一輪花の咲くまで   作:No.9646

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自衛隊の音楽隊演奏聞く機会がありまして、まさかの「私が来た!!」と「You Say Run」生演奏聞けました。幸運。


75話 終わりの始まり①

 

葬はオールマイトに手を握られたまま沈黙していた。

直接触れられるのは今日で2度目。

1度目は体育祭で肩を砕いた時。

長身痩躯の彼の手は大きく、温かい。

これまで数多くの敵と戦い、数えきれぬほどの人々を守ってきた手。

散々に奪い葬ってきた自身の手とはまるで違う。

葬の口から出たのは。

 

「はああああぁ…」

 

長い長い、嘆息であった。

 

「なんで?」

「そうですよね、そういう人ですよね…貴方は」

 

この善性の塊からどうして自分のようなものが発生したのか。

母親の事はほとんど知らないが、以前読んだ日記からして、あちらも善良な人であったのだろう。

葬は自分の性格が決して良いとは言えない、むしろ捻くれている質だと自認している。イイ性格とはここ最近よく言われるが。

生育環境の劣悪さが人格形成に与える影響の大きさを目の当たりにした気分であった。

子どもたちの養育には一層気をつけよう。

荼毘(燈矢)とエンデヴァーの方がまだ血の繋がった親子らしい。

執着心といい直向きさといい、方向性の間違い方、容姿は眼以外それほどでもないが、性格含めた中身がよく似ている。

三つ子の魂百までとは格言である。

エンデヴァーがNo.1になれなかったのは個性とか戦闘能力とかではなく、単純に人間性の問題ではないだろうか。

明後日な方向に飛びかけた思考を戻せば、途端にこの人とこれから親子をやっていく自信が翳ってきた葬であった。

 

「目良委員長代理、台本もう少し修正入れましょう…あともう一度血液鑑定すべきでは?」

「なんで?」

 

予期せぬ娘のリアクションに、オールマイトはひたすら「why?」と首を傾げるばかりである。

 

「再鑑定はご希望でしたら構いませんが、必要ないでしょう」

 

目良は計画書をパラパラと捲る。

 

「提出いただいた計画書(こちら)といい、先ほどのやりとりといい。あなた達お二人とも、相手や他者の心配しかしていないでしょう」

 

オールマイトはヴィランとして大規模テロに関わった娘に家族として、共に償いと幸せを願っている。

自身の功績や名に泥がつくのも厭わず。

葬は自分の存在が彼の瑕疵になるのを気にしている。

出された計画案も、そこに保身の意図がほとんどない。

弔の存在を盾にしているのも、自身の命を質に庇護下にある者たちを守るため。

4年前に逃げたのも、自分以外の子どもたちを人殺しの道具にさせない為。

徹頭徹尾『誰かの為』にしか生きられない。

 

「血は水よりも濃いと言いますが、根本的なところは似ていらっしゃると思いますよ」

 

ついでに、誰かから自身へ向けられる心配や気遣いを無下にしがちなところも。

そのあたりはこの父娘に限ったことではないが。

 

「なのでほどほどに親子喧嘩をするくらいで、そこそこに良い親子関係を築いていただけたらとは思っています。これまで長年、我が国を支えてくださった“平和の象徴“に報いるのに、労力は惜しまないつもりです…下手に他所から介入されても困りますので、はい」

 

はああ、と深い深い溜息を吐く目良。

 

((そろそろ隠す気ないなこの人…))

 

なお同じ頃、自国のNo.1ヒーローを宥めすかしているどこかの司令官が同じように溜息をついているのだが、この場では知る由もない。

 

「親子喧嘩か、うん、しようか。お互いちゃんと本音でぶつかるのも必要だよね」

「私はつい最近とびきりハードなのをやったばかりですよ」

「私とはソフトな奴で頼むよ」

 

オールマイトは少し寂しげに、どこか不安気な珍しい表情を浮かべていた。

 

「実を言うと、私も家族の在り方はよくわからないんだ。私は早くに両親を亡くしてね。だから、こんな形にはなってしまったけど、君という家族ができて嬉しいんだ。少しづつ、手探りではあるけれど、2人で前に進んでいけたらと思っている」

「オールマイト…」

 

オールマイトはにこりと微笑む。

 

「急がなくていいから、また『父さん』と呼んで欲しいな」

 

─────────────────────────

 

退出した葬は階段を降りた廊下で知った顔たちと出会した。

 

「あ…」

 

移動中らしい、全員ではないがA組の生徒たちだった。

一瞥だけくれて通り過ぎようとした彼女を呼び止める声があった。

 

「待って!」

「何か用?オールマイトならまだ第3小会議室だけど」

「あの…」

 

おずおず、と話しかけたのは青山だった。

 

「君は、これからどうなるんだい?」

「君たちには関係のないことだよ」

「そんな言い方…!」

「これは失礼。言い直そう。君たちが気にする必要はないことさ」

 

抗議の声を上げる葉隠に謝意のない言葉を述べて訂正を入れる。

 

「君たちの副担任には影響が出るかもしれないけど、プライベートの事だし、あの人だって公私混同はしないだろうさ」

 

ヒーロー名に「あの人」呼び。

ヒーローとヴィランの家族。その溝の深さ。

A組の生徒たちは、轟家の内情(確執)を知ってしまっている。

さらにはその当事者がクラスメイトで、彼が苦悩しているのも、謂れのない中傷を受けているのも間近で見ている。

 

「ああそうだ、青山君。『お父様』に情報流してたこと、これ以上他に知られてはいけないよ。山荘の時に口に出していたけど、箝口令出てたんじゃないの?」

「でも…僕が自分や両親を優先してAFOに阿った事は事実だから」

「誰だってそうするさ。トロッコ問題だって少ない方を犠牲にするけど、その少数派が自分の家族や大切な人なら多い方を犠牲にするだろう?人とはそんなものさ」

「それでも、僕がみんなを危険に晒したのは変わらないし…でも、こんな僕でも、みんなは受け入れてくれた、仲間だって、一緒にヒーローになろうって言ってくれたんだ。だから、やり直せるって、みんなの、君が戻って来てくれたら嬉しいっていうのは、本心だって、伝えたかった」

 

まだAFOの恐怖は完全には癒えていないのか、青山の手は僅かに震えていた。

 

「青山…」

 

切島に背中を叩かれる青山は、本当に受け入れられているのだろう。

 

「君や君たち家族の進退、後ろの彼らの思うことなんて、そんなことはどうでもいい」

 

「そんなこと…」と小さく呟いた麗日はずくりと胸が痛んだ。

言われる方は、こんな気持ちになるのか。

 

「ほんとに、変わっちまったのかよ、お前……」

「こっちが素だよ。まあ、大して変えてなかったつもりだけど」

 

雄英の一般入試は人物査定がない。

全く違う性格を演じてもボロを出さない自信はあるが、動きにくいことに変わりはない。

よって、悪辣さを控えて作った設定外の情報を出さないように気をつけるだけで、実際足りた。

過激派原理主義者(ヒーロー殺し)が認めるくらいには、葬の生来の気質は向いていたのだ。

大体、大なり小なり人は人前では演技をするものである。

社会に出たら当然、友人の前であれ、親だろうと子だろうと。

 

「そもそも、それほど親しくしていたわけでもなし。本音で言い合ったり、性格や言動が変わる程の付き合いではないじゃない、私たちは」

 

この1年、皆で切磋琢磨して関係を、信頼を築き上げてきた。

時には助け合って、時にはぶつかって。

それなりに濃い時間を過ごしてきたと思う。

緑谷や爆豪、轟、飯田、そして青山。

他の皆だって。

 

「私たちのこと、そんなふうに思ってたの…?何考えて、教室にいたの…!」

「何って、仕事だよ」

 

さも当たり前と言わんばかりに。

初めから歩み寄る意思もなく、目的も違う。何かが変わる機会などなかった。

声を震えさせる葉隠に向けていた視線を青山に戻す。

 

「話が逸れたね。情報流出については私がということで話は纏まってるんだ。余計なことをされると、後で辻褄合わせをしなきゃならなくなる。面倒な手間をかけさせないでよ。内通者が複数潜り込んでたなんて、雄英の名前に傷がつく。そんなことは望んじゃいないだろ?」

 

「ねえ?青山君」と低い囁きに、ぎゅっと拳を握り込んだ青山は顔色を悪くする。

自分の行いの所為で雄英は酷く批難を浴びた。

大勢の未成年(子ども)を預かる学校で、多数の教職員(ヒーロー)教職員が居ながら生徒らに危害が及んだ。保護者から、世間から突き上げをくらい、先生たちに頭を下げさせた。

迷惑をかけた、苦しい思いをさせた。

もう2度と、あんなことは。

 

「もういいかな?あまり君たちを構ってあげられるほど暇じゃないんだ」

 

葬は踵を返そうとする。

 

「待って、黒衣さん」

「まだ何かあるの緑谷君?あといい加減その名前やめない?私はもう黒衣一花じゃないんだけど」

「え、あ、ごめん。でも死柄木だと死柄木弔と被るし、あ、ええと、オールマイトと一緒の名字になるの、かな?」

 

緑谷に何と呼べばいいのかと聞き返され、「あ」と溢したのは葬もだった。

 

「名前どうするか決めてなかった」

「そんなん忘れることある?」

 

切島が思わずとツッコミを入れる。

葬にとって名前なんてものは仕事毎に変わることも珍しくないので、さほど重要視する事項ではない。

現在私生活で使っている名前も元の呼び名の「九番」をひっくり返しただけと、自身にその手のセンスがないことも理解している。

すっかり流してしまっていたが、オールマイトが適当に決めるだろう。

 

「洸汰くんのこと、覚えてる?」

「ああ。マスキュラーが迷惑をかけたね。しっかり叱って(調教して)おいたから」

「今何か変なルビ出なかった?」

 

個性と身体とで覚えさせたので。

それはさておき。

 

「僕は君が、わざと僕たちを突き放そうとしてるように見えるんだ。僕も、一度は皆から離れようとしたから」

 

これはOFAとAFOの戦いだから、自分がやらなければと。

皆はついてこれないと勝手に決めつけて。

 

「何より僕は、皆に傷付いてほしくなかった。だから離れた。君は神野でも、この前の戦いでだって、僕たちを戦いから遠ざけようとしてた。それに、君が洸汰くんに言っていた言葉は、接していた姿は、どうしても嘘だと思えないんだ」

「君は私を美化し過ぎじゃない?」

「『信じる』って、そういうことだと、僕は思うから」

 

スっと葬の前に手が差し出された。

 

「青山くんの言う通り、僕たちは君が戻ってきてくれたらと思っている。確かに、たくさんの人が命を奪われ、生活を壊された。やったことは消えないし、罪がなくなるわけじゃない。だけど、そこに至るまでの君を僕たちは見過ごした。見逃した。知っていたら、気づけていたら、何か違ったんじゃないかと思う」

 

それに、と彼は続ける。

 

「これからの、未来のことならまだ変えられる。僕らは、君を援けたい」

「君には私が援けを求めているように見えるの?君もルミリオンも、君たちは本当にお節介焼きだね」

 

まだ手はとってもらえない。

それでも。

緑谷はぐっと手のひらを握って、笑った。

 

「お節介はヒーローの本質なんだ」

 

そんな緑谷に僅かに目を細めていると、来訪者があった。

 

「何か集まってんじゃん」

「兄さん、何かあった?」

 

弔であった。

グラントリノから祖母の昔話を聞いて時間を潰していたが、そろそろ待ちくたびれて用足しがてら様子を見にきたのである。

生徒たちの横を抜けて葬は弔の方に向かう。

 

「遅えよ」

「ごめん、少し立ち話をしてしまってね」

 

葬が弔の手が届く位置まで進んだ時。

それは突然だった。

それは同時だった。

 

「あ?」「ッ!!」

 

弔は、くん、と何かに引っ張られるような感触がして。

デクは、脳裏を鋭い稲妻のような警報が、“危機感知”が発動して。

 

「何、で」

 

発した言葉はどちらのものだったか。

弔は手を伸ばしていた。

身体が引っ張られる感覚の正体がそれだった。

不意に、己の意思と関係なく、腕が動いていた。

赤い瞳が見開かれる。

手が、5本の指が触れる。

弔の目の前には、葬がいた。

 

「死柄木!!」

 

OFAの閃光を纏ったデクが瞬時に死柄木を蹴り飛ばす。

廊下の壁ごと窓をぶち破り、大穴が空いた。

 

「Grrrrr!!」

 

途端、けたたましい警報音が響き渡る。

 

「デクくん!」

 

外へと放り出された死柄木を追ってデクも飛び出す。

起き上がった死柄木の左目にあった花弁に似た燐光が、ヂリリとノイズが走ったように崩れて消える。

 

「持ち主に似て扱い難い個性だ。まあ、いい」

 

ゆらりとやや俯いた顔から覗く唇が、にい、と歪な弧を描く。

 

「やっと出てこられたよ」

 

ひっきりなしに最大音で鳴り続ける“危機感知”。

先程までとは纏う空気が違う、弔の様子。

その不気味さ。

OFAを宿しているからか、対峙する緑谷はそれが誰かを半ば確信していた。

 

「オール・フォー・ワン…!!」

 

一方、衝撃と爆風に飛ばされて、葬は床を転がる。

 

「おい!しっかりー!!」

 

助け起こそうとした生徒たちが、息を呑んだ。

ぱきり、と。

気を失って倒れた葬の身体に、皹が走っていた。

 

 

─────────────────────────

不意打ちダウン

 

不意打ち意識ダウン

 

中の人

やあ^ ^(2回目)

 

 

 




はい、ヤツです。
pixiv版お読みいただけた方は察してた方もいらっしゃるかもしれません。
ハーメルン版は解決シーンカットしてたので。
最終話まで読んだ身としては、ラストバトルは入れたかったんです。
あと少しだけお付き合いいただけると幸いです。

ちなみに葬の表用の名前は「九」で「いちじく」と設定してたりなんかします。本編では一切出てきませんが。
キャラ1人に名前たくさんあっても自分じゃ扱いきれないので。
仲間内では「いち」「いっちゃん」「いちねえ」などで呼ばれています。(これは出したはず)

ここまでお読みいただきありがとうございます。
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