強き呪いは猛りて爆ぜる   作:ゾエア

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火山、炎上す

 

 

「それは炉心だ。腫瘍でもなんでもない。内蔵器官の一種だ。」

 

姉妹校交流会より日は遡る。

伽藍家当主の毅はそう語った。加茂で起きた事件後に行った各検査で、伽藍家の特異性が顕になった。

それはいつもの親子の会話だ。しかしどこか強ばった父の顔を見ながら──耀は聞き返した。

 

「炉心?術式は粘菌の活性化だよな?」

 

早速疑問を投げかける。

 

「この器官は術式で粘菌を活性化させるうえで、爆発力を向上させるはたらきをするようだ。」

 

「出力が高いってヤツだろ?術式の差じゃねぇのか?それって個人差あるし。」

 

「炉があるものと無いものとではっきり分かるレベルだ。伽藍家の人間にはだいたいこの器官は確認されたが。」

 

「どういう意味だよ。」

 

「この炉がなければ強い爆発が起こせない。コレが伽藍の特異性の源というわけだ。」

 

 

「なるほどね。確かに腫瘍じゃねぇな。」

 

毅は一通り炉心についての説明を終えてから、本題に移った。

 

 

「今月は二人。先月は三人死んだ。いずれも粘菌爆破によるものだ。残穢はそれぞれ本人達のもの。爆発の制御が不可能になりつつある。」

「……は?」

 

耀は片目を見開く。毅は淡々と述べているが、耀の耳には入っていない情報であった。

 

「代を重ねた伽藍はこの炉心を発達させてきたのだろう。しかしいまや過剰になった。肉体の堅牢さも追いつかない。」

 

 

「粘菌の活性化や不活化は術式で可能だ。しかし炉心はもはや止まらない。いつまでも爆発力を高め続けている。だが摘出は爆破の行使不可能を意味する。伽藍としては終わりだ。」

 

伽藍の滅びの道が決まりつつあった。

 

「この器官の存在を祖父は知っていたのかもしれん。頑強な肉体と高圧・高熱に耐えうる炉心があれば、熱を用いた粘菌進化へのアプローチが可能だからな。それを成したのだろう。」

 

「炉心が爆発を強くすんだろ。粘菌にも何かあるのか?」

 

「祖父が持っていた粘菌は特殊なものだった。それは強大な出力の炉心に耐えうる粘菌。膨大なエネルギーを蓄えることが可能だろう。強力な炉心によって変質した粘菌を父は用いたはずだ。」

 

耀にとっての祖父は記憶になく、噂話程度にしか聞いたことがない。べらぼうに強いだの爆発がすごいだのといった程度だ。

 

「それが高出力の炉に必要ってわけか。」

 

「粘菌が蓄える熱量が多いほど爆発までの猶予がある。低出力では爆発しない…という推論だ。肉体が耐えきれない以上、進化した粘菌を探すしかない。」

 

「なるほどねぇ。」

 

「祖父の足跡を辿れ。私は別の方法を模索する。」

 

「了解。」

 

「それと…翠の件についてだが──」

 

 

 

 

 

 

 

 

──交流会の二日目に親父は死んだ。最期まで炉の制御や粘菌の可能性を探っていたようだが、摘出は行わなかった。伽藍家の訓練場で粘菌が活性化を起こしたらしい。

 

伽藍を捨てて生きるか伽藍のまま死ぬか。次世代の伽藍は、鉱物とも見分けがつかん塊のまま発生が止まっちまう。答えは分からんが、わがままを通して生きるしかない。それに、どうやら爺さんは爺さんなりの答えを求めていたようだ。祖父の与太話で聞いた阿蘇山の討伐。そこから伝説が始まったらしい。

 

 

 

粘菌は胞子を飛ばして増えていく。伽藍の粘菌は爆発により胞子を拡散させるため、戦闘場所がすなわち粘菌の新天地だ。伽藍の体に住み戦闘の爆発とともに生息地を広げようとする生態である。

 

 

「──そんな簡単には見つからねぇよなぁ。」

 

ここは阿蘇山の火口付近。戦闘があったという火口の周りを耀は訪れていた。狙いのものは見当たらない。元々耀は学者でもなく呪術師だ。戦闘ならばともかく生態調査は得意ではない。術式で粘菌を扱うものの、どうやらその手応えも薄いようだった。

 

 

──爺さんの生きてた時代って60年くらい前だろ?その間に噴火や地震くらいはあったはずだ。地形も変わっちまってる可能性があるな。火山灰で埋もれたか?粘菌も動いて住処を変えてる可能性あるしなぁ。

 

 

一人思案する耀は辺りを見渡した。阿蘇山のカルデラは大きく切り立って彼を囲んでいる。

 

 

「炉の熱。炎、熱、火ぃ、火山…」

 

ブツブツ言いながら辺りを行ったり来たりして、ふと思いついた。

 

「埋まってるか。埋もれて…。熱い場所…!」

 

地面を見る。火口近くの地下にはマグマが存在する。地熱だ。熱を蓄える性質。膨大な熱を蓄えて──

 

 

 

 

次々と地面に拳を当てる。術式行使によって凄まじい衝撃が地盤を砕き、土埃をあげる。相手は雄大な大地そのもの。術式使用の手加減は必要なく、遠慮なくぶち込める。露天掘りだ。後のことなど考えずに爆発で穿っていく。

 

「!!」

 

術式対象を捉える感覚だ。休眠状態にある。それは膨大な熱を蓄えていて、地下に眠っていたようだった。腕を思い切り地面にめり込ませる。そのまま術式で、上に被っている岩石諸共吹き飛ばす!!

 

 

 

現れたのは橙色に輝く()()()()()()()であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「色々試してみたんだ。術式の可能性をね。」

 

額に縫い目のある袈裟の男は、手にある小さな黒曜石のような物体を弄ぶ。それは仄かに緑がかっており、中心に赤色の玉眼を据えている。高専から奪った特級呪物の一つ、至巓核炉(してんかくろ)

 

 

 

「呪霊の術式を行使できるなら、生物の術式も操作できると思ったんだ。」

 

 

その男は手遊びを止め、その呪物をじっと見ながら続ける。

 

「様々な術式を後天的に刻もうとしたよ。でも術式の複雑さや強力さは、その代償として出力の低下を招いた。人間以外の生き物は特に。経験は役立ったんだけどね。君みたいな受肉体の。」

 

 

白髪に独特な模様を入れたショートカットの女は、その語りかけを全て聞き流している。男の呪術講義にはうんざりしているようだった。

 

「だからシンプルにした。単純な生き物には単純な熱量を。カビやキノコはよく増えるから試行回数を稼げたよ。」

 

 

「それでも弱くて参ったねー。結局は出力面に補助を入れたんだ。出力を高める炉をつくった。」

 

たはー、と息を一息吐いて男は眼を閉じてみせた。

 

 

「ちょくちょく当主に()()()時に調整してたんだけど、彼らの体が持たなかったみたいだね。強い器が必要になった。」

 

 

「宿儺との"縛り"もある。器の強度は不可欠だから、器作りに専念したよ。ノウハウは同じものだから助かった。」

 

 

「成果が()()か?」

 

女は宿儺の言葉に反応したようだ。ようやく男に顔を向けた。手中にあるその呪物に視線を向ける。

 

 

「いや、私が飽きて去っても、長い時間をかけて育ったんだ。伽藍(かれら)の成果さ。」

 

 

「伽藍 翠の生み出した特級呪物。これは漏瑚にでも持たせようか。」

 

 

 

 

 






強い肉体、熱い炉、すごい粘菌!
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