こんな個性で人助けしてもギャグにしかならん気がするんだが 作:クロマ・グロ
オールマイトと通形先輩のサー・ナイトアイ事務所へのインターンの話を終え、その翌日の土曜日。
俺と出久、通形先輩の三人は雄英から電車で一時間程の距離にあるサー・ナイトアイの事務所へと訪れていた。
「ここがサーの事務所だよね。」
「おお……!?」
だが出久は事務所を前にして緊張のせいかいきなりガッチガチに固まってしまう。
「おいおい、角張るなよよくないぜ。
言いそびれてたけどサーはとても厳しいんだよね。」
「存じております!」
「自分にも他人にも厳しくストイックな仕事が有名なヒーロー。
テレビ出演した時、モニター越しでもあの鋭い眼差し……ゾワっとしましたよ。」
俺もネットやニュースなんかで調べた限りそんな感じの情報が多く集まった。
何事にも妥協は許せないタイプの人間なのだろうな。
「それもそうだけどね。
サーにはメディアと違うもう一つの顔がある。」
「え?」
「君達が門前払いされたくないのならこれからサーと会って話し終わるまでに必ず一回サーを笑わせるんだ。」
「へ?な……何ですか?それ……笑わせる?」
どうやら出久にとってはあまりにも予想外だったのかテンパり過ぎて若干挙動がおかしくなっている。
「別に不思議でも何でもないだろう。
サー・ナイトアイはオールマイトの元サイドキック、それならユーモアを大事にしていても別に不思議じゃない。」
「そう、猫城君の言う通りサーはああ見えてと言うかだからこそと言うかユーモアを最も尊重してるんだ。
俺が出来るのは紹介までで君達を使うかどうかはサーが決める。
俺も協力してやりたいけどここからは君達一人一人でサーに認めて貰うしかない。」
まぁ道理ではある。
とはいえ……。
「俺としては紹介をしていただけるだけでも十分すぎる程ありがたいです。」
「そう言って貰えると嬉しいよ。」
「今更ですけど会ったばかりなのに先輩はなんで良くしてくれるんですか?」
「別に良くしてる気もないけどね。
君らはめちゃくちゃな目標を持ってそれを実現しようとしてる。
困ってる人が居たらお節介焼いちゃうのはヒーローの基本だろ?」
成る程な……この人は根本的に根がヒーロー気質な訳か。
そうしてしばらく事務所を歩いていくとサー・ナイトアイのいる部屋へとたどり着く。
「さて、あのドアの先だ。
強くなりたいなら己で開け!」
「「はい!」」
ん?……あれ?なんか扉の中から笑い声が……?
俺が扉の前で聞こえた声に首を傾げていると出久が勢い良く扉を開けていく。
つかせめてノックくらいしないか?
「昨日お伝えした1年生二人!連れてきましたよね!」
そして開かれた扉の向こうには……。
「アハハハ、ウヒヒヒヒ、アハハハハハ、アーハハハハハ!?」
その中にはスーツ姿にメガネをかけた長身の男性と何故か機械に磔にされてめっちゃくすぐられまくっている青い肌をしたヒーロースーツを着た女性……サー・ナイトアイ事務所のサイドキック、バブルガールがいた。
なかなか凄い絵面だなこれ……つか部屋の中オールマイトだらけだなヲイ……出久の部屋と同レベルだぞこれ……。
「一体どんな!?」
「まったく……大きな声出るじゃないか。」
「ひひっ!?やめ!?やめ!?ゆ……ゆる……許してください!?やめて……ひひひひひ!?!?」
「一体何が……?」
「サイドキックのバブルガール……ユーモアが足りなかったようだね。」
「いやユーモアの方向性そっち!?」
俺は思わずツッコミを入れた。
明らかにギャグ方面でのユーモアだからだ……こりゃ根本的に自己紹介やる時の方向性を見直さないとな。
するとギロリッという擬音が聞こえそうな鋭い目線が俺達へと向いた。
「うわっあっ……。」
あまりの威圧感に出久が気圧されているが俺としてはこのレベルの威圧感に関しては最近色々ありすぎたせいでもう慣れていた。
「雄英高校からインターンの件でお話に来ました、1年A組の猫城 釜戸と言います。」
俺は頭を下げてその隙に顔面のみを狂乱解放を利用してネコムートのある部分へと作り替える。
「よろしくお願いします!」
そして俺は顔を変化させたまま頭を上げるとナイトアイの顔が若干驚いているのか表情が緩んでいた。
「…………悪くないセンスだ。」
「ぶふっ!?」
「え?どういう……ぶっふぉ!?」
「あはははははは……げほっげぼげっほ!?」
つかバブルガールがいい加減噎せてますよ……まぁ多分俺がトドメ刺したけど。
現在俺の顔はネコムートのある部分……胸部のコアとなるにゃんこの顔になっていた。
つまりあるゲームで出ていたコラボの如く顔だけにゃんこでそれ以外人間のままとかいうシュールすぎる状態となっていた。
「にゃー。」
「「ぶっふぉ!?」」
試しに喉の構造もネコ化させて鳴いてみたら通形先輩と出久が吹き出してバブルガールが泡を吹き始めてる。
いい加減不味いのでは?
「…………ふむ、それで?隣の貴様は誰なのかね?」
「あっ……。」
そしてサー・ナイトアイの視線は俺から出久へと移り、出久は何か覚悟を決めたような顔で若干前髪を弄ってセットし、顔面をどんどん強ばらせ……んんん?
「緑谷出久です!」
声まで若干低くして顔面が無駄にクオリティの高いオールマイト風になった出久が顔を上げて答える。
…………奇しくもネタが似たようなのになったか。
だが俺の時の反応とは異なり通形先輩はまるでやらかした人を見るかのような表情となっており、サー・ナイトアイの表情は一気に険しさを増して若干青筋を立てていた。
「…………オールマイトをバカにしているのか?」
出久……見事に滑ったな……。
俺が居なかったらワンチャン……いや、自分が尊敬する人物の真似のクオリティで納得できなかったとかならどのみち腹が立つのに変わりはないか。
「貴様……その顔は何だ?」
「うっ!?」
「何のつもりだ?」
「あっ……いっ……その……!?」
「私をオールマイトの元サイドキックと知っての狼藉か?」
ナイトアイはキレた様子のまま出久へと一歩ずつ近付きその手を出久の顔へと向けていくと……。
「オールマイトにこんなシワはない。」
「がっ……。」
「目元のシワは通常フェースにて約0.6センチ
今時ノンライセンスグッズでも何時代のオールマイトか識別出来るよう作られる。
そんなことすらわからないのか?」
いや細けぇよ!?まって!?ツッコミが追い付かないわ!?
つかなんでそんな細かすぎるとこまでわかるんだよ!?
「非常に不愉快だ、貴様にはお引き取り願おう。」
「……"ビネガースーサイド事件"。
ご存知無いですか?」
サー・ナイトアイが踵を返したと思ったら出久のその一言で足を止める。
ビネガースーサイド事件……?それって確か……。
「水質を変えられる個性の中学生が川で溺れ、それをオールマイトが救助した件の事です。
溺れた中学生はパニックで川をお酢に変えてしまいオールマイトはそこに飛び込み目をやられてしまった。
救出直後のインタビューで見せた……目をすぼめた笑顔。
僕はそこをチョイスしたつもりだったんです!」
…………いや分かるかぁ!?細かすぎんだよ一々!?
誰が得するんだよその情報本気でさぁ!?
「もちろん知っている。
私が組む以前の事件、読売テレビの番組「あの頃を振り返る」スペシャルでも少し触れていた。」
「それですそれです!ヴィランも居ないし他の活動に比べて地味なんでファンサイトでも滅多に上がらないんですけど僕好きでして!
特に中学生が感謝を述べた後のセリフなんかすごくウイットに富んでて!」
「お肌十歳若返った。」
「それです!"お肌"ってのがまた!」
なんでそんな一瞬で話し通じてるの?
……あれ?俺選択間違えたか?
だがサー・ナイトアイはすぐに険しい表情で出久へと振り返る。
「貴様……試したのか?」
「なっ……あっいや……。
学校だとご本人がいることもあって骨太の話がしづらくて。
テンション上がってつい……。」
そしてサー・ナイトアイは出久へと再び近付きメガネの位置を軽く直しながら口を開く。
「あの事件の肝は中学生の家庭環境だ。」
「そうなんです!
それを知ると知らないとじゃ言葉の重みが違うんです!」
通形先輩はそんな二人をスルーして拘束擽り台からバブルガールを助け始めたので俺もとりあえず手伝うことにする。
「ミリオ君、あの子何?
それと猫城君?だっけ?
その顔いい加減戻して……。」
「あ、忘れてた。」
「後輩ですよね。」
ついつい……目に映らない変化だとたまに忘れることがあるんだよなぁ。
背中とか解除し忘れる時たまにあるし。
結局出久とナイトアイのオタク話は小一時間に渡って続き、話が終わるまで俺と通形先輩、バブルガールはインターンの話をしていたのだった。
二人のオールマイト談義が終わった後、ナイトアイはデスクへと戻り、俺達はその前に立って話を戻すことにした。
「成る程、今よりも強くなるため私の下でインターンがしたいと。」
「はい、お願いします。」
「一考していただけないかと。」
「学校から契約書は……。」
「もちろん持ってきてます!」
「話を遮る喋りはしないこと。」
「あっはい!」
出久は人の話聞かずに一人で突っ走る時がちょいちょいあるからなぁ……見ててたまにひやひやする。
「その契約書に私の印鑑を押せばインターン契約成立となる。」
「はい!」
「ヒーローインターンは一般企業に見られる一週間程度の気軽なインターンシップとは違う。
最低でも1ヶ月以上の就労、もちろん有償だ。
まだ授業も多い一年生であれば公欠も増える。
クラスの皆とも一律には歩めん。」
「分かっています!でもみんなと歩みを合わせていてはトップにはなれない。」
出久がそう答えるとサー・ナイトアイは印鑑を大きく振り上げてから思い切り下ろして書類……ではなくそのすぐ近くを朱肉無しで叩きつける。
「あの……はずしましたよ?」
「いいや、違う。」
「え?」
流石にこれだけで採用する程この事務所も甘くは無いだろう。
ヒーローインターンとは事務所側にも相応のメリット、デメリットが明確に存在するのだから。
さて、ここからが本番といった所か。