強き呪いは猛りて爆ぜる   作:ゾエア

10 / 17
冠するもの

 

 

「どんな女が好み(タイプ)かな?」

 

──自分の知らないうちに、呪術界では好み(タイプ)を聞く流行りができたらしい。

身長は170cm以上あるだろう。長い金髪と赤い目を持った女性はそう話しかけてきた。肩口を大胆に晒し、飄々とした陽気な印象を与えている。柔和に問いかける仕草は女性的だが、如何せん問いの内容が問題だった。

 

 

「"伽藍"のことが聞きたいんなら、御当主サマに聞いた方が早いぞ。」

「君のことが聞きたいんだよ。隣いいかい?」

 

そう言いながらもドカりと横に座った女性は、そのまま話し続けた。どうやら長居する気らしい。

耀が伽藍家に顔をみせたタイミングで、どうやら客人も迎えていたらしい。

 

「初対面では好み(タイプ)を聞くことにしてるんだよ。耀君だろ?はじめまして。九十九 由基だ。」

「これはご丁寧にどうも。俺は()()()()質問をするヤツに覚えがあるんだが…」

「東堂だろ?私が鍛えたんだ。彼はいい術師になる。もちろん君もね。それで、君は彼にもなんて答えたんだい?」

 

 

「……」

「……今は話したくないことだったかな?気が利かずにすまない。どうやら今日ここは()()()()みたいだね。少し時間、いいかな?」

 

 

「あんた特級術師だろ。ふらふら出歩いて任務こなさねぇって聞くぞ。」

「人聞きが悪いなぁ。高専とは合わないんだよ。私は呪霊呪詛師をボコすよりも、もっと根本を治したいんだよ。」

「と言うと?」

「私は原因療法って言ってる。高専でやってるのは対症療法。」

「へぇ。」

 

耀は続きを促す。

 

「呪霊が出てから狩るよりも、呪霊が出る原因そのものを断てばいいって話。どう?興味湧かないかい?」

 

彼女は得意気な表情を見せた。耀は肩をすくめながら、聞き出していく。

 

「じゃあ、どうやって呪霊のない世界ができるか──って話だろ?人間サマから呪力が送られるんなら、怖い思いしないようにすればいいのか?」

「あっはっは。確かに恐怖や畏怖は呪力を生み出す重要な感情だ。でも私が思う原因は感情の方じゃない。呪力さ。」

 

「君の言う通り、呪霊は人間から漏出した呪力が形を成したモノだ。全人類から送られる呪力に対処するには、全人類を変えなきゃいけない。つまり──」

 

「──全人類から呪力を無くす。そうすれば世界から呪霊はいなくなる。私の仮説だけど、いい線いってると思うよ?」

 

彼女は陽気にそう語る。なんの気なしに全人類を変えようとするその姿は特級術師の覚悟だった。

 

「呪力を抑えるんじゃダメなのか?漏出する呪力だろ?体に回すなり、なんなら消費してもいいんじゃねぇの?」

 

「それもアリだね。呪力を家電製品に流すみたいにしてガンガン使うってのも楽しそうだ。」

 

彼女は講義を続けていく。

 

「それは呪力をエネルギーとして活用することになる。全人類でだ。ところが呪力をエネルギーとして扱う第一人者は、我々日本人の呪術師。数に限りがある。その上、エネルギー関係はいつも争いの種だ。」

「砂金が川から見つかればゴールドラッシュを夢見て駆け寄ってくるだろう。ところが金の塊はなかなかやってこない。奪い合いになるかもね。しかもその金塊(エネルギー)はヒトそのものだから、どんな不幸が起こるか想像できるだろう?」

 

耀の発したアイデアについても、物騒な持論を述べながら会話する。

 

「便利に使いてぇのに結局戦うってのは人類らしいな。でも資源の独占をして、廃棄だろ?反感あんじゃねぇの?川から根こそぎ金捨てちまうんだから。」

「奪い合うくらいなら無くてもいい。私はそう考えるよ?」

「なーるほどねぇ。」

 

特級術師は豪快な人柄だった。

 

「ところで。」

「ん?」

そうして一つ間を開けてから、

 

「今日何があったか。聞いてもいいかな?」

 

 

 

 

伽藍(うち)は遠からず滅びる家系だったんだろうな。元々は菌や微生物といった呪力の希薄なヤツを活性化させるような地味な術式を持っていた。当時に菌の概念があったかは謎だがな。毒や薬なんかは作っていたみてぇだ。荒事とは無縁で、静かに消えゆくはずだった。」

「江戸の中期から、伽藍家は唐突に盛期を迎える。爆発する希少な粘菌の発見だ。」

「呪霊を祓うことができる()()()()()()爆発。人間以外で高い呪力出力ができるんなら、今頃呪術界は動物園だ。縛りでどうとでもなるが、それにしちゃ先鋭化されてる。」

「最初は爆弾として扱ったんだろう。ところが肉弾戦と爆発を絡め始めた。そうなると呪力による肉体保護にも限界が来る。」

 

「何が言いたいのかな?」

 

()()()()()()。呪具じみた爆発生物発見に合わせるように()()()()()()()。いくらなんでも300年やそっとじゃ突然変異が定着するわけ──」

「ストップストップ。すまんが何言ってるか全然わかんなかったんだ。掻い摘んでくれない?」

 

「──ふぅ。粘菌と術式ワンセットの一族なんて変わってるってことだよ!」

 

「なーるほどねー。それが嫌ってこと?」

「いーや別に。家に生まれちまったもんはしゃーねぇ。変わんねぇしな。ただ…」

 

「…?」

 

 

「進化が行き過ぎちまった。肉体の組成は鉱物のそれに近づいてる。進化の枝分かれ。術式適応の先鋭モデルだ。それは人間とは別種になっちまう。種が違うんなら、遺伝もクソもねぇ。」

「……」

()()()()()()()()()()()。肉体の特異性を増すほど、変異もまた増してる。粘菌に特化しすぎた。ちょうど俺ぐらいの世代の伽藍は子が残せない。それが先日わかった。」

「もういいよ。わかった。」

「──流産だった。出てきたのは鉱物とも見分けがつかねぇ、粘菌まみれの。母もろとも産室を吹っ飛ばしちまった。」

「最近は遺伝子検査で結構分かるもんだな。色々やったよ。でも手遅れだった。どん詰まり。」

 

 

「それが今日までの顛末ってワケだ。お陰様で伽藍(うち)は呪術界への影響力も失い、ひいては俺も、当主だのといった厄介事からおさらばだ。」

 

 

 

 

「それで、これからどうする?」

 

「御当主サマは好きにしろってさ。急に高専なんか行かせたのも、なんか勘づいてたのかもな。」

 

「聞いてるのは君の意見だよ。伽藍の意向じゃなくてね。」

 

「……弔いだよ。加茂にも伽藍にも居られないヤツが死んじまったからな。宙ぶらりんで一人ぼっちは可哀想だろ?」

「…そっか。色々聞き出して悪かったね。良かったら──」

「俺はもうただの高専呪術師だ。京都のな。ぶらぶら放浪するわけにもいかねぇ。仲間もいる。」

 

 

 

──東堂によろしくねー!

そうして、特級術師は排気音を鳴らし、帰っていった。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしの子が強かったらさぁ!きっと耀の術も大丈夫だよ!」

 

その紺色の髪は伽藍の血を引く証だった。

 

「そしたらみんなで遊べるじゃん。サッカーとかさぁ。野球とか!」

 

その褐色の肌は快活な印象と、()()()()()()じゃじゃ馬さを持つことを耀は知っていた。

 

 

「だからさ!」

 

「ちゃんとあたしの子と遊んであげてね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記録 2017年 10月12日 午前2時32分

 

加茂家の通達により爆心にて呪物確保。(名称未定)

 

同年10月19日 高専忌庫に保管。







泣きながらかいた
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。