一輪花の咲くまで   作:No.9646

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この辺りから流れが変わってきます。


9話 職場体験①

 

 

────────

 

水を打ったような静寂が満ちる。

そこに少女と男はいた。

両者とも刃物を手に、呼吸も瞬きも忘れたかのように微動だにせず相手を注視している。

一瞬でも気が逸れた瞬間、各々が牙を突き立てるだろう緊張を孕んで。

轟と試合った時とは異なり、瞳を完全に染めきる程の強さで自身の感性を支配していた。

その瞳は地を焼くような黄昏にも似た色合い。

“集中“と“闘志“により引き上げた感覚は、僅かの呼吸の変化、視線、身体の動きも逃さぬと、獲物に狙いを定めていた。

対峙するのは、鼻を削ぎ落とした鋭い眼差しの男。

大量連続殺傷犯、通称ヒーロー殺しステイン。

静かに燃える狂気と化した信念を宿した瞳が、只々真っ直ぐに葬を射抜く。

どれだけそうしていたのか。

数秒、数分、十数分、或いはもっと。

先に動いたのは、果たしてどちらか。

紫電一線。

刃は踊り、花を咲かせた。

 

────────

場所は変わりー

 

「ハア、シャワー空いたぞ」

 

男は濡れたざんばらな髪を拭う。

「ああ」と返して、葬は冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを手渡した。

ステインこと赤黒血染。

葬傘下側近の1人である。

主に葬の護衛役だ。

ステインは実力も知名度もあるから、彼を従えているというステータスは強力だ。

謝礼は出すし、「正しき世のための贋物粛清」活動をしている彼にこうして活動拠点を貸し与えたりもしている。

体育祭で思わぬダメージを負った葬は、手負の獣よろしく安全な場所を求めて保須のセーフハウスを訪れていた。

休息をとり、ちょっとした運動をして、肩慣らしをし完治している事を確かめる。

加えて、彼に用事があった。義父からの頼み事(仕事)だ。

ふと血染が視線を向けていたのでその先を追うと、テレビが先日の雄英体育祭のハイライトを放送していた。

例年、この時期はこの話題ばかりである。

尤も、今年に限っては葬自身が話題にされる側であったが。

1回戦の飯田との試合が映り、そう言えば彼の兄がステインに病院送りにされたかと思い出す。

ステインの狙いは別のヒーローだったが、インゲニウムは巡回中かちあわせたらしい。

異なる主義主張が衝突するのは必定。弱い方が淘汰されると双方戦闘になりインゲニウムは奮闘するも及ばず。1人は殺害され、インゲニウムも重傷、一命は取り留めたようだが、復帰は絶望的らしい。

殺された標的のヒーローは、ヴィランから賄賂を受取り目溢しをしていた。

そのあたりを材料に手駒にしてもよかったが、ステインが許さなかったのである。

インゲニウムも、飯田に取っては自慢の兄で、理想のヒーローなのだろうが、ステインの基準は独特で、かつ点が辛い。

彼の訴える“英雄回帰“は崇高で理想的。オールマイトを基準にするもので、夢はあるが、葬は夢は見ない質だ。彼のような英雄像は抱いていない。

彼女にとって、あくまでヒーローとは個性犯罪に対処する公務員の一種、ただの職業だ。ピンキリいれば腐るのもいる。ヒーローそのものを嫌悪しているわけではない。

現に、筆頭のオールマイトは仕事で情報を流しているが、真っ当なヒーローとして比較的好感を持てる。きっと、顔を合わせれば延々聞かされるステイン(厄介過激ファン)のオールマイト賛美の所為だろう。

では何故過激思考のステインが葬の傘下に甘んじているかと言えば、深手を負っているところを拾い借りができたからと始まり、彼女の資質が彼のお眼鏡に適ったからだった。

それに付き合ってみればお互い、渇望して、絶望して、乗り越えて、踏み越えてしまった者同士、気が合った。

 

「…お前が、お前達が救われていれば、お前は正しくあの場所に居ただろう」

 

決勝戦が映し出される。

事故の件で、黒衣一花は将来有望なヒーローの卵として美談扱いされていた。

真逆の存在であるのに滑稽な事だと、向こうの面子を潰せた事に義父からは上機嫌でお褒めの言葉を頂いたくらいだ。

 

「…惜しい…実に惜しい。お前は本物に成り得た。信念も、覚悟も、力も、お前は持っている。英雄足るに必要な資質を備えている。それなのに、ハァ…」

「私はただ、目の前で子供が死ぬのを見たくないだけさ。もう散々見てきたからね。優先順位だってつけているんだ。ただの自己満足だよ」

「それを自己満足と呼ぶのは許さん。お前はいい加減、その精神が高尚なものであると理解しろ」

 

ぎろりと睨まれ、葬は肩を竦めて見せた。

 

「贋物共が蔓延るから、お前のように救われない者が増えるんだ」

 

血染は苦々しく吐き捨てる。

昨今、ヒーロー飽和社会と呼ばれて久しく、質の低下が嘆かれている。

名声や利益を優先し、危険や利にならぬとわかればすぐに引く。

件の『贋物』のように汚職や隠れて罪を犯す者も少なからずいる。

 

「現在とは過去の積み重ねだ。得た知識や技術、経験を元に創られるもの。あの過去があって今の私がある。嘆いたところで、乞おうが願おうが、いもしない神に祈ったところで過去は変わらない。もし(IF)、があったとしたら、それは私ではない、別の(誰か)だ。もしかしたらその私は、『贋物』予備軍だったかもしれないよ」

「人の本質はそう易々とは変わらん」

 

この男がそう意見を変えるとは思っていない。

そんな事はとっくに承知していた葬は「それに」と血染の首に腕を絡ませ唇を寄せて囁く。

 

「もしも私が『あちら側』だったら、こうして一緒にいられないじゃないか」

 

数瞬硬直したが、血染は持ち直して深く嘆息した。

剣呑な気配をすっかり散らされて、葬の腰に手を回して、引き寄せる。

 

「ハァ…甘えるならもう少し子供らしく甘えたらどうだ」

「生憎、そっちの甘え方は知らないんだ」

 

苛烈で狂気的、愚直な程不器用な男ではあるけれど、不器用ながらに甘やかされるのは嫌いじゃない。

本題(おねだり)は軽く汗を流してからにしようと、葬は態とらしく唇を鳴らした。

 

────────

 

体育祭も終わり2日後。通常授業に戻った。

相澤をして「ちょっと特別」と言わしめる本日のヒーロー基礎学の内容発表に、教室に緊張感が走る。

 

「コードネーム、ヒーロー名の考案だ」

「「「胸ふくらむヤツきたあああ!!!」

 

クラスメイトたちは大いに盛り上がっていた。

それも束の間、相澤にひと睨みされ、途端にシン…と静まる。

この短期間で大した統制だ。

相澤から先日の「プロからのドラフト指名」を踏まえた説明がなされた。

 

「例年はもっとバラけるんだが、3人に偏った」

 

1〜3位の爆豪、黒衣、轟が各自優に2000件を超えていた。

 

「だは〜白黒ついた〜」「ビビんなよプロが!」「順位変動してんじゃん」

 

爆豪は2位3位の2人より少ない事、轟は順位の割に指名数が多い事を父親の七光と感じたらしく、不満気だった。

 

「これを踏まえ…指名の有無に関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきた!」

「まァ、仮ではあるが適当なもんは…「付けたら地獄を見ちゃうよ‼︎」

 

カツカツとヒールの音を鳴らして割り込んできたのは、ミッドナイトであった。

 

「まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう」

俺はそういうのできん、と、相澤はさっさと寝袋を取り出していた。

ボードが配られ、考える時間は15分。

 

(適当でいいか)

 

早々使わなくなる名前をあれこれ考えても時間の無駄だ。

ついでに自身のネーミングセンスは凡庸だと自覚もあった。

最初の2人で妙な路線に進みかけていたが、蛙吹の軌道修正により順調に考案が出されて行く。

一花もさっさと終わらせてしまおうと、フリップを持って教壇に上がった。

 

「ブラックコート。コスチュームからとりました」

 

ちょうど使っている名前も黒衣であったし、シンプルisベストだ。

 

「良いじゃない、かっこいいわ。トレードマークね」

 

あっさりとOKが出た。

結局、この時間のうちに決まらなかったのは爆豪のみ。彼はとりあえず「殺」から離れたほうがいい。

それから指名一覧が渡される。

 

「今週末までに提出しろよ」

「あと2日しかねーの⁉︎」

 

2000件を2日で絞れと?と瀬呂に同意した。

一花は渡された数十枚のリストにざっと目を通す。

上位勢ならばエンデヴァー、ベストジーニスト、ミルコ、エッジショットなどが居並ぶ。

授業も終わりの頃になると、何人かは即決したらしい。

 

「黒衣さんはどこかいいところあった?件数すごいもんね。よりどりみどりじゃない?」

「そうだね…せっかくご指名頂いたしエンデv「半分野郎!今すぐこいつの指名取り消させろ…!」

「職場体験は敵との戦闘も有るかもしれないし、未熟な学生が個性の取扱い誤ってもおかしくなくないかい?」

「おかしくなくなかねーよ!テメエ思考物騒か!!」

「物騒代表が何か言ってる」

「ああ゛!?」

 

上鳴が余計な茶々を入れて睨まれていた。

 

「冗談だよ。流石に数が多くてね。後でゆっくり選ぶよ」

 

そして授業も終わり、放課後。

 

「失礼します」

 

日直当番であった一花は日誌を出し、職員室を後にして荷物を取りに教室へ向かった。

部活や居残りの生徒は居るものの、人通りはない。

階段の踊り場で、一花はひたりと足を止めた。

 

「私に何か用でも?」

 

周囲には誰もいない。扉の開閉音もしなかった。

天井にも窓の外にも、何もいない。

けれどもー誰かいる。

 

「5つ数える間に姿を見せなければ人を呼びます。1、2、3「ごめんね!」

 

ぬっと壁に浮かび上がったのは、人の顔だった。

白目の少ないつぶらな瞳、キリリとした眉の平たい、顔だった。

 

「怖かった?驚かせようとは思ったけど怖がらせるつもりはなかったんだ!ごめんね!黒衣さんだよね?初めまして、俺は通形ミリオ、ヒーロー科の3年生さ!言ってみれば君らの先輩だね」

「はあ…初めまして。ヒーロー科1年黒衣です。それで、その先輩が私に何かご用で?というか、それ、どういう状況ですか?」

「ん?これ?俺の個性さ。教室聞いたら職員室に行ったって聞いて俺も職員室行ったんだけど入れ違いだったみたいでね。また教室行って入れ違いなったらと思って、個性でショートカットしたんだ」

 

個性を解いたのか、壁からぽんと押し出されるように通形が飛び出してきた。

 

「あ」

 

全裸であった。

人気のない場所で、自称3年生のガタイの良い男が、1年生の女子生徒の目の前に、全裸で立っている。

 

「「………」」

 

2人の間に珍妙な沈黙が落ちた。

通形の顔には嫌な冷汗が垂れた。

一花は慌てず騒がず、静かに発信ボタンを押した。

 

「もしもしヒーロー?」

 

────────ー

1年女子生徒

「もしもしお巡りさん(ポリスメン)?」ならぬ「もしもしヒーロー(相澤先生)?」した。

癖には寛容な方だし見慣れてるけど学校はダメだろ

 

3年男子生徒

やらかした

 

 

護衛の成人男性

健全なヴィランのおつきあい

生活安定サポート充実しているので原作比性格丸め。

後日葬の頼み(仲介)で弔に会って名義貸し了承した。

────────ー

 




その後、男子生徒は通報を受け駆けつけたイレイザーヘッドらに確保され、職員室に連行されました。
男子生徒は概ね容疑を認めており、また、「裸を見せる意図はなかった」「いつものようにゴメンで済む空気じゃなかった」などと供述しているとのことです。

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