CODE:SCARET   作:三日月恭平

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キョウスケのご両親、コウガとサヤのはじまりの物語。
本編で語られなかったコウガの記憶、サヤが鮮血の女帝と呼ばれた理由が明かされます


The Beginnings of the Emperor and Empress

サヤと出掛けた先の本屋である写真を見てふと思い出す事があった

俺がサヤとの出会いから結婚までのこと。キョウスケやクレアが生まれてからも大変だったけど、それ以上に俺にとってサヤとの出会いは記憶に深く残っていた。

サヤ「どうしたの?」

コウガ「あの世界で色々あったなぁって」

サヤ「そうね。あの日あなたに出会ってなかったら、私はどうなってたのかしら」

サヤとの出会いは本当に突然だった。あの世界でたまたま俺が通りがかった時、瓦礫の陰で動けなくなっている彼女を見つけたのが、最初の出会いである意味始まりみたいなものだった。

 

サヤside

鮮血の女帝...あの世界での私の通り名

彼と出会う前、私は殺しの世界で生きていた。

多くのレヴナント達を闇に葬り、冷酷で残忍なまでに殺し続け、いつ命を落としてもおかしくなかった。ただあの日だけを除いて...

 

サヤ「ここまでみたいね…」

これまで多くのレヴナント達を殺してきた私の報いなのかしら?私はそう感じていた

幼い頃の私は、貧しいながらも家族と共にレヴナントとして静かで幸せな暮らしを送っていた。しかし、ある事件ですべてが変えてしまった

――街の権力者や裏社会のレヴナントたちが仕掛けた抗争に巻き込まれ、一夜にして私は家族を失った。

私は瓦礫の中に隠れ、目の前で多くのレヴナントや無関係な家族が無惨に殺されるのを見てしまった。私の家族も例外ではなく、助けを求める母の声、炎に飲まれる家、血だまりに沈む父の亡骸。その記憶は消えることなく、ずっと私の中に残っている。

この時、私の中で「弱者は生き残れない」「情けは身を滅ぼす」という価値観が生まれ始めた。

家族を失い行く場所もない私は、生き延びるために裏社会へ足を踏み入れた。そこで「ブラッドバタフライ」のリーダーに拾われる。そこには、かつて暴力に蹂躙され、生きるために殺すことを学ばなければならなかった女性たちが多くいたのだ。この時に同じ似た様な過去を持つセリカやケイシー、ナナミとはここで知り合い、同志になった。

 

彼女たちは「復讐と生存」を目的とする暗殺組織を作り、弱き者ではなく「狩る者」として生きる道を選んだ。

私はここで戦闘技術、暗殺術を徹底的に叩き込まれ、「生きるために殺す」ことを学んだ。あの頃の感情は次第に薄れ、私は「死を受け入れる者」として変化していき、いつしか冷酷なハンターになっていた。

 

時は流れ、ブラッドバタフライのメンバーとして初の殺しをする事になる。ここでは、一人前の暗殺者として認められるための「儀式」があった。その内容は「組織の敵を始末すること」。

私の初めての殺しは、裏切った情報提供者を暗殺するという仕事を与えられた。その男は確かに裏切り者だったが、ただ家族のために組織の情報を漏らしただけだった。

 

あの時、私は一瞬躊躇した。「彼には家族がいる、今しようとしているのは、あの時の私が見た事を彼の家族にしようとしている」――だが、その迷いを見抜かれたら自分が処分される可能性もある。

 

冷たい夜の中、私は無情の弾丸を男に浴びせて殺し、「情を捨てれば生き残れる」と学んだ。だが、殺した瞬間の感覚がずっと胸に残り続けた。それが後に私がリーダーになる事を意味する事を知らず。

 

最初の暗殺から月日が流れたある日、ブラッドバタフライにとって最悪の事件が起きた。それは前リーダーが依頼先のレヴナントの謀略により殺されたのだ。

 

実はあの依頼には後に因縁になる人物、シンジの組織「グレイブ」が裏で絡んでいた。前のリーダーは彼らを守る立場にあったが、この一件前に私達に対して不当な額の依頼を投げてきたことがあり相手にしなかった。その報復かは定かではないが、彼らとのバランスを保つ存在だった前のリーダーはその彼らの裏切りによって消されてしまったのだ。

 

そんな事件が起き、私は組織の新たなリーダーとして選ばれた。「リーダーは冷酷でなければならない」という信念のもと、私は仲間を守りながらも、必要ならば部下を切り捨てる判断を迫られる。

サヤ(仲間は信頼すべきか?それともただの駒か?)

そんな葛藤の中、私は表向きは冷徹な暗殺者として生きる道を選び、報復に備えた。しかし、どこかで「家族のように仲間を守りたい」という感情が消えなかった。それが後に長い間私を苦しめ続けていくことを知らず。

 

グレイブと私がリーダーとなったブラッドバタフライはついに敵対し、私達が前のリーダーを消した裏切り者たちを1人残らず始末し、私達の報復を終えた。

私は「裏切りは許さないという報復をしただけ」

私はその信念に従って動いた、それだけのことだった。

ただ逆にそれが彼にとっては「復讐」として刻み込まれ、後に私をつけ狙う理由になった。

そんな私は今暗殺帰りに奇襲を受けた。その時に負った傷が致命傷に近く動けなくなった。応急処置はなんとかできたけど、下手に動けば傷が開いて死ぬ可能性が高い。

そんな生死の境目を彷徨う私の前に、1人のレヴナントが現れる。まさかその出会いが私の人生を変えることを、この時はまだ知らなかった。

サヤSideEND

 

何処で怪我を負ったのか、動けなくなっていた彼女を見て俺は動揺した。応急処置は自分でやっていたみたいだったけど、あまり動くと傷がまた開く可能性が高く、死の危険性もあった。

 

そんな彼女を見捨てる訳にはいかず、俺は肩を貸し担いで歩いた。

コウガ「あまり無理しないで」

そう言って俺は彼女を隠れ家にしているビルの中に連れ、急ぎ手当をした。

「優しいのね」

コウガ「ほっとけないからね」

しばらく傷が治るまで彼女を隠れ家のビルで看病していたけど、その数日後にある手紙を置いてひっそりと姿を消していた。

 

その手紙にはこう書かれていた。

「助けてくれたことはありがたいけど、死にたくなかったらこれ以上私に関わらないで。あなたが私に関わればもう後戻りはできなくなる」

彼女は何か闇を抱えている…そう直感した俺は、彼女のことを知るべくある場所へ向かう。そこは俺の友人の一人、トウヤが最近行くバーがあるらしく、そこに彼女を知る人物がいるというのだ。

コウガ「トウヤ、この女を知らないか?」

俺は、トウヤに見覚えのあるスケッチを見せた。数日前に忽然と姿を消した、あの冷たい眼をした女だ。

トウヤ「ん?何度かバーで見かけたことがあるな。いつも一人で、近づきがたい雰囲気だったけど…確か、『ブラッドバタフライ』の…」

 

トウヤの言葉に、俺は息を呑んだ。「ブラッドバタフライ」…レヴナントは裏社会では知らない人はいない悪名高い暗殺組織。やはり、彼女はただのレヴナントではなかった。

コウガ「何か、詳しいことを知らないか?」

トウヤ「一つ言えるのは…あまり話すタイプじゃなかったからな。ただ、連れの女たちとよくいたな。確か…セリカとか、ケイシーとか、ナナミとか言ってた気がする」

セリカ、ケイシー、ナナミ…その名前に、俺はかすかな希望を見出した。彼女の過去を知る手がかりになるかもしれない。

 

バーの喧騒を抜け、俺はカウンターに座る人物に目を向けた。トウヤがよく話していた、その人物がいるはずの場所だ。

「いらっしゃい。何か飲む?」

コウガ「トウヤが飲んでいるやつを」

そう言うと、その人物は慣れた手つきでグラスを満たし、俺の前に置いた。差し出されたグラスを受け取ると同時に、相手が口を開いた。

「トウヤくんのお友達のコウガくんって、あなたね?」

コウガ「トウヤが言ってたセリカって、君?話があって来た」

その女性――後にトウヤの妻となる、ブラッドバタフライのメンバー、“ブルーローズ”のセリカは、警戒するように細めた目で俺を見つめた。

セリカ「ここじゃ目につくからついて来て」

事情を簡潔に伝えると、彼女は軽く頷き、店の奥へと歩き出した。薄暗い通路を抜け、彼女が案内したのは簡素な個室だった。どうやら、彼女もここで話すことを避けたい理由があるらしい。

セリカ「ここしか空いてなくてごめんね。それで、話ってなぁに?」

部屋に入り、腰を下ろすとすぐに、セリカが単刀直入に尋ねてきた。俺は、あの手紙を静かに彼女に差し出した。

それを受け取ったセリカは、一瞬にして表情を変えた。何か、彼女にとって見過ごせない特徴があったようだ。

セリカ「この手紙の字…私達のリーダーね」

コウガ「え?リーダー!?」

セリカの言葉に、俺は驚愕を隠せなかった。あの冷たい眼をした女性が、悪名高い暗殺組織のリーダーだとは、想像もしていなかった。

セリカは、さらに言葉を続けた。

セリカ「ブラッドバタフライは知ってるでしょ?そこのリーダーで、名前はサヤ。『鮮血の女帝』って呼ばれてる子がいるの、この字はその子ね。ちなみにトウヤくんには話したんだけど、実は私、そこのメンバーなの」

 

噂程度には聞いたことがあったが、まさか実在する組織の、しかも幹部が目の前にいるとは、俺は全く知らずにいたのだ。

コウガ「彼女がブラッドバタフライのリーダー…じゃあ、この手紙って…」

セリカ「多分、凄く苦しんでいるかも。最近仕事の話で会ってたんだけど、私が見る限りかなりやつれてたから心配なんだよね」

セリカ曰く、サヤは精神的に深く苦しんでいるとのことだった。詳しく聞くと、幼い頃に家族を亡くし、行く場所もなかった彼女をブラッドバタフライが拾った。しかし、前のリーダー時代からあった組織の信念――冷酷な暗殺者として生きる――を貫きたいという感情と、リーダーとなった後、家族のように大切な仲間たちを守りたいという、二つの感情の間で板挟みになっているらしいのだ。

 

その話を聞いた俺は、いてもたってもいられなくなった。あの時、見捨てずに助けた彼女を、今度は心の底から救いたいと思うようになった。当然だが、トウヤにも事情を全て話し、彼の理解を得た上で、それ以降、俺は何度もこのバーに通い、セリカからサヤの話を聞きに行くようになった。彼女の過去、彼女の苦悩、そして彼女が抱える孤独を深く知るにつれて、俺の心はますます彼女に惹かれていった。

 

そんな彼女の過去を知って月日が流れたある日

赤く染まった月が廃墟の街を妖しく照らし、冷たい風が吹き抜ける夜だった。一人、いつものように散歩に出ていた俺は、突如としてロストの大群に包囲された。

コウガ「くっ!コイツら!」

数が多すぎる。孤立無援の中、俺は徐々に追い詰められていく。

コウガ「まだだ!ここから先には行かせない!」

必死に応戦する俺の背後、不意に銃口が妖しい光を放った。直後、稲妻を纏ったかのような鋭い弾丸が、空気を切り裂き、ロストの一体の喉元を正確に貫いた。

 

コウガ「なんだ!?あの弾丸は…?」

その信じられない光景に、俺は言葉を失った。一体、何が起こったのか?呆然と立ち尽くす俺の前に、黄色を基調とした牙装と服装を身につけた、華奢な少女が現れた。手には、先ほどの超高速弾を放ったとは思えないほど、使い込まれた様子の銃剣が握られている。赤髪に、左右で色が異なる、赤と青の瞳が印象的だった。

 

「噂の皇帝様は、随分と隙だらけね。」

その声は、冷たい夜の空気と溶け合うように、静かで、そして鋭かった。女だけの殺し屋集団――ブラッドバタフライのリーダー。彼女の目は、獲物を狩るハンターのように、冷酷な光を宿し、残りのロストたちを睨んでいた。

俺は彼女の姿を見て、記憶の奥底に眠っていた光景が鮮明に蘇る。数ヶ月前、怪我をして動けなくなっていた彼女を、偶然通りかかった俺が助けたのだ。

 

コウガ「君は…あの時の!怪我はもう大丈夫なのか!?」

彼女は微かに笑い、冷酷な赤と青の瞳が、一瞬だけ俺を捉えた。

サヤ「平気よ。私はサヤ、助けてもらった恩返しをしに来たわ」

コウガ「ありがとう。一人じゃキツくて、本当に助かるよ。サヤ、準備はいいかい?」

サヤは、俺の言葉に一瞬だけ思案するような表情を見せた後、小さく息をついた。

サヤ「ええ。私はいつでもいいわ」

コウガ「二人ならなんとかなる!いこう!」

かつて彼女を助けた縁、そして今、彼女に助けられたという事実。不思議な巡り合わせを感じながら、俺たちは背を合わせ、残りのロストたちに立ち向かった。彼女の放つ稲妻のような弾丸と、俺の剣技が合わさり、数を減らしていくロストたち。連携を取ったわけではないのに、互いの動きを理解しているかのように、スムーズに敵を殲滅していく。

 

激しい戦いの末、なんとかロストを全滅させることができた。幸い、俺も軽い怪我程度で済んだのは、彼女の援護があったからだろう。

コウガ「ありがとう」

サヤ「いいのよ。当然の事をしただけ」

そう言うと、彼女はくるりと踵を返し、再び夜の闇に溶け込もうとする。しかし、俺は無意識のうちにその手を掴んでいた。

コウガ「待ってくれ!」

サヤ「何?」

コウガ「話がある」

彼女は、俺の突然の行動に少しだけ驚いた様子を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。

サヤ「いいわよ。場所を変えましょう」

赤く染まった月明かりの下、俺たちは言葉少なに、静かにその場を後にした。

 

冷えた海底...そこは俺やトウヤ達の秘密の場所。

だが今、この秘密の場所は静かにして殺伐とした空気になろうとしていた。

コウガ「サヤ、あの手紙…どういう意味だったんだ?」

あの夜、俺がサヤを救出した後、彼女はまるで抜け殻のように、ただそこに存在していた。そんな彼女が残していった一枚の便箋を、宝物のように大切に保管していた。そこには、短いながらも痛切な言葉が綴られていたのだ。

俺の声は、過去の傷跡をそっとなぞるように、優しく、そして少しの痛みを孕んでいた。

しかし、この問いかけに応じたサヤの瞳は、底なしの氷のように冷たかった。

サヤ「何が言いたいの?貴方がかつて私を助けたという事実が、今の私の邪魔をする権利になるとでも思っているの?命の恩人であろうと、私の目的を阻む者は、あなたであっても容赦しないけど?」

彼女の言葉は、長年背負ってきた憎悪と孤独が凝縮された刃のようだった。同時に、彼女の背後で、アイヴィ型の牙装が蠢き始め、威圧的な雰囲気を醸し出す。

 

その殺意を肌で感じながらも、一歩も退かなかった。

コウガ「あの時、君は本当に死にかけていた。見捨てるなんて、俺にはできなかった。だが、今の君は…まるで別人だ。あの時、助けを求めていた瞳はどこへ消えたんだ?君は本当にサヤなのか?それとも、過去を捨て鮮血の女帝として生きることを選んだのか?」

その言葉は、サヤの心の奥深く、決して触れられたくなかった領域へと深く突き刺さった。

サヤ「あなたに何がわかるの...」

あの時、一瞬だけ垣間見えた脆さ、助けを求める微かな光は今の彼女から微塵も感じられない。

サヤ「家族を、仲間を…全てを失った私の何があなたにわかるっていうのよ!」

サヤの声は悲痛な叫びとなり、同時に、抑えきれない怒りが爆発した。彼女の全身から、黒いオーラのようなものが立ち上り、周囲の空気を凍りつかせる。

コウガ「君の過去を知っているからこそ、俺は聞いているんだ!なぜ、ブラッドバタフライに入った!?何が君を、そこまで駆り立てたんだ!?」

俺の声は、サヤの心の叫びに呼応するように、より一層強く響いた。その瞬間、サヤの瞳の奥底で、激しい感情の嵐が巻き起こった。それは、彼女が誰にも語ることのなかった、忌まわしい過去の記憶だった。幼い頃に目の前で家族を惨殺され、信じていた仲間に裏切られ、生きるために血に手を染め続けてきた、絶望的な道のり。

サヤ「私が変わるしかなかった...」

彼女は絞り出すように言った。

サヤ「変わるしかなかったのよ…!私が…生きるためには、これしかなかった…!」

彼女の声は震え、言葉の端々に深い絶望の色が滲んでいた。

かつての彼女は、このような脆弱な一面を誰にも見せることなど考えられなかっただろう。だが、俺が放った言葉が彼女の心の奥底に深く根を下ろした氷を、少しずつ溶かし始めていたのだ。

 

しかし彼女は自嘲気味に微笑んだ。

サヤ「でも私の過去を知っているなら…私を殺すべきよ。それが私のような存在への、唯一の救済。さぁ殺して」

彼女は自らの命を差し出すことで、過去の罪を償おうとしているようだった。銃剣の引き金を俺に向けていたのはその為なのだろう。だがその瞳の奥には、微かながらも生への渇望が宿っているのを俺は見逃さなかった。

コウガ「そんなことをするために、君を助けたんじゃない。君の過去がどんなに暗くとも、今の君を見捨てることなんてできない」

俺は静かに、だが断固とした口調で言った。

コウガ「それに、今の君の瞳は本当に死を望んでいるようには見えない。奥底にはまだ何か…光のようなものが残っているはずだ」

サヤ「私を見捨てられない?呆れるぐらい甘いわね…!」

俺の言葉に彼女は冷笑していた。

サヤ「貴方のような甘い人間には、私の苦しみなど永遠に理解できない!だから引き金を弾けないんでしょ!それなら…私が貴方をこの手で終わらせてあげる!」

彼女は、凄まじい速さでアイヴィ型の牙装を展開した。無数の刃が生き物のようにうねり、俺を絡め取ろうと襲いかかる。

コウガ「やれるものならやってみろ…!」

俺は、牙装の猛攻を紙一重で避けながら、挑発的な言葉を投げかけた。

コウガ「そんな不安定な精神状態で、まともに俺を捉えることすらできないはずだ!」

 

サヤの精神は、過去の悪夢と現実の狭間で激しく揺れ動いていた。常人であれば、完全に意識を失っていてもおかしくない状況だ。

だが、“鮮血の女帝”としての本能が、彼女を辛うじて繋ぎ止めていた。

サヤ「黙れ!そんなに死にたいならこの手で殺してあげる!私に関わってその挙句私を助けたい?そんなのいらないわ!私は鮮血の女帝としてあなたを殺す!」

サヤは狂気じみた叫びを上げ、牙装の速度と威力を増していく。だが、その攻撃は焦燥感を露わにし、以前のような精密さを欠いていた。

しかし

サヤ「な…んで……!手が...動かない...」

自身の異変に気づき、愕然とした。

牙装の動きが、ほんの僅かに鈍っているのだ。

その瞬間、サヤの脳裏に、温かい光が差し込んだ。それは、かつて、誰かに優しく手を差し伸べられた、遠い記憶の断片だった。

「誰かが…そばにいてくれる…」

その微かな希望の灯火が、彼女の殺意を蝕み始めていた。彼女の握る手の震えは、葛藤の色を濃く映し出していた。それは、彼女の血塗られた人生において、決して許されるはずのなかった、人間らしい感情の萌芽だった。

その時、背後から複数の焦燥した声が響いた。

セリカ「リーダー!何やってるの!」

ケイシー「こんなことするのは、例えサヤでも私は絶対に認めないから!」

セリカとケイシーが、息を切らせて駆けつけた。彼女たちの瞳には、リーダーに対する深い悲しみと、俺への心配の色が入り混じっていた。

ナナミ「彼はアンタの命を救ってくれた恩人でしょうが!過去の恨みに囚われて大切なものを見失うな、バカ!」

ナナミの声は、必死の叫びだった。

 

さらに、二つの人影が慌てた様子で現れた。

ショウ「コウガ!この殺気は一体…!」

親友であるショウとトウヤだった。彼らは、ただならぬ気配を感じ取り、武器を構えながら駆けつけた。

トウヤ「何があったんだ…!」

ショウは、変わり果てたサヤの姿に言葉を失った。トウヤは鋭い眼光でサヤを睨みつけ、俺を守るように前に出た。

仲間たちの必死の叫びを聞きながら、静かに口を開いた。

コウガ「俺は…、過去を忘れろとは言わない。背負ってきた痛みは、そう簡単に消えるものじゃないから。ただ…もし、本当に苦しんでいるなら、一人で抱え込まずに、少しでも頼ってほしいんだ。俺は…サヤが必要とするなら、いつでもそばにいたい」

俺の言葉は、打算や見返りを求めるものではなく、ただ、目の前の女性を救いたいという、純粋な願いの表れだった。俺は、ゆっくりとサヤに近づき、震える彼女の手をそっと包み込んだ。

サヤ「どういうこと…?」

彼女は混乱の色を隠せない。

コウガ「セリカから聞いたんだ。君が、ずっと一人で、誰にも頼らずに生きてきたって」

俺は、セリカに優しい眼差しを向けた。

セリカ「へへ…つい、心配で」

俺にそう言われて、セリカは少し照れくさそうに笑った。

サヤ「セリカ…アンタ余計なことを…」

彼女は顔を赤らめたが、その声には、以前のような鋭さはなかった。

ナナミ「まあまあ、リーダーも素直じゃないんだから」

ナナミは、呆れたようなでもどこか温かい眼差しでサヤを見つめた。

ナナミ「アンタも余計なお世話よ」

そう言いながらも、サヤの表情はかすかに和らいでいた。彼女は、仲間たちの温かい眼差しに、心の奥底で何かが溶け始めているのを感じていた。

コウガ「サヤ、君が背負ってきた痛みの深さを知った時、俺は、君のために何かできることはないか、ずっと考えていたんだ」

サヤの瞳を深く見つめ、真摯な想いを伝えた。彼女は俺の真っ直ぐな眼差しに、言葉を失い微かに眉をひそめたものの、その瞳からは、もう逃げようとはしなかった。

サヤ「私の痛みを背負うなんて…そんな簡単なことじゃないわ。暗殺者として生きてきた私の手は、血で汚れすぎている。幸せなんて…私には、遠すぎる夢の話よ。貴方の気持ちだけで充分だと言いたいけれど…」

コウガ「それでも、俺は君を幸せにしたい。君がどんな過去を背負っていようと、どんなに傷ついていようと、俺は君を受け入れる」

その言葉は、彼女の心の奥底に深く突き刺さり、今まで感じたことのない衝撃を与えた。

彼女の表情から冷酷な仮面が剥がれ落ち、剥き出しになった感情が、その瞳に溢れ出した。

サヤ「…そんなことを、誰かに言われたのは、生まれて初めてよ」

サヤの声は震え、今にも崩れ落ちそうだった。

 

サヤ「もし…、貴方が本気でそう思っているのなら…私を信じて。私の過去も、痛みも、全てを…」

コウガ「ああ、君が信じてくれるなら、俺も君を信じる」

俺は、迷うことなく答えた。

差し出した温かい手を、セリカがそっと重ねた。

 

ケイシー「ほら、リーダー…大丈夫だから」

ナナミ「私たちが、いつもそばにいるから」

ケイシーとナナミも、優しく微笑みかけた。

サヤ「わかってるわよ…」

サヤは、震える声で呟き、ゆっくりと、だが確かに、俺の手を握り返した。

サヤ「そう言ったからには裏切らないで…」

その声は、まるで幼い子供のようなもろさに満ちていた。

コウガ「ああ」

強く頷き、サヤの瞳をしっかりと見つめた。その瞬間、その場にいた全員が、冷たく暗い夜が明け、新たな光が差し込むのを感じていた。

ショウとトウヤは、警戒を解き、静かに二人を見守っていた。

彼らもまた、俺の強い決意と、サヤの心の変化を感じ取っていたのだ。

 

サヤの固く閉ざされた心が、仲間たちの支えによって、ようやく光を見出し始めた、まさにその時だった。希望の兆しが、彼女の未来をわずかに照らし始めたその決定的な瞬間に、場違いな声が響き渡った。

「よぉ、コウガ」

その声の主を見た瞬間、ケイシーの表情が険しく歪んだ。

ケイシー「アンタは!」

彼女の声には、過去の因縁を知る故の強い警戒心明確な敵意が込められていた。

 

俺は信じられない光景に言葉を失った。

コウガ「シンジ…!なぜお前が…一体何しに来た⁈」

そこに現れたのは、かつてコウガと共に肩を並べて戦ったレヴナント、シンジだった。

しかし、彼の瞳に宿る光は、かつての仲間を思う温かさなど微塵もなく、深い憎悪と狂気に満ちていた。ショウとトウヤも、ただならぬ雰囲気を察知し、即座に武器を構え、俺はとサヤの前に立ちはだかった。

ショウ「コウガ、こいつは…?」

ショウは低い声で問いかけ、警戒を怠らない。

コウガ「ショウ、アイツが俺とトウヤが見限ったレヴナントのシンジだ」

ショウ「アイツが...!」

トウヤは、冷たい視線をシンジに突き刺し、一触即発の空気を鋭敏に感じ取っていた。

トウヤ「シンジ、テメェ何しに来た!」

俺の背後に立つサヤを、獲物を定める捕食者のような冷酷な視線で射抜いた。

シンジ「その血塗られた暗殺女と、随分と親しくなったもんだな。お前忘れたわけじゃないだろうな?コイツは、『鮮血の女帝』と呼ばれるブラッドバタフライのリーダーだぞ!数々の罪を重ね、多くの人間を絶望の淵に突き落としてきた女だ!」

 

俺は、シンジの言葉を静かに受け止めた。

コウガ「知っている。彼女が何者であるか、過去に何をしてきたのか、全て承知の上だ。だから、それがどうしたというんだ?」

シンジは、俺のこの発言に歪んだ笑みを浮かべた。

シンジ「まさか、本当に忘れたのか?あの、血で血を洗う報復の日々を!俺のダチが、この女の手によって、弄ばれるように、楽しんで始末されていった、あの悪夢のような日々を!お前が忘れても、俺は決して忘れない!あの日からずっと、その女を俺の手で地獄に叩き落とす瞬間を待ち焦がれていたんだ!」

シンジの全身から、黒いオーラが噴き出し、その狂気に呼応するように、彼の殺気は異形の物へと変貌していく。

 

セリカ、ケイシー、ナナミは、シンジの異常な殺気に息を呑み、身を固くした。

セリカ「リーダー…ヤバいかも!」

セリカは声を絞り出し、サヤを庇うように一歩前に出た。

ケイシーは、震える手で武器を握りしめ、いつでも戦闘態勢に入れるように集中力を高めた。

ナナミは、信じられないものを見るような目でシンジを睨みつけ、彼の狂気に強い嫌悪感を抱いていた。

 

狂気に染まるシンジに対し、サヤは驚くほどの冷静さを保っていた。

サヤ「私は、あなたの仲間の顔も、名前も、一人残らず覚えているわけではない。あまりにも多くの命を奪ってきたことは事実よ。その中に、あなたにとって大切な存在がいたのなら…それは、私の犯した罪。償うべき過去があるのなら、目を背けるつもりはない」

彼女の声は静かだったが、その奥には、過去と向き合う覚悟のようなものが感じられた。

サヤ「けれど」

彼女は、冷たい眼差しをシンジに向けた。

サヤ「あなた達が過去に行った行為も、決して許されるものではない。血で血を洗うような報復は、何も生まない。ただ、憎しみの連鎖を生むだけよ」

しかし、彼女の言葉は、復讐心に燃えるシンジの耳には届かない。

シンジ「黙れ!お前のような悪鬼に、正義を語る資格などない!今日こそお前の命を刈り取り、無念の死を遂げたダチの仇を取ってやる!」

シンジは、獲物を前にした獣のように身を低くし、今にも襲い掛からんとする。彼の瞳は、完全に狂気に染まり、周囲の人間など眼中にないかのようだった。

ショウとトウヤは、コウガとサヤを背後から守りながら、シンジの動きを注視する。セリカ、ケイシー、ナナミは、互いに顔を見合わせ、次の瞬間起こりうるであろう激しい戦闘に備え、覚悟を決めていた。

 

ヤツの狂気は、すでに常人の言葉など到底届かない領域にある。それを悟った俺は、静かに、だが決然とした動きで剣を構えた。

その刃は、サヤを守るという彼の強い意志を映し出すように、鈍く光を放っていた。

コウガ「それがお前個人の、個人的な怒りによるものだというのなら、俺が引き受けよう」

俺の意志は、揺るぎない覚悟を帯びていた。

シンジは、コウガの言葉に嘲弄的な笑みを深めた。

シンジ「やっぱりそうか。お前はいつだって、正義の味方を気取るんだな」

コウガ「シンジ、これは復讐じゃない」

俺は、シンジの歪んだ正義感を否定した。

コウガ「お前自身が、この憎しみに囚われ破滅するだけの殺戮だ」

最後の警告だった。だが、シンジの瞳には、微塵も聞き入れる様子は見られない。

サヤ「コウガ!あなたは逃げて!」

彼女が俺の前に進み出て叫んだ。

俺を巻き込みたくなかった。

これは、彼女自身の過去と決着をつけるべき問題だと感じていたのだ。

しかし、俺は引かなかった。引くわけにはいかない理由があった。

それは、サヤの瞳に宿る、微かな希望の光を見過ごすことができなかったからだ。

コウガ「俺が終わらせる。俺の…存在を賭けて」

サヤの制止を振り払い、前に踏み出した。

彼女を守ると決めた誓いを、今ここで違えるわけにはいかなかった。

そんな俺を嘲笑うかのように、シンジは槍を振りかざした。

シンジ「へぇ、そこまで言うなら、望み通りにしてやるよ!あの世で、その暗殺女と仲良く永遠に幸せになってな!」

サヤ「コウガ!避けて!」

サヤの悲痛な叫びが響いた、まさにその次の瞬間だった。

シンジ「な…なんだ…?」

コウガ「お前は…本当にバカだな」

シンジは、自分の目を疑った。

信じられないほど冷静だった俺はその時の意識が研ぎ澄まされていた。考えるよりも早く、体は動いていた。何の迷いもなく、シンジが振り下ろした鋭い槍を素手で掴んでいたのだ!

コウガ「お前は、彼女を『鮮血の女帝』と呼んだな」

掴んだ槍を握りしめ、シンジを睨みつけた。

コウガ「なら俺は何だ?ただのその辺にいるレヴナントか?それとも、お前が蔑むただの人間か?」

その一言で、サヤたちの間に、衝撃が走った。彼女たちは、何か信じられない事実に気づき始めていた。

サヤ「コウガ…まさか、あなたが…!」

サヤは驚愕に震えていた。

セリカ「え…?コウくんが、そうなの?」

セリカは、目を丸くしてコウガを見つめた。

ケイシー「ショウが言っていた…『紅の皇帝』って…」

ケイシーは、信じられないといった表情で呟いた。

ナナミ「都市伝説だと思っていたけど…まさか、本当にいたのね…」

ナナミは、言葉を失っていた。

 

その時、コウガの背後で、これまで静観していたショウとトウヤが、信じられないものを見るような表情をしていた。

ショウ「コウガ…お前…、あの事をずっと隠していたのか…?」

ショウの声には、驚きと、僅かながら責めるような響きがあった。

トウヤ「アイツがこうなったら、俺はもう知らねぇぞ」

トウヤは、ただただ目を見開き、コウガの変貌を凝視していた。

 

俺の瞳が、まるで真紅の炎のように、深く、鮮やかな赤色に染まっていたのだ。その異様な光景を目の当たりにしたシンジの顔は、みるみるうちに青ざめていった。

シンジ「そ…それは…」

ヤツは、恐怖に声を震わせた。

コウガ「わからないというなら、教えてやる」

俺は、掴んだ槍をさらに強く握りしめ、シンジを射抜くように言った。

コウガ「俺は紅の皇帝、三日月コウガだ!」

サヤに「いつでもそばにいる」と約束した。その約束を守るためには、ここで覚悟を示さなければならない。彼女を守ることはもちろん、何よりも、自分自身に嘘をつくような真似は、俺の生き方には反するものだった。

 

俺はシンジの怯んだ一瞬を見逃さなかった。

まるで獲物を捉える猛禽のように、素早く、そして正確に、槍を掴み、捻り上げた。

シンジ「な…!」

ヤツが驚愕の声を上げるよりも早く、金属が悲鳴を上げ、シンジの最後の武器は無残な姿を晒した。

シンジ「お、俺の槍が…折れた⁈」

それは勝利を確信した静けさに満ちていた。

コウガ「もう諦めろ、シンジ。お前に勝ち目はない」

シンジは、現実を受け入れられないように、必死に首を横に振った。

シンジ「俺が、お前なんかに負ける…!?ふざけるな!お前らなんか、少しも怖くねぇ!」

しかし、その言葉とは裏腹に、彼の目は明らかに揺らぎ、額には冷や汗が滲んでいた。それでも、彼はなおも足掻こうとしていた。折れた槍の、鋭い刃先を、抵抗の意志を示すかのように、俺たちに向けようとしていた。

コウガ「だそうだよ、サヤ」

シンジの虚勢を嘲笑うかのように、静かにサヤに言った。

ただ、シンジは完全に忘れていたのだ。今、目の前にいる二人が、かつての仲間であり、そして、彼の仲間を容赦なく殺した冷酷な暗殺者であることを。そして、その暗殺者が、彼の挑発的な言葉の真意を、誰よりも深く理解していることを。

サヤ「あら、そう」

その声は、氷のように冷たかった。

シンジ「え…?」

シンジが、その言葉の意味を理解しようとした瞬間だった。

サヤ「じゃあ、死になさい!」

彼女の銃剣から、強烈な雷撃を帯びた弾丸が放たれた。それは、一瞬の躊躇もなく、シンジの身体を貫き、彼の存在を黒焦げの残骸へと変えた。断末魔の叫びすら上げる間もなく、シンジは灰燼と化したのだ。

セリカ「リーダー…!」

その光景を目の当たりにしたセリカは、息を呑んだ。

ケイシー「なんて言うか、あっという間…過ぎない?」

ケイシーは、信じられないといった表情で呟いた。

ナナミ「エグいぐらい容赦ないわね…」

ナナミは、冷静なサヤの横顔を見つめ、小さく呟いた。

ショウ「最後は自業自得、か…狂気に満ちた先は惨めな末路だな」

ショウは、灰になったシンジを見下ろし、静かに言った。

トウヤ「…終わったな」

トウヤは、コウガの背に視線を向け、小さく呟いた。

 

シンジが灰となり、辺りに静寂が戻った。張り詰めていた空気がようやく緩み始めた。

コウガ「これで、サヤの過去も終わりだな」

俺は、まるで独り言のように呟き、重い足取りでその場を去ろうとした。過去の亡霊との決別。それは、サヤにとって新たな始まりを意味するはずだった。

セリカ「コウくん、待って」

セリカの声が、コウガの背中に届いた。

振り返ると、心配そうな表情で彼女が俺を引き留めていた。

ケイシー「リーダー、ちゃんと言いなよ」

ケイシーも、サヤの背中をそっと押すように促した。

ナナミ「もう、自分の心に嘘をつくのはやめてね」

ナナミは、少しだけ強くなった眼差しでサヤを見つめた。

 

仲間たちの言葉に後押しされるように、今度はサヤが、意を決したように俺の手をそっと掴んだ。

サヤ「改めて聞かせて。もしあなたが本気で私を幸せにしたいと思っているなら、私を信じて。私の過去も、痛みも、すべてを」

彼女の瞳は、真剣そのものだった。この問いかけに、俺が迷うはずもなかった。

コウガ「言わなくても、わかっているだろう?」

サヤの瞳を優しく見つめ返した。

コウガ「君が、俺を信じてくれるなら、俺も君を信じる」

 

その言葉を聞いた瞬間、彼女の瞳の奥に、一筋の光が灯ったように見えた。

サヤ「そんなこと…聞くまでもなかったわね。私はずっと…殺しだけで生きてきたから…」

彼女の声は、どこか自嘲的だった。

コウガ「一人で抱え続けてきたから、辛かったよね…」

俺は、サヤの痛みを理解するように、そっと彼女を抱きしめた。

コウガ「もう大丈夫。俺がいるから」

二人は、言葉もなく、ただ静かに、温かい時間を分かち合った。

 

 

それから数ヶ月後のある日、サヤが突然、俺の家を訪れた。

サヤ「お久しぶり」

彼女は、少し照れたように微笑んだ。

コウガ「サヤ?どうしたんだ?」

予期せぬ再会に驚きを隠せない。

サヤ「あなたと、ご両親に会いに来たの」

この言葉に、一瞬、理解が追いつかなかった。

コウガ「俺と、父さんたちに?」

両親の何気ない一言があるまで、俺は全く気づいていなかった。

玄関で俺の父、ヒュウガが温かくサヤを迎えた。

ヒュウガ「サヤさん、いらっしゃい。長旅でお疲れではないかな?」

サヤ「お気遣いありがとうございます」

丁寧に頭を下げる彼女を見た俺は疑問が浮かぶ。

コウガ「長旅?」

父さんの言葉に小さな違和感を覚えた。一体、どういうことなのだろう?

リビングでは、母さんのコトハが優しく微笑んでいた。

コトハ「サヤさん!今日からコウガと私達家族をよろしくね」

サヤ「もちろんです」

彼女は、嬉しそうに頷いた。

「え?それって…」

何が何だか、さっぱり理解できない俺に、サヤはそっと腕を絡め、いたずらっぽく笑った。

サヤ「今日から私はあなたの妻よ、皇帝さん」

コウガ「えええええええっ⁈」

俺はようやく、サヤが自分の婚約者になったという事実を理解し、盛大に驚愕の声を上げた。

 

俺の驚愕の声がリビングに響き渡る中、サヤはくすくすと笑い、彼の腕にさらに強く抱きついた。

サヤ「驚いた?まあ、プロポーズは済ませてあるのよ。あなたの知らないところでね」

コウガ「俺の知らないところで…プロポーズ?」

俺は、混乱の色を隠せないまま、両親に視線を向けた。父さんと母さんは、顔を見合わせてにこやかに頷いている。

サヤ「ええ。あなたが見回りとか忙しくてなかなかプロポーズしてくれないから」

母さんが、冗談めかして言った。

サヤ「だから、お母さんと二人で先に済ませちゃったのよ」

コウガ「母さんと…二人で…」

俺の頭の中は、完全にキャパオーバーだった。まさか、自分の知らないところで、婚約話がとんとん拍子に進んでいたとは。

その様子を見て、ショウは肩を叩きながらニヤニヤした。

ショウ「お前、完全に蚊帳の外だったな」

トウヤも、珍しく楽しそうな表情で頷いた。

トウヤ「まあお前らしいと言えば、お前らしいか」

コウガ「そうなのかなぁ」

そんな2人にそう言われつつ現実を受け入れるしかない様だ。

一方でセリカ達は盛り上がっていた。

セリカ「いつの間に!全然気づかなかった!」

セリカは、目をキラキラさせながらサヤの手を握っていたし

ケイシー「おめでとう、二人とも…!」

ケイシーは、感動したように目を潤ませた。

ナナミ「なんか最近おかしいなと思ったら...大胆な手を使ったわね」

大体のことは理解していたナナミは、腕を組み、満足そうに頷いた。

 

混乱している俺にサヤが、俺の頬に優しくキスをした。

サヤ「ふふ、驚かせてごめんね。でも、ずっと、あなたの隣にいたいと思っていたから」

ようやく事態を飲み込み始めた俺は、サヤの、自分を大切に思う気持ち。両親の、温かい祝福。そして、友人たちの、心からの喜び。それら全てが、俺の胸にじんわりと広がっていくのを感じた。

コウガ「そう…か」

俺は、照れくさそうに笑い、サヤの腕をそっと握り返した。「ありがとう、サヤ。そして、父さん、母さん…ありがとう」

父さんは、満足そうに頷いた。

ヒュウガ「これで、やっと肩の荷が下りるよ。コウガには温かい家庭を築いてほしいと、ずっと願っていたからね」

母さんは、サヤの手を優しく握りしめた。

コトハ「サヤさん、これからどうぞよろしくね。コウガは、少し不器用なところもあるけれど、根は本当に優しい子なの」

サヤ「はい、お母様。私がしっかり支えていきます」

サヤは、力強く頷いた。

 

それから数日後、改めて友人たちに婚約を報告した。

盛大な祝福を受け、俺達の未来は、希望に満ち溢れていた。かつて、血と闇の中で生きてきたサヤにとって、今はまるで夢のような日々だった。家族の温かさ、仲間たちの優しさ、そして、何よりも俺自身の存在が、彼女の世界を鮮やかに彩っていた。

数ヶ月後、俺とサヤはつつましいながらも温かい結婚式を挙げた。かけがえのない仲間たちに見守られ、永遠の愛を誓い合ったのだ。

サヤの過去は決して消えることはないだろう。だが、俺と共に歩む未来は、きっと温かいものになるはず。鮮血の女帝と呼ばれた彼女の隣には、紅の皇帝の俺が寄り添い、共に新たな未来を紡いでいく。

そう決めて現在があるんだから

 




本当にお待たせしてすいません!
しばらくぶりの投稿お待たせしました!
イメージテーマはGeorge BensonのNothing's Gonna Change My Love For Youです

次の最新話は誰の話がいい?

  • ジンくんの両親編
  • リョウくんの両親編
  • ご両親'sの飲み会
  • 先代レヴナント
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