強き呪いは猛りて爆ぜる   作:ゾエア

1 / 17
懐かしきアーベントロート

1953年 (昭和28年)

阿蘇山のカルデラ内部に出来た中央火口丘群の中核をなす阿蘇五岳。

 

 

その中央に位置し、噴火口を要する中岳の腹の中で呪胎が産声をあげた。

 

 

太く強靭な四肢と尾を有し、全身の大部分は岩のような質感の外殻で覆われている。ところどころ焼けただれた皮膚組織が垂れ下がり、黒く色づく全身を不気味なものとしている。一際目立つ巨大な外殻はマグマを垂れ流し、まるで火山そのものを背負っているようだ。鼻先には角を。口内には無数の牙が見える。2対の目は赤熱するマグマに劣らぬ眼光を備えており、獲物を探すように周囲を見渡す。

 

 

火口から火の道を作りながら一直線に街へ向かうさまは災いそのもの。木々は燃え、赤熱する溶岩流は地面を舐めていく。呪霊の本能。人を嘖もうとする意思は健在のようである。

 

 

呪霊はふと立ち止まる。

眼前に男が立っている。その身を流れる呪力は穏やかなものだが、溢れんばかりの闘志を感じた。目覚めたばかりだが、呪霊の潜在能力は絶大である。周りに垂れ流すマグマそれだけで並の生物には致命だ。起き抜けに一食。小腹でも満たそうと口内に炎を溜め込んだ時だった。

 

 

地面が爆ぜた。

 

 

「今年に入って阿蘇山の噴火活動は活発化している。4月の噴火は多数の噴石が飛び、90人あまりが負傷。幾人か死者も出た。」

 

 

男は地面にめり込んだ腕を引き抜きながら独り言ちる。

背丈は眼前の呪霊に比べるとなお小さく、歩く火山を迎えるには及ばないだろうか。

だがその拳は深い藍色を示し、見るからに硬く、剛く鈍い光を返している。うっすらとした緑に包まれながらも異様な殺傷力を放つ拳に対して呪霊は警戒度を引き上げる。

 

 

「だがそれ以上に厄介なのは、多くの人間がその災禍を()()()()()()()()()()恐怖と畏れは呪力となって、お前に注がれたのだろうな。」

 

 

「我が一族の術式発展は袋小路に陥った。元々特異的な粘菌の爆発を用いたもの。肉体が爆発に耐えられるように代を重ねても、粘菌の進化は緩やかであり、火力向上は微々たる結果だ。」

 

 

 

呪霊は生得術式を行使する。口内に集約する熱は先程の比ではなく、砲撃として放たれようとしている。

 

 

「では粘菌の出力向上はどうすればいい?答えは自然にある。たっぷりと地熱を蓄えた粘菌は更なる爆破をもたらすだろう。」

 

 

「お前は自然の産物などではなく、人間の排泄物のようなものだ。だがその熱。溶岩熱は私の粘菌と一族の助けにはなる。だから祓う。」

 

 

放たれた熱弾を躱し、その爆発を背に受け猛加速する。降り注ぐ無数の火山弾を避け、砕きながら男は術式を解放させる。たちまち拳は鮮やかな赤色を帯びた。

 

 

呪霊の脇腹が爆ぜる。

 

男は何度も拳を叩きつける。呪力と爆破による衝撃は黒い岩殻を破砕し、再生による呪力消費を促した。剛腕や靭尾を振るい応戦するが、男の疾さに対応できていない。

呪霊に近づき触れる度に灼かれる表皮。迸る溶岩さえ無視して男は猛撃を続けた。

数々の粘菌爆発に耐えてきた肉体は特異な熱耐性を持つ。特にその拳は呪力による強化も相まって極めて効果的に熱鱗を叩いている。

 

男はこの熱を求めていた。粘菌が熱を蓄えるにふさわしい()()()()()()()()()が可能かもしれないと。

 

 

 

呪霊は火山弾数とその精度を増加させる。背負った火口から吹き出る噴石は空中で軌道を変え、まとわりつく敵に向けて降り注いだ。しかし、男は更に苛烈に攻撃を加えていく。空に向けた爆発とその反動での高速移動。肉薄と同時に弾けた火花が連鎖するように響く。

 

地盤を砕く掌底から地割れが引き起こされる。1拍遅れて吹き上がる溶岩柱も男は意に介さない。息付く間もなく降る火石や、大出力の熱エネルギー弾は怪獣映画じみた迫力だ。今まさに狩られようとする怪物はもちろん火山を背負った方である。

 

 

 

呪霊は危機感を覚えていた。身に纏う外殻も溶岩熱も効き目を見せず、寧ろ敵のギアは上がっていく。火山弾は軽快なフットワークを捉えきれていない。出力が高い技も当たらないなら無駄なものだ。

 

垂れ流していた溶岩を、意図的に噴出させる。それは溶岩流となって広がり、周囲を包むように展開されてゆく。呪霊としての本能は、動き回る敵を仕留める術を知っていた。

 

咆哮が響く。

 

領域展開 捲岩爛蔵(けんがんらんぞう)

 

 

必中となった噴撃は致命である。

男は領域を展開しようとしない──その術は持っているというのに。男は胸部に呪力を込めていく。術式による活性化、そして灼熱と高圧の溶岩弾により──

 

 

 

 

 

呪霊は、なおも注ぐ溶弾の威力をさらに上げながら油断なく着弾地点を見ていた。最早灰すら残っていなくても、手酷くやられた体が再生しても。

それが最悪手であったとしても。

 

 

 

鮮烈な赤が一際大きな噴石を吹き飛ばした。

 

噴石の雨に打たれながらも、爆音は増していく。

衝突した物体は全て、赤い爆発に砕かれていく。

胸部は爛々と赫いており、臨界に達したようだ。

 

衝突音と爆発音が鳴り響き、領域内に咲き誇る連爆の華が呪霊に1歩ずつ迫っていく。物理攻撃に反応し爆ぜる粘菌は全身に及んでおり、必中必殺の領域が意味をなしていない。呪霊は膨大な溶岩流でその身を押し流そうとした。

 

 

 

大質量の溶岩流を弾き、文字通り爆発的加速する拳を前に呪霊は渾身の熱量を構える。

 

 

口から放たれる熱線を貫いた勢いそのまま、呪霊の眉間に黒い閃光が走った。

 

 

 

 

 




ジェネリック落花の情
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。