強き呪いは猛りて爆ぜる   作:ゾエア

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女王の花道

 

 

黒い球体が膨らむ。

障蟲と人型を一匹残らず内に取り込みながら。

 

 

そこは紺青の大地が広がっていた。天井一面を覆う粘菌はまるで血管のような緑脈を見せている。洞穴じみた領域内は仄かに発光する粘菌によって視界を保っていた。

 

取り込まれた障蟲達は突如変わった空間に対応出来ていない。その動揺に付け入るように──

 

──爆発が起きる。

 

障蟲各々の体に、粘菌が発光しながら付着。ベチャリと音を立てた。それは虫に触れるまでそこには()()()()()()()。障蟲達は本能的に地面へ潜ろうとする。しかし必中と化した術式は、粘菌の付着と変色の過程を省略し、触れたそばから爆発という結果を押し付ける。回避という現象は発生しない。それが土に囲まれていようと。

連続的な爆発は蟲を空でかき混ぜるように頻発する。領域内で生半可なものは形を保つことなく塵となるだろう。

 

かつてない危機に蟲達は恐怖を覚える。数が減りすぎている。

──"女王個体"を守らなければ。白波が爆ぜながら渦を巻き、塊を形成していく。

 

「!!」

 

耀は目を見開いた。

爆発音が少なくなっていく。術式の必中効果が中和されている。その原因は──

 

 

 

 

 

第一世代たる女王個体を中心に生得領域が構築されていく。

 

領域展開

 

白塊の背後に柱塚が形を成した。それは独特な紋様が走り、空いた穴から白い蟲で構成された滝を流している。

 

遺嶷籠衷(いごくろうちゅう)

 

 

──領域の押し合いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い塊は人型を形作る。

下半身は重厚な四足のついた甲虫である。外殻は流線を帯びた形状で衝撃を受け流すだろう。長い尻尾先についたハサミは音立てる。

上半身は女性的なシルエットを見せながらも、頭部に位置する巨大な複眼が無機質に光っている。華奢な肩から伸びる白い腕には多関節の指が際立つ。左右に開いた顎の動作を確かめながら、それは声を発した。

 

「女の子は脂肪を帯びたまぁるい腿が美味しいですよ?男の子の弾力ある胸筋も捨てがたいですねぇ。あなたはどっちがいいですかぁ?」

 

呪霊らしいリポートを添えながら耀に問いかけている。答えは望んでいないようだったが。

 

「大丈夫ですよぉ?()()()()()()()()()貰いますからぁ。」

「そいつァ朗報だな!」

 

耀は領域操作に集中する。呪霊の戯言だ。相手は白い指で掌印を作り、領域の押し合いに踏み込んだ。

 

領域の押し合いを制する者とはすなわち、領域が洗練されている方である。この押し合いの場合、それは…

 

「あらあらぁ。」 「ッチィ!!」

 

 

互角であった。

耀は、対象を一匹残らず閉じ込めるために領域範囲をめいっぱい広げていた。その代償として領域内の出力が下がり、女王個体だったものを仕留め損なっていた。

柱塚から供給される蟲達で既に群れは回復しており、白く波を立てている。

見えない術式効果がぶつかり合うことで擬似的に、ゴリゴリと音を立ててぶつかり合うような感覚を術者に与えているようだ。

 

 

術者を仕留めるしかない。

薄く広げた粘菌は爆発性が落ちる。だが、爆発力の残した別個体の粘菌を用意すれば──

粘菌を薄く広げる。脈撃つ緑の運河に、赤色に熟した砲弾を乗せて勢いよく運んだ。

 

亟所胞(きょくしょほう)

 

 

白波を爆風で削りながら、本体に粘菌が近づいていく。ところどころで白い兵隊が立ち上がる。どうやらお互い術者に狙いを定めたらしい。

それは女王にはない発達した角を持っている。背部から羽を展開し、ホバリングを始める。二股に別れた斧のような巨大な形状が耀に照準を合わせる。白い物騒な弾丸が対象を穿つだろう。

 

幽屍累(ゆうしるい)

 

白い甲殻と粘菌が飛び交う。飛び散る破片はお互いを傷つけることはなく、膠着を生んだ。

 

 

 

耀は掌印を解いた。

──ジリジリ押し合うのは性にあわねぇ。

 

眼前に押し寄せる波と粘菌がぶつかり合う。爆発でしぶきが上がった。姿勢を落とし、地面を思い切り蹴る。

 

『畤奔』!!

 

地を走る爆撃波が白波に風穴を開けた。粘菌爆破は割れた白海をこじ開けるように進んでいく。その衝撃は白い女王の元まで届いたようだが、甲殻に傷をつけてはいない。

 

 

──爆煙の中心を紺影が貫く。高速で駆けた髪は白い雲を引き、顎を噛み締め今まさに拳を叩きつける。

 

 

白い巨体は下半身の重殻で受け止めた。そのまま三撃。砕けた部分からは呪霊の紫血が飛び散る。

 

 

()()()()をする者に尻尾が迫る。円月尾はその鋏で対象の切断を試みた。

 

上体を縮め、すんでのところでギロチンを躱す。ちぎれた後ろ髪が少し舞った。白い甲殻を蹴って巨体の胴体下に潜り込み、そのままラッシュをかける!!

 

 

胴体に向けたアッパー。そのまま拳撃は加速して、叩き続ける!!たまらず押し寄せる白兵達も意に介さず、耀はぶち込み続ける。

 

巨体が徐々に浮き上がる。叩かれた衝撃でビクビクと痙攣しながら、血飛沫が舞った。胴体は穴あきになっていく。

 

 

「おやおやぁ」

 

ぐりんと上半身を倒して胴体下を覗き込む。それは抱き込むように手を広げて狼藉者を宥めようと──

 

 

──前蹴りで応答。反動でしなる上半身の肩部を掴んで押さえつけた。渾身の呪力を込めて頭部をぶち抜く。

 

 

「腿はゴツいのもいいだろ」「そうですね─ぇ゛っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──続いて人的被害です。2級術師四名 準1級術師一名 補助監督八名 忌庫番二名 高専に待機していた術師で五条さんや夜蛾学長と別行動だった方たちですね。」

 

高専内部も襲撃されていた。特級呪物"両面宿儺"高専保有分6本、"呪胎九相図"1番~3番、そして至巓核炉(してんかくろ)1つが盗まれていた。

 

「この件って学生や他の術師と共有した方がいいですかね。」

「…いや、」

「上で留めておいてもらった方がいいだろう。呪詛師界隈に特級呪物流出の確信を与えたくない。」

()()()()()()いいでしょ。学生は。」

 

「とりあえず今は学生の無事を喜びましょう。」

 

「だが交流会は言わずもがな中止ですね」

「ちょっと それは僕達が決めることじゃないでしょ」「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「野球はよかったのカ。怪我してないだロ。」

「いいんだ。」

 

耀は一人新幹線に乗っていた。暇していたメカ丸の通信機を用いて話している。窓に反射した姿はまるで電話してるように見えた。

 

 

戦闘用の装備改良の手伝いをした時にもらったメカ丸意匠の発信機は、呪力を用いた環境に優しいクリーン設計だ。ちなみに手伝った装備は爆発威力が高すぎたため、耀以外に扱えなかった。

 

「今度メカ丸印のグッズ作ってくれよ。ぜってぇ売れるから。間違いねぇ。」

 

「…伽藍家絡みだナ?」

 

耀の空回りに訝しんだメカ丸は問いを発した。

 

伽藍家の男は()()()する。だいたいは任務中だが、爆発に耐えきれずに死にやすい、ということだった。しかし──

 

「この前の検査で見つかってた。石みてぇなヤツがな。伽藍家のヤツはほとんどだ。特に爆破に優れてるのは発達してるんだとよ。」

 

「……」

 

「そんで今日のはご当主さまだ。導火線ついてたみてぇに次々と爆発していってる。残穢は自分自身のしか残んねぇから、一見自殺に見えるってこった。」

 

 

「怖いのカ。摘出すればいいだろウ。」

「術式使えなくなっちまうからなぁ。それに終わる時は一瞬だ。ただ──皆を吹っ飛ばしたくない。まずは用事を済ませてから、我慢強い粘菌でも探しに行く。」

 

「あてはあるのカ?」

 

 

「阿蘇。爺さんの与太話が正しけりゃそこに残ってるはずだ。」

 

 

 







ノリと勢いで書いていく。
13:05 脱字修正
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