はい、わかってます。でも、劇場版のシュタゲ見たら書きたくなってしまったんです。許してください。
あ、あと、あらすじ観た感じコメディっぽいですけど、内容は結構シリアスです。……たぶん。
「くっ……!」
振るわれるハルバートを、全身黒ずくめの男は身を屈めてギリギリの所でかわす。
「
またもハルバートをギリギリの所でかわす。
どうやら喋っている余裕はないらしい。一人、二人ならば倒す自信はあるが、十数人ものホムンクルスに襲われては勝てる自信がない。
「……?」
しかし、突如ホムンクルスの動きが止まった。
「おい……何をしている」
ふと見ると、白き少女が怪力ホムンクルス共に捕まり、ホムンクルスに命令を下した人物である老人の眼下に連れて行かれている。
「なに、貴様の様な名も無き英霊ではアインツベルンの悲願を達成できそうもない。が、他の者に聖杯を譲るのもどうかと思うてな。ならば、器を破壊するしかあるまい? そして、出来そこないの英霊を召喚したこの者の罰にもなろう」
フッ、出来そこないの英霊とは言ってくれる。
そもそも前提が間違いだ。俺は英霊になろうと思ってなったわけではないし、平和よりも望んだものは狂気と混沌だ。
確かに偉業を成し遂げたという点では、英霊足りえるのかもしれない。俺のしたことで救われた者も、少なからずいただろうからな。
でも、俺が救いたかったのはそんな見ず知らずの誰かではなく、一番大切な存在である あいつ だったんだ。
だから、俺には英霊としての誇りはおろか、自身の矜持すら持ち合わせてはいない。
そうだ、何を避けていたんだろう? さっさとハルバートの一撃を受けて消滅しておけばよかったんだ。
「……だ。……いやだ。……い、やだよ。死にたくない」
身体の力を抜いた時、聞こえた声。
「助けて、よ」
首から上だけ俺の方へ振り返り、少女は助けを乞う。
あと数秒もしないうちにホムンクルスの持つハルバートは振り下ろされ、その頭蓋を砕くだろう。
それで終わりだ。マスターを失った俺は世界から消滅する。
だというのに───ッ!
「死にたくない、よ……バーサーカー」
寂しげな表情で俺を見る少女が、あの頃をフラッシュバックさせる。
何度も体験した■■■の死を。俺が救えなかった あいつ の死を。
無情にもハルバートは振り下ろされ、その雪のように白かった髪は赤く染まっていく。
「……キョー……マ」
「───ッ!!」
その瞬間、俺は自身の宝具を発動させていた。
何もない世界。虚無の世界。そんな中、一人漂う男がいた。
男は何もない世界で、様々な出来事を想いだす。
《ゴメン。ずっと気づいてあげられなくて》
そう言って、悲しそうな顔をする少女がいた。
そんなことはない。何度も繰り返す世界で、お前は俺に気づき死にかけていた心に再び命を与えてくれた。
結果的に言えば、未来は変えられなかった。でも、お前と過ごした時間はとても幸せだった。
《あなたはね、私の王子様なんだよ。これからも、あなたを好きでいていいんだよね?》
そう言って、頬を赤らめた少女がいた。
誰も死ぬことはなかったけれど仲間たちとの絆は無くなってしまった。
それでも俺が幸せを感じられたのは、君のおかげだ。好きでいてくれてありがとう。
《■■■ちゃん、とても嬉しそうでした》
そう言って、涙を必死に抑える少年……いや、少女がいた。
自分が守ってあげなければいけないと思っていたが、少女はとても強かった。
自分の罪を正面から受け止めている彼女を見て、俺も少女と共にその世界を生き抜くことができた。
《■■くん……元気で》
そう言って、目に涙を溜めてはにかんだ女性がいた。
誰も味方がいなかった世界で、唯一俺を支えてくれた人。
彼女との思い出がない俺を、彼女は変わらず支えてくれた。おかげで俺は救われた。
《うまく思い出せないんだけど、なんだかもう一人すごく大切なお友達がいた気がするんだー。『あなたは幸せになりなさい』って言葉が、ずーっと耳に残ってるんだー》
そう言って、寂しそうに空へと手を伸ばす少女がいた。
そうだ。あいつのおかげで、君を助けることができた。だから二度とこの手は離さない。
人質としてではなく、かけがえのない人として、俺は君を守っていく。
《さよなら。私も■■のことが―――》
ああ。俺もお前の事が好きだったよ……。
「!?」
その時、今までとは違う、自分のものではない情報が頭の中へと入りこんでくる。
「聖杯……マスター……? まさか、そんなことが」
彼の脳へと送られてきたものは、聖杯を求め魔術師と共に命を懸ける戦争『聖杯戦争』の情報だった。
それは生前彼の右腕だった友人がよくやっているようなゲームの世界の話そのもの。
しかし、情報が入ると同時に理解もしていた。これが真実だということも、今の自分がどういう存在かということも。
聞こえてくるのは自分を呼ぶ声。それにつられて体が引っ張られる感覚。
「ふん。面倒なことこの上ないな。召喚者には悪いが、俺は早々に退場させてもらうとしよう」
強烈な光。肌に突き刺さるような冷気を感じつつ目を凝らすと、目の前には雪のような白い少女がいた。
そして、少女の周りにはこの場を取り囲むように同じ顔をした人形のような女性たちと、怒りにその表情を鬼のようにする老人が一人。
「貴様がこの俺の召喚者か……?」
俺は目の前の少女に声をかける。
辺り一面は石で造られた壁や床。明かりも電気などではなく蝋燭だ。まるで映画などで出てくる古城の地下室を連想させる。
そして、足元には巨大な石の塊。おそらくこれを触媒としてどこぞの英霊を呼ぼうとして失敗したのだろう。
「うそ……失敗? 貴方……ヘラクレスじゃ……ない?」
「ヘラクレス……?」
なるほど。ということは目の前の石の塊は、かの有名なヘラクレスを祀る神殿の支柱となっているといわれている斧剣か。まさかこの目で御目にかかれるとはな。
「よく聞け、少女よ。我が名は鳳凰院凶真。ヘラクレスのような英霊ではなく、この世を狂気と混沌に導く反英霊だ……ん、メールだと?」
淡々と少女に真実を告げる中、ポケットに入っている携帯が鳴った。
「!!」
「きゃっ!?」
メールの文章を見た瞬間、俺は少女を担ぎ走り出した。
なぜなら、送られてきたメールの内容は。
───少女を救え、離脱しろ
という未来から過去へのメール。Dメールだった。
一番近くの壁に近づき、振りかぶった拳に渾身の力を込める。本来の力ではこんな石壁壊すことなどできない。
だが、幸いといっていいのか英霊としてのこの肉体は俺の身体能力が最も高かった世界線、ラウンダーの統括 鳳凰院凶真だった時のもの。
そして、割り当てられたクラスは
「うぉぉぉおお!」
渾身の力で殴った壁は見事穴が開く。殴った右手に激痛が走るが、それを無視して全力で走り続けた。
雪が積もっていて走りにくい道を抜け、車道に出てなおも走る。走り続けて一時間、空き家を見つけたのでその中へ逃げ込んだ。
「……ちっ、電気は通っていないか」
電機は通っていないようだったが、幸いな事に空は晴れていて月が出ているので、何も見えないということはなかった。
周囲に人の気配がないことを確認し、椅子で呆然としている少女へ声をかける。
「おい」
「……失敗した……これじゃ、もう」
少女の目には光がなく、ずっと何かを呟いている。
「おい、貴様の名前は何という」
「……イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
少女は一瞬こちらを見た後視線を落とし、ぼそっと呟いた。
その態度に苛立ちを覚えながらも、俺は言葉をつづけた。
「そうか、ではイリヤスフィール。悪いが俺は聖杯なんぞに興味はない。早々に還らせてもらうぞ、後は自分でなんとかするんだな」
「……そう」
またも小さく呟くイリヤスフィール。
いったいなんなんだ? 聖杯戦争に参加しようとしたということは、叶えたい望みがあったはずだ。
その為にはこの俺、サーヴァントが必要不可欠。だというのにこいつはまるで他人事のよう。
「なぁ、お前は聖杯戦争に参加するつもりだったのだろう? その為のサーヴァントが参加を拒否しているのに止めようとはしないのか?」
そのことに疑問を持った凶真は、ついその理由を問いただしてしまった。
「なんでそんなことを聞くの。還りたければ還ればいいじゃない」
「ああ。そうさせてもらうさ。だが少女よ、そんなに擦れていてはこの先の人生、生きていくのが大変だぞ」
「私にこの先なんてない……」
「なに?」
「もう、無意味なのに……なんで、なんで貴方は私を助けたのよっ!」
凶真の問いが触れてはいけないモノに触れてしまったのか、少女は感情を吹き出す。
涙を流しながら、凶真の黒いコートを掴み捲し立てる。
「私は勝つ為に聖杯戦争に参加した! 勝たなきゃいけなかったの! 勝たなきゃ、戦えなきゃ……生きてる、意味がないの……!」
「ふざけるな!」
戦えないなら生きてる意味がない。そう言いながら嗚呼を漏らす少女。
まだ十かそこらにしか見えない少女の言葉に、今度は凶真が激怒した。
「戦えなければ、生きる意味がないだと!? 世の中には生きたくても生きられないやつがいるんだぞ! 救いたくても、救えないやつがいるんだぞ……っ! それなのに貴様は!」
「貴方に何がわかるのよ! 私はアインツベルンの悲願を達成する為に育てられてきた。悲願を達成できれば自由になれると信じて! それなのに召喚は失敗。貴方みたいな弱いサーヴァントを召喚してしまった……役立たずの私はきっと、お爺様に殺されるわ。たとえ今逃げ延びられたとしても、いつかは見つかって殺される……私の死という運命は、変えられないの」
絶望に染まった瞳。俺はこの目を知っている。
何をしても抗えない現実を知っている目だ。全てを諦めてしまっている目だ。
どれだけ辛い思いをすれば、こんな小さな少女がこんな目をするようになってしまうのだろう?
だが、俺はそれを認めてやるわけにはいかない。
Dメールが届いたということは、未来において鳳凰院凶真はこの少女を救うと決めたということだ。ならば、救ってみせようではないか。
「イリヤスフィール。俺の知り合いにとても強い奴がいた。絶望的な世界を変える為に、僅かな希望を求めて運命に抗い、味方が誰もいない世界で一人孤独に戦った戦士が」
思い出すのはくせっ毛の両側を三つ編みにして、ジャージとスパッツで自転車に乗る戦士の姿。
単身タイムマシンに乗り込んで、まったく知らない世界でもたくましく生き抜き、俺たちに希望を残してくれたバイト戦士の姿。
「その戦士の強い意志で、運命が変わる世界があった」
「私には無理よ……」
それでも少女に凶真の言葉は届かない。なら、選択は一つしかない。
「気が変わった。俺は聖杯戦争に参加するぞ」
「そう。でも悪いけど、私は……っ!」
尚も諦めの言葉を出すイリヤスフィールの胸元をつかみあげ、強引に引き寄せる。
「貴様の意思など関係ない。今日から貴様はこの鳳凰院凶真の人質だ。自ら死を望むことは許さんし、誰かに殺されることも許さん。貴様の生殺与奪は俺が決める」
その言葉に、僅かではあるがイリヤの瞳に光が差した。
「人……質?」
「そうだ、我が名は鳳凰院凶真。
この人は何を言っているんだろう? イリヤスフィールの頭には疑問が浮かぶばかり。
けれども、彼の言葉は力強くまるで本当に聖杯戦争に勝利してしまいそうな錯覚を覚える。
「あえてもう一度名乗ろう。我が名は鳳凰院凶真! 聖杯は、我が手の中に!!」
高らかに勝利を謳う漆黒のその姿。イリヤスフィールには見覚えがあった。それはいつかわからないけれど。
でも、この男の言葉は信じられる気がした。
「本……当?」
「ああ、本当だ。だから、安心して俺の人質でいろ。イリヤスフィール」
男の言葉がひとつ、またひとつと少女の身体に染み込んでいく。その度に、灰色だった世界が彩られていく。
絶望に染められていた少女の瞳は、いつの間にか綺麗な赤い瞳に変わっていた。
「……うん……うん。よろしくね、バーサーカー。ううん、キョーマ!」
こうして、白き少女と異端の英霊の運命の輪は回り始めた。
はい。この鳳凰院さんシュタインズゲート世界線以外のすべての記憶をもっています。ちなみに、狂戦士のクラスで召喚された為、現在は暗黒次元のハイド世界線の岡部倫太郎をイメージして書いております。今後はどうなるかわかりませんがねニヤリ。
それではまた次回!