「加茂君、2時の方向から呪霊7体!」
上空で索敵を続けていた西宮は、通信機に向かって情報を伝える。ここは京都。高専の学生達は呪霊との戦闘に駆り出されていた。眼下に広がる京都の街並みには、醜悪な呪霊達が続々とせまりつつある。最悪の呪詛師 夏油 傑は、東京だけでなく京都までもその矛先を向けている。
「了解。東堂はどこに行った?」
──付近のビルで爆発が上がる。東堂は呪霊の破片を両手に持ち、加茂達の前に着地し叫ぶ。既に半裸だった。
「8時からのトーク番組に、クリスマス生特別番組に高田ちゃんが出る!!」
何やら急いでいるようだった。
眼前に現れる異様な呪霊。緑の皮膚と、武者のような装束を巨体にまとい、呪霊は咆哮する。片目に見える瞳孔は三つに分裂しているようだ。異常な呪力。特級相当か。
「そいつは危険だ東堂!一人で突っ込むな!」
「こんなところでもたついていられるか!!」
加茂の忠告も耳に入らない。そのまま東堂は呪霊に足を向け走る。他方角からも呪霊がせまりつつあるようだ。ここだけに集まるワケにはいかない。2時の方向の呪霊を迎撃するため、学生の面々は走る。
「更に6時方向から呪霊10体以上が──
──呪霊の群れの前に一人術師が佇んでいた。黒いインナーとダボついたサルエルパンツは紺色の髪とともに全身を暗く印象づける。特徴的な腕部をポケットに収めて、ぞろぞろと現れる呪霊を眺めていた。東堂に並ぶ巨躯は、現れる呪霊の迫力にも負けていない。
「漫然と術式を行使するな、呪力操作は丁寧に…よく親父に言われたよ。今となっては懐かしいが。」
耀はそう独り言ちる。どうやら周囲に京都校の学生はいないようだ。遠くで領域も展開される。まだまだ百鬼夜行は終わりを見せない。
「爆破だけに囚われず、術式の解釈を広げる。言うは易し行うは──」
「みぃせえてええ」
待ちきれない呪霊が一体飛び込んでくる。最初に獲物を屠りたいらしい。
屠られることになるが。
足元に突然粘菌が
──音とともに
「──容易い!」
呪霊達は一斉に襲いかかる。本能のままに。
粘菌の緑波が押し寄せる。それはへばりつき、特徴的な呪体達の足を奪った。
──瞬間加速する紺色の影。的確に呪霊の核を捉えて拳をぶち込んでいく。
「いち」
正面から一直線に拳が貫く。
「にい」
左フックが頭を回転させながら吹き飛ばす。
「さん──」
どうやら呪霊も理解したらしい。順番に狩られる。体を動かせる範囲で反撃を試みた。
『
もはや呪体を圧殺する勢いで粘菌が巻き付く。
ボディに拳がめり込んだ。
空中を浮遊する虫のような呪霊が、耳障りな羽音をたてた。毒液が染み出した針を向ける。
『
緑色の触手が呪霊に伸びる。粘着質なそれは羽を掴み取り──
「ッフン!」
──地面に叩きつける。そのまま引きずられてきた呪霊はもがいていたが、頭を足で踏み潰され、静かになった。
「まだまだやれるな!じゃんじゃん持ってこい!」
押し寄せる呪霊達に辟易していた学生達は、耀の言葉に視線を向ける。──正気か?目はそう語っている。
「でも元気になってよかったじゃない。伽藍サマ復活ってとこかしら?」
一年生の生意気な後輩は、耀の
実際、任務帰りで出くわす仲間は元気がない耀を心配していた。さしもの東堂すら野暮なことは言わないレベルであった。
先程まで愛用のリボルバーで呪霊を撃ち抜いていた真依は、名家の
「拡張術式の運用と、掌印の短縮はまぁまぁだな。呪力操作は結構やれたが。如何せん広げると精度と強度が落ちるなぁ…」
耀はブツブツ言っているが、粘菌爆破に頼らずに呪霊を鏖殺する男に皆は畏怖を感じている。
(落ち込むどころか戦闘の度にキレが増す!一体どれだけの呪力を持っているんだ!?)
加茂は、一族相伝の赤血操術を露骨に真似している男を眺める。
本来取り扱いが伝わっている術式ならばともかく、想定していない挙動を再現する耀の実力が伺えるようだった。
向こうで黒い光が見えた。黒閃である。
耀は軽く腰を落とすと、そのまま加速して火花の元へ向かった。
「!!」
「お日柄ァ!」
目前に現れた紺髪は、眼前の呪霊を蹴り捨てながら声を発した。疲弊した術師達の安堵の息が漏れる。
そのまま減速をせずに流れるように呪霊を叩いていく。時折振るわれる緑の鞭は術式効果だろうか。呪力の張りも肉体の動きも鈍っていない。緑鞭で引き寄せた呪霊を屠りながら、揚々と敵を見定めている。金髪を七三に分け、特徴的な眼鏡を指で触りながら、七海建人は観察していた。
「精が出ますね。」
「元気出さないと後輩に怒られちゃうからな。手出し無用だったか?」
「お気になさらず。むしろ助かりました。感謝します。」
七海は丁寧に受け答える。黒閃を連続で決めた状態でも、冷静に感謝を述べる義理堅さであった。
道路中央で巨体が歩く。時折四肢で車を踏み潰しながら、長く伸びた首に蚯蚓を思わせる襞を施している。顔には目も鼻も無く、口だけが不揃いな歯を見せていた。腹側にベージュ色、背中に茶褐色の鱗を纏ったそれは呪霊であった。
「デカい!足から崩す!」
七海は行動で応えた。左右に別れて獲物を振るう。七海は特徴的な布を巻いた鉈形の呪具で足に切り込みを入れた。耀も拳を打ち込んで応答する。
たまらず呪霊も応戦する。長く伸びる首や尻尾は振るうだけでそのまま建物を砕いていった。足へのダメージから体制を崩し、低くなった首に緑鞭が巻き付く。そこからピンと張った緑線は反動で耀を空中へ運んだ。
「っらァ!」
呪力を纏った右拳が打ち付けられる。地面に向けて勢いよく吹き飛ぶ首に、鉈形が迫る。バスンと音をたてて切断された呪霊は消失反応をあげていった。
そろそろ夜が空けそうだ。
「伽藍先輩はあっちのに乗りなさいよ。」
帰りの車内で耀はそう毒づかれた。酷い言い草である。元々東堂が乗る予定から変わったことに、喜んで欲しいくらいだが。ちなみに東堂はダッシュで先に帰っていた。
「それでぇ?伽藍センパイはお得意の爆発も使いたくなかったの?お家も型なしね。」
「なるべく壊すなって俺だけ言われてたんだよ。ひでぇ言い草だよなぁ。俺が爆発バカみてぇな。」
耀は運転手をミラー越しに覗き見る。
「術式は本来こう使うんじゃねぇかなって思ってさ。実際やってみたら全然出力ねぇけど。」
「ふふっ。」
「使うにはちょうどいいタイミングだったんだよ!」
「ごめんなさい。結構面白かったわ。うにょうにょ動かしてるのは。」
「一つ分かったのは、爆発の出力だけがめちゃ高いってことだな。まるで
「へぇ。それってどうなの?」
「術式の練度不足か粘菌の種類選択どっちが原因かはわからん──あるいは両方かもな。」
「?」
「爆発専用粘菌なんぞ普通都合よく見つかんねぇよ。かと言って粘菌うにょうにょは
「呪術師家系ってのも大変ねぇ。いや、大変だったのね。」
「……やっぱりあっちのに乗るべきだったか。」
縮まる時だけ出力高いのは術式反転を応用してるから