強き呪いは猛りて爆ぜる   作:ゾエア

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光る粘菌のナゾを追え

 

うちの家系は間違いなくイカれてる。

京をルーツにもつ 伽藍(がらん) の末子が1人

耀(よう) はそう結論づけた。

 

伽藍家に継承される特殊な粘菌は、活性時に光る。それは派手に蛍光色の緑だ。しかも色は時間経過とともに変わり、緑から黄色、赤へと変化し最後は()()する。とんだ危険物質。さらに粘菌は物体にへばりついてなかなかとれない。それこそ2、3回転がり回らないと除くことはできないだろう。

 

 

耀は手を握り術式を行使する。たちまちその表面は緑色を帯びた。ゲル状の粘菌は明滅しながら握り拳を武装する。

 

 

そんな危険な粘菌を継承──というか勝手に体に付いている──する伽藍家の術師達は上手にお付き合いしているようだ。

伽藍家で普段生活するうちに、子供たちは見えない程微小な粘菌に取りつかれ、その宿主となってしまう。もちろん活性時でもなんでもない普段の粘菌は大人しいうえにそもそも見えない。そのうえ健康被害などは確認されていない。しかし、事態は伽藍家相伝の術式開花と共に変わる。

 

術式の行使が可能になれば本能的に術師は察する。体中に広がる粘菌はそれ即ち強力な爆弾だと。術式に呪力を流し、粘菌を活性化させることで、その攻撃は爆撃に姿を変える。大樽いっぱいの火薬を詰め込んだ爆弾にも勝る衝撃である。

 

 

…おち…ぅ」

眼前の呪霊は恐らく3級程度だろう。ピッケルじみた両腕は血を滴らせている。何か獲物を屠ったあとのようだ。

 

 

粘菌の視点から見ると、胞子を爆発によって広範囲にばらまくこの術式は利益を生むらしい。活性化させるエネルギーすら呪力便りで粘菌は嬉しいことだろう。伽藍家は術式を操り、衝撃や圧力で爆発するような開発に余念が無い。お互いウィンウィンである。素晴らしい共生だ。

 

だが粘菌は、宿主が爆発に耐えられるかどうかなぞ考えていない。というよりどうでもいい。胞子をばらまけるからばらまいているだけだ。そこに体を労る発想はない。

 

やわな肉体では爆発と同時に拳も砕ける。反転術式を使うこともあるだろうが、それより効率がいい術を伽藍家は獲得した。

 

 

爆岩(はがん)

 

蛍光色を発しながら拳が呪霊に叩きつけられた。それと同時に爆発。断末魔すらかき消して呪霊の消失反応を起こした。

煙が晴れ見える腕には傷一つ見えない。呪力強化による賜物──ではなく、特異的な体質のおかげだ。

 

 

答えは砕けない拳を持つことだった。

 

幾度も粘菌爆発と呪力強化を行った拳はやがて黒く鈍い光を放つようになる。打撃と同時に爆撃を近距離で放っても傷一つつかない高度な耐爆性を持った肉体だ。長年粘菌と共生することで、爆破に耐えきれる肉体を持つ当主が子を残すため自然とそうなっていった。『黒手』なんて渾名がつくこともあった。

 

だが相伝の術式も頑強な肉体も、結局のところ遺伝に左右された。

 

頑強な肉体が遺伝した方はまだよかった。単純な呪力強化と俊敏性は術師の中でも()()()()()()()だろう。高圧高温に耐える体はそれだけで凶器となった。

 

術式のみを遺伝した者はどうなったか。これについては多くの前例が伽藍家に残っている。術式行使に耐えられず爆散。拳が砕け爆風による内臓破裂。撒かれた活性粘菌に足を吹き飛ばされる。身体の近距離で爆破を自ら起こすなど本来ただの自殺行為である。

 

リスクの少ない頑強な肉体を持つものは他術師家にとっても魅力的に思えたようだ。といっても術式ほどの価値はみえず、文字通り()()()()()()()()()()()ようなものだ。

 

頑強な肉体から術式と粘菌による耐爆性を獲得し、圧倒的な攻撃性能を備えたものが、伽藍家の現当主

伽藍 (つよし) である。

その子息のうち、明らかに剛い肉体と術式開花による粘菌活性化のセンスを持った男子こそ

 

 

「爆発は呪霊のばっちい血を吹き飛ばしてくれるからまだマシだな!」

 

 

呪霊討伐に駆り出された耀その人であった。

 

 

二撃、三撃。

地上で派手な花火を上げながら呪霊を次々と葬る。某県の心霊スポットは余程溜まりがいいようであった。火薬に欠けることはない。

 

蝕菌(しょくばみ)

 

 

手の平で触れた箇所から粘菌が走る。呪霊はこびり付くゲル状質を剥がそうとするが、触ればそれだけで広がる。粘菌の色は赤々と変わり…爆ぜた。

 

 

こに、いますあ!?」

 

 

三匹ほどの醜悪な犬を鎖に繋いだ呪霊が大きな目で見つめてくる。

 

じゃれてくる犬の頭部を吹き飛ばしながら、耀は地面に粘菌を注いだ。呪霊は粘りに足をとられながらも鎖を振りかざす。

 

 

廓緑(かくろく)

 

爆風が呪体全てを吹き飛ばした。

 

 

 

 

帰りの車内で耀は一方的に愚痴る。

 

「爆発する粘菌使うためにわざわざ肉体改造するとかおかしくない?そんな危なっかしいもん使うのが一族の誇りってどうなんだよ。」

 

伽藍家の子息本人から否定的な文言が飛び出すが、運転手たる男は苦笑いで答えるしかなかった。

 

「耀さんは使える側だからいいんですよ。使えない方、命が危ないって方皆さんはあなた方に期待する他ないんですから。」

 

術師の家系で重視する血筋や実力、さらに権力が関わってくる他家に比べると、伽藍家はまだマシかもしれなかった。

 

伽藍家の男は肉体の強度それそのものを試される。それは術式開花時から体験する無数の爆発であったり、危険の伴う術師としての活動のうちにあった。

術式()()を持った男は、その子供たちが頑強な肉体を持つことに賭けるしかない。伽藍家の血であれば特異性質を発現する形質を持ちうるからだ。

総じて男は早死傾向にあった。術式性能も戦闘スタイルも攻撃特化だ。自ずと鉄火場に携わる。その爆発を制御しきれずに死んでいくことも珍しくなかった。五体満足で()()()ことは多くない。

女はシンプルだ。2要素を兼ね備えた──黒手に至る男を産むことを目指す。昔ながらの価値観と言うべきか、家を守り、子を育てより強い血を産むこと。その点を重視する傾向にある。強い子が産まれれば家は更に繁栄する。他所から嫁いできた女は特に強い子を望んだことだろう。

 

 

「親父はどうなんだよ。当主として申し分ない実力があんのに、まだ上を見てるし。おじいちゃんは偉業を成し遂げたのにって?」

 

「毅様は更なる粘菌の強化をお望みのようですね。相伝の拡張術式や反転術式といったところとは別の方向みたいですが。」

「あなたの御祖父様は粘菌の臨界点に到達したと。晩年もその手法を詳しく語らず、戦えば分かるの一点張りで…」

 

「呪術師ってよく脳筋になるよな。よっぽどの呪霊も術師も殴れば勝てるみたいな。」

 

 

運転手は苦笑を更に深めた。

 

 

 

 

「まだ漫然と術式を行使しているな。」

 

──報告したそばからこれだ。なんで分かるんだよ。

 

「粘菌を見れば分かる。活性化はまだ機敏にできる。呪力操作の甘えは肉体の負荷に直結する。鍛錬を怠るなよ。」

 

「へいへい。」

 

 

目にかけている故か、その指摘は実用的だ。耀からは小言に聞こえるだろうが。

 

 

「お前はなまじ肉体が()()だ。ウチでも特にな。術式や呪力強化を極めればいずれ臨界も…」

「わかったわかった。あれだろ。あのおじいさんの話。ハチャメチャに強かったし、()()()()()()()っていうあの。」

 

「呪術師の成長は必ずしも緩やかなものではない。キッカケは様々だ。前当主はそれが戦闘だったのだろう。それだけだ。」

「お前も、そして私も。土壌はある。あとの差はそれぞれ埋めるしかない。」

 

 

 

「衝撃で爆発させる。時間差で爆発させる。即時爆破する。出力を上げれば周囲も吹き飛ばせる。これ以上何が欲しいってんだ…?これ以上の強さが必要になるのか?」

 

 

 

臨界に至った血は確実に継がれている。炉心はまだ冷えたままだが。

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