一輪花の咲くまで   作:No.9646

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アニメ7期最終話で無事屍となりました。
Aパートのトガちゃんで涙腺崩壊し、Bパートのアーマードオールマイトで黄色い悲鳴を上げました。
「勝って」でうちわでも作ればよかったな。


72話 一つ一つ②

        

「恋人、だと…⁉︎」

 

OFA9代目継承者、緑谷出久、16歳。

これまでトガヒミコとは接触があったものの、直接好意を伝えられた事はなく、彼はトガに好かれていることに気づいていなかった。

どころか、彼の人生、幼少期から中学時代に至るまで無個性と嘲られ、勉強はできたがヒョロガリのいじめられっ子で、部屋一面グッズで埋め尽くす生粋のヒーローオタク。

女子に告白はもちろん好意を寄せられたこともなく、高校入学までろくに話せもしなかった。

つまりは。

 

「何を言ってるんだ‼︎」

 

ぶわああと顔を真っ赤に赤面させた彼は、どこまで行ってもクソナードであった。

 

「好き。はじめて見た時から。血だらけで、初恋の人にそっくりで、かっこいいよ出久くん」

「いいい今そそそそんな事を言ってる場合じゃないだろう!」

 

戦闘にこそなっていないものの、トガヒミコはヴィランであり、デクはヒーロー志望のインターン生だ。

なお、現在はそのトガも所属する敵連合こと超常解放戦線とヒーローのトップ陣による会合真っ只中。厳戒態勢で警備中である。

 

「私、君になりたいの。チウチウさせて?」

 

頬を紅潮させ、いっそ悍ましいほどに恍惚とした笑み。

 

「こここ恋人っていうのは2人で遊園地に行って手を繋いでクレープを半分こする事だろ‼︎」

 

それもどうだろう、と思ったがウラビティは口を噤んだ。

 

「私にとっては“同じ“になることがそれなの。それでしか満たされないの」

「!」

 

トガはスッと狂気的な笑みをまるで仮面を被るかのように消す。

 

「この前、仁くんがヒーローに刺されて、死んじゃったと思ったの。ヒーローが人を守るものなら、仁くんは人じゃなかったの?私たちは?ヒーローとヒーローが守る人たちだけが、人なの?…ねえ、ヒーロー、君は私をどうしたい?」

 

過ったのは、涙だった。

あの時、ウラビティは自分にとっての『当たり前』を言葉にした。

 

「トガ…!」

「分からない」

 

前に出ようとするウラビティをデクの腕が止める。

 

「僕も、オールマイトのように強く在りたいと思った。“同じ“になろうとする事が、心を満たすのはわかるよ」

 

憧れの人のようになりたい、好きな人と同じものを持ちたい。

それらはごく当たり前の願望。

 

「でも、じゃあ何で…心も同じになろうと思えないんだ。僕は、好きな人を傷つけたいとは思わないよ。君は、その人が死んでしまったと思ったとき、何を感じた?」

「…悲しかった。悲しくて、憎くて、目の前が真っ赤になった」

「それが、今まで君が傷つけてきた人たちや、その人の大切な人たちの気持ちだよ」

「…そっかぁ」

 

蘇るのは、両親の声。

不気味な顔、まるで異常者、どうして普通になれないの、普通に生きて。

頭ごなしの否定と抑圧。

葬に諭され、何となく以前住んでいた家に足を向けた。

そこには悪意が、悪夢が詰まっていて、燈矢が燃やしてくれた。

数多の人を灼いた炎はあっという間に家を丸ごと消し炭にした。

とてもキレイであたたかい炎だった。

 

「笑おうぜ、トガヒミコ」

 

嬉しかった。笑って良いのだと。

ヴィラン連合は自分を受け入れてくれる。そんなみんなが、誰かがいなくなるのがたまらなく嫌で、怖くて、憎くて。

トガは思考に黙する。

 

「デクくん」

 

遮る腕を下ろして欲しいと、麗日は緑谷に求めた。

 

「大丈夫。私も、伝えたいことがあるんだ」

 

麗日はトガの前に歩み寄る。

ガバリと、頭を下げた。

 

「あの時はごめんなさい!」

「麗日さん?」

 

麗日は頭を下げたまま続ける。

 

「あなたがこれまでしてきたことは…たくさんの人を傷つけて、命を奪って、街や幸せを壊したことは、もう許せる許せないの次元じゃない。でも私はあなたのこと、あなたたちのこと何もわかってなかった。これまで、知らなかった。理解しようともしなかった」

 

知らない事だらけだった。

ヒーローになる為に学んで、知った気になっていた。

世界は白か黒かじゃなく、灰色で。

行き過ぎた想いは悲劇を生み、誰かの正義は誰かを傷つける事もある。

ヴィランになりたくてなったわけじゃない。どうしようもなくなって、そうする事でしか生きられない人たちがいる。

 

「好きに生きたなら、やった事の責任は受け入れなきゃいけない。それは変わらないって思う。だけど、『生きたい』って願いまで、あなたの苦しさまで、私は否定した。私の言葉であなたを傷つけた。だから、ごめんなさい」

 

麗日がヒーローを目指したのは、お金の為だった。

けれどそれは手段で、苦労している両親を楽にさせてあげたくて、笑っていて欲しかったから。

小さな頃にみたヒーローの活躍は、みんなを笑顔にした。

だから、目指したのだ。みんなを笑顔にできるヒーロを。

 

「私はみんなに笑っていてほしい。あなたにも、笑っていてほしい。目の前で泣いていた女の子を、あなたの涙を、見なかったことになんてしたくない。無かったことになんてしない」

「お茶子ちゃん…」

 

そこに。

 

「おい!トガ!」

 

駆け寄って来たのはスピナーだった。

 

「勝手に持ち場離れんじゃ、って、泣いてんのか?」

 

ぐしとトガは袖口で目元を拭う。

 

「スピナーくん、あのね、私振られちゃいました」

「はぁ⁉︎ってかお前こんな時に何やってんだよ‼︎」

 

何だか居た堪れない気分になった緑谷は思わず「すみません」と小さく口ごもった。何故か、勢いに押されたのである。

 

「でもいいんです。スッキリしました。さあ!お仕事しなきゃです!葬ちゃんに怒られちゃいます!行きましょう!」

 

スピナーの腕を引いて、トガは駆け出す。

 

「待っ…!」

 

トガは一瞬だけど振り返って、笑う。

 

「またね」

 

浮かぶ涙は、決して悲しいだけのものではなかったはずだ。

 

─────────────────────────

 

「せっかくならお父さんに来てほしかったなぁ。まあ、でも無理か。エンデヴァーはヒーローだもんな」

 

敵首脳陣と会談中のエンデヴァーは、出てこられないし、出てこない。

実際、自分の息子が長くないと告げられても来ないじゃないか。

 

「悪ぃけど、兄ちゃん仕事中なんだ。おまえの相手してる暇ねえんだよ」

「さっき言ってたこと、本当かよ…長くないって…」

「本当だぜ。俺は本当ならあの日死ぬはずだった。だけど何の因果か、こうして生き延びた。()()()()に拾われてなァ。3年眠ってたらしいぜ」

「生きてたなら何で帰って来なかった…!」

「焦凍、帰ったんだよ。俺」

 

自分の仏壇に手を合わせた人間など、きっと少ないだろう。

そこにあったのは、顔が変わる前の、13歳の轟燈矢の遺影。

もう探されてもいなかった。

 

「でも何にも変わっちゃいなかった。3年ぶりに見たのは、稽古場でお父さんがおまえに稽古をつけてるところだった」

 

焦凍は息を呑んだ。

気づかなかった。

父も自分も。

家族は誰一人。

 

「変わらぬ光景は改めて教えてくれたんだ。俺が失敗作で意味はなく、この家族はもう俺を過去にした」

 

荼毘は愉しげに口の端を吊りあげる。

 

「だからな、俺は死ぬことにしたんだ」

 

反対に、焦凍は唇を噛んだ。

なぜ、なぜ自らの死をそんな楽しそうに、嬉しそうに語るのだ。

前は黒いコートを着ていたくせに、今の荼毘は白一色で。

まるで、死装束ではないか。

 

「俺はなァ焦凍、アレの大切なもん全部焼き尽くしてやろうと思ってた。その為だけに生きてきた。それが俺の生きた証だって!その為だけに死のうと思ってた!でもなァ!アイツが言うんだよ。それで終わらせるなんて()()()、ってさ」

 

荼毘は思わずと忍び笑いを漏らす。

 

「ほんっと性格悪いよなぁ。ったくウチの参謀サマは最高だぜ。じゃあどうしろって話だろ?アイツ何て言ったと思う?」

 

続けられた言葉は、焦凍の予想だにしていなかったものだった。

 

「『黙って死ね』だとよ」

「は?」

 

焦凍は思わず声を漏らした。

 

「何も償わず、何も懺悔せず、何も後悔せず、俺が死ぬ。エンデヴァーには何の機会も与えない。それが一番効くってなァ」

 

何かを成そうとする者が最も絶望するのは、力が及ばぬ時ではない。

力もある、方法もある。

手を伸ばせば届く距離にいるのに、何もできない、何もさせてもらえない。

仕方がなかった、足らなかった、精一杯やったのだと、自らあるいは他者から慰められることもなく。

足掻いた結果ではない。努力した結果ではない。成すべきことを、できることを成した結果ではない。

何もしなかった結果が、大切な者の死。

守れなかった、救えなかった。

それは自分が何もしなかったから。もっと早く動いていれば。

その想い、後悔を抱えたことのある葬だからこそ。

根っこのところで自身の命を物としてしか捉えていない人間だからこそ。

道具として育てられ、生きて、受け入れてしまっているからこそ、荼毘は自分の命を消費することに躊躇いがないし、葬は荼毘が死に逝くことを止めない。

かつて葬が焦凍に抱いた親近感は、燈矢との間にも存在した。

故に2人の共犯関係は成立したのである。

逃げ勝ちこそが復讐だなんて、荼毘自身では思いもつかなかった。

生き延びた息子が大量殺人を犯しヴィランとなり、その生存を明かしたらぴたりと反抗を止めあっさり死ぬ。

ただただ、父親に見て欲しかった。

それだけが望みだったのだと。

その為だけに多くの人を殺したのだと、印象付ける。

それを一生涯背負って、舞台を降りることも許されず、生きて行かなければならない。

父はさぞ苦しむだろう。

荼毘は死ぬのすら楽しみで仕方がなかった。

 

「…けんな」

 

焦凍は青褪めた顔で、唇を震わせる。

 

「あ?」

 

しかしその瞳には、炎が灯っていた。

 

「…おまえはまだ生きてる…エンデヴァーができねえってんなら、俺がやる!俺が必ず!おまえに生きて償わせる!もうおまえから目を逸らさねえ!」

 

涙すら燃やすかのように、轟々と。

 

─────────────────────────

 

「どうなることかと思ったが、今のところ大きな混乱は無しか」

 

それぞれの担当者と別れ、残った者たちは控室での待機となった。

今頃は別室での話し合いがもたれている。

エンデヴァーは葬から渡された燈矢の診断書を穴が空くように見つめていた。

その手が震えているのは、決して気のせいではないだろう。

少しするとそこに、ガラリとドアが開けられた。

ビリリと緊張が走る。

死柄木弔であった。

 

「邪魔するぜ」

「ノックくらいしましょうね」

 

ホークスが即行で軽口交じりに警戒心と羽を飛ばす。

弔はどかりと空いたソファに腰を下ろす。スーツが皺になるのも構わず寄りかかり、携帯を取り出す。

 

「そんで、オニイサンは何しに?」

「牽制」

 

ヒュン。

ホークスは飛ばしていた羽を引っ込めた。

今日の弔の役目は、その圧倒的な力を以ってしての抑止力である。

 

「おい」

 

ゲームを起動させていた弔にかけられた声があった。

 

「ん?あー何だっけ、じーさん。グラントリノ、だっけ?」

 

警備として参加していたグラントリノである。

 

「あの時とまるで別人じゃな…」

「まあな」

 

グラントリノは、先日対峙した時の弔の凄まじい形相を思い出す。

全てを憎み、破壊の権化と成り果てた姿を。

それに比べたら、今ここにいる弔は嘘のように落ち着いていた。

 

「あの時まで、俺を形作ってたのは憎悪だった。先生にそう育てられた。それをアイツが持って行っちまったから…変な感じだよ。ちょっと前まで、アンタたちのことが憎くてたまらなかったのに」

 

少し前、身体がある程度回復した弔は無気力症や燃え尽き症候群にも似た状態に陥っていた。

その治療にあたったのは葬である。

用いたのは彼女の“感情支配“だ。

覚醒時間を少しづつ増やして調整している真っ最中で、完全にAFOの意識が消滅した確証もない為、治療は慎重にならざるを得ない。

弔はふと思い立つ。

 

「じーさんさぁ、俺のおばあちゃんと知り合いなんだろ?。暇つぶしに聞かせてくれよ、おばあちゃんのこと」

 

へらりと笑う弔は、二十歳そこそこの、孫ほどの歳の普通の青年に見えた。

グラントリノは鼻の奥がつんとするのを堪える。

弔の注意を引いておくのも警備の内とヒーローとしての責務が鬩ぎ合う。

 

「年寄りの話は長いぞ」

 

向こうの志村への土産話も、長くなりそうだ。

 

─────────────────────────

 

相澤と山田は身構えつつも、驚きを隠せないでいた。

 

「白雲、なのか…?」

 

目の前の変わり果てた友は、確かに自分たちの名を呼んだ。

黒靄の中の眼が、2人をそれぞれ見つめる。

 

「ショウタ…ヒザシ…」

 

気のせいではなかった。

 

「ああ…ああ!そうだよ!山田だよ!お前だよな!?朧!」

 

そうであってくれと。

山田の問いかけに、こくり、と。

彼は頷いた。

 

「戻った、のか…?」

「わから、ナイ…俺は、長い間、黒霧デ、ずっト混ざっテシまってるッて、あのコが、言ってタ」

「あの子?」

「死柄木弔の、妹、死柄木葬」

 

予想はされていたのだ。

葬の個性“感情支配“なら、黒霧の中の、生前の白雲朧の執着を呼び起こして、元に戻せる可能性があるのではと。

オールマイトたちと秘密裏に場を設けた時、塚内からその話をしていた。

黒霧とは断定しなかったが、本当にやったのか。

 

「他ノ、脳無も試したケド、何体カは自分が死んダって自覚、して、発狂、したから、元の意識はマダ戻せてない。俺ハ、ずっと『黒霧』デ、今ハ人格が混在してる状態で、“ワープゲート“が要るから、優先したって」

「そっか…そっかあ!朧ぉ!」

 

グズッと山田が鼻を啜る。

たとえ意識が混在していても、今こうして話しているのは白雲朧。

クラスメイトで、A組の3バカなんて呼ばれていた、友人だと、2人は確信していた。

 

「少し、話シテも、いいか?」

 

悪戯っぽく、彼は笑う。

 

黒霧()を足止メしてれバ、ちゃンと警備の仕事してルってコトだろ?」

 

黒靄に隠れてはいたが、きっと昔に良く似た表情なのだろう。

 

「ナア、しょうた」

「な、んだ?」

 

相澤も袖口で目元を拭う。

 

「アノ子たちは、ミンナ無事、だったカ?」

 

彼が命を投げ捨てて助けた、保育園児たち。

自分の身を放って、“雲“で守った彼らは誰1人欠けることなく。

 

「…ああ、無事だ…全員、無事だった!」

 

金色の目が細まる。

 

「ヨかった」

 

あの日に言われたのだ。

『子どもの世話する仕事も向いてるかもな。保育士さんとか学校の先生とか』

 

「俺な、教師になったよ…山田と一緒にプロヒーローになって、雄英で教師やってんだ。香山先輩も、一緒に」

 

3人で、屋上と防音スタジオとキャットタワーのある、猫のいる事務所は作れなかったけれど。

死者との別れとは、生者の為のものだ。

白雲が死んでから過ぎた時間は、既に彼が生きた時間に等しい。

対して、残されたその時間は決して長くはない。

彼らは空白の時を埋めるかのように、語り合った。

あの日のように。

3人で。

 

─────────────────────────

 

日常生活送れるくらいには回復しているけど本調子ではない。

お父さんには、聞けなかったからさ。

 

トガ

戦闘中じゃないから少しお話しできた。

またお話ししようね、出久くん、お茶子ちゃん

 

燈矢(荼毘)

辺一帯火の海にして自爆はしないけど精神攻撃力UP。戦ってなんかやらない。

テメエに何ができる?中途半端のお人形がよぉ!

 

白雲(黒霧)

束の間の語らい。

もう一度死ぬ前に、お前たちと会えて良かったよ

 

なぜか時々出番がなくなる

 




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感想・評価・お気に入り登録・ここすき等いただけると幸いです。喜びます。大事な事なので2(略

弔も破壊衝動抑えられたら普通にちょっと気怠げな青年にならないかな(なってほしい)。そしておじいちゃんとほのぼのして。
トガちゃんに関してはバッド寄りエンドで考えてましたが、救済と銘打った以上はと軌道修正。ハーメルン版ではもうちょい出番あります。
お茶子ちゃんの志望動機って繋げるとしたらこんなんかなぁ。
荼毘の所に外典を置いたのは趣mいえ焦凍への牽制です。
火力は荼毘が上だし、氷を使えば外典が武器にできるので。
白雲は…脳無ってエネルギーどうなってるんですかね?いつか動かなくなる?意識は戻っても結局のところ死体なんですよね…
死体は土へ、魂は空へ。
あるべき物をあるべき場所に。
あと葬どうしよ…一応結末は決めてますが、救済最難関が主人公ってどういうこと??
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