強き呪いは猛りて爆ぜる   作:ゾエア

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強き思いは猛りて爆ぜる

 

 

領域の展開は同時。領域の押し合いが始まる。

 

「…」「─ッ」

 

紺藍の大地に、醜悪な樹木が立ち上った。

根元には紋様の刻まれた人型が囲むように座る。幹には苦悶の表情を敷き詰め、枝は腹を膨らませた女体で構成されている。その術式効果は──

 

互いの術式は空間に付与され、必中効果として襲いかかる。その必中効果が空間に重複して打ち消しあっている。つまり領域を制するものがそのまま勝利に直結する。

 

 

──なんだこの領域!?領域外殻がねぇ!!そんなの五条悟でも無理だろ!!

 

 

「私を巻き込んで自爆する予定だったかな?でも残念。領域の押し合いには自信があるんだ。」

 

 

領域の術式効果はもちろん結界内にしか存在しない。だが、仮に外殻が存在しないなら、術式の効果範囲だけが空間を占めるだろう。そしてその効果範囲は、()()()()押し合いをしない。効果範囲同士をぶつけるという概念的な勝負になる。

 

 

領域は外側からの攻撃に弱い。通常外からの侵入を想定しないためだ。夏油傑の展開した領域の効果範囲は、耀の領域外殻を()()()して──

 

 

敵領域の外殻に術式効果をぶつける。それは重力。強化された重力は黒い結界外殻にギリギリと音を立てる。そして──

 

 

 

 

耀の領域が崩壊する。

 

 

 

「!!」

 

 

目を見開いた耀。少し残念そうな表情の夏油。勝負は決した。そのまま重力の奔流が耀を大地に押し付ける!!

 

 

 

「ガァッ!!」

 

 

左膝を地面につけ、右足を踏ん張った。両腕でも体を支える。手の中の呪物が重力で指に押し付けられている。

 

 

「我ながら流石と言うべきか。それにしてもタフだね。」

 

 

「──あん?」

 

「ん?あぁ。言ってなかったか。伽藍は僕がつくったんだ。勝手に育っていったけどね──

 

 

 

 

 

 

 

 

──瞬間、脳裏に過ぎる走馬灯。崩壊する肉体、進化する炉、特異的な粘菌、父の顔。一族の終わり。メカ丸の死、仲間の涙、祖父の予想。拡張術式。粘菌の可能性、アイツと遊んだ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?」

 

夏油は訝しんだ。その肉体は夏油本人のものだが、()()は別物。伽藍創設に関わっている。その炉の出力からしても、流石にそう耐えられているはずがない。何かおかしい。

 

 

 

 

 

 

 

耀の手に押し付けられた黒曜がずぶりと皮膚を突き破る。それは掌に潜り込み、拳を貫通し、手の甲に顔を見せて赤い光を零す。

耀は立ち上がった。その姿は重力を押し返し、獰猛に夏油を見返している。

 

 

 

「炉を二つも入れると身がもたないよ。」

 

夏油のアドバイスも聞こえていないように、耀は語り始める。

 

 

「──アイツとの遊びだったんだ。取っ組み合いはいっつも勝てねぇ。()()()()()()()()()()()()。アイツが地面に丸書いてたな。」

 

 

耀は拳を地面に叩き込む。また叩く。何度も叩く。やがて地面に赤々とした()()を染み込ませていき──

 

 

 

至巓核炉の()()が発動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

至巓核炉の術式効果は呪力出力向上ではない。それらは単なる副次的なものであり、本来の効果は別にある。勝負がつくまで出られない特殊な領域だ。それは一定の範囲、半径20m程の空間を領域に変え、強制的にデスマッチを開始する。魂ある二体の呪力を注ぐ必要があるが──

 

 

 

 

「私の領域か!!」

 

 

領域の術式効果は至巓核炉にも及んでいた。至巓核炉は夏油傑と伽藍耀二者の存在を呪力により認識。その使用者は死闘開始を宣言する。

 

 

 

「第二ラウンドといこうか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──恐らく術式は両者の逃亡を防ぐ効果だ。しかもかなり強力みたいだね。

 

 

素早く距離をとり、領域外に出ようとする夏油だったが、まるで五条悟の術式効果のように、空間にぬい止められてしまう。内部に戻る動きには支障がないようだ。

 

 

夏油はくつくつと笑い始める。

 

「いやはや これ程までとはね 彼女を侮ってたよ」

 

「あぁ。アイツは強えやつだったよ!!」

 

 

迫る耀に対して、夏油は肉体に刻まれた術式を発動する。

 

──どうやら必中効果も消えている。厄介だ。

 

 

現れるのは巨大な呪霊。ねじれた鼻と横から生える双牙。四本の手と二本の足ではい出てきたものは合掌をしながら立ち上がった。

 

「近づかないでもらおう。」

 

 

それは"あらゆる障害"を取り除くアジアの神の呪い。術式対象に概念が絡む特級呪霊。眼前の耀を対象に選び、術式を行使する──!!

 

 

──耀には何も起こらない。しかし耀は忌々しく顔を歪めた。

 

()()を飛ばしやがったか!!」「それも対象だからね。というか本命だろ?」

 

 

耀の狙いはバレていた。

呪物を守りながら術式発動まで時間を稼げば、相手諸共吹き飛ばせる。しかし最初に設置した粘菌は既に()()()()()()。また設置するためには──

 

 

「こいつからか!!」

 

その象のような頭に狙いを定める。赤熱した粘菌を振りまきながら、攻撃をしかけようとした。

 

「──ッヂィ!」

 

 

突然の浮遊感。鯰型の呪霊だった。それは地面に潜り込むと大穴のように広がりを見せて、耀を転ばせた。そこに殺到する百足型の呪霊達。粘液を滴らせながら迫った。

 

「ッラァ!!」

 

 

地面に拳をぶち込む。そこに粘菌が注がれ──爆発を起こさない。それは赤熱して地面を焼き焦がしたままだ。鯰の消失反応が上がる。

 

 

「なるほど?」

 

 

──粘菌も変質しているようだね。恐らく放熱している。その後の爆発か。ばらまいた後にスイッチを入れるタイプ。だったら──

 

 

「本体を仕留める。」

 

百足を引き裂きながら耀が飛び出す。小細工と手札の数が呪霊操術の強みなら、伽藍耀の強みは──

 

 

「真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす!!」

 

 

 

「冷たいのは得意かな?」

 

一級相当の呪霊達が氷と水の圧縮混合液を耀へぶつける。急激に冷やされた肉体が出力を落とす。だがそれでも止まらない。そのまま夏油へ足を運ぶ!!

 

 

「出力が落ちてるよ?これはアタリだったね。」

 

「しゃらくせぇ!!」

 

低級呪霊を呪力で強化。盾に足にと使いこなしながら、夏油は耀をいなしていく。

 

 

──邪魔だ!!呪霊をやるか。でも粘菌は特級呪霊に吹き飛ばされる。本体はヒットアンドアウェイを繰り返して仕留めきれねぇ──

 

 

 

 

──終わりだね。設置型の粘菌なしでは私を狩れない。かといってそれ以外の高出力もないようだし──

 

 

ラアァァァ!!

 

 

突然の咆哮。二つの炉心が唸りをあげた。混じる金属音。既に()()は撒かれていた。目に見えない粘菌は胞子を飛ばし、活性化の合図を待っていただけである。ただ、術式範囲と出力が足りなかった。だが──

 

 

「ッ!!やるじゃないか。」

 

術式の出力が上がる!!

世代を重ねて進化した()()()炉。鍛え抜かれ変質した黒曜の体。祖父の育てた赤熱粘菌。全てが揃っている。

 

特級呪霊の右牙が融け落ちる。赤い粘菌は捻れた鼻を焦がしながら額にまで駆け上り──全身を爛れさせながら崩れ落ちた。

 

 

 

 

「──正直侮ってたよ。私は伽藍 翠に期待してたからね。」

 

「…俺は貰ってばっかりだよ。」

 

 

今度こそ粘菌を地面にぶち込む。夏油を狙いながらも、隙を見て打ち込まれた先の地面には赤い溶岩のような粘菌溜りを作っていく!!

 

 

 

領域内を粘菌溜りが覆い尽くすようだった。赤熱したそれは足の踏み場もなく、夏油を追い詰める。

 

 

「結局この手を使うことになるとは。因果なものだ。」

 

 

既に耀の肉体は限界だった。その肉体と至巓核炉のどちらかを破壊すれば、領域からの脱出が可能だ。すなわち──

 

 

「呪霊操術 極の番 『うずまき』」

 

 

黒々とした人類の恨みと負の感情が渦を巻く。伽藍創設に関わる程の昔から、コツコツと集めていた呪霊であった。契約を放棄し、呪霊操術によって操作している。それら全てを呪力に変換。全てを吹き飛ばす渦流が狙いを定めた!!

 

 

 

 

既に粘菌は活性化を始めている。赤熱は第一段階であり、最終段階は領域内の全範囲を吹き飛ばすだろう。耀諸共。

 

 

極小のうずまき達が胴体を貫いていく。しかし術式行使は止めない。右拳と胸部の炉が瞬く。領域内が高熱を帯びて──

 

 

 

「──私が手放した混沌…か。」

 

「お前が残した呪いさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──こんなの作ってたのか。」

 

 

そこは渋谷爆心地。長い金髪を後ろにひとまとめにした女はその精密機械を眺めていた。呪いの存在を一部公表した日本では、東京周辺に呪力が集まっていた。その呪力を──

 

 

「呪力変換炉。恐るべきはその集約性だね。日本の各支部でも変換できるの?」

 

「はい。メカ丸のおかげです。伽藍の人達も強力して。それに、これも可愛いですよ?」

 

 

特徴的な呪骸の頭を模したそれは、メカ丸君グッズであった。機械製品にも独特なエンブレムとして刻まれている。水色の髪を伸ばし、刀を脇に差した女が答えた。

 

「チャーミングだね。流行りそうだ。あぁ。それと──」

 

二人は歩き出す。機械群が立ち並ぶ所から離れて、特徴的なオブジェの前へと移った。

 

 

「彼はド派手にやるかと思ってたけど、繊細なんだね。半径20mだけで事件を収束させた。私じゃそうはいかないだろう。」

 

 

渋谷では大勢の犠牲者が出た。宿儺の指はまだ残っている。虎杖悠仁の処刑はまだ五条悟の一存で止められていた。未だ呪い合いは続いている。

 

 

「呪霊のいない世界。そのための一歩か。」

 

 

呪力の集まりやすい都市に配備される炉心。それは呪力が呪霊となる前に、エネルギーへと変える発電装置だった。海外の人口密集地へも配備を予定している。新型エネルギーの到来は日本を中心に波乱を呼び、争いを産む可能性もあった。

 

女の思い描いた未来とは違うが、彼はわがままを通したようだった。

 

「いずれ呪力も必要なくなればいいけどね。まーいっか!」

 

 

 

女はまた夢想する世界を目指すようだった。

オブジェから遠ざかっていく。

 

 

 

黒曜石に翡翠を収めたそれは爛々と耀いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おわり
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