子供の成長は早い   作:zarame.

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標的7 帯島ユカリ

「帯島ァ、今日の十三時に沢田隊が顔見せにくる。準備しとけ」

 隊長である弓場拓磨の仁王立ちにもようやく慣れ、弓場隊に隊長の椅子がないという独特の環境でも椅子に座れるようになった帯島ユカリは、フラッシュバックするしなやかなスコーピオン捌きにハッと椅子から立ち上がった。

「沢田隊ってことは沢田イーピンさんも来てくれるんですか?」

「おう、そう聞いてるぞ」

「なんだユカリ、沢田の妹に興味あんのか」

 オペレーターを務める藤丸ののにあえて指摘されると気恥ずかしいけれど、初戦で自力で点を稼いでみせた戦いっぷりに感動した自分の感情を誤魔化すのは嫌だった。

「そうですね、お友達になれたら嬉しいです」

 口に出すことで実感し、はにかんだ帯島の頭を、藤丸は豪快に撫でた。

 弓場が時間を守る男だからか、沢田フゥ太も時間を守る男なのか、開け放たれた弓場隊の作戦室の出入り口に沢田隊が現れたのは約束の時間ちょうどであった。

 帯島は視線の高さにある隊服をまじまじと見、ミリータリージャケットにハイネックのインナー、コンパクトパンツにブーツと、これがオールブラックではなくミリタリーカラーであれば軍隊のそれであることを実感する。

 試合中、この格好にアイビスを構えたフゥ太は今まで以上に大人びていて、その理由が前髪を上げているからだと気付くと、沢田ランボも同じく額を出していることで、噂では同い年と聞いているがとてもそうは見えない。

 隊長兼兄に紹介された少年が「はじめまして、ランボです、よろしくお願いします」と静かに頭を下げたのに対し、少女は「イーピンです! 京都旅行の写真とか、フゥ太からたくさん話も聞いてるからはじめましてじゃないみたい」と可憐に微笑う。フゥ太の上背は弓場とほとんど変わらず、ランボもかなり高いが、彼女もその年齢に見合わぬ身長、帯島は胸を張るように見上げる。

「弓場隊オールラウンダーの帯島ユカリです! このあいだの試合、初戦とは思えないほどお見事でした!」

 そこで帯島はイーピンに向かって声を張る。

「沢田イーピンさん、自分とお友達になって下さい!」

 花が咲くような、という言葉がある。帯島はぱあっと花開くようなイーピンの満面の笑みに国語のプリントの例文を想った。

「嬉しい! 私もあなたとお友達になりたかったの。同い年だもんね、ユカリって呼んでもいいかな、もちろん私のことはイーピンて呼んでね」

 ぴょんと跳ねたと思いきや、イーピンは帯島に抱きつき、ずいっと顔を近付ける。彼女が動くたびにおさげを耳の下で留めて作っている二つの輪が揺れ、動物の耳のようで愛らしく、男性陣とは異なるショートパンツから生える足の白さが眩しい。

 妹の大胆な行動をフォローするように、フゥ太は「弓場の隊に同い年の女の子が入ったと話して聞かせた時からね、イーピンは帯島のことを気にしていたんだよ。兄として、仲良くしてくれたら嬉しいな」と、目元を柔らかくしたそれは、文字通り兄の顔だった。

「い──いいなぁ──」

 見守っていた藤丸に良かったなと頭を撫でられていると、押し殺したそんな囁きが聞こえ、ランボがイーピンのすそをつかんで何かを訴えているではないか。

「なによ、言いたいなら自分で言いなよ」

 あ、これはまずいと帯島は反射的に思う。この場に弓場隊のスナイパーがいれば同じことを思っただろう。

「なんだ沢田弟、ランボっつったか。男だったらはっきりしねぇか!」

 弓場拓磨の前であのような態度はいけない。すぐにこうして喝が飛んでくるからだ。

 弓場の一喝、加えて兄に背中を押されたランボが帯島の前にやってくる。彼はすーっと息を吸う。

「俺とも友達になってくれる?」

「あ──はい! 自分で良ければ喜んで!」

「ありがとう、ユカリちゃん。君みたいなチャーミングな女の子に良い返事をもらえてとても嬉しいな」

 反射で返事をしてしまったことは大した問題ではなく、帯島が驚いたのは日本では聞いたことのないような台詞と、ランボが安堵を滲ませたからだ。こんなに華やかな容姿をしていれば、わざわざ帯島でなくとも多くの人が集まるだろうに。

「よし、次は柿崎隊の巴君だね」

「男の子も友達になってくれるかなぁ」

「大丈夫よ、ボーダーの子達は恋愛しに来てるわけじゃないんだから」

 イーピンとランボの会話に帯島が首を傾げると、イーピンは呆れたように言う。

「ランボは学校に男の子の友達がいないの。女の子がみんなランボのことを好きになっちゃうから」

 まさか、そんな漫画みたいなことが現実にあるのだろうか──という疑問も、グリーンアイと艶やかな巻毛を見ていれば本当のように思えてしまうから不思議だ。少なくともフゥ太と嵐山がそれぞれの高校で一番モテたとしても帯島は驚かない──そしてこれは真実である──日本人とはまた別の魅力を持つランボは、ミーハーな少女達からすると自分のものにしたい宝石であり、奥手な少女達は憧れを混ぜた恋心を抱くのかもしれない。帯島にはまだまだわからない世界であるけれど、なんとなくの想像をすることはできた。

「おいランボ──てめぇうちの帯島に手ぇ出してみろ。泣かせたりしたら腹切らせるからなァ!」

「やめろ弓場! おまえはユカリの父親か? いい加減にしねぇといまに愛想尽かされるぞ!」

「大丈夫だよ、弓場、藤丸。そんな真似をしたら弓場が腹を切らせる前にこちらで対処するから」

 同級三人の会話の恐ろしさにランボは顔色を青くし、イーピンは腹を抱えて笑った。

 噂の沢田隊の二人は帯島の予想以上にフレンドリーで、友人になれたのは嬉しいが、距離感が近すぎるせいで帯島はいま、どうしたことか柿崎隊への顔見せに連れて行かれている。イーピンは道すがら帯島の腕に自分の腕を通して、B級に上がってすぐにランボを理由に女の子達に絡まれたこと、女の子達の嫉妬は幼少期からのことだから慣れっこなこと、そして香取隊の香取葉子が助けてくれたことなどを話して聞かせてくれて、同じB級上位グループにいる隊の話は帯島にとっても興味深く、香取とオペレーターの染井とお茶をしに行く時は帯島も一緒に行こうと誘ってくれるイーピンはとても懐っこい性格をしている。

 柿崎隊に到着するとオペレーターである宇井真登華を含めた全員が沢田隊を出迎え、イーピンに腕を組まれている帯島に巴虎太郎はなんとなく事情を察したらしく、よく気が付く彼はランボに「友達になって」と言われても動じない。巴に「これからよろしく」と返されたランボは薄赤い頬を緩めて嬉しそうに微笑い、真顔と笑顔のギャップには人から愛されることを確信させるものがある。

 イーピンが帯島を連れているからか、ランボは巴を連れて行くと言い出し、これから草壁隊に顔を出すというから、それならばと帯島も引き続き同行することになった。ということで沢田隊に帯島と巴を含めた五人でA級のフロアに向かうわけだが、普段足を踏み入れることのないA級フロアはいささか緊張する。弓場もA級の作戦室に顔を出すことになるとわかって送り出してくれたのかもしれない。草壁隊は緑川駿という気心知れた友人がいるから良いものの、これが二宮隊や風間隊であれば話は別である。

「ちょっと待って、嵐山が今なら行っても良いって」

 携帯端末をいじるフゥ太は、どうやら嵐山隊にも連絡をしていたようで「やったぁ、じゅんじゅんに会いたい!」とはしゃぐイーピンに「ボーダーの中ではあくまでも嵐山先輩だからね」とやんわりと聞かせ、急遽予定変更で嵐山隊に向かうこととなった。

「嵐山隊の作戦室か──行ったことないな」

「良いとこのお菓子が食べれるよ」

 帯島が緊張に背筋を伸ばすと、柿崎に連れて行かれたことがあるらしい巴が、美味いカヌレを出してもらったことがあると語りながら、美味しい思い出に口角を上げる。良いところのカヌレは帯島も食べてみたい。あの形状といい、外はカリッと中はもっちりの質感といい、フォークでの食べづらさも含めて、カヌレには何とも言えない魅力があるのだ。

 この会話はたしかにA級フロアでのものだが、嵐山隊の作戦室に入室し、沢田隊が嵐山と親しげに挨拶を交わす後ろには七人用のお茶のセットが用意されていて、給湯室からティーポットを持って出てきた木虎に反射的に挨拶をした帯島と巴は、改めてテーブルに用意されている箱詰めのマカロンに目を輝かせずにはいられなかった。

「いただきものだから、たくさん食べてくれると助かるよ」

 そう言ってマカロンを勧める嵐山の言葉に甘えて、帯島はフランボワーズ、紅茶、ココア味と思われるマカロンをそっと取り皿に並べて、巴は抹茶、バニラ、レモンかバナナか、黄色の三つを選んだ。その横で、ランボとイーピンが紫色のマカロンがブドウかブルーベリーかと議論し、気になるなら食べてみなさいとフゥ太に促される。それを目にした木虎が「沢田先輩もお兄さんなんですね」と改まって言うものだから、帯島はつられて深く頷いてしまった。

「自分も同じことを思ってました。自分たちにはいつもの沢田さんでも、イーピンちゃんとランボ君に向くと、途端にお兄さんの顔になるって言うか」

 他意はなく思ったことをそのまま口にしたつもりが、フゥ太の顔がみるみる赤くなるものだから、木虎と帯島は顔を見合わせて慌てた。

「すみません、失礼なことでしたか」

「何をそんなに照れるんですか」

「いや、あのな、木虎、帯島。今のはだな、俺でもだいぶ恥ずかしいぞ」

 同じ兄として共通の羞恥心を突かれたらしい嵐山が、歪む口元を隠そうとしているが、凛々しい眉尻がすっかり下がってしまっている。

「僕ってそんなにわかりやすい?」

 フゥ太は小さな声で問いかけ、ランボとイーピンはマカロンを頬張りながら当然のように頷いた。

「──わかった、うん、気をつけるよ。公私混同はよくないからね」

「家族チーム組んどいていまさらそれ言う?」

「あの試合の狙撃もさ、別にイーピン平気だったのに」

「そうね」

「二人とも、そこまでにしてやってくれ」

 あまりのことに嵐山が止めに入ったところで、フゥ太は何も言い返せずに、誤魔化すようにカップを唇に運んだ。

 嵐山とフゥ太の家族愛はボーダー内でも有名で、帯島と巴はなんとなくわかった。二人はボーダーの二大広告塔としてだけでなく、同じ情熱を持つ者としても良き友人であるらしい。

 いただきもののマカロンと木虎が淹れてくれた豊かな香りの紅茶を堪能し、帯島達は嵐山隊を後にした。

 今度こそ草壁隊に向かい、遅くなったお詫びに嵐山が持たせてくれたマカロンを、フゥ太が僕たちは先にいただいたからと渡すと、喜んだのは緑川よりも隊長の草壁早紀のほうで、A級の隊長に相応しい凛々しい表情がゆるむ瞬間というのは見てはいけないものを見てしまった動悸に襲われて、巴が関心したように「沢田さんてマジで顔が広いよね」と言うので、ふと「だから弓場さんも柿崎さんも自分たちを行かせてくれたのかな」なんて台詞を言ってしまった。

 口に出すまで意識していなかったけれど、他の隊の作戦室を訪ねて歩く機会などそうそうない。強くなるにはどうしても他者との繋がりが必要になるボーダーの仕組みを考えれば、知り合いが多いことに越したことはないのだ。帯島はこんな機会がなければ嵐山隊に顔を出すことも、草壁と会釈以外のコミュニケーションを取ることもなかっただろう。

「フゥ太は面倒見がいいからね、そうかもよ」

 二人の会話に参加するイーピンは、ランボの「友達になって」という緑川への男友達作りを見守りながら「ボーダーは特殊な組織だよね。若い子が若い子の師匠になって腕を磨いていくなんて不思議、誰かにものを教えるなんて自分の強みと弱みを理解していないとできない凄いことだし、場合によっては歳下の子供に教えを乞う必要だってあるかもしれない。教えるほうも、教えてもらうほうも、どちらにとっても勉強だし、教えてもらったことを次に広げていくことが一番の恩返しだよね。だから二人とも、フゥ太にたくさん教えてもらってね、そして私とランボにも教えてね。それを私も誰かに伝えていくって約束するから」と明るく笑うので、帯島は彼女の天真爛漫でありながら、ボーダー内の空気を的確に感じ取っている鋭さに一種の感動を覚えた。

「自分はイーピンちゃんとランク戦で高め合えたらと思ってるよ。でもそれだけじゃなくて──」

 そこで一旦言葉を区切る。弓場隊に所属する前の帯島であれば、きっとこの先を伝えることはできなかっただろう。

「生身の鍛え方を教えてくれないかな」

 イーピンが目を見開いたのは一瞬のことで、すぐに「いいよ。でも私は厳しいからね」と不敵に微笑った。

「なになに、なんの話?」

 ブルーのマカロンをひとつ嚙りながらやってきた緑川に、巴が「生身を鍛えようって話だよ」と教えてやると、緑川は眼を輝かせて「加古さんが言ってたやつだ、俺もやりたい!」と声を張る。

「じゃあ、皆でやろうよ。並盛山のほうにね、修行にうってつけの崖があるの」

 崖という日常ではあまり耳にしない単語にそれぞれが頭の中で漢字変換を行い、帯島が行き着いたのは「崖」である。山のほうにあると言っていたし崖は崖だろうが、修行にうってつけとはなんだろう。尋ねるまえに草壁隊を出ることになって追求するタイミングを逃したが、緑川もついて来たので話すタイミングはまだあるだろう。

 次に向かうのは絵馬ユズルがいる影浦隊だ。

「沢田さん、こんちはーっす!」

 影浦隊の作戦室で一行を迎えたのは、オペレーター仁礼光の元気の良い声である。

「仁礼はいつも明るくていいね、こちらまで元気になるよ」

「うるさいだけっすよ」

 フゥ太は兄ではなくボーダーの沢田フゥ太の顔つきで、昼寝をしていたのか寝癖か、髪を乱したままの影浦雅人は、素行が悪いと噂される人物にしては穏やかな声色だ。感情受信体質というサイドエフェクトは帯島も知っているから、不愉快な想いをさせないようにと緊張してしまうのに、ランボもイーピンもそつなく挨拶を済ませる。

「ユズル、ユズル、ちょっと来て」

 ガンナー北添尋に隠れるようにして人見知りを発動している絵馬を緑川が引っ張り出し、本日三度目となる男友達大作戦、ランボが「友達になってくれる?」と垂れ気味な目尻をさらに下げて言えば、大抵の者は首を縦に振るだろう。

「え、なに、どういうこと」

 残念なことに絵馬はその大抵のなかには含まれないようだ。

「なんで俺なの、初対面だし、別に俺じゃなくてもいいよね」

「えーっ、ユズル、そんなこと言わなくても。せっかく友達になろうって言ってくれてるのに」

「だって俺、そんな社交的な性格じゃないし」

 見かけた北添が口を挟むも、絵馬は自分の性格を原因として、それは同年代という接点しか持たない帯島から見ても絵馬らしいと言えるもので。

「これから仲良くなって友達になればいいんじゃない? 今日は顔合わせってことで──」

 巴が柔軟な発想で場をどうにか収めようとした矢先、帯島はあまりのことに言葉を失い、巴もその先に続けようとした台詞が吹っ飛んでしまったようだ。

 翡翠色の眼からこぼれた涙は、それだけの威力を持っていた。

 ぽろ、ぽろ、と流れる涙に絵馬はもちろん全員が絶句した。絵馬は冷たいとも取れる態度だったけれど、人見知りのひと言で片付けられる範囲のもので、まさか、泣くだなんて、そんなこと。

「もう、泣き虫なんだから」

 慣れた素振りのイーピンが俯くランボの顔をのぞきこむ。

「ランボ、泣くなら帰るよ」

 そう言うフゥ太はすっかり兄の顔だ。

「──が、がまん」

 イーピンのジャケットの袖口で涙を拭かれながら、懸命に涙を止めようと唇を噛みしめ鼻をすする姿は哀れでならず、帯島は元凶である絵馬を見、そうしたのは巴も緑川も同じで、皆の視線を受ける絵馬は気まずげに顔を歪める。

「俺が悪いの?」

「悪いわけじゃないよ、そうじゃないけど」

 そうじゃないけれども、何とも言い難い。帯島からすれば友達になってと言われても断る理由はない。が、友達とは口でなるものでもないから絵馬の態度が悪いわけでもない。

「困らせてごめん──俺がこんなだから──」

 ランボは落ち着けるように口で息をし、気を紛らわせるためか、学校では容姿の物珍しさから女子に好意を向けられがちであること、中学に入学してすぐにひとつ上の先輩の彼女がランボに興味を持ったせいで先輩から目をつけられ、彼がバスケ部のエースであったことで上級生からは風当たりが強く、同級生からは避けられて男友達ができず、自然と女子と仲良くなれば付き合う付き合わないの話に強制的に発展させられ、知らない男子生徒からはおまえのせいで彼女と別れた、またはおまえに彼女を取られた、好きな女子がおまえを好きだと言ったなどと、身に覚えのない絡まれ方をしょっちゅうするのだと、悲惨すぎる中学校生活を語った。

「モテるってのも意外と大変なんだな」

 仁礼は呆れと同情を混ぜ、影浦にはランボの悲しみの感情が刺さっているのか険しい顔で、北添が「沢田さんと嵐山さんも大変だったんじゃないですか?」と経験者に意見を求めると、彼は「僕たちはもう少し上手くやってたかな」と空笑う。

「誤解しないで、まったく友達がいないわけじゃないの。小学校からの友達は何人かはいるのよ」

 イーピンはフォローするけれど、いまいちフォローになっていない。

「じゃあさ、もうさ、みんなでご飯でも食べようよ。食堂でいいから。それでおしゃべりしたらもう友達だしさ、別に友達って枠に拘らなくてもボーダーの仲間ってくくりでも十分じゃない?」

 それは多分、巴のように場を収めようとか、帯島のように友達とはと考えたものではなく、ギスギスした空気に耐えられなかった緑川の本能的な部分から出てきた言葉であるも、帯島にはそれがシンプルでありながらなによりも重要なことに思えた。

「それが良いよ、そうしようよ。全員そろわなくてもいいから、防衛任務のシフトがない人だけでも集まったらきっと楽しいよ」

 ね、と絵馬に振ると、彼も「別にご飯くらいならいいよ」と同意した。それが帯島への気遣いか、絵馬にとっての許容範囲だったのかは判断に困るが、ひとまず収めることはできただろうか。

「俺さ、迅さんとか沢田さん達が一緒に旅行に出かけたりするの羨ましくてさ、だから俺も同年代で遊んでみたかったんだよね」

 緑川は「きっかけをくれてありがとう」と、ランボに爽やかに笑いかけた。

 顔見せと聞いていたが、隊をまわるうちにこれが各隊への顔見せではなく十三歳の隊員がいる隊への顔見せであると気付いていた帯島は、影浦隊を最後に終わりかと考えていたが、フゥ太は最後に二宮隊へと顔を出すと言う。二宮隊には絵馬の師である鳩原未来がいる。絵馬に一緒に行くかと訊けば、彼は頷いた。

「先日の試合のヘッドショットはお見事でした。ブランクなんて感じさせないところが先輩らしいですね、私も頑張らなくちゃ」

「そう言ってもらえると嬉しいね。鳩原ほどの精密狙撃とはいかなくとも、マスタークラスを目指して精進するから合同訓練ではよろしく頼むよ」

 絵馬を連れ出すための二宮隊かと思えば、フゥ太は鳩原に家族を紹介し、親しげな口調から鳩原はフゥ太が元スナイパーであったことを知っていたらしい。先程は絵馬に絡まなかったフゥ太だが、今は鳩原を交えてスナイパーとしての会話を楽しんでいる。

「この前の試合見たよ。ランボ君てトリオン量が多いからシューターなの?」

 二宮隊には防衛任務前ということで隊員がそろっていた。犬飼澄晴が気さくに声をかけてくれる後ろでは、女が苦手だという辻新之助にイーピンが絡もうとし、オペレーターの氷見亜希が間に入っている。

「トリオン量というよりは、イーピンがアタッカーなのでチームバランスを考えた時に俺は中距離のほうが動きやすいと思って」

「へえ、それは沢田さんの考え?」

「最終決定は隊長ですが自分で意見しました」

「なるほどね、じゃあランボ君はイーピンちゃんのナイトなわけだ」

 この時、すぐには気付かずとも後から振り返れば、これだけの問答でイーピンのトリオン量が少ない可能性、そしてランボがイーピンの防御を担っていることが読み取れ、フゥ太がオールラウンダーからスナイパーに転向したのはイーピンを守ることで生まれるランボの隙を無くすためであることがわかるのだが、犬飼は巧みに会話を切り替える。

「二宮さん、先輩シューターとして何かアドバイスあげたらどうですか?」

 二宮隊の隊長を務める二宮匡貴は個人総合ランク二位、シューターランク一位という実績の持ち主である。その容姿、実績を踏まえても威圧感を意識せずにはいられない男がランボを凝と見る。

 帯島はその口から語られる言葉を身構えて待った。自分は関係ないのに当事者のような緊張を強いられる。

「犬飼先輩、お気遣いありがとうございます。でも俺はまだ二宮さんに助言をいただく立場ではないので」

 そこでランボは犬飼から二宮に視線を移す。

「沢田隊がA級に上がったら是非お願いしたいです」

 これがほんの二十分前まで友達ができないと泣いていた少年だろうか。帯島も弓場隊で鍛えられたおかげで、腹をくくれば二宮とも会話と呼べる会話をしてみせるけれど、ランボが見せた静かな微笑みは希望を口に出してみただけ、というよりは現実的なお願いであることが伝わってくるものだ。

「いいだろう、おまえ達がA級に上がったらな」

「楽しみにしてて下さいね」と微笑うイーピンこそが楽しげで、フゥ太は「その時は改めてお願いに来ます」と当たり前のように自分達の昇格を信じている。

 後日、沢田隊は異例の早さでA級へと昇格し、ランボは約束を守った二宮にアドバイスだけでなく弟子入りをすることになり、二宮と出水公平の二人から習った合成弾はランク戦でサラマンダーという形で披露され、リアルタイム観戦をしていた帯島は、賑やかだったこの日の出会いを思い出す。

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