賑わう声が聞こえる。注文とそれに応える店員。パチパチと脂の弾ける音。ただよう煙は吸気口に吸われていく。強く香る炭の匂いと、焼けた脂の匂いはそれだけで食欲をそそる。
某県某所の焼肉屋で、四人は網を囲んでいた。
「なんで焼肉なのよ。臭いとか気にしないわけ?」
金髪を斜め上に固定したツインテールと、碧眼が特徴的な西宮はそう言い放つ。ワンピース型の制服を纏った小柄な女性はどうやら不満があるようだった。
「だって肉食いてぇだろ。任務前だしな。」
育てていた肉達をまとめて収穫し、バクバクと口内に放り込んでいく耀。そのまま流れるように新たな肉を火にかけていく。食欲はまだ満たされていない。
「俺たちはいつ死ぬか分からん。故に後悔のないように生きていくのさ。肉が食いたければ食う!そうだろう
「お。これ美味いな。」
店内の暑苦しい雰囲気に妙にマッチした筋肉ドレッドヘアの東堂。強面は丁寧なトング使いで焼肉の加減を操っていた。薄白い前掛けと相まって店員のような所作である。野菜、肉をバランスよく網に彩る。耀は野菜を食べなかった。
「あのー。皆さん焼くのはそのぐらいで済ませては…?」
黒のスーツを着用した補助監督は、学生の奔放さと自由さに辟易していた。若干引いている。
四人は任務前だというのに、焼肉を堪能しているようであった。正確には二名しか味わえていないようだが。言い出したのは耀だった。腹ごなしにでも、なんて補助監督に言いながら着いた場所は焼肉屋であった。東堂は普通に仕切り出すし、耀は肉を片っ端から焼いていく。残った二人は当惑していた。
「ちゃんと奢るぞ?」
「やはりか。まだまだいける!」
「そういう問題じゃないわよ!今から祓うって時になんで肉食べようってなんのよ。」
「あのー。そろそろー。」
ようやく四人は会計を済ませて出てきた。
東堂と耀の2人だけで爆食である。身長も相まって健啖家なのだろうか。後から追ってくる東堂は口臭ケアを行っている。
「一応確認しますが、今回の任務内容は覚えていますよね?」
「──呪いを祓う。それだけだ。」
「炭鉱跡の調査ですよね?窓による報告で呪霊の密度が増してるって。」
東堂は臭いを気にして支度し直すようだった。奇妙な清潔意識に三人は引いていた。
過去の事故現場や心霊スポットといったところは負の感情を向けられ、呪いが溜まりやすい。今回もそういった場所の巡回であった。
場所は炭鉱跡。古びたレンガ造りの建物や、奥に見える発掘場所に続くトンネルは怪しい雰囲気を放っている。炭鉱の事故には有名なものも多い。さらに先の見えない暗闇の現場にはよく呪力が向かうだろう。
「帳を下ろします。粗方祓い終えれば任務を終了してください。それでは。」
補助監督は仕事もそこそこに送り出した。狂人の相手には向かなかったようである。
やっと学生の仕事ができるようだった。西宮の任務は同級生の狂人二人のサポートである。特に歌姫先生からは執拗に注意されていた。肝心の二人が強いことはある程度認識してはいた。…が。
「ッフン!!不甲斐ない!!これでは不完全燃焼だ!!」
群れた呪霊は弱く、東堂も耀も術式なしで難なく祓う。東堂にいたっては張り合いのなさを叫んでいた。呪霊の数は多いが、それだけであった。
先生に心配された通り、二匹の手綱は握れない。しかしどうやら強さは申し分ないようだ。これならすぐにでも終わりそう。
そのまま一向はトンネルに向かう。私が飛ぶには天井低いなぁ。なんて西宮は思っていた。
中は真っ暗で何も見えない。しかし三人は気づいている。
カッカッカッと何かを打ち付けるような音が聞こえて──
──熱線が地面を薙ぎ払った。
「──っふう。」
耀は両腕を盾のように構え防御に成功していた。制服は一部分犠牲となっていたが。
それは地面から体を半身まで出し、特徴的な嘴を打ち鳴らしながら笑っていた。黒い煤と鈍い光沢を放ちながら、体の側面には悪趣味な頭蓋骨を無秩序に飾っている。纏う雰囲気と呪力から、少なくとも一年が駆り出されるレベルの呪霊ではなさそうだった。
胸部は赤熱し、光を持った。それは徐々に輝きを持ち、また嘴を開こうとする。
「シィッ!!」
耀が肉薄する。呪霊の横っ面を完璧に捉え二撃、ぶん殴る。
「
熱線はわきに逸れ、地面を黒く焦がした。
呪霊は嘴を地面に叩きつけ、体を回転させ潜ってゆく。
「完璧に入ったな。しかしその様子だと…。」
「硬ぇ。術式ありなら削れそうではあるが。」
トンネル内では派手な粘菌爆発を起こせない。自分はともかく、爆風が飛び交う戦闘を、会って日の浅い同学年の生徒とともに連携するのは無理があった。
「来るよ!」
地面を裂きながら立派な鰭が迫ってくる。熱線が効果なしと見て物理的に攻めてくるようだ。
「東堂!!」
「おう!!」
地面に拳を叩きつける。地盤は割れ、呪霊は飛び出した。
しかし自ら回転し、威力を上げながら嘴をドリルさながら向けている。
「フン!!」
東堂は呪霊の嘴ごと頭を脇に挟むように押さえ込んだ。急制動による反動で呪霊の鰭や脚、尾鰭が暴れ回った。
耀は身体各部の粘菌を部分的に活性させる。それは一方向への爆風噴射で稼働する加速装置だ。腕部の粘菌が小規模かつ効果的な爆発で拳を加速させる。
『
呪力で強化し、さながらジェット噴射で加速した剛拳が暴れる呪霊を窘める。
呪霊は悲鳴をあげた。今度は効果があったらしい。東堂の押さえ込みで嘴を開けず、赤熱した胸部は役に立たない。
呪霊は体側部に呪力を流した。
飾り付けられた骸骨の口が開く。プシューと間の抜けた音とともに気体が出た。
「っ!!」
東堂は溢れる気体を察したらしい。拘束を解いて呪霊を蹴り飛ばす。
「メタンガスだ!!」
カッと打ち鳴らした嘴の火花から引火。トンネルを爆発が襲った。
メタンは人体には無害だが、多量の場合に酸素不足に陥る危険性がある。また、引火性が極めて高く、メタンガスと空気の混合物は爆発性である。
トンネル内壁の一部が落ちていた。爆発を察して前に立った耀は、その特異性からかピンピンしているが、二人はどうか。
「まだ動けるか?」
「流石の反応だな
「ここじゃまともに飛べないし、せめて外に出たいわね。一旦退きましょう!」
「異議無し。俺が盾になって凌ぎながら外へ出よう。」
それは黒い粘液に覆われていた。爆風で
黒い粘液から頭が現れた。頭部は黒液だらけだが、滴り落ちるうちに表情を見せる。むき出しの筋繊維は顔中に張り巡らされ、黒い骨とともに顔面を形成した。窪んだ眼窩には角張った石炭が嵌められ、不気味な火を残していた。
それは首や胸部を腕や翼腕で掻きむしりながら、もがいている。爪が通ったところから黒い血が吹き出た。
「み、みずがほしい…。みずはどこだ…。どこにある…。外に出たいぃ…
でたいいい!!!!」
東堂を活かしきれない。もっとクセを出さなきゃ。