「よかったのカ。」
「ん?何が?」
異様な呪骸の頭部が見える。茶色い木造のからくりじかけと、頭部のスピーカーから独特な音声を発しながら、メカ丸は問いかけた。緑色のカメラアイは明滅し、簡易メンテナンスで各部の武装を出したり収めたりしている。高出力の呪力が放たれる砲口には安全装置がつけられていた。
耀は展開されている腕部の出力機構を眺めながら暇を潰す。
「東堂と真依は打ち合わせの付き添いに東京ヘ。てっきりあんたも行くかと思ってナ。」
「俺はパス。せっかく東京行くのに東堂のお守りなんて嫌だろ?アイツ個握目当てだし、確実に巻き込まれるぞ。」
耀はそう愚痴りながら続けて理由を述べた。
──嘘だナ。
乙骨が特級に返り咲いてから、周囲の反応は様々だった。あるものは納得感とともに理解を示し、あるものは畏敬の念を持っていた。耀は前者だ。自分を負かした男が強いと嬉しいものなのかもしれないが、メカ丸にはいまいち理解できなかった。そんな耀が東京にいる特級術師に
ちなみにもう一人の最強にはわざわざ会いに行こうとはしない。
「乙骨なしだろ?人数足りんくて一年も入るだろうしなぁ。今度は爆破なしで結構立ち回れると思うのに口惜しいね。」
交流会は後遺症を負うレベルの戦いは厳禁だ。もちろん殺害もなし。耀の起こす爆発は殺傷能力が高過ぎて、度々制限されてしまう。初日の団体戦よりも二日目の個人戦を想定しているようだった。
「秤が出るんだったら俺も存分にやれそうだったな!」
秤は京都出向時に術師とトラブルを起こして停学中だった。遠目に見えた領域の外殻から、彼の実力と結界内での立ち回りを夢見ていたようだ。
「あっちで宿儺の器が死んでル。最近はきな臭い噂も多イ。そんな中停学するとは大したもんだナ。」
「…そだな。」
恐らく東京に
メカ丸はメンテナンスを終え、展開していた武装を戻す。彼は、眼前の三年生の意外と感傷的なところが嫌いじゃなかった。
「東堂がいなくて暇なのカ?」
「いや全然。」
「オイ 来たぜ」
「あら お出迎え? 気色悪い」
京都高専の面々が顔を出した。190cmを越す体格の頭にドレッドヘアの男。箒を握る金髪の女子。日本刀を腰に差す長髪の女。目を閉じるように薄めている黒髪の男。木造の茶黒いロボット。毒気づく女。そして紺髪に軽装の男。七人勢揃いである。
「うるせぇ早く菓子折り出せコラ。」
「しゃけ」
それに応えていく東京校の面々。一人荷物を携えた茶髪の女はどうやら間が悪いらしい。京都土産を期待している。銀色がかった白髪の男は鮭を所望しているようだった。
「怖…」
「腹減ってんじゃねぇの?」
「乙骨いねぇじゃん」
「乙骨がいないのはともかク、一年二人はハンデが過ぎないカ?こっちは数も多イ。」
「呪術師に歳は関係ないよ。特に伏黒君。彼は禪院家の血筋だが──宗家より余程できが良い。」
「チッ」
「何か?」
「別に。」
騒がしいことだが、早速喧嘩が勃発しそうであった。それも京都校のみで。そこに特徴的な傷痕を残す女性が声をかけた。
「はーい。内輪で喧嘩しない。まったく…」
歌姫は京都校の仲の
「で あの馬鹿は?」
「悟は遅刻だ」
「
「誰もバカが五条先生のこととは言ってませんよ。」
「東京校にも問題児がいるんだな…」
「おまたー!!」
東堂に並ぶ長身に白髪を逆立たせて、黒目隠しの男が手押し台車を押して駆けてきた。
ミーハー的な反応をする女と舌打ちする女。リアクションは様々である。
「やぁやぁ皆さん おそろいで。
そのまま語り始めた。
「はいお土産。京都の皆にはとある部族のお守りを。」
独特な形をした異様な人形を京都校の者たちに配り始める。各々は不思議そうな目でそれを見つめる。異様にハイテンションな五条はまだ終わらない。
「そして東京都の皆にはコチラ!!」
ぐりんっと振り返り、台車に載っていた箱の中身を紹介する。
「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!」
「はい!!おっぱっぴー!!」
京都姉妹校交流会一日目 団体戦
"チキチキ呪霊討伐猛レース"!!
指定区間内に放たれた二級呪霊を先に祓ったチームの勝利となる!!区間内には三級以下の呪霊も複数放たれており、日没までに決着がつかなかった場合、討伐数の多いチームに軍配が上がる!!それ以外のルール一切なし!!
「以上 開始時刻の正午まで 解散。」
説明をしつつ
「宿儺の器 虎杖悠仁は殺せ。」
「アレは人ではない。故に全て不問。事故として処理する。遠慮も躊躇もいらんぞ。」
その老人は淡々と述べた。暗い眼窩は光を見せず、垂れ下がる眉毛先と髭が歳を重ねた様を現している。京都高専学長 楽巌寺嘉伸である。
「現在肉体の主導権は虎杖悠仁にある。宿儺が出てこなければ呪力で殺すと死は覆らん。一回生だ。縊るのは容易い。」
虎杖悠仁を抹殺するように京都校の面々に向けて呼びかける。
耐えかねた東堂は障子を蹴り飛ばし、鴨居に手をかけて和室を出ようとする。
「下らん。勝手にやってろ。」
「戻れ東堂。学長の話の途中だ。」
生真面目な加茂は東堂を諌めた。
「11時からの散歩番組に高田ちゃんがゲスト出演する。リアタイ観んだよ。説明これ以上いるか?」
「録画すればいい。戻れ。」
加茂はさらに言い聞かせようとするが、逆効果だろう。東堂の沸点は近い。
「謀略 策略勝手にやれよ。但し次俺に指図し──
「──俺が殺る。一人で殺るよ。」
「─っ」
「どうせ東堂に合わせるのは無理だろ?俺が肉体もろとも吹っ飛ばせば終わりだ。それで丸く収まる。いいよな?」
場を制したのは耀だった。妙に落ち着いた姿は淡々と処理を述べている。話を黙って聞きながらも、どこか穏やかな表情だった。
「──
「知らん。ただ最善ではあるだろ。俺にはもう
「──フンッ」
東堂はどこか気に入らない様子で去っていった。
「どうします?あの様子じゃ作戦行動なんて無理ですよね。学長も行っちゃったし。」
「どうせアイツ東京陣営まっしぐらでしょ。勝手に暴れてくれるなら、私達は
「だが、高専に所属する呪術師の中で、虎杖のような半端者がいるのは由々しき事態だ。加茂家嫡流として見過ごせん。」
「指は何本か、少なくとも二本は入ってんだろ?顕現した時のリスクと五条悟の存在。諸々考慮すると、俺なら
「しかし…!」
「五条悟と保守派の争いの代理戦争だ。巻き込まれるのは最小限にすべきだろ。多分東堂は例の質問だな。アレの返答次第で半殺し。その後俺が殺して終わり。加茂は確認するくらいにしとけ。」
耀はまくし立てるように意見を述べていく。東堂にも他の京都の面々にも、それが最善だと言い聞かせるように。
[開始一分前でーす。ではここで歌姫先生によるありがだーい激励のお言葉を頂きます。]
「はぁ!?え…えーっと」
[そのぉ…時々は助け合い的なアレが…]
[時間でーす。]
[それでは姉妹校交流会]
──スタァートォ!!!
東堂君の術式解禁で頭が混乱する