「んだよこんなとこよぉ。」
「湿気てるし、虫に刺されるし。竹しかねぇのかよ。」
ぶつぶつ独り言を唱える青年はわざわざ竹林の奥深くに来ていた。
人が来ないような山の奥地にもそれなりに需要がある。嵩張り重いゴミ、それらを載せた車は、ここ最近でかなりの量を投棄出来たらしい。青年達は仕事を済ませたが、仲間の1人は立小便へと向かった。
ここらの山林は
仲間が驚いた様子で帰ってきた。
「先の竹林!向こうに見えるあそこだよ!あっちで女性が何かに引きずられてっ!」
仲間は興奮状態にあった。
「ほとんど何も着てないみたいでさぁ!助けないとなぁ!」
血走った目は助けたあとのことまで考えているようだが、青年は無視した。
「こんなとこで裸ぁ?明らかにワケありだろ。関わるとろくなもんじゃねえよ。」
「でも行かねぇと!行かねぇといけねぇじゃねぇか!男だろぉ」
話が通じない。そのうち、仲間は竹林に向かって勢いよく入っていった。
青年はさっさと帰りたかった。ここがいわく付きであることもそうだが、何より人間の方も厄介である。こっちの仕事も後ろ暗いことから、お互いのためには関わりたくない。
ところが車の鍵は仲間が持っていた。このまま歩いて帰るより、仲間を宥めて車で帰った方が快適だろう。青年は仕方なく竹林に入っていった。
そうして竹林に入ったはいいが、仲間の声も聞こえず、不満しか出てこない状況が1時間ほど続いている。薄暗い竹林は不気味な空気をたたえ、もやのかかった視界の先は出口も仲間も捉えられない。
「あーもう無理だろ。アイツ置いて帰っていいかなぁ。」
限界を感じた青年は、仕方なく竹林の出口を探すことにした。といっても、竹に傷をつけて目印なんて器用なことはしていない。ぐるりと見回して、とりあえず良さそうな方向に歩いただけであった。
「あぁあたすけてぇ」
女の声だ。
か細いが確かに聞こえた。
女を竹林に引きずる手合いなんてそれこそ尋常じゃない。引きずる方が後処理の道具なんて持ってたら寧ろこっちの身が危険だ。声のする方から離れようとする。
「だぁあずうげでえええ」
確かに裸の女だった。
だが
本来下腹部に続く部分には竹が繋がっており、背骨を延長するかのように伸びている。接合部には肉を埋めるように根が張り巡らされ、どくどくと脈打つ。
竹はしなるように女を動かし、まるで引きずられるかのような動きを見せている。しなる竹の先に見えるものは──
耀は某県の山林に車で向かっていた。
田舎よりも都会の呪霊の方が狡猾で知恵がある。だが人の悪意の質はどちらも似たようなものだろう。閉鎖的な空間や悪い噂話。呪いの材料はいくらでもある。
噂話だけならともかく、死体や死そのものが関わるとそれはよく溜まりやすい。いや、向かいやすい。
「かつての山には悪い話はありませんでした。しかし、悪徳業者の不法投棄から続いた治安の悪化は、死体遺棄発見にまで及び、その後さらに行方不明者の増加を招きました。」
運転手は淡々と語っていく。薄暗い山道を登りながら、よくある話のように。
「それで御鉢が回ってきたってことか。でも
「ありました。が、今回は立地と条件の悪化を加味し、当主様がご判断されたようです。」
「親父が俺に?どういうことかね。まぁまともな呪霊ではなさそうだ。」
「人を竹林に誘う。この性質を危険視するか、それは現場の判断に委ねますが…」
「んん?」
「竹林が広がりつつあります。現場の地形図と照らし合わせて、竹本来の生態とみなしても不思議はないですが。」
耀を下ろした車は手際良く現場を離れていく。帳を下ろさずしてだ。
「…生えてんな。」
目の前でタケノコが音を立てながら伸びていく。それらは青々とした竹となり、葉を鬱蒼と茂らせ暗闇を作っていた。
またタケノコが顔を出す。
竹は地中を並行に伸びる地下茎の節からタケノコを生やし、半年もあれば立派に高く生育する。地下茎は縦ではなく横に伸びていき、1年もあれば5メートルは伸長する。非常に生命力旺盛な植物だ。
だが眼前でミシミシと音を立て成長している様は明らかに異常だ。しかも、伸びるタケノコの下には地下茎が既におよんでいる。
耀は竹林が伸び進む方とは逆の、竹林の最奥を目指した。明らかにそこにいる。呪力を隠す気もなく。山を進んでみせたのは挑発か。それは直接聞き出すようである。
竹林内は薄暗く、死臭の甘い匂いが漂っていた。奥に視線を向けてももやがかかり、竹林の外縁は不明だ。不法投棄されたゴミは転がっているようだ。
ダウンジャケット。眼鏡。水筒。ビニール袋。鍵。靴。靴下。ズボン。シャツ。下着。
「おおーい」
声が聞こえる。呼んでいるようだ。
「こっちだよおお」
「はやくきてよお」
「たすけてえ」
奇妙なオブジェであった。
竹は本来真っ直ぐと稈を伸ばし、その節から枝葉を伸ばすものである。
しかし、そのオブジェは葉をつけているわけではなかった。
節から伸びた太い竹は人間の上半身と繋がり、まるで葉脈を伸ばすかのように筋根を見せる。背骨と一体化したような竹は斜めに角度づけ、頭と2本の腕は竹の葉のようにピンと三叉に伸びる。
それら上半身は各々が言葉を叫びながら、竹の太い稈をビクビクと震わせている。
奥から伸びてきた竹は怪しくしなりながら、各々の叫びを吟味し、最も人を呼べそうなモノを一本選んだようである。混ざり合うかのように結合した竹をまるで蛇のようにくねらせながら、上半身だけの者は声を張り上げる。
「ごっぢだよおお」
不法投棄は犯罪です