強き呪いは猛りて爆ぜる   作:ゾエア

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近寄りがたいアイツ

 

 

──こりゃすげぇ。

 

眼前で放たれる膨大な呪力。それが、ただ一人から生じた呪いだと誰が信じるだろうか。黒髪をつんつんと尖らせた少年は、真剣な表情で呪霊掃討に取り組んでいる。その背後に見えるのは、外付けされた超巨大な呪力量。取り憑いた()()()()()はどうやら真面目に努める少年の活動を応援しているらしい。拙いながらの呪力操作を圧倒的な呪力総量で補い、呪霊の数を瞬く間に減らしていく。

 

「伽藍君も東堂君(バカ)みたいに質問してみないの?」

「するか。あんな自殺行為。賢者は時に逃亡を選ぶんだよ。」

「散々二人で偉ぶっておいてかっこ悪〜。」

 

 

先刻、()()()()()()に取り憑かれた少年に女の好みを聞くという蛮行を成し遂げた男に対して、耀は改めて畏怖を覚えていた。後の腕試しは無事終えたが、彼は満足そうに気を失っている。かの少年に何かを感じ取ったようだった。

 

うちの女子も、偉そうな男衆を大人しくさせた乙骨クンには感謝しているようだった。珍しく及び腰の耀に対しても容赦なく野次をぶつけている。加茂も旗色が悪そうだ。

 

 

「明日は個人戦だぞ。アイツとサシでやれんのか?」

「げ。無理よそんなの。」

「だよなぁ。制限ありの試合だと俺とかほぼ呪力だけだろ。それであの総量と張り合うとなると日が暮れるな。」

「なんだ。やっぱり伽藍君もダメじゃん。」

「東堂とかにメンタル削らせて不意打ちでもするか。」

 

 

姉妹校交流会一日目。東京校の圧勝。

 

 

 

 

「いやー。参ったねー。葵も歯が立たないかー。このままじゃ明日も勝っちゃうよ?誰か憂太と戦ってくれるナイスガイはいないもんかなー?」

 

白い包帯で目を覆い隠した白髪の男は、軽薄な口調で言葉を発した。身長は190cmを越す東堂と並ぶ程か。耀に対して安い挑発をしている。キョロキョロと周りを見回すしぐさはコミカルに見えた。

 

「そっすねー。ヒートアップするたたかい!次第にそれは試合の域を飛び越え、満を持してリカちゃん登場!あとは野となれ山となれー。って感じですかー?」

 

耀は投げやりに返した。術式ありの()()()()()が出来ない以上、やる気を見せないつもりである。顕現が実際に起きている以上、リスクを感じていても不思議ではなかった。乙骨の生真面目さと人柄は、東京校の仲良さげなやり取りで何となく読み取れた。が、それとこれとは別問題であった。自分や東堂、五条悟ならともかく。()()()()()()()を、保守的な京都高専関係者の前で呪殺させるワケにはいかない。秘匿死刑すら危ういと執行見送りされた、という件も聞かされていることはあるが。

 

 

「ビビってんの?」

「は?」

「術式ないと怖いんでしょ?あの東堂葵をぶっ飛ばしたもんね?流石に呪力オンリーだと耀も逃げちゃうかぁ。」

「んなワケ──」

「──()()()()()()。特級相当の呪霊が顕現するかもしれないって思ってたかもね。それでも()()()で挑んだ。」

「……」

「葵の前に現れたんだ。君との試合で出てもおかしくない。でも、弱気になる必要あんの?そんなに自信ない?葵を皮肉ってても、君は強くなれないよ。」

 

──ま、僕がいるから大丈夫。何とかなるさ!

そうやってあの最強は明日の約束を一方的に取り付けて、帰って行った。

 

「かっこ悪い…か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、乙骨は遅れてやってきた。先日の働きぶりで疲れが溜まっていたらしい。急いで試合場にまで足を運んでいた。既にほとんど学生は集まっていたようだ。ピリついている試合場の雰囲気。そんな中、()()()()の特級術師が一人遅れてやって来るのは心象良くないだろう。自分はそんな大層なものじゃないのに。すぐに遅れたことを一言謝ろうと、皆の顔を見渡そうとして──

 

 

 

 

 

 

────術師と目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

(ほんとに昨日と同じ人!?)

 

紺藍の髪をかきあげ、その術師は闘いの空気を纏っていた。据わった目が視線を送る。黒いインナーと、ダボついたサルエルパンツは学生のものだが、立ち上る呪力は歴戦のそれだ。浮かび上がる胸板は堅く鍛えられている。黒く染まった両の手は軽く握られ如何にも脱力然としているが、瞬時に攻撃を可能としていた。まさに噴火を待つ火山のような闘志は、試合相手を待っているのだ。

 

完全な戦闘態勢。しかも決死のレベルだ。先日の試合後、何か()()()()()があったらしい。先生から聞いた話と違う。リカちゃんを出すなと言われたぐらいだ。当人はニヤニヤと笑っているが、何か挑発でもしちゃったんじゃ──

 

「乙骨。」

「はいぃ!」

「俺が勝つ。」

「…!ぼ、僕が勝ちます!」

 

お互い対位置に着く。そそくさと対戦相手を決められていくが、乙骨憂太と伽藍耀の二名しか見えない。

先日と同じように刀を構え、先日とは違う相手に向ける。

 

 

 

 

──低級呪霊とはワケが違った。

ぶつかり合う拳と刀。どうしても呪力操作の精度には差があった。時折上がる火花は、人体との衝突とは思えない現象だ。

 

刀の軌道を手のひらで逸らされる。指先まで覆う繊細な呪力操作が可能にした。そのまま腹部に蹴りが炸裂する。

 

(──ッ!)

 

たまらず相手の脚を抑えようと腕を動かすが、胸部に向けて二発の拳。乙骨は仰け反る。すかさず追撃を喰らわせようと迫る耀に──

 

刀を持ち替えた乙骨の打撃が入る。膨大な呪力量に裏打ちされた衝撃を左腕で受け止める。その隙に乙骨は距離をとった。

 

睨み合いが続く。

 

 

 

──流石なもんだな。供給される呪力量だけでこの威力。出力も上げりゃあ、いい火力が出るはずだ。おまけに防御も堅ぇ。まるでデカい水槽にぶち込んでるみてぇな手応えだ。長く続けりゃコッチのガス欠が早い。だったら──

 

「!!」

「アゲてくぞ!」

 

短期決戦を望んだ耀が飛び込む。左右にステップを刻んでなお、加速する弾丸が近づいていく。低めの軌道を読み、そこに刀が振るわれる。

 

「!?」

 

横っ面を掠らせながら、半身を捩り、乙骨に肉薄する。振るわれた刀は空を切り、そのままかえす刀で対応するしかない。

 

ゴッと鈍く響く音が刀を握る手から発生した。肉の薄い手首に振るわれた拳。刀を操る手は大人しくさせた。中空に弾かれた刀剣が地面に落ちる前に、半身に剛撃がぶち込まれていき、そのラッシュで決着が──

 

 

あ゛ぶないよお゛

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今年度は東京(ウチ)の快勝!耀と葵の二大巨頭をついに下して、我らが東京校が勝鬨を上げるのだー!がおー!」

 

「あのバカは放っておけ。耀も悪かった。今朝見た時はだいぶ無理言ったかと思ったが…」

「いーっすよ。今回ばかりはそこの人の言い分に納得したんで。次勝ちますし。」

「…そうか。だったらあとは言わん。皆もすまんかった。乙骨の解呪はこれからも進めていく。」

 

 

不完全な顕現でも呪力出力は上昇。というかリカの一撃で遠く吹っ飛ばされた。立て直そうにも呪力量と出力で完全に差がついていた。呪力を纏った刀とリカを操るコンビネーション。完敗だった。

 

 

「次は術式ありで()るし安心していいからなっ。」

「……僕の力だけで勝てるように頑張ります!」

()()もお前のもんだろ。式神みたいなもんだし。誇れよMVP。」

「は、はいっ!」

 

 

 

「…アレが乙骨か。」

「ちょっぴりリカちゃん出たからビビってんのか?」

「単独での国家転覆可能性。特級術師に認定されるのも頷ける。だが呪術師としてアレの存在を認めることは──」

「加茂も心配性だな。」

「耀も、なぜ急にやる気を見せた?東堂の行動はいつものことだが、昨日はそこまでじゃなかっただろう?」

「お前らが突っついて呪殺されでもしたら目覚めが悪いだろ?そんだけだよ。」

 





負かしたかったけど思ってた感じにならない
もっと欲張って死ぬ気で頑張ってほしい
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