仮面ライダーギーツエクストラ 追憶:知られざるゲーム 作:ロンギヌス
今回で第2章は完結となり、次回は第3章が始まります。
なお諸事情により、第2章と第3章の間は時系列がいくらか飛ぶ事になります。その点はご了承下さい。
そういえば感想欄にて、前回登場したスパイダージャマトレインのモチーフについて一発で気付いている人がいてドキッとしました。
ほんと何で分かるんだよ、大正解だよ←
まぁそれは置いといて、第32話をどうぞ。
ちなみに今回のラストシーンですが……皆さん、お待たせしました。
“彼”の物語も、ようやく始まります。
EDテーマ:Trust・Last
悪夢の1日。
四葉にとってのそれは、ある日いきなり訪れた。
まだ四葉が大学生だった頃。
大学を出て、夕飯の食材を買いにスーパーまで向かい、買い物を終えて家に帰宅する。
ここまでは、四葉にとっていつも通りの日常だった。
玄関の扉を開けば、兄の三郎と、恋人の雅也がいつものように出迎えてくれる。
それが当たり前の出来事だった。
当たり前の、はずだった。
『あ、四葉ちゃん。おかえり〜』
雅也がいつもの笑顔で、四葉に対し手を振っている。
ここまではいつも通りだった。
しかしその日は、いつも通りではない点がいくつも存在した。
『ッ……雅也……何だ、その血は……?』
雅也の頬や手、服などが、赤い血にまみれていた。
彼の右手には、血にまみれた1本のナイフが握られていた。
彼のその足元には、血を流したまま倒れている三郎の姿があった。
『兄、さん……?』
『あぁ、夕飯の食材買って来てくれたんだ。いつもありがとね』
『兄さん……兄さん、しっかりして!! ねぇ、兄さん!!!』
雅也の台詞を聞かず、四葉は三郎に駆け寄り何度も呼びかける。
しかし、三郎は倒れたまま目覚める様子はない。
雅也に刺されたと思われる三郎の腹部は、赤い血が止まらなかった。
『何故、何故なんだ雅也……何故兄さんを殺した!? 答えろ雅也!!!』
『え? いや、
『……は?』
四葉は耳を疑った。
「それが何か?」とでも言っているかのような、あっけらかんとした雅也の口振り。
その表情は、人を殺したという罪の意識など、欠片も見受けられないものだった。
『普段から何か色々説教してきてさ、迷惑してたんだよね。こうすれば静かになってくれるかなぁって』
『な、何を言ってるんだ雅也……兄さんだって、お前の家族に……
『え、別に良いよ。僕には四葉ちゃんさえいてくれたら充分だし』
『なっ……』
四葉は、雅也の言っている事がまるで理解できなかった。
彼は何を言っているんだ?
何故こんな酷い事ができるんだ?
あれだけ心から愛していた男が、今の四葉には全くの別人に見えた。
四葉の目にはただ、理解のできない
『
『触るなっ!!!』
雅也が伸ばして来た手を、四葉は咄嗟に振り払った。
手を払われた事で、雅也は困惑した表情を見せた。
『えっ……四葉ちゃん?』
『ッ……
『ち、ちょっと、いきなりどうしたのさ四葉ちゃん? 僕達、今までずっと愛し合ってきたじゃないか……』
『黙れ!! お前なんか、もう私の恋人ではない!! 今すぐ警察に突き出してやる!!!』
四葉はもう、雅也の事を愛そうという気持ちにはなれなかった。
目の前に立っている
驚く雅也を放置し、四葉はすぐさま受話器を手に取り、警察に通報しようとする。
しかし……雅也がそうはさせなかった。
『痛ッ……!?』
四葉の左肩に走る鋭い痛み。
視線を向けると、彼女の左肩から、赤い血が滲み出ていた。
雅也が手に持っていたナイフで、後ろから斬りつけたのだ。
『ねぇ、何で? 何でそんな事を言うのかな?』
『ひっ……!?』
何処までも低く冷たい声が、四葉の耳に響く。
雅也の目が、四葉の姿をまっすぐ捉えて離さない。
四葉は恐怖のあまり硬直し、その場から動けなかった。
『四葉ちゃん、あんなに僕の事を愛してるって言ってくれたじゃないか。それなのに、何でそんな酷い事を言うの? 何でなの? ねぇ?』
『や、やめろ、来るな……ッ!?』
部屋の隅まで追い込まれ、逃げ場を失った四葉。
そんな彼女を見下ろしながら、雅也がナイフを構えて迫り来る。
『全部嘘っぱちか……結局、君も僕のを受け入れてはくれないんだ』
『た、頼む、やめてくれ……!!』
『僕の思い通りにならないのなら、そんな奴はいらないよねぇ』
『いっ……嫌ああああああっ!!?』
そこから先の事を、四葉はあまり覚えてはいなかった。
殺されそうになった恐怖のあまり、彼女は一部の記憶が抜け落ちていた。
気付いた時には、住んでいるアパートの大家である女性に保護されていた。
部屋の窓の外からは、パトカーのサイレンが聞こえて来ていた。
そこで四葉は、大家の女性からその後の経緯を聞かされた。
たまたま騒ぎを聞きつけたアパートの住人達が、急いで部屋まで駆けつけた後、四葉を殺そうとしていた雅也をすぐさま取り押さえた事。
大家の女性が通報し、駆けつけた警察によって雅也が逮捕された事。
更に警察からは、雅也が過去にも同じような事件を起こしている事を知らされた。
そして、病院に運ばれた三郎は……二度と目覚める事はなかった事も。
四葉はショックのあまり、一時期は精神を病み、部屋に引き籠もる日々が続いた。
しかし、いくら四葉が引き籠もり続けたところで、雅也に殺された兄が帰って来る事はない。
長い時間の経過が、四葉にその現実を嫌と言うほど強く認識させた。
そして、大家の女性を始め、彼女の事を心配したアパートの住人達の献身的な支えもあり、四葉は少しずつ立ち直り始めた。
しかし、立ち直ったように見えたのは表面上だけだった。
その頃には既に、四葉の中では別の感情が強く膨れ上がってしまっていた。
雅也は兄を殺した。
あの男だけは許さない。
いずれ必ず復讐してやる。
兄の死という受け入れ難い現実を受け入れるまで、かなり長い時間が経過したからか。
いつしか四葉の中で、雅也に対する復讐心が、恐怖心を上回るようになっていった。
それから約1年後。
四葉の耳に、あるニュースが届いた。
それは、刑務所に入れられていたはずの雅也が、何らかの方法で刑務所から脱獄したという内容だった。
四葉はこれを好機と捉えた。
今こそ、兄を殺した雅也に復讐する絶好のチャンスだと。
兄が味わったであろう苦しみを、あの男にも味わわせてやると。
そう意気込んでいた四葉の復讐は……呆気ない形で、1度目の終わりを迎えた。
『死んだ……雅也が……?』
雅也が死んだ。
逃亡先で事故に遭い、彼は呆気なくその命を散らした。
その知らせを受けた時、四葉は愕然とさせられた。
死んだ?
あの雅也が?
当初、四葉は理解が追いつかなかった。
ようやく頭が理解した時、彼女がまず真っ先に抱いた感情は……怒りだった。
『ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁ!!!』
兄を殺しておいて。
自分の事も殺そうとしておいて。
あの男だけは、自らの手で殺してやるつもりだったというのに。
復讐を果たすよりも先に、あの男に死なれてしまった。
まるで、勝ち逃げされてしまったかのような気分だった。
雅也が死んだ結果、晴らす事のできなくなった復讐心は消えるどころか、四葉の中にずっと残り続けていた。
しかし、いくら復讐したくても、復讐したい相手が既に死んでしまっていてはどうしようもない。
四葉は心が一切晴れないまま、ただ1人、無気力に日々を過ごした。
今後はもう、そういう日々が続いていくだけなのだろうと、四葉は思っていた。
彼女の前に、1人の女性が現れるまでは。
『おめでとうございます!』
『厳正なる審査の結果、あなたは選ばれました!』
『今日からあなたは、仮面ライダーです!』
デザイアグランプリ。
そのプレイヤーに、四葉は選ばれた。
四葉の復讐心に、再び火が点いた瞬間だった。
このデザイアグランプリで勝ち抜き、デザ神になれば、理想の世界を叶える事ができる。
一度死んだ雅也を蘇らせ、復讐を果たす事だってできる。
やってやる。
デザ神になって、私の理想を叶えてみせる。
そう考えていた四葉にとって、ジャマトと戦う事など何の恐怖もなかった。
雅也に対する復讐心が、四葉の原動力となり、彼女を最終戦まで勝ち上がらせた。
しかし……天運は、彼女に味方してはくれなかった。
ある男達が、彼女の勝利を幾度となく阻み続けたのである。
『諦めろ。俺が参加している限り、お前達がデザ神になれる事はない』
1人は、かつては
彼が連勝を続けていた事で、四葉はいつも後一歩及ばぬ形で、デザ神の座を手にする事ができなかった。
その男も、いつしかデザイアグランプリに姿を見せなくなった。
よし、行ける。
あの男がいないのなら、今度こそ私がデザ神になれる。
強力なライバルがいなくなった事で、希望を見出した四葉。
そんな彼女を嘲笑うかのように。
その男に代わる形で、今度は
『へぇ、じゃあアンタは俺にとって先輩って訳か。よろしくな、ラミア
◆
「―――ッ」
過去の記憶を思い起こしたからか。
古傷の痛む左肩を押さえながら、ラミアは見上げた先に立っているギーツの後ろ姿を鋭く睨みつける。
ギガントソードを地面へと突き立てたギーツは、ドライバーから自動的に排出されたブーストバックルが、何処かに飛び去って行くのを呑気に眺めていた。
「ほんと、毎回何処に飛んで行ってるんだろうなぁ。あのバックル」
「……何故だ」
「ん?」
ギーツが振り向くと、倒れ込んだ状態のまま変身を解除した四葉が、悔しげな表情でギーツを睨みつけながら問いかける。
しかしその表情には、これまでのような覇気はなく、まるでか弱い少女のような脆さが、僅かながら見え隠れしていた。
「何故だ、浮世英寿……何故、私はお前に勝てない……貴様は何故そんなにも強いんだ……ッ」
「……諦めなければ、いつか叶う。理想を強く願う心が、人を強くする」
ドライバーからパワードビルダーバックルを取り外し、変身を解除した英寿は四葉と正面から向き合う。
その表情は変わらず笑みを浮かべていた。
「ま、理想を願う心の強さで、俺の方が上だったって訳だ」
「ふざけるな……私に、理想を願う心がないとでも言うのか!!」
拳を強く握り締め、地面に力強く叩きつける四葉。
拳からは赤い血が滲み、地面に滴り落ちていく。
「理想なら何度も願ってきた!! 勝つための努力もした!! 二度と貴様に、
何故勝てなかった。
何が足りなかった。
何がいけなかった。
どれだけ自問自答しても、四葉にはその答えが分からなかった。
最初は大きな声で、段々と声が小さくなっていき、やがて四葉は俯いた状態で、消え入りそうな声で呟いた。
「教えてくれ……私は、どうすれば良い? 私の理想は一体、どうすれば手に入るというのだ……?」
「……逆に聞くが」
「願いの先に、アンタ自身の幸せはあるのか?」
「―――な、に?」
俯いていた四葉が顔を上げ、英寿と目線が合う。
普段の飄々とした顔は鳴りを潜め、英寿は真剣な顔つきで四葉を真っ直ぐに見据えていた。
「自分自身の幸せも願ってこそ、理想の世界だ」
「……何が、言いたい」
「仮に復讐を果たしたとして、その後に何が残る? そもそも、アンタは本当に復讐を果たそうと思っているのか?」
「ッ……当然だろう!! 今更、何を分かり切っている事を……!!」
「なら、何故ツッキーを何度も助けたんだ?」
畳みかけるように投げかけられた英寿の問い。
その問いが、四葉を言葉に詰まらせた。
「それ、は……ッ」
「復讐を果たせるほど冷徹になれるのなら、他のライバルを助けてやる義理なんてないはずだ」
英寿にそう告げられ、四葉はこれまでのゲームを思い返す。
1回戦では、高所から落下しかけていたツッキーを助け出した。
2回戦では、ヒヒがツッキーから奪ったバックルを取り返した。
3回戦では、重傷を負ったツッキーが脱落しないよう手助けしていた。
「わ、私は……ッ」
そこまで思い返したところで、四葉は必死に否定の言葉を口にしようとした。
しかし、いくら否定の言葉を絞り出そうとしても、その続きがまるで出て来ない。
四葉は、気付いてしまった。
いや、本当は最初から分かっていた。
自分が本当は、冷徹になどなり切れていない事を。
そんな自分に、復讐を果たす事などできるはずがない事を。
「……あぁ、そうだ」
四葉はようやく言葉を口にする。
しかし、それは否定の言葉ではない。
英寿から言われた事を、潔く認めた者が発する言葉だった。
「どんなに忘れたくても、あの男の顔が頭に思い浮かぶ……その度に、憎しみが湧き上がってきて、心がいっぱいになる……心から、笑う事ができない……貴様に、この気持ちが分かるか……ッ」
これまでの四葉からは想像もつかないような、何処までも弱々しい姿。
それを見てもなお、英寿は敢えて同情の意志は見せず、真剣な表情と声色で語りかけた。
「本気で復讐を願っているなら、それはそれで良い。どんな理想も叶えられるのがデザイアグランプリだ……だが」
英寿は四葉の前まで移動し、彼女の前でしゃがみ込む。
「本気で叶えようとも思っていない理想を掲げる奴に、わざわざ負けてやるつもりはない」
「……ッ」
「もう一度聞くぞ。アンタは本当に、復讐を果たそうと思っているのか?」
「私……は……」
『ねぇ兄さん。私、自分のお店を持ってみたいんだ』
『おいおい、本気か? お店経営するのだって結構大変だぞ? 食材の管理とか、資金のやり繰りとか、やらなきゃいけない事がいっぱいあるのに』
『それでもやる。それで、もしも私の店ができたら……その時は、兄さんにもぜひ、お客さんとして来て貰いたいな』
『……そっか。四葉がそこまで言うなら俺も止めないさ。じゃあその時が来たら、しっかりもてなしてくれよ?』
『あぁ、約束だ。いつの日か、きっと―――』
「……ッ」
ふと脳裏に浮かび上がった、過去の記憶。
兄と共に過ごしていた頃の、幸せだった頃の記憶。
四葉は小さく肩を震わせる。
英寿の問いに、答えなければならないと、彼女の心がそう告げていた。
「私は……私、は……!!」
涙が零れ落ちる中。
拳を強く握り締めながら。
四葉は遂に、その言葉を絞り出した。
「会いたい……兄さんに、また会いたい……ッ!!」
「……もし、次もまたデザグラに呼ばれる事があったら」
英寿は笑みを浮かべながら四葉に告げる。
その笑みはいつものとは違い、人を化かすためのものではなかった。
「いつでも挑みに来い。何度でも受けて立ってやる」
「ッ……うっ、ぅぅ……!!」
そんな英寿に対し、何の言葉も返す事ができない四葉。
子供のように、ただ静かに泣き崩れる彼女は、その全身が少しずつ青いノイズと共に消失していく。
≪RETIRED≫
四葉の姿が消え、その場に残されるデザイアドライバー。
英寿はそれを拾い上げた後、フゥと小さく息を吐いた。
(流石に、今回ばかりは少し危なかったな……)
四葉がいる前では、普段通りの立ち振る舞いを崩さなかった英寿。
しかし内心では、ここまで自身に食い下がってきた四葉の実力に、少なからずヒヤリとさせられていた。
(あの時、もしラミアが足に傷を負っていなかったら……)
それは、ラミアがスパイダージャマトレイン目掛けて、必殺のライダーキックを繰り出した時の事。
あの時はたまたま、四葉が右足を負傷していたが故に、最後まで押し切れなかっただけ。
もし彼女が右足を負傷していなかったら、あのまま力ずくでスパイダージャマトレインを打ち破っていたかもしれない。
英寿ではなく、四葉がデザ神になっていたかもしれない。
願いの内容がどうであれ、四葉の勝利に対する執念その物は、紛れもない本物だったと言えるだろう。
そんな彼女の強さを、英寿は密かにリスペクトしていたのだった。
「復讐か……どの時代でも変わらず、厄介なものだな」
◆
一方、遠く離れた港エリアでは。
「また、僕の読みが外れてしまったか……」
海から陸に上がった大智は、スパイダーフォンの画面を介して、ゲームの最終結果を知る事となった。
またしても自分達を出し抜き、デザ神の座に君臨した英寿。
その結果を知ってもなお、大智の心は決して折れなかった。
むしろ、小さく笑みを零すくらいには心の余裕があった。
「ふっ……僕はまだ、諦めるつもりはない。いずれ必ず、僕が君を出し抜いてみせるよ……浮世英寿」
次こそは必ず、英寿に勝利してみせる。
青いノイズが全身に走りながらも、大智は少したりともブレる事のないその強い精神力から、そう決意を固めてみせた。
いずれまた、デザイアグランプリに呼ばれる日が来るであろう事を信じて。
≪RETIRED≫
◆
「はっはっはっ! いやはや、してやられたものだな! 全く……!」
ビルの屋上にて。
戦いで受けたダメージが原因で、倒れたまま起き上がれずにいた火炎もまた、スパイダーフォンでゲームの最終結果を知らされていた。
敗北こそした彼だが、その表情に悔いはなく、むしろ楽しそうに笑いながらスパイダーフォンを放り捨てた。
「まぁ良いさ……俺としては、ジャマトの存在に巡り会えただけでも充分儲け物だ……!」
今回のデザイアグランプリで、様々なジャマトを見る事ができた火炎。
この時、彼は既に予測していた。
自身のデザイアグランプリとの関わりは、これで終わりではない。
いずれまた、自身が仮面ライダーに変身する時が来るだろう……と。
「いるんだろう?
ツムリがプレイヤーにドライバーとIDコアを渡す時、彼女は言っていた。
「
それを聞いてから、火炎はずっと考えていた。
審査をしているのは、ゲームマスターで間違いないだろう。
では、何故審査をする必要があるのか?
その答えは簡単。
ゲームマスターに審査をして貰うために、プレイヤーを推薦した者がいるからだ。
そう確信しながら、火炎は青く広がる空に向かって右手を差し伸べた。
「誰が俺を選んだのかは知らんが……もし、俺にまた次があるのなら……その時は、よろしく頼むよ」
火炎は期待する。
ジャマトと再び巡り合う時を。
そう信じた火炎は、今回は敗北を素直に受け入れ、静かに目を閉じるのだった。
≪RETIRED≫
◆
場所は変わり、とある街。
ポーンジャマト達に殺害された者達の死体が、あちこちに転がっている。
その中には、志半ばで倒れた修平の姿もあった。
そこにやって来たのが、1人の人物。
「ッ……そんな……」
その女性―――黒澤仁美は、倒れている修平の姿を見て言葉を失いかけた。
つい先程まで、自身や律子と会話していた彼が、死体となって見つかったのだ。
仁美は悲壮な表情を浮かべつつ、修平の下まで歩み寄ると、開いたままになっている彼の瞼をそっと閉じる。
そして、自身の拳を強く握り締めた。
「律子さんから聞きました……あなたには今、探している人がいると」
修平に語りかけるかのように、仁美が小さく呟く。
もちろん彼女の独り言であり、既に死んでいる修平が反応する事はない。
「私ならきっと、あなたの力になれるかも知れません……だから」
ゴォォォォォン……ゴォォォォォン……
鳴り響く、荘厳な鐘の音。
それは世界が作り変えられる合図。
破壊された街が、全て元通りに修復されていく。
その光景を見届けながら、仁美は空に向けて言い放つ。
「次の世界で、また会いましょう―――」
ゴォォォォォン……ゴォォォォォン……
そして……新たな世界が今、始まった。
◆
「いらっしゃいませ! 2名様ですね。こちらの席へどうぞ」
喫茶店【
この日もまた、少ない従業員達がそれなりに忙しく働いていた。
バイトとして働いている修平もまた、食事を終えた客達の会計を済ませていた。
「ありがとうございました……ふぅ」
「修平君。すまないが、テーブル拭き終わったらゴミ出しに行って来てくれないか?」
「はい、分かりました」
キッチンでパフェを作っている真っ最中の四葉が、テーブルを拭いて回っている修平に呼びかける。
それに修平が了承する中、客が帰った後の食器を片付けていた律子は、四葉の姿を惚れ惚れした様子で眺めていた。
「うーん、今日も店長は素敵だなぁ~。見てて惚れちゃいそう」
「手ぇ止めてないで仕事しろ。それ毎回言ってるだろお前」
「仕方ないじゃ~ん。今日の店長、いつもより雰囲気が柔らかく見えるし、より魅力的に感じるんだも~ん」
「ふふっ……そんなに褒めたところで何も出ないぞ?」
「きゃー♡ 照れてる店長も可愛い~♡」
「……言われてみると確かに、いつもと少し雰囲気は違うような」
律子の発言に、少し照れ臭そうに微笑む四葉。
その様子を見ていた修平は、少なからず違和感を抱いていた。
表面上はいつもと変わらないように見える四葉。
しかし、その雰囲気は今まで以上に柔らかくなっており、より穏やかな一面を見せるようになっていた。
その一方で、今まで醸し出していた強気な一面はあまり見受けられない。
今の四葉に対し、修平はそんな印象を抱いていた。
(まぁ、俺の気のせいかもな)
修平は深く考えず、今はとにかく自分の仕事に集中する事にした。
四葉に頼まれた通り、予め纏めてあったゴミ袋を持って店の外に出た修平は、店から近い場所にあるゴミ捨て場まで向かっていく。
ゴミ袋を捨て終え、両手をパンパンと払った修平が店に戻るべく、来た道を戻ろうと振り返った時だった。
「あの……」
「!」
修平の前に、1人の女性が姿を現す。
清楚な服装に身を包み、ショルダーバッグを肩にかけたその人物の顔に、修平は見覚えがあった。
「あれ、アンタは……」
「どうも、若槻さん」
現れた人物―――仁美は修平に対し、礼儀正しくペコリとお辞儀をする。
「えっと確か、黒澤さん?」
「覚えていて下さったんですね。ですが、私の事は仁美で構いません。代わりに私も、修平さんと呼んでもよろしいでしょうか?」
「え? あ、あぁ、それは別に構わないっちゃ構わないけど……」
「ありがとうございます。では修平さん……今、少しお時間よろしいでしょうか?」
「あ~……いや、すまない。今ちょうどバイト中でさ。すぐ店に戻らないと」
「安心して下さい。そう時間は取りません。すぐに終わりますので」
「……まぁ、すぐに終わるのなら」
一体、自分に何の用があるのだろうか。
首を傾げる修平に、仁美はコホンと軽く咳き込んだ後……穏やかな雰囲気から、険しい表情に切り替わった。
「律子さんからお聞きしました。修平さんは今、探している人がいると」
「! ……お喋りだな、律子の奴め」
「すみません、私が無理してお聞きしたんです。実は少し、気になっている事がありまして」
「いやまぁ、別に怒ってはいないけど……気になっている事って?」
「修平さんの人探し……私にも、手伝える事があるかもしれないんです」
「……!?」
仁美から告げられた内容に、少しだけ驚く修平。
そんな彼に見せつけるかのように、仁美は肩にかけているショルダーバッグの中からある物を取り出す。
すると彼女は、何処か申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
「すみません、修平さん。先に謝らせて下さい」
「え?」
「私は今から、あなたに残酷な事をします……とても、残酷な事を」
「な、何を言って―――」
修平が何か言う前に、彼の前まで近付いて来た仁美。
彼女はショルダーバッグから取り出したそれを、彼の右手に触れさせた……次の瞬間。
「―――ッ!!?」
電流のような凄まじい衝撃が、修平の脳を走った。
それと同時に、奥底に封じ込まれていた修平の記憶が、瞬時に蘇っていく。
突然、街中に現れた髑髏の列車。
その列車から姿を現した、謎の怪物の集団。
その怪物の集団に、目の前で容赦なく殺されていく人々。
そして、その怪物に無惨に殺された、自分自身が死んでいく瞬間。
それら全ての記憶を、修平は思い出した。
「ッ……はっ、はぁっ、あぁっ……!!」
「修平さん! 落ち着いて、深呼吸をして下さい……!」
「はっ……はぁっ……!」
頭を抱え、その場で倒れそうになった修平を、慌てて支える仁美。
彼女の言う通り、落ち着いて深呼吸を行った修平は、辛うじて正気を保つ事ができた。
「はぁ、はぁ……そうだ、思い出した……俺、あの時に一度、死んだんだ……ッ」
「……ごめんなさい。やっぱり、辛いですよね。自分の死を、思い出すのは」
今は生きているとはいえ、確かに一度、修平は死を経験している。
その時の記憶を呼び起こされる羽目になったのだ。
常人ならば、気が狂ってしまっても決しておかしくはないだろう。
「ですが、これは必要な事だったんです。あなたが目的を達成するためには、どうしても」
「ッ……必要な、事?」
修平は必死に呼吸を落ち着かせながら、仁美が右手に触れさせてきた物体に視線を落とす。
それは馬のような顔が描かれた、白黒のカラーリングをしたIDコアだった。
「なぁ仁美さん、教えてくれ……アレは一体何なんだ……!? アンタは一体、何を知ってるって言うんだ……!?」
「……あなたが知りたい事を、私は答えられます。ですが、それを教える前にまず、あなたに1つの条件を呑んで貰わなければなりません」
「条件……?」
仁美の口から出て来た“条件”というワードに、修平は眉を顰める。
そして仁美は、そんな彼にある条件を突きつけた。
「私は今、ある人からの指示で、人員を集めているところなんです。あなたもその人員に加わって下さい。そうすれば、あなたが探している人についても、情報を得られるかもしれません」
「……何だ、それは?」
「今、私が密かに就いている仕事……」
「デザイアグランプリの、運営スタッフです」
◆
それから、数日後。
「皆さん、こんにちは! 私はゲームナビゲーターのツムリです。ようこそ、デザイアグランプリへ!」
再び始まる事となったデザイアグランプリ。
今回もまた、デザイア神殿には多くの人間がプレイヤーとして集められており、ツムリが恒例のルール説明を行い始める。
当然、いつも通り参加している英寿は、聞き飽きたツムリのルール説明を右から左へと聞き流しつつ、他のプレイヤー達の顔を見渡していく。
(さて、今日は誰か知っている奴はいるかな……ん?)
その時、英寿の視線が1人の人物を捉えた。
他のプレイヤー達が困惑している中、特に困惑の表情を見せている様子のない茶髪の青年。
彼はとても鋭い目付きで、ツムリの事を睨みつけている。
その青年の顔を、英寿は覚えていた。
(! アイツは確か―――)
『こいつは貰っといてやるよ……!』
『お前はここで終わりだ……!』
『返せ……俺の、俺のバックルを……返せ……ッ!!』
『透ッ!!! 大丈夫か、しっかりしろ!!』
『こんなはずじゃなかったんだ……ッ』
『デザイアグランプリで……ッ……』
『何なんだよ!! デザイアグランプリって!?』
『こんな悲劇は、忘れるに限る』
『ッ……忘れてたまるか……!!』
「―――へぇ、驚いた」
英寿は思い出した。
前回のデザイアグランプリ。
第1回戦の最中、英寿が一度だけ対面した事がある人物。
その人物が今、こうしてデザイアグランプリに参戦してきた。
これは一体、どういう因果なのだろうかと。
英寿はつい笑みを零してしまっていた。
「まさか、こうしてまた会うとはな」
また、そんな英寿の視線に気付いたのか。
英寿の方に視線を向けたその青年は、ニヤついている英寿の顔を見て、更に目付きが鋭くなる。
その反応すらも、英寿は敢えて楽しんでいた。
「今回のゲームも、面白い展開になりそうだ……!」
浮世英寿。
吾妻道長。
両者の因縁は、長きに渡って続いていく事となる。
To be continued……
仮面ライダーギーツ!
ギロリ「君達にはこれより、研修に参加して貰う」
修平「理想の世界を叶えるゲームか……」
???「職業柄、人命救助せずにはいられなくてね」
道長「俺はギーツに勝つ……!!」
英寿「さぁ、存分に楽しもう」