こんな個性で人助けしてもギャグにしかならん気がするんだが 作:クロマ・グロ
「猫城釜戸の言う通り押す気がないからな。」
「ええっ!?」
サー・ナイトアイはそう言いながら何度もカツンッ!カツンッ!と音を立てて印鑑をテーブルに叩く。
「貴様らがここで働くメリットは承知した。
だが私が貴様らを雇用するメリットは?
サイドキック二名、インターン生一名で滞りないこの事務所に貴様を入れてどんな旨味があるのか?
社会に対し自分はどう貢献出来るのか?
他社に対し自分がどう有益であるか認めて貰う為にはそれを示さねばならない。」
道理だな。
インターンを受ける側だってリスクは背負う。
それに受け入れたからには社会貢献に生かす必要がある以上何が出来るのかを把握するのも大事だからな。
「オールマイトはパワーとユーモアを用いて示した。
犯罪に怯える人々に希望を与えた。
だから人々は彼を受け入れた。」
「僕が……社会にどう役立てるのか……。」
そしてサー・ナイトアイが席を立ち、俺達の元へと移動する。
「貴様が我が社にどう利益となるか言葉ではなく行動で示してみるといい。
まずは貴様だ、緑谷出久。」
サー・ナイトアイは出久を指名すると印鑑をこれ見よがしに指先で弄ぶように転がし始めると人差し指と親指のみで印鑑を支え、中指、薬指、小指を立てて3という数字を示す。
「3分……3分以内に私から印鑑を取ってみよ。
私の下でヒーロー活動を行いたいのなら貴様が自分で判を押せ。」
っ!そう来たか……サー・ナイトアイもとんでもない課題を出したものだ。
よりにもよって出久に対して未来予知を可能とする自分が相手をすると宣言しているのだから。
この試験において求められているのは未来予知を覆す程の行動、もしくは予知した所で防ぎようの無い行動の二択だ。
だが出久には前者はともかくとして後者は反動で体が使い物にならなくなるから無理だ。
ならば出久がやるべき事はサー・ナイトアイの予知を覆す行動……流石にかなり厳しいだろうな。
「ユーモアではセンスの欠片もない貴様にチャンスをやろうと言うのだ。
どうだ?私は優しいだろう。」
確かに本来であれば門前払いだった所をチャンスを与えてくれたのだ。
完全にチャンスを失うよりはマシだろう。
「ミリオとバブルガール、それから猫城釜戸は退室を。」
「「あ、はい。」」
「分かりました!」
「そっちの二人は元気が無いな。」
「「イ、イエッサー!」」
とりあえず俺とバブルガールさん、通形先輩は部屋を一旦出ることとなった。
とりあえず部屋から軽く離れた所で一旦待機する事になるので通形先輩達に案内してもらう。
「ミリオ君あんな実技面接やってたっけ?」
「俺はサーからの指名だったのでやってないですよね。」
「気に入られてんだよね、まったくもう。」
「タッハ~!」
「あたしゃウラヤマですよウラヤマ。」
「ダッハ~!」
「まぁ妥当だと思いますよ。
出久はサー・ナイトアイが求めている物のうち片方を盛大なやらかしで落としましたから。
なら必然的にもう片方の試験が難しくなるのは道理です。」
「あー、確かにそう考えたら当然なのかも。
なんならチャンス貰えただけマシなのかな?」
「そういうことですね。
まぁ絶望的な状況なのに代わりはないですけど。」
俺がそう口にすると二人もどう言うことか分かりきっているようで口を閉ざす。
待機場所は先程の部屋のすぐそこで自販機もあったので俺達はそこで一旦飲み物を買うことになった。
というか通形先輩が俺の分をいつの間にか奢ってくれていた。
「ありがとうございます。」
「いいっていいって。」
部屋がすぐとなりというのもあってキュッ!キュッ!という何かが擦れるような音やガツンというぶつかるような音がいくつも響く。
どうやら手数で攻めてるみたいだが……。
「かなり翻弄されてるね。」
「ですね。」
「手数じゃどう考えても悪手でしょうね。」
あの人の予知を覆すには結局の所サー・ナイトアイの反応速度を越えるレベルの速さが必要になってくる。
つまりは瞬間的なスピードが必要……とはいえ読まれても問題ないように状況を作る必要もある。
出久にそこまでの瞬間的な肉体強化が出来るかどうかだからな……あいつの個性の出力はあまりにもイカれててうちの母さんクラスだ。
母さんはそこを肉体強度等を強化することで無理矢理クリアしているが出久にはそういった事は出来ず己の肉体だけで強化した筋力の反動に耐える必要がある。
はてさてどうなるのやら。
だが俺の無駄に高い聴覚を駆使して部屋の会話を盗聴していると何やら妙な会話が聞こえてくる。
「貴様がどんなものかいくばくか期待していたのだがな。
"象徴たる力"を持っていてもまるで凡庸。
ヴィランが調子づき時代に陰りが見え始めるこの時に。
ならば、やはり"ワン・フォー・オール"はミリオに継がせるべきだった。」
ん?"象徴たる力"?"ワン・フォー・オール"?
どういう意味だ?それに"ワン・フォー・オール"……一人はみんなの為にってどう考えてあの時のヴィラン……オール・フォー・ワンの対になる言葉だよな……。
もしかしなくとも不味いことを知ってしまったか?
それに継がせる?まさかそれって……いいや、今はよそう。
下手な事聞いてしまうと後々面倒な事に繋がりそうだ。
俺は一旦通形先輩から貰った飲み物を飲んで落ち着く事にした。
蓋を開けるとプシュッという心地良い音と共に炭酸のシュワシュワとした音が響く。
緑色の炭酸の入ったボトルを口にするとパチパチと弾ける炭酸と共にコーラのような強い甘味と瓜のような青臭さが口一杯に広がって…………ん?
俺は一旦味覚と嗅覚をシャットアウトして飲み込み、慌ててボトルのラベルを確認する。
そこにはこう書かれたいた。
P E P S I
I C E
C U C U M B E R
「…………。」
俺は思わず絶句したが飲んでしまった以上は仕方ないので一気飲みしておく。
しばらく嗅覚は切っておこう。
「よ……よく飲めたね……。」
「味覚と嗅覚を思わず切りましたよ……なんつうゲテモノ飲ませるんですか通形先輩……。」
「あははは!ごめんごめん!
いやぁ本当に飲むなんて予想してなかったんだよね!」
つかなんであんなもんが自販機に……と思ったところで嫌な予感がしたので俺の視界に写ったものを体内で一旦チェックしてこの施設の自販機に何が売っているのかを確認してみる。
…………ゲテモノペプシだらけじゃねぇか!?
呆れていると部屋の中から聞こえてくる音が加速してくる。
さらに何かがばらまかれてるような音が聞こえたと思ったらドンという何かが激突するような音がした。
やたらと大きな音がしたタイミングで時間の方もちょうど三分経っていたので通形先輩達と共に俺は部屋へと戻っていく。
「失礼します!」
「終わりました?最後にすごい音を立ててましたけど。」
おや?サー・ナイトアイをみてみると若干顔が緩んでいるように見える。
対称的に出久は四つん這いの状態で疲れはてている様子であり、印鑑はその手には持っていなかった。
部屋を見てみると壁や天井等に大量に靴の足跡が残ってはいるがオールマイトグッズだけ全て綺麗に無事だったので俺は若干の違和感を感じた。
「採用だミリオ。」
「やったー!」
「えっ!?何故ですか?全く達成出来てないですけど!?」
「印鑑を取り自分で押せとは言ったが出来なければ不採用とは言っていない。」
あー、この人あれだ。
相澤先生とほぼ同じようなタイプだ。
「そんな……。」
「緑谷君やったね!
サー、笑ってましたね!」
「貴様が来ると聞いた時点で採用は決定していた。」
「……え?」
「貴様が使えぬ人材でないことも分かった。」
「だが認めたわけではない。
象徴なき今、人々は微かな光ではなくまばゆい光を求めている。
たとえ彼の意に反しようとも今誰がその力に相応しいかプロの現場で痛感してもらう。」
ナイトアイはそう答えて出久へと印鑑を落とした。
それにしても彼の意……その力……。
もうここまで情報が集まればあとは状況整理するだけで何がどう繋がってくるのかが見えてきてしまった。
はぁ……とんでもない事を知ってしまったな。
出久は受け取った印鑑を自分の書類に押して覚悟を決めたような表情になる。
「よろしくお願いします!」
そしてサー・ナイトアイは俺の方へと振り向き始める。
「さて、次は貴様だ猫城釜戸。
ミリオとバブルガール、それに緑谷出久は今回は退室しなくて構わない。」
「良いんですか?」
「あぁ、その代わり貴様らにも少し協力して貰おう。」
ん?どういう事だ?
「既に体育祭や他のヒーローとの情報共有で貴様がわが社にかなりのメリットを与える人材であり、実力に関しても申し分ない人物であることは明白だ。
私個人としても貴様に色々と手伝って貰いたい案件は多いのですぐにでも採用と行きたいが緑谷出久を試した手前貴様を試さん訳にもいかん。」
まぁ確かにそうなるか……とはいえここまで俺の能力を評価して貰えているのは少し嬉しいな。
「そこでだ……印鑑を取れという試験を出した所で貴様は部屋を猫で埋め尽くすのが予知を使わなくても見えている。
だからこそ私は実力ではなくユーモアを確かめさせて貰う。
この場にいる三人を猫で笑わせてみろ。」
あぁ……そう来たか。
そうなるとお題によってはかなり難しくなりそうだな。
ユーモアは人それぞれ、笑いのツボなんかも結構差がある。
三人共通して笑わせるとなるとかなり考える必要がある。
「私も笑わせられるようなら一発で印を押してやろう。
どうだ?チャンスは出久と同じ三分だ。」
「やらせて貰います!」
三分か……短いようだがそれだけあれば色々と試せそうだ。
「それでは始めろ。」
俺はサー・ナイトアイから開始の合図を貰ったのでとりあえず試しにあるにゃんこを出してみる。
「にゃ~。」
「「「ぶっふぉあ!?!?!?」」」
あ、一発でいったか。
美脚猫にタイツを履かせたネコスカート第二形態であるネコタイツ……なかなか破壊力があったらしい。
サー・ナイトアイは……後ろを向いて笑いを堪えていた。
…………なんかスッキリしないな。