「花御の術式は、伽藍の爆発と相性が悪いね。」
長い黒髪と、特徴的な前髪を垂らした五条袈裟の男はそう語った。場所は水平線の見えるビーチ。燦々と輝く太陽が肌を焼く。ビーチチェアに寝転がった
「爆発の熱量は木々には効果的だ。粘菌は植物にも容赦なくまとわりつくし、根が張りづらくなる。おまけに硬い相手にも攻撃を通した前例があるみたいだね。」
「領域も展開出来るようだし、花御はあの子に会わない方がいいだろう。」
そう言って小さな黒い物体と、幾体かの改造人間を受け渡していく。ソレらは小さなうわ言を呟きながら歩いていった。
「夏油ー!俺の
「必要経費さ。足止めに役立つ。」
全身を継ぎ接ぎだらけの皮膚で覆い、ローブを纏った青年が口を出す。くすんだ薄水色の髪は黒い髪留めで二本束ねられていた。
「ならいいけどさぁ。そいつ生きてんの?」
「休眠状態だからね。死んではいないよ。」
小型化された黒い人体の中には、呪霊が眠っているようだった。
「
男は正確な見通しを立てながら、交流会会場へと送り出したようだった。
「うん。そのまま まっすぐ。東堂君が先みたい。」
「了解。あとは必要ない。」
西宮は、浮かぶ箒に跨りながら携帯に話しかけている。耀は森の中を真っ直ぐ突っ切って虎杖の元へ向かう。どうやら出遅れたようだ。東堂にどう答えてんのかな──などと思いながら先を急いだ。
「──どうやら俺たちは"
「今名前聞いたのに!?」
既に東堂の用事は終わったようであった。どちらにせよこっちも
虎杖は突然現れた京都校の学生に顔を向けた。紺色の髪と全身は陰湿な雰囲気を纏っている。こんな感じの人だったかと思っていた虎杖は気づいた。
(──アレ?)
「そいつは初対面に好みを聞く変なやつなんだ。気にすんな。」
喋りながらも男は隙なく歩き始めた。徐々に虎杖との距離がつまる。紺髪の男は無表情で迫っていく。
(コイツ…俺のこと)
「恨んでもらって構わねぇ。」
急激に成長する右拳の粘菌が爆発的な呪力出力を蓄える。明らかな臨戦態勢。
虎杖は警戒心を引き上げた。アレに触れるとまずいことになる。本能的に悟った。そのまま姿勢を落とし呪力を練り始める。
(殺す気じゃねぇ?)
前方に倒れ込むように体を低くした男は一瞬で悠仁の胴体を拳に捉えていた。ガードする腕ごと吹き飛ばす緑撃がそのまま──
『爆岩』
森の一部を爆風が撫でる。
──入れ替わってる!?
「??」
前方から飛んでくる弾丸じみた拳は、虎杖の背方向に飛んでいったようだ。いつの間にか自分と男の位置が入れ替わっていることに混乱している。背中合わせのように虎杖と立つ男は、隣で術式を行使した東堂に視線を向けた。
「文句でもあっか?」
「文句ならあるさ
「あぁ。宿儺の器を祓う。いや、
わざわざ言い直した男に東堂は叫ぶ。
「本音を言え伽藍!!お前はなぜそうする!!なぜ独りで背負う!!」
「出来るからするんだよ。呪いを祓う。いつも通りのやり方だ。」
──仲間割れか?
自らを突然親友などと呼び始めた男と、いきなり殺しにかかってきた男が争い始めた。混乱する悠仁には理解出来ない内容だ。
「フンッ!!」
突然東堂が男をぶん殴った。宙を舞う巨躯。拳には血が滲んでいる。
「何を恐れている!!宿儺か?上層部か?呪いか?お前ほどの男がなぜ!!」
背中から着地する男。受け身も取らず起き上がろうともしない。男はそのまま語り続ける。
「やるしかねぇんだよ。
「────何を重ねている?」
「……」
「お前が何を失ったか、何を悔いたかは知らん。俺は野暮じゃないからな。だが、
「お前が本気で決めたなら、俺は何も言わん。だが、迷い続けるうちの行動は後悔しか生まない!!それでも俺達は生きて!!わがままを通すしかない!!」
「わがままを貫く術も仲間も俺達にはある。恐れていても前に進まねばならん。」
「お前はどうする?」
男は仰向けでしばらく何かを考えこんだあと、徐に立ち上がった。背中の砂を叩き落とし、紺の髪をかきあげる。
「三年の伽藍だ。好きな
「俺を納得させてみろ虎杖。」
晴れ晴れとした表情をしていた。
「闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え」
上空に黒々とした液面が現れた。それは粘着質な水音を立てた後、静かに広がり、
「帳!?なんで今!?」
「何にせよこの呪いの気配。特級相当だ。」
三人は異変に気づいた。告知のない帳。感じる呪力に警戒をあらわにして空へ視線を向けた。既に虎杖悠仁のレベルは、
「外に連絡だな。電波は…」
携帯電話をチラと見た耀。画面液晶上にはアンテナが立っていた。電波は通っている。
箒にまたがった西宮も異変を察知して降りてきた。
「外は!」
「歌姫先生に繋がった!
「五条対策バッチリか、よっぽどの相手らしい!」
東堂と虎杖は戦闘の気配を感じて走り出す。森奥で地響きとともに土煙が立ち込めていた。
「西宮は手が空いてるヤツと負傷者を探せ!外なら五条悟がいる!帳内の方が危ねぇ!」
負傷者を探して加速する。
それは白い波だった。波面はもぞもぞと動くもので構成されており、時折地面を打ち立てながら進んでいく。その波に乗る人影が現れる。ふらふらとおぼつかない足取りは正気を見せない。真っ白な体はよく見ると白粒がぎっしり表面を覆い、世話しなく蠢く。口と思わしき凹みは横隔膜の動きに合わせて上下している。眼窩には何もなく、こぼれる白い涙粒が白波と同化し見えなくなっていく。
障蟲は最初の一体の産卵から増えていく。それは孵化すると数秒で卵を産むようになり、人造人間を栄養にして瞬く間に増えていた。
「──マジか。」
眼前に栄養源が走ってきた。片目を軽く見開きながら呟く。息を一つついたそいつは、地面に思い切り腕を突っ込みながら──
『
衝撃波と爆発が地面を走った。白波は剥がされ、粒達は焦がされていく。しかし、波を剥がされ見えた地肌もすぐさま白が埋めつくしてしまう。数が多すぎる。白い人型をバリボリと貪りながら個体数が増えた。
前方に見えていたのは餌ではなく敵であった。途端、群れ中に伝達される警戒感。統率されたものたちは呪力を流し始めた。
(植物を操るのとは別件か!何が起こってんだ!)
集結する呪力と白い塊は圧縮されていき、やがて四足の呪体を形成した。それが白波からいくつも顔を出す。背部に形成する砲塔から、ボコボコと音を立てている。
轟音とともに放たれる小粒群。それは執拗に顔面を狙って、逃げる耀を追いかける。
体内は呪術的に特殊な領域とみなすため、特別な術式や直接侵入する他に干渉できない。顔合わせしたら敵の体内から孵化。なんてことは不可能。コイツは体内への侵入を試みてきた。つまり──
「ッ!?」
危うく目に入りかけた小粒を弾いた耀はその先を想像出来たようだ。ふらふらと歩いている人型も恐らく犠牲者だろう。
今はまだ耀に狙いを定めているが、ここを仲間が通れば
森の奥からは地響きが聞こえる。まだ戦闘は終了していない。コイツの数を減らして東堂と合流。そうすりゃすぐに戦える。まずは「廓緑」の最大出力で減らせば──
「────いや、それは雑魚の思考だ。」
爆発は取りこぼしを生み、一匹でも残すと面倒なことになる。幸い、残さず捕まえる手段は知っていた。
掌印を形作る。左手の平は天を、右人差し指は地を指す。
『領域展開』
『