こんな個性で人助けしてもギャグにしかならん気がするんだが 作:クロマ・グロ
〜猫城Side〜
俺は明らかに個性が暴走状態に陥っていた出久に接触して狂乱の波動を無理矢理流し込み、流し込んだ波動越しに感覚共有を試みた。
だがその瞬間俺の意識は完全に暗転……いや、精神空間とも言うべき空間へと飛ばされた。
「身体は……なんだこれ、黒いモヤ?」
精神空間内の俺は肉体の半分ほどが黒いモヤに覆われ、残り半分が狂乱の波動に覆われたネコムートの肉体となっていた。
まぁ俺の人格も元々はネコムートの持っていた前世の記憶だったものだ、精神体がネコムートなのも別に不思議ではない。
周囲の空間には何もない……だが複数の気配を感じる。
どういう事だ?状況から考えてここは出久の精神空間のはずだがその出久の中から何故複数の自我が感じられるんだ?
「驚いたね、まさか9代目と兄さん以外にもこの精神空間に入って来れる人物が居たなんて。」
俺の背後からそんな声が聞こえてくる。
振り返るとそこには明らかに出久とは関係性がなさそうな目が隠れるほどの白髪とその奥から覗くとても力強い意思を感じさせる緑の瞳が特徴的な青年が居た。
「あんたは?出久の人格の一つって訳では無さそうだが?」
「そうだね、僕は9代目の人格の一つというわけではないよ。
君と違って本人から別れたものじゃなくて代々引き継がれたこの個性に宿る意識だよ。」
個性に宿る……引き継がれた?
「僕達の引き継いで来た個性の名前は『ワン・フォー・オール』……かつて『オール・フォー・ワン』という巨悪から『力をストックする』個性を与えられた初代が自身が元々持っていた『個性を与える個性』と合わさった結果生まれた代物さ。」
っ!オール・フォー・ワン!!
まさかここでその名前をここで聞くことになるとはな。
それに引き継いで来た……つまりアイツは誰かにこの個性を渡されたということになる。
それに9代目ってことはこの青年と出久の二人以外にもこの個性を持っていた人物があと7人居るということになる。
「それにしても随分と無茶苦茶をしたね、いくら他の身体と意識を共有する事が出来るといっても自分の力が一切関係ない他人に力を流し込んで無理矢理感覚を共有させるなんて。」
「俺だって一か八かだったさ。
出来ると言う確信はあったがどうしてもリスクがあるから下手に試せなかった。
だがアレだけの大ケガをし続けても意識を保ち続け身体を壊し続ける出久の強靭な精神ならある程度は耐えられると思っていたからな。」
すると青年はため息をつく。
「実際8代目もそうだったけど9代目も無茶するよね。
キミが彼の治療を手伝ってくれなかったら確実に後遺症が残って今後にも影響が出ていただろうからね。」
確かにな……とはいえ出久には軽くトラウマが出来てそうだが……。
俺は脳裏に治療中の出久のアーッ!という叫び声が浮かんだ。
「それにしても君はオールフォーワンとは関係ないのに全く違う2つの個性を持ってるとはね。
しかも力が強すぎて9代目と同じく力を引き出しきれていない。」
「出久みたいに身体が壊れる程度で済むんなら良かったが俺の場合は理性を完全に失って闘争本能と暴力衝動に飲み込まれるからな……。」
だからこそ
あの個性が封印されていなかったら確実に俺はヴィランとなっていただろう。
「僕らが君達との感覚共有で得られた情報はそこまで多くない。
それでも君達には何か宿命付けられたような繋がりを感じている。
少なくともオール・フォー・ワンは君という個性の持ち主をただで逃がそうとはしないだろう。
今はタルタロスの中だけどあの人はその程度でそんな簡単に大人しくなるような人じゃないからね……。」
少なくとも召喚ニキの話を聞く限りオール・フォー・ワンは一度脱獄する。
そして壊滅的な被害を出すらしい。
なら俺が目指すべき目標はただ一つだ。
「オール・フォー・ワンがまた動き出すまでに残された時間がどれだけあるか分からない。
でもその時間はけして長くは無いだろう。」
「俺に出来るのはその短い平和のうちにネコムートの狂乱の波動に施された封印を出来る限り解除して使いこなせるようにする事。
おそらく俺達が正面からぶつかり合うのだとしたら少なくとも狂乱のネコムートの力程度は制御しきる必要がある。」
「……?狂乱のネコムート程度?
キミの力はそのネコが由来なんじゃないのかい?」
「狂乱のネコムートはあくまでもキグルミでしかない。
それを脱ぎ去って完全に覚醒したのならあるいは一人でも対抗出来るとは思う。
…………だが難しいだろうな。」
正直今の俺は無理してようやく50%前後までしか引き出すことが出来ない。
その状態で成長するとなるとおそらくオール・フォー・ワンが動き出すまでに伸ばせるのは余程のことが無い限り精々10%前後だろう。
何かきっかけを得られれば良いんだがな……。
「…………そろそろ時間みたいだ。
君にはもう少し伝えたいこともあるんだがそれはまたの機会にしよう。
9代目にも彼から伝えなければいけないこともあるしね。」
青年は後ろを振り向きながらそう言うとそこにはおそらく歴代継承者の一人と思われる黒いモヤが存在した。
全身が包まれており、俺ではそれが誰なのか識別する事は出来ない。
おそらく俺が認識する意味が無いからだろう。
「君には最後に一つだけ……けして自分の力を恐れ、特別視しすぎないようにね。」
…………俺は青年の言葉を受け取り、また意識が暗転していく。
特別視しすぎないようにか……耳が痛いな。
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〜緑谷Side〜
猫城君と接触して意識が暗転した僕は今真っ黒な空間に一人立っていた。
「ここはいったい……?」
僕はとりあえず目の前に見える狂乱の波動が伸びている先に向かって進んでみることにする。
進んでいくごとにここが猫城君に関わる場所なんだという感覚がなんとなく湧いてくる。
多分だけど僕は猫城君に感覚共有された事で猫城君の深層意識みたいなのと繋がったんだと思う。
しばらく歩いていると視界に7本の巨大な鎖のような物が見えてくる。
周りを見渡してみるとその更に3本の風化して千切れた鎖のような物……その先に10個の石像が見える。
そして僕はその石像のうち3体にとても見覚えがあった。
「ジャンヌダルクさんにバベル、それにうしわか丸?」
その他にも浮遊する巨大な二振りの剣を持った獅子の顔を持った人物、肉がほとんどなく、骨ばった身体を持った巨人、浮遊する鳥居を背後に浮かばせている刀を持った少女、とても豪華な台座の上に設置された玉座に座る神々しい幼女、神秘的な力を感じさせる精霊のような存在、まるで動く科学基地のような装置とそこの中にいる複数の科学者のようなにゃんこ、そして巨大な玉座に座る威厳を感じさせる王のような姿のにゃんこ。
そしてそれぞれの石像から伸びる鎖の先には巨大なネコムートの石像があり、その右腕、両足、胴体、尻尾、二対ある翼のうち下部にある2つの翼に鎖が巻き付いており、左腕と上部にある一対の翼には千切れた鎖の欠片のような物があった。
『面白い奴が入り込んだじゃないか。』
「っ!?猫城君じゃない!誰だ!?」
『目の前に居るではないか。』
目の前に……まさか!?
「ネコ……ムート!」
『その通りだ。
俺は猫城釜戸が持つ本来の個性であるネコムート。
そしてここはオマエが感じている通り猫城釜戸の……いや、我々の深層意識の世界だ。』
「我々……?」
『猫城は俺と一部記憶を共有している。
それ故に奴が自分の自我を形成するのにこの記憶の共有が作用し、我々は深層意識……いや、魂がつながり同一の存在となった。
だから俺はアイツであり、アイツは俺なのだ。』
ネコムートが猫城君と同一?
『そう時間もない、手短に話すぞ。』
そして僕は猫城君達が抱えるとんでもない秘密を聞かされる事になった。