道に触発された地方の異形系個性の者が集い、連日暴動が相次いでいる。

ある時には止めに入ったヒーローが市民に暴行を受けたり、逆上したヒーローが個性で暴徒を攻撃するその一部始終が動画で拡散されるなど、歯止めが利かない状態に陥っていた。

煽動者がいるのは確実で、情報操作が行われていたり、工作員が潜り込んでいたりする。

そこで各地には避難所が設置された。

もちろん雄英にもだ。

ヒーローが多く在籍し強化された雄英バリアもあり、多くの避難民を収容している。

しかし、治安の悪化にヒーローへの不信感で自衛策を講じる市民も増えてきた。

チンピラが起こす窃盗や強盗に、市民が自分で立ち向かう。

異能解放軍時代より市場に流されていた、サポートアイテムを手に。

戦闘訓練を受けていない市民の戦闘行為は被害を拡大させた。

そこに到着したヒーローは、遅いと罵声を浴びせられ石を投げられる始末。

心を折られ、辞職する者が後を絶たない。

奇しくも、ヒーローが今一度その意味を問われている。ヒーローが、篩に掛けられていた。

そんな中、デクー緑谷出久が、雄英から姿を消した。

 

「テメエ、デクを狙いやがったなァ?何が目的だぁクソヴィランがぁ!!」

 

発端は、ある噂だった。

『死柄木が緑谷出久を狙っている』

AFOはOFAを欲していたが、死柄木弔は違う。

しかし、実際に避難誘導をしている最中にヴィランに襲われた。

そのヴィランは超常解放戦線とは関係のないチンピラで、まだ学生で組み易しと侮り襲って来た。

あっさりと返り討ちにしたヴィランを、両手から小さくない火花を放ちつつ爆豪が尋問する。

 

「爆豪お前顔ヤベエって」

「どっちがヴィランかわかんねえよ」

 

クラスメイトたちからのツッコミが飛ぶ。

 

「し、知らねえ!!オレたちはただ、そのガキを捕まえて連れてったら金が貰えるって話聞いて、もしかしたら幹部の地位もって!そんだけだ!」

 

それ以上は本当に知らないらしく、引き渡した先の警察での取り調べでも供述は変わらなかった。

こちらも、ただの噂。

人伝に聞いた事を裏取りもせず動くような木端だ。上につながる手がかりはない。

相手が弱小ヴィランでも、襲撃が続けば市民の不安も増してしまう。

現に、蛇腔で死柄木に狙われたこともあり、SNSやマスコミにもかぎつけられつつある。

緑谷たちが居る雄英には、避難民も大勢いる。

いつか本隊の襲撃があるかもしれない。

 

「僕が居たら、皆が安心できないから」

 

緑谷は雄英を出た。

囮として動き回り、昼夜問わず救けが必要な人を見つけては救け、暴徒を止め、悪事を行うヴィランを見つければ捕縛し警察へ引き渡す。

人が居る所には居られないから、1人で隠れるように浅い眠りを繰り返す。

そんな日々。

 

「ここ最近は、否が応でも己の無力さ不甲斐なさを痛感させられる」

 

助手席のホークスへ、運転しながら溢すのはベストジーニストだった。

16歳の少年に多大な負担をかけて、自分たち大人はサポートにしか回れない。

 

「布石は打ってます。しっかしまあ、奴さん方、隠れるのが上手くって」

 

各地で構成員の捕縛は進めているが、本隊までは辿り着いていない。

潜入調査で異能解放軍の拠点は把握できていたが、おそらく葬主体で用意したのだろう。一時随分忙しくしていたのはこの為か。

 

「こっちがオールマイトさんと死柄木葬の関係を公表したことへの対抗策(意趣返し)でしょう、今回の噂は。メインは時間稼ぎ。で、一応裏も俺なりに考えてみたんですが」

 

「全くのデマって線も捨てきれませんが」と前置き、ホークスは指を一本立てる。

 

「仮定その1、『死柄木弔が緑谷出久を狙ってる』」

「奴は休眠中ではないのか?」

 

ドクターの死亡により聴取はかなわなかったが、捜査班解析班の尽力により幾許かデータを得た。ハードは粉微塵になっていたから、さぞかし苦労したことだろう。

そのデータを元にセントラルの関係者も加わった所見では、死柄木弔の肉体は未完成。最低でも2ヶ月の休眠が必要なはずだ。

 

「そう願ってますよ。ただ、あれから奴の目撃情報は皆無。真相は不明です。この場合、死柄木弔の意識をAFOが奪っている可能性がある」

 

但し、その可能性は今のところは低い。なぜなら、葬の死亡が確認されていなからだ。

奴が彼女の裏切りを許すとは思えないし、動けるなら彼女は無事では済まないはずだ。

そしてAFOの性格からすれば、その死をこちら側に晒す。

 

「その2、『死柄木葬が緑谷くんを狙っている』」

 

『死柄木』は2人いるのだ。

噂では『死柄木が』とだけで、どちらかが明確になっていない。

 

「この場合、目的が分かれます。2の1、そのままOFAを奪い自分たちの力にすること」

「しかし、OFAは今や緑谷出久以外には扱えないと」

 

譲渡には意思が必要だが、それは“感情支配”でどうとにもなる。その為に求められた個性だ。

問題は器。

オールマイトの話では、受け継がれてきたOFAは今や無個性でなければ収まらない。

 

「いや、死柄木弔に奪わせるか、奪ってすぐに譲渡してしまえばいいのか」

「そういうことです。そもそも、向こうはそれを知らない。それに、半分とはいえ元所有者(オールマイトさん)の血を引いてるってのが危ないんですよねぇ」

 

葬の器としての適性に関しては未知数。

オールマイトは約40年に渡りOFAを維持し続けた。

過去7代、OFAを宿した状態で子を成した例がない。

葬の年齢を差し引いても20年強。

生まれた子どもは母親の個性は引き継がず、父親は生来無個性。

それが突然変異型の“感情支配”。

個性はまだ未解な部分も多い。譲渡の意思がなければ渡せないとしても、OFAが遺伝子上に何らかの影響を与えていないとは言い切れない。

 

「最悪、我々はAFOとOFAの両方を相手にしなければならない、というわけか」

「あくまで推測、可能性が捨てきれないって話です。それに、所持することで命を削られるとして、それで死柄木葬が怖気付くと思いますか?」

 

自分の命1つでヒーロー側の最高戦力を削り取れるなら、彼女は躊躇わない。

現に罠に嵌めるために自らの首を掻っ切ったり、トゥワイスの作った偽物とはいえ自らの頭を撃ち抜いて見せたり、AFOに暗殺(喧嘩)を仕掛けるような手合いだ。

 

「そこで2の2です。そもそも戦力として扱う気がない。目的は、OFAの破壊」

 

さすれば、死柄木弔を止める術は無くなるも同然だ。

 

「向こうさんはどれか1つでも叶えば万々歳。叶わなくても構わないってくらいで」

「どれか1つでも叶えさせるわけにはいかんな」

「あとはまあ、市民の不安の増長と、シンプルにこちら側の戦力を消耗させたいってのもあるんでしょう」

 

緑谷は強くなった。

けれど、誰よりもヒーローであるはずの少年は。

ヒーローの姿を、していなかった。

 

─────────────────────────

 

緑谷が雄英を去った。

クラスメイトたちには手紙だけを残して。

中に書かれていたのは、個性のこと。OFAというオールマイトから引き継いだものであること。

死柄木に狙われた自分がいるのでは、雄英にいるみんなに危険がおよぶから、と。

それきり、何日経っても緑谷は戻ってこなかった。

そんな状況に痺れを切らしたのは、彼の友人たちだった。

雄英高校ヒーロー科1年A組は直談判し位置情報を入手。緑谷を追った。

そしてー

 

「皆…何で…」

「心配だからだよ」

「僕は大丈夫だよ」

 

ヒーロースーツは傷だらけでぼろぼろになって、酷く汚れて、なのに眼は爛爛としていて。

誰かが噂した。

 

「すっかり画風が変わっちまったなぁ!?クソナード!!」

 

その姿は、とてもヒーローには見えなかった、と。

 

「ありがとう、来てくれて」

 

“煙幕”を狼煙に、デクVS A組の戦いが始まった。

 

「てめーら絶対逃すなよ!!」

 

爆豪が爆風で煙幕を散らす。

 

「戻ってきて大丈夫だって!!」

 

普段大人しく大声など出さない口田が、声を張り上げる。

鳥の群れから脱しようと緑谷が伸ばした”黒鞭“を絡め取ったのは、使い方を教えてくれた瀬呂だった。

テープを切った次の瞬間、一拍だけ遅れて届いた耳郎の大音波。

それから逃れたデクの身体に太い尾が巻き付く。

力づくで解いたところで、ダークシャドウを纏った常闇が体当たりをかます。

デクはその勢いのままビルへ突っ込んだ。

落ちそうになった耳郎と尾白を砂藤が受け止める。

八百万の作った拘束具を引きちぎり、上鳴の放電をものともせず、障子とダークシャドウの檻をこじ開けた。

デクは叫ぶ。

 

「やめてくれよ!!」

 

“危機感知“は全く鳴らない。それは彼らに敵意や害意が全くないことを示していた。

ビルから飛び出したデクの視界がチカと光を捉えた。乱れ打ちの“ネビルビーム“は所々葉隠が屈折させて軌道を読めなくさせていた。

デクは“エアフォース“で進行方向・速度を変えて避ける。

 

「緑谷くん!!君だってわかってるだろう!彼女の仕組んだ罠かもしれないって!!」

「わかってる…わかってるよ」

 

だからこそ、チャンスかもしれないのだ。

自分を狙って彼女たちが現れるなら。

今度こそ止めるのだ。これ以上、傷つけさせてはいけない。

ずっとずっと、人々の為に戦ってきたヒーローに、そんな人に、辛い思いをさせて良いわけがない。

憧れのヒーローに、OFA(個性)を託してくれた師に、悲しい顔をさせたくない。

みんなに、笑顔でいて欲しい。

 

「頼むから、僕は、大丈夫だから!」

 

高速で飛ぶデクを捕らえたのは巨大な氷柱だった。

 

「そんなナリになるまで駆け回って見つかんねェなら次善策も頭に入れろ!!俺たちも一緒に戦わせろ!!!」

「…できないよ」

 

デクの頭を占めるのは、もはや呪縛にも似た思い。

死柄木弔と葬、志村菜奈とオールマイト。

全ては、AFOとOFAから始まった。

あの言葉が反芻する。

『次は君だ』

 

「これは、OFAとAFOの戦いだから…皆はついてこれない」

 

ドンッと音を立てて氷塊から抜け出した緑谷へ、蛙吹が放り投げた峰田が“モギモギ“で作られたビーズでへばりつく。

 

「お前のパワーがカッケェなんてオイラ思った事ねぇや!オイラが惚れたおまえは、冷や汗ダラダラで!ブルブル震えて!一緒に道を切り拓いたーあん時のおまえだ!」

 

デクは見えないように、見ないように、彼を振り払う。

伸ばした他数本の“黒鞭“と、“OFA“45%、加えて“発勁“。

 

「デクくん!!あん時とはちゃう…私はっ!」

 

麗日の言葉も聞かず飛び去った。去ろうとした。

 

「皆ぁ!!!」

 

ビルの屋上に氷のカタパルトが作り上げられる。

芦戸の溶解液で摩擦を減らし、レールの上の3人を力のある者が押し出す。

後ろに構えた轟の放った膨冷熱波が爆豪たちを空へと押し上げ、上空の麗日が“ゼログラビティ“で重力の枷から解き放つ。

 

「爆速ターボ…クラスター!!」

 

眩い爆発を推進力に、スピードとそれにかかるGに耐え得る身体を持った飯田が真っ直ぐデクへと向かう。

そして、擬似100%で1人飛び去ろうとする緑谷へ、飯田は左手を伸ばす。

私怨にかられ間違いを起こした自分を救けに来てくれた彼へ。

ずっと先を進んでいる友へ。

 

「だから俺はいつだってー君に挑戦するんだ!!」

 

その手が届いた。

 

「ダメだ…!離して…!」

「離さない!!」

 

緑谷の懇願にも似た拒絶を飯田は即座に否定した。

 

「どこへでも駆けつけー迷子の手を引くのがインゲニウムだ。余計なお世話ってのは、ヒーローの本質なんだろ」

 

2人とも、双方の目から、涙が溢れていた。

ふっと緑谷の身体から力が抜ける。

それと同時に“ゼログラビティ“も解除される。

あわや地面に激突する2人を受け止めたのは切島だった。

地上に降りた緑谷は、それでもなお立ちあがろうとした。一緒にいては危ないから、一緒にはいられないのだと。

それを止めたのは、爆豪だった。

OFAを継いだデクの歩みは理想そのもので、けれど緑谷出久は傷付きふらふらで。

 

「おまえが拭えねぇもんは俺たちが拭う。理想を超える為に、おまえも、雄英の避難民も、街の人も、もれなく救けて勝つんだ」

 

緑谷は思い知った。

彼らは、皆とっくに、自分の後ろになどいないのだと。

 

「…ごめん」

 

かくり、と緑谷がよろけたところを爆豪が支える。

頬を伝うのは、きっと雨だと彼は言い張るだろう。

 

「誰が、着いてけねえって?」

「…うん、皆に、ついてこれないなんて酷い事言って…ごめん…」

「俺ァ言ったよな。1人で戦おうとすんじゃねえぞって。お前は『うん』って言ったよな?嘘ついてんじゃ、ヒーローのくせに約束破ってんじゃねーぞ、クソデク」

「……うん、ごめんね、かっちゃん」

 

緑谷は爆豪に身体を預けて、ようやく、力を抜いた。

孤独な戦いの終わりであった。

 

─────────────────────────

 

「緑谷出久が雄英戻ったとさ」

「そう」

 

報告に、葬は興味無さげに返事をする。

如何にOFA所持者と言えど、オールマイトと違って相手は16歳の少年。

友や家族がいて、帰る場所があり、安心して眠る事に慣れた彼にはさぞキツい日々であっただろう。

緑谷出久(OFA)なしに死柄木弔(AFO)とはやり合えない。

しばらくは休息に専念するはずだ。

消耗して弱ったところを叩いて生捕りにできるなら上々、OFAを始末してしまえるならそれでも良し。

拘泥するほどの怨みも因縁も無いが、二度三度と心身の安全を考慮してやるほどの義理もない。

 

「引き続き監視を」

 

彼に動かれると人員配置を考え直さないといけない。避難民に紛れた構成員に動向だけ探るように指示を出す。

名前も知らない、味方でも無い連中まで守らなければならないのだから、まったくヒーローというものは守るものが多くて大変だ。

 

「なかなか上手くいかないな」

 

足元には、のたうち痙攣する脳無が転がっていた。

葬は個性を発動していた右眼に点眼薬を差す。左眼の視力も戻っているので、もうじき眼帯ともおさらばできるだろう。

今のところ成功は黒霧だけ。何とか間に合わせたいところではあったが厳しい状況だ。

行っているのは個人的な試みであるのであまり時間は取れそうに無い。

刻限は刻一刻と近づいていた。

ひとまず置いて、盤局に思考を戻すと机の上に置いてた上着を羽織り踵を返す。

 

「そろそろ、眠り姫にもお目覚め願おうか」

 

─────────────────────────

 

A組

帰って来い!緑谷!

 

デク

ありがとう、みんな

 

葬

噂流して監視をつけただけ。

あとは勝手に踊ればいいさ。

 




まっっったく書く予定の無かったシーンが突然生えてきました。なんで???
何度見てもボロ泣きするんですが原作のこのシーン。
二次創作なのでデクVS A組は原作だよりです。描写が甘い表現力欲しい。
緑谷君が雄英に戻ったのでそろそろダクマ襲来の時期ですね。(次回予告ではありません)

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