一輪花の咲くまで   作:No.9646

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アニメ一気中。
先送りにしてましたがシャンフロ面白い!
最新話まで行ったので、今はオバロ2期視聴中です。
読める二次を増やしたい。
え?先に書けって???


74話 使い捨ての人生を②

 

「少し休憩にしましょうか」

 

廊下の係員を呼んでオールマイトを迎えに行かせ、2人は小休止と備え付けのポットから茶を淹れ直す。

温かいお茶の保温用なので中身は同じ、コップも使い捨ての紙製でどちらがどれを取るかは自由。それぞれが自分で手ずから淹れるのも異物混入対策である。

何より、給仕係を配置できるほどの余裕がない。

政府関係者は非戦闘員。

ただでさえ広範囲一撃確殺の“崩壊”の懸念がある場所へは多くは連れてこられない。

逃すのも守るのも、その為にヒーローの人員が必要になるからだ。

はっきりと足手纏い。

よって、ここに来ているのは最小限。

その少ないスタッフも、トカゲの尻尾より政治家の議員先生が大事。

 

「そういえば、筒美さんーレディ・ナガンはお元気ですか?」

「レディとお知り合いでしたか?」

「ええ、まあ。特別懇意にしていたわけではありませんが、世間話をするくらいは」

 

年齢が近く、公安職員と直属ヒーロー。顔を合わせれば一服付き合うこともあった。

 

「何ができた、とは思いませんが、何かできていたら、とは思うことはあります。今更ですが」

 

いつ頃だったか。彼女の晩酌のワインの銘柄が、味から手取り早く酔える物に変わっていったのは。

 

「ところで、彼女名義のカードや口座含め一切動かされた形跡が無かったんですが、どうやって生活されてたんでしょうね」

「……」

「さっきの、相殺(チャラ)でいいですよね」

「っち」

 

葬は忌々し気に舌打ちする。承諾するしかないではないか。

目良は、今の舌打ちとか唇尖らせた表情とかナガンに似ていたなと、過去の彼女を重ねた。

最も近い記憶の彼女は、酷い顔をしていた。それがこの少女の前で見せるくらい、多少なりとも取り戻すことができたのだろうか。

 

「顔は作らなくてよろしいんですか?」

「休憩中なので。何事にもメリハリは大事でしょう」

「それは同意します。我々は公務員なので、今の事態を収拾しないと休日返上でして。そろそろちゃんと寝たい」

 

目良善見38歳。好きなものはノンレム睡眠。緊急事態とは言えど公安委員会代理なんぞ務めるには若い、が。

 

「人間、35過ぎると一気にクるんですよ」

 

「そういうものですか」と葬(17歳)は他人事であった。

若さもあるが、元々休む習慣がない上に戦闘職兼任で熟せるだけの体力があり、自覚のないワーカーホリック。何より35まで生きてるかどうか。

2人とも先程より表情も口調も崩しているが、当然腹芸探り合いは継続中である。

 

「名義の話ついでに、公私文書偽造もやってますよね。こちらも鷹見家の件がありますし、雄英も取下るのでナシにしますが、本来なら結構重いんですよ」

 

あまり知られていないが、公文書偽造というのはけっこう罪が重い。被害は訴える事を義務付けているし、罰金刑なしである。

 

「物も見させてもらいましたが、ちょっと放置できなさそうなデキでしたので、()()()いただくことは可能ですか?」

「私も『お父様』の紹介なので詳しくは。文書繋がりで、私事ですが私の戸籍今どうなってます?」

「その点は、お父様交えてお話しましょうか」

 

コンコン、と。

ちょうど、ドアが叩かれる音がした。

 

─────────────────────────

 

控室で、オールマイトは落ち着かない時間を過ごしていた。

忙しなくほとんど進んでいない時計を気にしたり、時折、ウロウロと檻の熊と化したり。

公正や正義という文字が青くなるどころか真っ黒な隠蔽と口裏合わせの話し合いを聞かせるわけにもいかず、彼はこちらの用が終わるまで別室待機してもらっていたのである。

 

「お待たせしました。こちらへどうぞ」

 

係員がドアを叩くのとほとんど同時に椅子を蹴立てるように立ち上がる。

通された部屋には、目良と娘の姿があった。

 

「すみませんオールマイトさん。お待たせしました。どうぞ、おかけください」

 

目良に促され、娘の隣に腰を下ろす。

 

「カメラの前では、お願いしますね」

「ちゃんとつくりますので、ご心配なく」

 

葬はつい先ほどまで少しばかり崩してた表情をストンと仕事用に戻していた。

それぞれに書面が渡される。

 

「事前資料は目を通しているかと思いますので、抜粋・補足のみといたします。まず、罪状に関してですが、誘拐及び軟禁下での犯罪行為は強要されたものでありかつ13歳未満、それ以降は情状酌量で保護観察処分になる見通しです。家裁扱い予定ですが、逆送の可能性もあります。まあ、この部分検察からちょっと。形式上になるかもしれないというだけですが」

 

一時勾留になるが、身柄が引き渡されたらそのまま検査入院になるのでその期間と、逃走・証拠隠滅等の恐れなしとして在宅になる。というか、する。

その辺の拘置所に入れると戦線を刺激しかねないし、人目があるところで自主的に大人しくしていてもらったほうがいい。

 

「現行制度上では一定年数活動実績のあるヒーロー免許所持者にも保護観察官資格がありますから、お父様という事で」

「ええ」

「それで結構です」

 

オールマイトは娘に再出発の機会を与えられたことに僅かにほっと息を吐く。

予め方針は決められていたが、本人も反発なく承諾を得られた。

 

「お嬢さん絡みで何らかの請求があった場合、対応はこちらで選任した代理人に一任していただきます」

「事務所の代理人弁護士ではダメでしょうか?」

「副代理という形でお願いすることになるかと」

「蝗に餌を与えてやる必要はありません。貴方のことです、言い値で応じかねないでしょう」

「それは当然のことじゃないか」

 

オールマイトは事務所(マイツプロ)でその事業規模から顧問弁護士を抱えている。

損害賠償請求は個人資産でできる限り応じるつもりでいた。

 

「不要です。賠償に関しては別で調整しています」

 

ある程度支払いは覚悟しているが、デモから発展した暴動や無関係のヴィランによる被害も大きく、損害が戦線によるものと特定するのは困難。

彼のように丸々支払うつもりは毛頭なく、最低限に留めるつもりだ。保険屋だって似たようなことはしているらしい。

別室でも『調整』の中身に予算を動かす際の中抜きなんかが含まれているが、良くあることだ。その辺は花畑たちの方が俄然詳しい。

 

「しかしそれでは被害者の生活が」

「世の中被害者(弱者)が泣きを見るようにできてるものですよ」

「立場的に大変言いづらいですが、立場上否定しておかないといけないので、一応、言っておきますね」

 

そんな身も蓋もない、とブーメランを承知で目良は口を挟んだ。

 

「人の欲や悪意には際限がない。これまで守ってもらっていた相手にも平気で唾を吐く。デクやエンデヴァーがいい例でしょう」

 

エンデヴァーは、ステイン逮捕の件以外ではヒーローとしてはやや態度に難がある程度で瑕疵はなかった。粗捜しのつもりで調べたのだから、そこに間違いはない。

理由はどうであれ、家庭はどうであれ、20年以上に渡り彼は人々を守り続けてきた。

 

「エンデヴァーはともかくとしても、雄英の避難民はデクの受け入れまで拒否していたと聞いていますよ。簡単に手の平を返すと自ら証明したようなものではないですか。厚顔無恥も甚だしい」

「そう仕向けたのはあなたでは?」

「私は何も命じてはいませんよ?私の意を汲んだ者たちが動いてくれただけです」

 

それはまるで、長年の宿敵がさも嗤いながら言い放ちそうなセリフであった。

オールマイトは、葬の手を掴むように握る。

 

「何ですか?」

「こっちを見てくれ」

 

部屋に入ってから、ちろりともこちらを見なかった瞳がようやく向く。

それが実は赤ではなく、自身と同じ色をしていることを、つい最近知った。

 

「デクの件は本当に私が命じたのではありませんよ。手に入れば、と溢したことくらいはあったかもしれませんが」

「そうではない。今はその事を言いたいんじゃないんだ」

 

葬は直ぐに視線を、払うように掴まれた手を解く。

 

「話の腰を折ってしまい失礼しました」

 

軽く目礼をして、「続きを」と目良に催促をかける。

 

「これは我々に対する職務不履行の訴えを行わないとする条件のセット条項になりますので、思うところはあるかもしれませんが、了承を」

 

この後、戸籍を作って認知すると出生まで遡って法律上の父子関係が生じることになる。

葬がまだ未成年なので、訴えを起こすとなると保護者ーつまりはオールマイトが行うことになるので、それを封じる為でもある。

 

「寄付は禁止していませんので、そちらでお願いします。それから、あなた以外の被害者についてですが」

「手出しは無用です」

 

目良の言葉を遮り、葬は拒絶した。

 

「私以外はきちんと学校にも通わせて一般的な社会生活を送らせていますので。彼等には一切関わらない。存在を把握しようとする事も禁止するのが絶対条件です」

 

これに関しては一歩たりとも譲歩する気はない。

いついなくなるか、明日をも知れぬ身だ。いつ何があってもいいように、彼等の生活に響かないよう整えてある。

 

「お父様がそうした通り、彼等は私にとって質になり得る。お互いに信用信頼があるわけではないでしょう」

 

今回の交渉は効率を考えた結果の善策であって、最善でも最良でもない。

 

「では、前に話したのはどうかな?」

 

それは焼肉屋で話した、被害者救済の基金を作るというもの。

 

「却下します。今このタイミングで貴方からの梃入れは私との関係を疑われるようなものです」

 

以前ならばオールマイトが養子を取ったと多少の騒ぎになったとしても美談で済んだ。

今はもう、その段階はとうに過ぎている。

 

「私は私の今後の扱いについて異を唱えるつもりはありません。どうとにでもしていただいて結構。但し、彼等に触れる事は一切認めない」

「しかし…」

「諄い。私が認めないと言っているのです」

 

尚も説得を試みようとするオールマイトに語気を強めた。

狡いが、彼が決して自分に強く出られないことを理解している。

そして葬はオールマイトにやや非難じみた視線を送る。

 

「私との関係を公表などすべきではなかった。自分で“平和の象徴“の名に泥を塗るような真似をせず、私など切り捨てるべきだったのです」

「できるわけがないだろう!」

 

そんな事はわかっている。

散々狂信者にオールマイト論を聞かされ、潜入調査にあたり自身でも調べ上げ、数ヶ月ではあるがその為人を近くで見てきた。

できないとわかっているから、葬の方から離れようとしたのだ。

 

「公表は私の希望なんだ。本当なら年明けに君と会ってすぐするつもりだった」

「お止めしたのは我々です」

 

掃討作戦を控えている時期だった。

待ってもらっていたのだ。

結果がこれであるが。

 

「止めるなら最後まで止めて隠し通して欲しかったのですがね」

 

隠蔽は得意だろうと、葬は鼻を鳴らす。

 

「君の安全が確保できたら、作戦終了後には公表するつもりだったんだ。エンデヴァーの事は…予想外だった。しかし、己の過ちで我が子に罪を犯させてしまったというなら、彼だけが責められるべきじゃない」

「エンデヴァーと違って貴方は被害者でしょう」

「それは君だって同じじゃないか」

「私は既に加害者の側に立っている」

 

赦されるとは思っていないし、望んでもいない。

怨みも誹りも受けて当たり前。

復讐を目論むならばそれも当然と。

全ては仲間の為に。

 

「とにかく、こうなった以上私たちは生き別れになって再会した親子を演じなければならない。私がやったことは無くならないんです。父親の貴方も詰られるでしょう」

 

そうならないように父親とは関係ないところで生きるつもりだった。

 

「そんなことは承知しているさ。私は君の父親だからね」

 

共に背負うと決めるまでもなく、最初から。

 

「だけど、情けないことに私はまだ君のことを何も知らないんだ。だから沢山話をしよう。ダメな父親だけれど、まだ父親を名乗る資格なんてないのかもしれないけど」

 

演技などではない。

そんなものは必要ないのだと、彼女に分かって欲しかった。

 

「これまでできなかった分、何もしてあげられなかった、してこなかった分、たくさん。まだ時間はあるんだ。どうやら私は、君の晴れ着姿を見るまでは生きていられるようだから」

「…サー・ナイトアイの“予知“ですか」

 

あの時戦場でルミリオンが伝えた伝言。

 

『サーからの伝言!振袖は黄色だったって!』

 

側から聞いても何のことかわからなかっただろう。

葬自身一瞬では判断がつかなかった。

彼の所に職場体験に行きサー・ナイトアイの個性を知っていて、オールマイトと彼の仲が修復されたことを知っていなければ、その意味に辿り着けなかった。

 

「サー・ナイトアイに私が礼を言っていたとお伝え願えますか。あの伝言で、私は勝利を確信できたと」

 

数年先に祝い事をする余裕があるということは、生きてAFOに勝利できるということ。

奴の前に立つには十分だった。

 

「それはナイトアイに直接伝えよう」

 

オールマイトは優しく微笑む。そして急にとんでもないことを宣った。

 

「私は6年前、彼の“予知“では去年か今年あたりに死ぬはずだったんだ。ヴィランに殺されるはずだった」

「「‼︎」」

 

これは目良も初耳だったらしく、目を見開いていた。

 

「…AFOですか」

「具体的に誰にとは言われなかったよ」

 

サー・ナイトアイが顔を無くしたAFOをそれと認識できなかったか。それとも死柄木弔を乗っ取った奴か、はたまた別の姿か。

いずれにせよ、AFOが関わっていないわけがないと妙な確信があった。

葬は「やっぱり殺しておいて正解だった」と毒吐く。

 

「ナイトアイが言うには、彼の視た未来も変わるらしいんだ」

 

願い信じる心はエネルギーで、強く未来を信じて紡ぐエネルギーこそが、既に視た確定未来すら変えるのだと。

無個性として生まれて、何の役割も持たなかったから、ヒーローとして生き、人の役に立って、ヒーローとして死ぬ。そのつもりだった。

 

「君や緑谷少年、多くのヒーローや、私や彼らを信じてくれる人たちの願いが、私の命を救ってくれたのだと、私は思っているんだ」

 

にこりと笑って、彼は言った。

 

「ありがとう」

 

オールマイトは椅子から立ち上がり、娘の前に膝を着く。

そしてその手をそっと取った。今度は両手で、振り払われないように。

オールマイトー八木俊典は早くに両親を亡くした。

他の肉親もおらず、先代であり師である志村菜奈を母親のように思っていた。そんな彼女も、出会って僅か数年で失ってしまった。

1人で生きるつもりだった。けれど愛してくれる人が、愛する人ができて。その人も。

そんな俊典に残された存在。

 

「もう一度、いや何度でも言おう。君が心から思って、頷いてくれるまで」

 

どれだけ時間が掛かろうとも、既に宣言したのだ。

諦めの悪さは折り紙付きだと。

 

「私と家族になろう」

 

─────────────────────────

父娘

お互いに自分のことはどうでもいい似た者親子

 




法律とか制度とかその辺は適当です。それっぽく書いてるだけですご容赦ください。
葬が強気なのは弔がいる虎の威と、父親の引け目を承知しているのと、未来が然程酷いことにならない確信があるのが理由。

ここまでお読みいただきありがとうございます。
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ストックないし週一行進はしたいしでぐぬぬとなってます。
感想とか評価とか感想とかいただけたりなんかすると調子に乗ってきっと筆が進むのでお恵みください。
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