生かさず殺さずの究極のアイドル 投稿者:ビルダー拓也 作:おけがん
☆三人称
扉の向こう側にあったのは明らかに異様な光景だった。マンションの玄関の内側で唖然と立ち尽くす母、母の目の前では気を失い地面に伏せる若いフードの男、その後ろの玄関の外ではクソダサいパーカーを羽織った上半身マッチョで下半身が貧弱の男が立っている。
普段聞き慣れない叫び声を聞いて只事ではないと扉を開いた幼児「
ただ、伏せる男の近くにナイフが見えて後ろには怪しさ満点の男が1人。その瞬間、アクアは母の元に駆け寄った。
「アイッ!」
「…あっ、アクア」
息子からの呼びかけにも空返事をする母に刺されたのではないかと心配したアクアだったが、見渡す限りでは何処も刺されていないようで一先ずは安心した。そしてアイを庇うように目の前に立って異形な男を睨みつけた。
男とアクアの視線が交差して空気が重くなる。アクアはこの時、アイを守ることで精一杯で頭が混乱していた。
(僕の体格だとこの男に敵う可能性は0に等しい。くそっ!扉に飛びかかろうにもそこの男のせいで閉じることもできない。どうする…どうする…アイを守るには)
思考がグルグル周り額から汗が流れるが目の前の男の一言がまたもや空気を一変させた。
「このストーカー君から助けたのは拓也なのにいきなり睨みつけるってチョーSだよな」
「は……?」
この男は何を言ってるんだ?お前がストーカーだろう!アクアは咄嗟にそう口に出しそうになったが、母「アイ」の口から零れた一言がそれを否定した。
「あれ……リョースケくん?」
「知り合いの?」
「知り合いって言うか、リョースケくんは私の握手会によく来てくれていたファンの子なんだよね。最近あまり見かけなかったけど…」
つまりアイのファンだという伏せている少年こそ、アイのストーカーだと言うことである。それによく見ると、立っている男は隣に住んでいたような気がしてきた。そこまですれ違う回数は多くなかったが、こんな見た目の男はある意味記憶に残りやすかったようだ。
「それじゃあこの人は…」
「うん、私を助けてくれたの。私がドアを開けてリョースケくんに刺されそうになった時に抑えてくれて。あはは、"東条"さんが助けてくれなかったら私死んでたかもしれないね」
「死んでたかもじゃないだろ!今日は大事なドーム公演の日じゃないか!それにアイが死んだら、僕は……僕は……」
「……そ、そうだよね。ごめんねアクア。心配かけて。本当にごめんね」
そう言い合い2人涙を流しながらお互いの身体を抱きしめ合った。それをただじっと見つめる拓也はなんともいえない気持ちになった。自分はずっと虐待されて傷付けられていたが、目の前の親子は違う、そして命が助かったことに安堵して抱きしめあっていた。もしも、自分が危険な目にあったとしらお母さんは今の拓也みたいに助けてくれるのか、と。
(でも、拓也のお母さんと違ってこのオンナはちゃんと自分の子供を愛しているんだな。助けた甲斐があったぜ)
拓也は1人、心の中で満足していた。
そうこうしている時、また奥の部屋の扉が引いて1人の女の子が顔を覗かせてきた。その娘はアクアと呼ばれた男の子と同じ髪をしていたので兄妹なのかなと拓也は思った。
「……ママ?何があった…の?…っ!!ママ!!!」
先ほどのアクアと同じように倒れているリョースケと近くに落ちているナイフを見つけた時、女の子は涙を流しながらアイの元に駆け出して抱きついた。
「ママ!!ママ!!大丈夫なの!?どこも怪我してない!?」
「うん、うん、大丈夫だよルビー。私は大丈夫だから。泣かないで…」
「ママ…うわああああん!!!」
「ごめんねルビー、アクアもごめんね。もう大丈夫だからね?私は無事だから」
「ほんとだよ……もしもアイに何かあったらって……僕だって……」
またもや感動シーンに入ったことで空気になっていた拓也であるが、ここでふと一つの記憶が脳裏に蘇った。それは数年前、マッチョ君に抱かれた日に話したことだった。
(そういやこのオンナどこかで見たことあるような)
そこでガタイで分析していくと、あの両眼の輝きが記憶の方から出てきた。
(あっ、こいつってマッチョ君が言ってたアイってアイドルじゃん!まじかよぉ、アイドルのくせしてガキなんていたのかよ。マッチョ君が知ったらショックで寝込んじゃうかもね(笑))
一人で感心していると視線が自分に向かっている気がした。そして丁度アイとアクアとルビーの6つの眼が拓也を見つめていた。4つの視線が向き合う中、アクアがその沈黙を破った。
「アイを助けてくれてありがとうございます。僕たちの大切な母さんを守ってくれて。世界で1番大好きな母を守ってくれて」
「…ありがとう、おじさん。ママをストーカーから守ってくれて」
「ガキの癖にチョー礼儀正しいじゃん。つか拓也はお↓じ→さ↑ん↓だとふざけんじゃねーよお前!お兄さんだろぉ!?このガタイはどう見たってお兄さんじゃねーかよ!」
ビクッと震えるアクアとルビーだったが拓也はおじさんと言われたことにご不満なようだった。それから拓也は自身のiPhoneで警察を、アイは齋藤社長にそれぞれ電話をかけて事態は収束に向かっていった。