「(うーん、結構遠いなぁ)」
私は宙に浮いているから良いけど、この距離を歩くイシズとマリクは凄い体力の持ち主だ。
もし私が人間だったら、体力不足で確実に砂漠に置いて行かれてる。
「ねぇさん、ちょっとまって」
「マリク…!」
「あとちょっとだけだから」
マリクはそう言うと、近くの瓦礫に座ってバイクの口真似をし出した。
この頃のマリクは何も知らない。
だから最初に見た物を純粋に受け入れ、好きになれる。
この子も三千年の犠牲者だと思うと………なんだか悲しい。
「マリク」
「…わかったよ」
瓦礫から降り、地面に開かれた扉に入っていくマリク達。
しかし、階段から下りていく最中にマリクが仕掛けに気付いた。
「ねぇさん、アレなんだろう?」
「ッ!?…リシド!」
「あ、ねぇさん!どうしたの!」
急いで階段を下りるイシズ。
私も中に入れば、人よりも聴力の良い耳が嫌な音を拾った。
これは……鞭の音か!
「リシド!」
マリクが見たもの。
それは、鞭を打たれて倒れるリシドの姿だった。
「(………酷い)」
確かに掟は大事だ。それなくして人間は秩序を正すことは出来ない。
けど、これはあまりにも酷い。
それにしても、俗世に触れずにどうやってファラオを探すんだ?
「…マリク、様……」
「イシズ、マリクよ。見ろ、掟を破った者の末路を!お前達の所為で、この使用人は罰を受けたのだ!」
私はゆらりと、リシドの側に行く。
『(呼吸は…してる。大丈夫、生きてる)』
ほっと安堵の息を吐く。
私の所為で原作が狂い、死なれたら立ち直れない。
「リシド……うぁっ、うぅ!」
「マリク!」
『!』
突然、頭を抱え出すマリク。
これが二重人格の、最初の発端。
流石の私でも二重人格の方はどうにも出来ない。
「次はマリク、貴様の番だ!」
そう言って放たれた鞭。
だが、それは額にウジャドを浮かび上がらせたマリクに……いや、闇マリクに掴まれた。
「マリク、貴様……ワシに歯向うというのか!」
「フッフッフ。リシドを始末してくれたありがとよ、父上サマよぉ」
口調がまるっきり違う、二重人格のマリク。
その証拠に、表と違って髪が逆立っている。
……何故そうなるのかが疑問だ。
「あー、清々するぜ」
「マリク…?」
「お前、一体…」
「今日からコイツは俺のモンだ」
闇マリクはそう言うと、祭壇に置いてある千年ロッドを手に取った。
その時、ウジャドの目が一瞬だが輝いた。
「ならん!千年アイテムに触れることは許さん!」
「コイツは俺を受け入れたようだぜ?」
「そいつを祭壇に戻すんだ!」
「うるっせぇんだよ!!」
千年ロッドを向けられたマリクの父は、その力により壁へと張り付けられた。
イシズが闇マリクの行動を咎めようとするが、同じように壁へと激突。
同じ魂から生まれたハズなのに、こうまで人格が違うといっそ清々しいな。
「貴方は、マリクじゃ…ない(助けて…ッ!“ユズ”!)」
「えぇ、助けるわ」
名を紡がれた。
だから
「!お前、どっから…」
「ずっと居たけど?」
姿を現さなかっただけで。
精霊王の力によって、私の髪と目は黒から黄金へと色を変える。
さっき見せた紛いモノのような力ではなく、本当の力。
「邪魔をするな!」
千年ロッドを私に向ける闇マリク。
だが、その力は精霊王の力によって弾かれた。
たかが人間の創りだした道具で、精霊王の力を凌駕することは出来ない。
私は、世界そのものなのだから。
「時が来るまで、眠りなさい」
闇マリクに浮かび上がるウジャドの目に触れ、精霊の力を流す。
その瞬間、彼は静かに気を失った。
「………」
例えココで私が止めたとしても、彼は再び現れる。
そして、今度は確実に自分の父を殺すだろう。
それが分かっていながら、何故止めたのか?
「(やっぱり、私のエゴなんだよね…)」
腕の中にいるマリクを一瞥し、自嘲気味に笑う。
まぁ、私の力の一部は宿した。
これで闇マリクが出てきたらすぐに分かるだろう。
「貴様、何者だ!」
復活したマリクの父親が私に叫ぶ。
あぁ、すっかり忘れてた。
「分からないのか?」
ここで下手に出れば嘗められるだけだ。
私は精霊王の力を使い、神聖な空気を創りだす。
いや、だって私じゃ威厳的なモノが出せるはず無いし。
「ワシの質問に答えろ!小娘!」
「…誰に物を言っている。立場を弁えろ」
あっはっは。
流石にプッチンと来ました←
《王、殺すか?》
「!な、何だと…!?」
「止めなさい。…オシリス」
目の前には赤い身体を持つ、竜の姿。
それは正しく【オシリスの天空竜】だった。
何で呼んでもいないのに来たのだろう…?
まぁ、丁度呼ぼうと思ってたから良いけど。
便利だし。
「何故…ッ」
「まだ分からぬのか?」
マリクを腕に抱いたまま、靴音を響かせる。
そして、驚愕の瞳で私を見る父親に囁いた。
「我が名は精霊王。デュエルモンスターズの全てを統べる者」
「精霊、王…」
「そうだ。だが、誰にも我のことを口外するな。もし話せば、貴様の存在を抹消する」
《我も見張っていようぞ、王》
「ありがとう。オシリス」
感謝の気持ちを籠めてその巨大な身体を撫でれば、まるで甘えるように擦り寄って来た。
精霊王の身体なので、擦り寄られてもくすぐったい程度の力だ。
《王よ。ラーとオベリスクにも貴女様のことを話しても?》
「構わないよ」
《ご慈悲に感謝致します》
オシリスは私に深々と頭を下げると、空気に溶けるように消えていった。