PSYCHO-PASS GOSPEL 作:2Nok_969633
おっぱい最高!乳首も最高!SEX最高!中出し最高!未来も最高!未来最高!!お前もSEX最高と叫びなさい!!(作者は童帝です)
そして本日8月16日は、太太しく天然でクソボケなおじさんのお誕生日です!!おめでとうございます!!
場面は、事件当初まで遡る。
流石は
間違いなく、彼女はここに居る。
秩父市内を見下ろせる丘陵…逃亡犯が潜伏しているとされている旧秩父太平洋セメント工場三輪鉱業所に到着するや否や、俺達は相手型の覇王色の覇気を放っているが如く、鳥肌が立つような凄まじい殺気をピリピリと感じていた。
そして、これらのことから推察するに、状況的に見てあちら側が劣勢に立たされているのは間違いないと、まず見ていいだろう。『茉莉は、刻々と濃さを増していく夜の闇を睨みつけた』という文章が小説にあったように、余程周到な準備が用意出来ていない限りは、幾ら後天性免罪体質者と云えど…慌てふためくようにして焦っているに違いない。仮に、そうならないとしても、免罪体質者であれば尚のこと焦ってもらいたい、と欲張りに欲しがってしまうのは無理もない話なのである。大半の人間の性質とは、即ちそうした欲の塊で構成されているのだ。
然りとて、相手側も黙って鎮圧される魂ではない。寧ろ、余計に日本国に対して恨みを持ち、躍起となって攻撃を仕掛けてくるのが目に見えている。
彼女なりの、欲の塊にも似た魂の耀きがそうさせるのだ。
その証拠として、二瀬ダムでは小説以上にテロリスト達が自爆特攻を仕掛けてきており、現場から状況が悲惨なまでに悪化する可能性がある…との報告が挙げられている。つまりどういうことか、と言うと…命令系統が小説とは違うという事に他ならない。
しかしながら、俺にとってはそれすらも許容の範疇に収められているようにも感じ取れていた。
それもその筈だ。…本来であれば、2020年代の鎖国政策の導入以降最悪の事件の1つとして認識される事象だった。この時点で累計死者数が100名以上にも膨れ上がる程の惨劇は、犠牲の嵐雨霰だったのだ。何せテロなのだから。
だが、現時点での死者数は被害者を含めても50人にすら及んでいない。
確かに大事件ではある。大事件ではあるのだが…犠牲となった人数が、こうも少ないと、俺にも余裕と心の安堵が生まれてしまうのは、仕方のないことなのかもしれない。
…そのお陰か、俺の欲となる健全な
魂の色を確認する為に目線を落としたその先には、先程まで悠長に読んでいた『文化がヒトを進化させた―人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉The Secret of Our Success: How Culture Is Driving Human Evolution, Domesticating Our Species, and Making Us Smarter』があった。
俺は、寂れた工場に眼を向けた後、事件解決に向けた捜査へと戻るべく、本の表紙をツーっと隣に居た義妹の頭を撫でるように優しく撫でる。そうすると、本の一節が自身の考察と共に頭の中へと過ぎり、精神がより安定を目指すべく徐々に落ち着きを取り戻していく。
生贄である孤独の持久力を糧にして、本と2人きりの世界に入ると、自身の頭の中に居る
『価値のある文化的情報とは、何も物理や数学などの知識や、知能に関連する大規模な遺伝的研究並びに知能に関する遺伝子、最も幸運なものが生き残るといった中立進化又は偶然における運、及び進化論における自然選択に限定させる訳ではない。
事実、祖先代々受け継がれてきた知識や技術や習慣といった伝統、又は動植物に関する知識なども含めたありとあらゆる長年の知恵が、その地域での生存や繁殖に有利な情報として蓄積されることによって、優れた集団脳と呼ぶべきものが形成されていく環境が認められている。
この働きによって、試行錯誤を繰り返しながら自分で工夫するよりも、既に適応的なスキルや習慣を身に付けていた他者をそのまま模倣する「社会的学習」のほうが重要視され、遺伝子のように子孫へと引き継がれていく。この影響により、学習状況における模倣が人類の発展にとって圧倒的に有利、かつ楽な状況として構築され、創造的な活動が生み出されることとなった。(身近な例で例えると、パルムとコンドームの作り方における最終工程はほぼ同じ、みたいな感覚である)
また、このような状況下において、人類の模倣行動はさらに磨きがかけられると共に、手本にすべき人物…つまりは社会的成功、目に見えやすい業績、社会的地位などから生まれた富、名声、威光、威信に関連するであろう、人を敬おうとする心理、及びそれらに伴う社会的地位といったものが生まれ、益々一連の社会的な規範が文化として完成されていく。
加えて、これらの協力行動や、親族関係、集団の調和維持などに対して、社会規範を犯した者には悪評などの制裁が加えられ、規範を守る者には報酬が与えられるようになった。そうして、人類に規範心理が植えつけられていったことで、集団を利する社会規範をもつ集団のほうが、他集団との競争で有利になるために、より一層こうした傾向に拍車がかかることになり、集団中の遺伝子の割合の変化のように止まることなく進化していくのである。
「ただシステムを改善し、複雑化するだけでは、永遠に完璧さは望めない。ならば機能ではなく、運用の仕方によって矛盾を解消するしかない。管理しきれない
我々はつい、自分の頭で考えずに、権威者の意見になびいたり、多数派に同調してしまったり、噂話が好きで世間の目や評判を気にしてしまう。こうした動きには、このようなしきたりや人間関係のしがらみから解放されたい…と思いながらもそれらに縛られている現状…つまり、根本的に遺伝的な要因が原因である、といった理由が存在するのではないのだろうか?
本当の悪魔とは、それらのシステムに縛られたり反発してしまった民意が、巨大に膨れ上がった際に起こる欲の解放なのかもしれない。自分を善人だと信じて疑わず、薄汚い野良犬が溝に落ちると一斉に集まって、終いには袋叩きにし私刑してしまうような本性、それに伴ったエコーチェンバー現象、即ち嫉妬や根幹である自己顕示欲にも似ているのだろう。所詮、魔女を火やぶりにして喜ぶ中世の暗黒時代や、人間に限らず動物の死体の臓物を加工してコンドームにする文化と何一つとして変わってないのである。寧ろ、変わってないからこそ、そこに優劣がないよう万人にとって平等となる法を設立し、互いに表現の自由等々を先導者のような人が導くことなく守る事で、節度を保つ仕組みにさせた。…それこそが人間の強みなのだ。(かつての中世における贖罪規定書にて、殺人と精液を飲むことが同程度の軽犯罪であったこと、それよりも罪が重かった同性愛のプレイ内容なども踏まえた上での話である)
これらの性質が成立するのであれば、長い進化の歴史のなかで培われてきた人類という動物の、唯一無二の特性であると表せることが可能になる…と偏に考えられるのである。
正体がどうであれ、内心がどうであれ、行動こそが人の本性を決めるのだ。
これに対し、槙島聖護がどんな想いで口にしていたかは不明だが…彼は「誰だって孤独だ。誰だって虚だ。もう、誰も他人を必要としない。どんな才能も、スペアが見つかる。どんな関係でも取り替えが効く。そんな世界に飽きていた」と、【ライ麦畑でつかまえて】になぞられながら嘆いていた。少なくとも、俺にはそう感じていた。
だが、俺は…敢えて真っ向から否定した上で、再度その価値観を認めよう。
そも、ここまで進化した人類が齎す創造には、端から天才も組織も要らないのだ。必要なのは、多数の頭脳が自由に情報をやり取りできる大きなネットワークであり、それを構築出来るかどうかは、人々が所属する社会の心理が最重要項目の意志として成立出来れば良い。それら諸々の社会規範や信念のパッケージ、及びそこから生まれる公式とそれに見合った制度の下で醸成され、積み重ねられていくものとして勝手に育っていくものなのである。これは、現代の医療ように死屍累々の屍の上に成り立っている科学や医療、法律、文化、社会、人間関係、それらに伴うシビュラシステムも例外ではない。
狂気の世界で闘い続けた者たちの証が、今なのだ。
よって、人類は皆家畜である。極端ではあるが、過去に縛られた家畜だからこそ…この社会を壊せない。ローマ帝国が滅亡した時、コンクリートやコンドームが滅んだ時と同じように、壊した時の損失が遥かに大きいと学んだ人ほど事前に察知するのである。故に、生殺与奪の権利を他人に握らせる…それこそが、人間の本質だ。とすると…彼は、大多数の人類から見れば迷惑極まりない存在だと言い換えても過言ではない。
シビュラシステム運営下に政治犯というものが存在するとすれば、あの男のことだろうな、と雑賀譲二は述べていたが、実態としては…そんなものでは生ぬるいものと足り得るのだろうか。民衆に興味がない癖して人を煽動しておきながら、肉を食うことを嫌うなどの行動原理からも伺えるように、本当はもっとドス黒いまでの、反人間主義…いや、人間原理主義者なのではないのだろうか。
羊頭を掲げて狗肉を売るような現代の神聖ローマ帝国であるシビュラシステム管轄下における日本において、このような考え方は認められないかもしれないが…かと言って、本質そのものに怒り狂うテロリスト、アナーキスト、アジテーターなど、厄介極まりないに等しい。言語道断である。
「革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を持ってやるから、いつも過激なことしかやらない。しかし革命の後では、気高い革命の心だって、官僚主義と大衆に飲み込まれていくから、インテリはそれを嫌って世間からも政治からも身を引いて世捨て人になる」と、とある創作キャラが口に出しているように、どの道碌なものではないことが伺えるのは確かなのかもしれない。
どうしようもないほどに正論だ。ぐうの音も出ないだろう。
彼が期待していたこの社会を破壊する試み、そしてその先にあるであろう無秩序で破壊された世界へ訪れるようにする為には、PSYCHO-PASS世界における特有の脳疾患の特性と文化を利用しなければ達成出来ず、仮に達成出来たとしてもそこに在るのは、贖うことすら理解出来ないまま、行動のみを模倣するしか能がない人がただただ暴れ回り、終ぞ魂の耀きを見せることすらせず、限りなく0に近い状態へと陥り、最終的には石器時代以前に戻るだけの、愚にもつかないような遊興…即ち愉悦へと至る道理を手に入れるか、或いは世界に巣食う遺伝子を駆除したことで、新たな進化と自然淘汰…破壊と再生が発生し、世界と人類が息吹を吹き返すようにして、真の自由を勝ち取ることになるだろう。そうして、いつしか人は幻肢痛に悩まされる。だが、それすらも込みで世界が真の意味での解放…即ち、本当の意味での利他的行動を手にした時、他に必要なものは要らなくなるのかもしれない。失われた人間性に涙を流しながら、あらゆる勢力が互いを認め合い、世界は1つとなる…果たしてそのような世界は、理想郷と呼ぶのに相応しいものとなり得るのだろうか。
それは誰にも分からない。
…兎も角、彼は真なる自由と孤独、そして最も親愛を求めた
従って、あそこで狡噛慎也が槙島聖護を殺さなければ、彼は自分の命を憎むことすら出来ず、豊かな身を結ぶこともなく一粒の種のまま人生を終えていただろう。やはり死こそが希望である。結論として、彼が望んでいた死…生という権力からも逃れる為には、死を選ぶ以外に方法はない。彼にとって相応しい執行こそが、唯一無二の救済方法だった』
そも、正義とは一体何なのだろうか。
PSYCHO-PASSの世界云々以前に…前世にて、様々な犯罪者や被害者、関係のない無実の人々、開発者や開発された物そのものに対する誹謗中傷を含めたかつての
『──正義の執行を行うには、正しい手順を踏まなければならない。それを無理に歪ませれば、結局どこかで犯した過ちの報いを受ける。ところが、今では一昔前のような《法》が人を守る社会が破棄され、いつの間にか法律という名の規律の設立や目的、それらを運用する為の手段すら忘れ去られつつある。この危機感の欠如とも呼べる状況が何年何十年何百年と続けば、正義だとか善だとか悪だとかの線引きすら曖昧になるのは必然だ。この現状が止まらない限り、現場ではただただ失望ばかりが募っていくだろう。これが理不尽でなくて何になる』
『…だがな、俺たちの仕事はいつだって理不尽の塊なんだ。誰が何を想い、何を願うのか…人の心の全てが機械で見通せる時代だってのに、それでも誰かを憎んだり、騙したり、傷付けようとする連中がわんさと居る。………分からないよな。分からなくなるよ、本当に』
『《法》が人を守るんじゃない。人が《法》を守るんです。これまで、悪を憎んで正しい生き方を探し求めてきた人々の思いが、その積み重ねが《法》なんです』
俺は、思考の悪魔と取引でもしてしまったのだろうか。それとも、これは夢なのだろうか…いつからか、彼等が何かを訴えかけるようにして、俺を見つめているような幻覚まで見えるようになってしまった。今はまだ、メンタルトレースと称して誤魔化してはいるが、それがバレるのも時間の問題だろう。現に、俺は犯罪者の思考なんてものを読み取ることなんて技術は身に付けていないし、そんな超人じみた事は出来ないのだ。寧ろ、困った状況になればなるほど、このように語りかけてきたり、一方的に享受して事件を解決させようとしてきたりと、老婆心をかけてくることに腹が立つまである。
敢えて述べよう…余計なお世話だ、知るかボケ、と。
俺は神ではない。ただの人だ。
はっきり言って、分厚すぎて枕にも活用出来る代物としてお馴染みの、カンデル神経学の爪の垢を煎じて飲ませた後、彼らの頭を思いっきり叩いてやりたいところではある。無論、血も涙もとっくに昔に捨てた俺も含めてだ。そうして皆で痛みを引き受けながら、それでも醜く生きる為の
ましてや、俺のような転生者、ひいては部外者如きが正義なんて言葉を軽々しく口にしてはいけない。
正義なんてものは、胸に秘めておくぐらいが丁度良いのだ。
だからこそ、法という儚い祈りを守り、より良い世界を作ろうとする彼女を尊重するべく、ありのままの世界で最善を尽くすこと。及び、それらを支える者たちを衛れる柱に俺はなるのだと…意志を固めるように決意を呼び覚ます。そうして、何度も何度も紙に触れていく内に頭の中で【El Cascabel】が鳴り響いて、段々と活気が帯びていった。
『──我々は自らの手で、もう一度世界を作り直すことが出来る』
と、ここで様子を見るべく車のドアを盾にするようにして数歩先外に出ていた滄が、無線をかけて来た。
《S2から、S3、P1へ。現時刻を以て、これより作戦を決行する。まず、私が犯人を確保する為に工場へと侵入し、相手を制圧。S3はP2を回収した後、私が制圧に失敗した場合にのみ援護に迎え。P1は周辺警戒を継続》
《………S2了解。これより、任務遂行に努める》
《いつものように、「1人で無茶をするな」って小煩く叫んでも良いんですよ?》
《…そんな余裕をこいていられる体力は無い。どうせ、後から取締官にも言われるんだろうし。今この場で俺が言ったって、その性格を治す気は更々無い訳でしょ?》
《今更何をほざくのかと思えば、そんな事ですか…そんなの当たり前ですよ。あれれ…もしかしなくても、兄さんともあろうお方が私の性格を知らなかったんですか?私の精神色相すらもご存知でない⁉︎》
《この期に及んで何を言うのかと思えば…この我儘お嬢様の性根が死ぬまで変わらん事くらい、知ってますよぅだ。それこそ10年以上も前からね》
《流石はお兄様です。正にさすおに、これぞさすおに》
《はぁ…俺は時折、お前が怖くなるよ。お陰で退屈しないけどさ…ホント、イカれてるわ。まあ、なんだかんだで肩の力が抜けたから礼は言っておく》
《…やけに素直ですね。気持ち悪いですよ》
《今この場で大声で泣き叫んでやろうか⁉︎》
《冗談ですよ。まあ、変に誤魔化すこともしなくなって、気味が悪くなったのは事実ですが…今の雰囲気から見るに、再び症状が出たのはわかっています。ですが、あなたの性格からして、ここで私が待機を命じても意味はないのでしょう。…くれぐれも無茶はしないでくださいね》
《大丈夫だ、問題ない。それより、少しは自分の身を心配してくれ》
《人はそれを死亡フラグって言うんですよ。本当に兄さんは頭の隅から隅までお馬鹿で染まっているんですね。一度、二瀬ダムの人造湖に入ってそのまま放流してもらうといいかもしれません。少しはマシになるでしょう》
《おいおい…誰に向かって言っているんだ?やることやってから死ぬに決まってるだろ。俺はお兄ちゃんでお兄様で愚兄だぞ》
《私が死ぬまで生きていないと殺しますからね。呪いをかけるくらいには許しませんからね、お兄ちゃん》
《妹の前で命を張らない理由があるのか?否!否!否!全力でお兄ちゃんを遂行する‼︎》
《全力で無くても良いので、真面目に業務をこなしてください》
「…おい」
《滄に言われたくはないな。俺は今まで一度たりともサボったことはないぞ?俺はお兄ちゃんだからな》
《はぁ…いつもいつも本当に、どうしようもない程にしょうがないですね。私よりもよっぽど疲れてるでしょうに…無理しないでくださいって言っているじゃないですか》
《それこそ余計なお世話だって言うんだよ?我が義妹よ》
《兄さんにだけは言われたくないです》
「おいっ!」
するとそこへ、頭巾のようにして被った赤いフードを着る茶髪の少女が、我慢出来んと言わんばかりに廃工場の壁から飛び出てきた。そのフードの影から睨みつけるように眼光を覗かせながら、切れたナイフの如く殺意をこちらへと向けている。
俺も車から外へと出て、少女に目を向けた。
「あのさ、あたしが言うのも何だけど…あんたらの目の前に犯人が居るってのに、楽しそうにイチャコラした会話を繰り広げないでくれる⁉︎幾ら私の精神色相が綺麗に保たれやすいからって、時と場合があるってこと知らないの⁉︎マジムカつくんだけど‼︎」
「兄さん、私達お似合いの夫婦ですって」
「こらそこぉ!勝手に拡大解釈を広げるなぁ!」
「とりあえず、もう一回お兄ちゃんと呼んでくれないか?…出来れば耳元で」
「そっちの間抜け面は、良い加減シスコンを卒業しろぉ!」
いきなり出てきたかと思えば、憤りを通り越して怒りを露わにしている少女の、その佇まいたるや…。
俺は感服していた。何故なら、彼女が10代には到底思えないように感じてしまったからだ。
小説同様…まず間違いなく、一定の水準を超えた軍事教育が施されている。白旗を挙げるように降参する立ち姿…その手に持っている銃、M513レイジングジャッジを持つ指のかかり具合から見て、人を殺す行為は相当場数を踏んでいると見て取れる。また、迸るエロさを発散するかのようにして、そのズボンの中にあるであろう少女の御御足にも注目して見ると、程よく筋肉が付いて健康的に鍛えられていることが一瞬にして理解出来た。加えて、口調の荒さに控えながらも、実のところ冷静な判断能力を隠し持っている様子である。精神色相を測るまでもない。これだけの情報が与えられれば、俺にとってはお釣りが出るほどの答えそのものだった。
彼女が衣彩茉莉張本人である、と…
そんな彼女が外へと顔を出したのだ。余程、不利な立場に居るのだろうというのが俺には見えている。一先ず、この状況を作り出せたのは上出来だろう。流石は、合理的な判断を瞬時に取捨選択出来る免罪体質者だ…話が早い。
「にしても…驚いた。反体制ゲリラの軍事顧問が、まさかこんな子供だなんて」
「残念ながら、あたしは使いっ走りじゃなくて…ってなんでわかったの」
「自暴自棄にならずに反撃出来る体勢を完全に崩していない判断能力がある…というのは別にして、自爆テログループの中で一番に戦闘能力が高いということ。地面に接する重心のかけ方や、壁から出てくる時の動きの身軽さから相当な訓練を積んだ人であると見受けられたから…かな」
「…訓練によって身に付けた動きが、余りにも自然すぎたって訳か…成程。観察眼もさることながら…あんた、思ったよりも理屈っぽい奴ね」
「そんなことはさておき、君。この状況をひっくり返す手段がないからとかで、自首の選択肢を取ったんだろ?」
「そうだよ、悪い?」
「いや、悪くない。寧ろ賢明だ。命は大切にしないといけないよな。どうせ、『あたしは今、ここで死ぬ訳にはいかない』とか思ってんだろうし」
「嫌味ね。…あんた達、どうにも警官には見えないんだけど、どこの所属?」
「2人とも、厚安局の者です」
「…聞いたことない組織だな。まあ良いや…正直に言うと、あんたらに用は無かったんだ。あるとしたら、そこにある車だったんだけど…それも取れそうにない。んで、あんた達を狙おうにも、死角に居て狙うにはリスクが高い。それに、ダムの方での自爆テロや銃撃戦の情報から予想より被害が出てないことから、作戦が失敗したとわかった。この状況下で、あたし1人が囮を作る労力を割いてまで戦況を覆して逆転勝利する時間なんてものもない…まず無理よ」
「君も十分理屈っぽいよ」
「フン…あたしをいつでも撃ち殺せるようにしている人に言われたくはないかな。隠し持ってるお仲間さん、今すぐにでも狙い撃ち出来るように命令しているでしょ」
「ありゃ、バレてた?」
「カマをかけてることすらお見通し、か。業務中にそんなことをしてよく色相が濁らないわね。もしかして、あたしと同類だったりする?」
「…同類?」
「あんな出任せが冗談では無いと?」
「そっ、あたしは特別な体質だから色相が濁らない。犯罪に手を染め、テロを首謀し、沢山死体をゴロゴロと生み出したとしても、精神に負荷がかからないまま、魂を維持できる。そう言ったんだ…よぉっ!」
同類と耳にした時、わかってはいても俺自身にほんの少しだけ同様の色が走ってしまった。それを見逃さない彼女ではない。
しまった、と顔に出すことはなかったが…その僅かな隙と威嚇にも似た叫びに俺が怯んでしまったことによって、少女がいち早く動く。
「(この動き…やはりシラットか)……くっ!」
「…っ!……フッ!」
クラップスタナーのように手から離れる銃に視線誘導されれば、走るように前屈みとなって突撃してきた彼女が視界全面に入る。俺は、少女を素早く避け背中側へと回ると、対峙している彼女の腕を掴み俺の胸元の方へと引き寄せるような形を組んで、関節を決めようとした。そうはさせたくない少女は、すかさず次の手として、左肘を後ろへと叩きつけるようにして、こちら側に反撃を繰り出してくる。この攻撃の間…その次にあるであろう打撃を防ぐ為、腕を離し両手で受け止め、カウンターを決めるべく拳を振るうようにして放つ動作へと移る。対して、一瞬にして守りに準じた彼女は的確に肩、背中と放たれる俺の拳を見事に阻止した影響からか、ガラ空きとなっていた。そこで俺は反撃するチャンスと見て、その少女の背中に膝蹴りを喰らわせようと技を変更するも、足を上げた反動とその衝撃を利用した彼女は俺の背中へと回り込むようにして交わし、俺の腰に手を置く。そして、力では圧倒的に敵わない俺を抱え込むようにして強く持ち上げ、受け身が取れないよう地面へと叩きつけようとした。こうなってしまっては最後、俺自身がトドメを刺されてしまう。そんな結末は御免なので、なんとかして少女から跳ね除けるべく、間合いを取るように彼女を振り払って、投げ技へと切り替え、この対局を一時収めた。少女は、先ほど落とした銃を拾おうとしたが、すんでのところで俺のベレッタM92と、滄が持つCharter Arms Off Duty が同時にテロの首謀者の方へと向く。
奇しくも、槙島と狡噛のような鍔迫り合いにも似た力が均衡した状態ではなく、劇場版の常守と狡噛のように迎え合う形となったが、あの場面と決定的に違うのはこちら側に2人と1匹が居ることと、俺達が捕まえる側であるということだ。その分だけ判断は速い。加えて、俺を盾に車を奪おうとしたワンテンポの遅さが、少女の驕りであると同時に命取りとなる行動にも繋がった。
彼女の負けである。
少女は渋々観念したように、身体を落ち込ませて諦めを見せた。滄が身柄を確保する。
「チッ…わざと怯んだな」
「いや、ガチでビビった。おしっこ漏れるかと思うくらいにはビビってた」
「ふざけんな!嘘を吐くのも大概にせい!」
「本当だ。何なら見るかい?俺のマグナムが火を噴くぜ?」
「シスコンにロリコンって役満にも程があるっての!何でこんな奴が警察と手を組めるのよ!」
「俺はロリコンでも、ましてやシスコンでもないさ。どちらかといえばフェミニストだよ。いたいけな少女に手を出すのではなく、手を差し伸べているのだから。それはさておき、まずはこれ…東京都青少年健全育成条例改正案について反対しているんだけど、ここに署名をしてもらいたいんだ」
「いやもう、何言っても気持ち悪い人にしか見えねえよ!あんたは平気なの?この場に、見事なまでに不健全で場違いな度し難い変態が居るわよ!」
「ところで、あなたの色相…確認しても良いかしら?」
「なんで一番まともそうな人に見えるのに、会話が通じてないの!」
「ああ、そうそうそれそれ。君の色相を覗きたいんだけど良いかな」
「ああ、もう好きにすれば良いじゃない!文脈は兎も角、わざわざ許可を得ようとするだなんて…あんた達益々変よ。疑ってるなら、手っ取り早くこちらに向けた方が早いわよ」
通常であれば、そう都合よく計測不能な存在が現れるわけではない。未確認の精神作用物質なんてものが服用されていれば…尚のこと、このやり取り自体が成立することもない。
それこそ、嘘なんてものを吐けば、義妹が即座に見破る。
少女の口調、目線の動き、肌の艶等における健康状態からも、健全な魂を保っているのは明白だ。
そんな人間が、彼女以外にも──。
「………たまげたな」
「勝手にたまげてろ…って、まさかあんたも変なの?」
「実際に本当に居るとは、思ってもみなかったから」
「あーもうめちゃくちゃだよ」
「自分で言うのも何だけど…どうやら、例外たる存在なんてものは、案外結構な数居るのかもね」
「冗談はよしてくれ(タメ口)」
「でも、これが現実です」
「いやーもう十分堪能したってのによぉ…(満身創痍)ったく、勘弁してほしいってもんだよな」
「ふーん…まっ、この馬鹿はどうでもいいとして、あたしの色は見て分かる通り淡紅色。んで、あんたは多分…薄青色ってところかな。例に漏れず、お互い見たまんまってところだろうけど」
──本来であれば、衣彩茉莉の口から漏れる情報がある場面だが、現時点ではそうなっていない。にも関わらず、このなんとも言えないやり取りに、俺は感慨深いと口笛を吹いた。
「で、どうするの?あたしを逮捕するの?」
「それを決めるのは俺達じゃない」
「だからこそ、私達はあなたを粗略に扱わない。それに、あなたの存在はこの社会を守ることに繋がるかもしれない」
「──え?」
「言うと思った。そんな訳で、計測しますね〜。はい、大きく口を開けて息をハァ〜って吐いてぇ〜」
「ハァ〜………。いや、それは何か違う気がするし、計測するにはそもそも頭に触れなきゃ…って、お前!あの会話の流れでいつの間に⁉︎ここでいきなりする馬鹿が居るぅ⁉︎どう見てもフリでしょうが!」
「馬鹿⁉︎おまっ!人に好きにして良いとか言いつつ、馬鹿って煽るか普通!ああ、本気で怒らしちゃったねぇ!俺のことねぇ!おじさんのこと本気で怒らせちゃったねぇ!そんなこともわからないから君は馬鹿なんだな!バーカバーカ!」
「はぁ〜⁉︎馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんだよ‼︎バーカアーホドジ間抜けエロ変態役立たず‼︎」
「ありがとうございますっ!」
「何で罵声浴びて喜んでんのよ!」
「『カフカ、周辺警戒解いて良いよ。こっちに来て』…あとはラヴクラフトの回収だけだね」
「こっちはこっちで唐突ね!気ィ抜けすぎでしょ!どいつもこいつも危機感が無さすぎる!」
「せやなー」
「私達は職務に忠実なだけだから」
「それなー」
「くそがっ!こいつモノホンの天然記念物かよ、ちくしょうめぇ!」
「わかるー(天下無双)」
「と言っても、あなたの生死に関する判断は、託宣の巫女の天秤が規定するんだけど…まあ、大丈夫そうだから安心してね」
「しかも話聞いてねえし!あ ほ く さ」
「い つ も の お ま た せ 実 家 の よ う な 安 心 感」
「あんたの家族なんでしょ、どうにかしなさいよ!」
「ごめん無理」
「急に冷静になるな!即答するな!調子が崩れるわぁ!」
俺は、新型のテーザー銃の銃身に厚安局に貸与されている専用の
将来、公安局の主力武器となるドミネーターの前任者によって、俺達がどの銃口の引き金を引くのかどうかが決定するのである。
『対象の脅威度判定が確定しました』何処ぞの人間のフリをした
『
そうしてテーザー銃を撃って動きを封じ、少女の首筋に麻酔針を押し付けた。
──これは、P2を回収した後、旧秩父セメント第二工場からヘリで帰る途中に起きた会話の内容である。
「兄さんが考案した新型のテーザー銃と、厚生省が開発した閃光手榴弾や電磁パルスグレネードが、ここに来て活躍を見せるだなんて…」
「相手方が集団思考状態に陥っていなかったり、爆弾が体内に埋められていたり、もっと純度の高い違法薬物が投与されていれば、流石にここまでの効力は無かったよ。とりわけ、電磁パルスグレネードは扱える場所が限られている。その分だけ、テーザー銃の使用頻度が高まるかもしれない…とは踏んでいた。だからって…まさか、自分でも驚きが隠せないぐらいの結果が得られるとは思ってもみなかったけどね」
「何でも…暗黒時代における犯罪のデータと、過去…テーザー銃において過度に発砲したことにおける死亡事故を未然に防ぐ為の措置、そして導入間近である犯罪係数の関係を元にして非致死性の回数を設けつつ、開発が行われたとか」
「その通りだよ。主軸ではないとはいえ、一応大学生の時に研究してた内容に絡んでいたからね。それに、暗黒時代を経験した人が居れば…いや、暗黒時代を乗り越えた人達だからこそ、必要だと思った上での開発だったっていう点も、要因としてかなり大きかったんだと思う。こればかりは、正直に言って運が良かったよ。それこそ周囲の協力…帝都ネットワークの力も含めて存分に借りられ無ければ、実験の質が落ちて完成が遠のいていただろうからな」
「実際、完成するのが数十年先だったのを見るに、実装し配備されるには、かなりの時間を所有するものとばかり思っていました。けど、あなたは成功させた」
「…何が言いたい?」
「何か…私が想像だにしないような裏取引等があって、それに応じていたり…なんて無粋な行動、していませんよね?」
「んな取引に応じれる程器用じゃないの、あなたがよく知っているでしょうに。…ってか、シビュラシステムがある中で、一体誰と何処で何を取引なんてするのさ。わざわざ無茶な真似をする道理もないし」
「………それもそうですね。では、どうして身を挺してまで、社会を守ろうとするんですか?私のような境遇があるわけでもないというのに…」
「さあ…どっかの誰かさんに似たんでしょ」
「むっ…なんか馬鹿にされたような気がします」
「気のせいじゃない?まあ…強いて言えば、事件に小さいも大きいもないから…かな」
「…なら良いです。余計な詮索をしてすみませんでした」
「気にすんなって」
そう…俺は、誰とも取引には応じてない。これに関して言えば、嘘は言ってないのだ。
そも、取引以前にPSYCHO-PASSの世界で身を守るのであれば、尚の事必要な工程でもある。思考汚染が発生した際や犯人を拘束する場面においては、発生から間もない状況であればあるほどこれらは有効打になりやすい。将来的に、思考汚染における最小限の対処、及び改善を図る為の未来のエピソードから考えた上での開発だった。
従って、より正確に表すならば、取引に応じる理由がない…というだけの、しょうもないことなのである。
「それはそうと、ラヴクラフトが工場の隅っこで見つけたと思われる【The Man Who Sold the World】と書かれたカセットテープ…あれは、一体何だったんでしょうか?」
「詳しく解析して見ないとわからないが…仮に、誰か宛のメッセージだとして、その情報を素直に受け取るのであれば…あそこに世界を売った男張本人が居たんじゃねえの?」
「もしくは、エイハブかイシュメール…ですかね」
「アメリカの小説家、ハーマン・メルヴィルが描いた長編小説『白鯨』に登場する人物か…それとも、裸蛇か毒蛇か」
「『THE PHANTOM PAIN』…彼女の裏に、ボスか先導者、或いは本当の首謀者が居る…ということでしょうか」
「今はまだわからん。だが、どの道誰かが裏で手を引いているのは間違いない…そうでなければおかしい」
「確証はありません。それに、まだ20代にも満たない未成年者が、何の理由も無しに自爆テロを誘発させ煽動していたというのは無理があります。そもそも、彼女自身が妄言を吐いているようにはどうにも見えない。…となると、この事件はまだ終わってない、ということにもなります。再びテロが発生する可能性も高いのでは?」
「恐らくな」
やはり、この作品は碌でもない。そんなことよりおうどんたべたい、と思うくらいには…未来はどうしようもなく退屈で最高だ。
「ところで、それ…何を読んでいるんです?」
「ああ、これ?これはアンガス・マクラレン著作の本だよ。タイトルは『性的不能の文化史』」
「見るからに発禁本…ですよね。というか、今日に限らずそもそも何冊持ってきているんですか?」
「ええっとねぇ…『性的不能の文化史』『オルガスムの科学』『文化がヒトを進化させた』『意識はいつ生まれるのか』『利己的な遺伝子』『美亜羽へ贈る拳銃』だから、計6冊だね」
「………因みに、兄さんが大学で研究していたものって何でしたっけ?」
「藪から棒にどしたん?まあ良いけど…確か『思考汚染における文化ミームの危険性とその発生頻度及び感染経路について』だったと思うけど」
「…兄さんって変態というより変人ですよね。上層部の人にも『硬いペニスの泉宮寺です』って、古代エジプトからの由緒正しき挨拶を平然とやってのけるくらいには肝が座ってますし」
「『我は硬いペニスのオシリスなり、恐怖の王よりも強大なり、我は交わり無数のものを支配する』よりかは遥かにマシでしょ。変態は否定しないけど…それを言うなら、元ネタを渡してきた人や厚生省上層部に直接文句を具体的かつ丁寧に言ってくれ。寧ろその方が助かるから」
だからこそ、こうして頭を空っぽにして出来る付き合いが、心底気持ち良かった。
厚生省の本部ビルにして、都市のシンボルであるノナタワーは、まだ建設途中であるが、建設中だからこそ人の出入りは限定的である。故に、尋問や拷問を行うには最適な場となっていた。そのとある一室に、少女は拘束されている。
やがて、彼女は目を覚ました。自身の置かれている状況を、隈なく観察してからゆっくりとこちら側へと視線を移す。
「ここは?」
「おはよう、さっきぶりだね」
「…目が覚めたらギッチギチに拘束されて動けそうにないってのに、よりにもよって真っ先に視界に入るのがあんたとか地獄かよ」
「おいおい、そう悲しいことを言うのはよしてくれよぉ。俺だって、こんなことはやりたくなかったんだぜ?しかも、これで人道的な扱いをしているって上司は言うし…」
「反吐が出る」
「………ッ」
「悶えるな!気待ち悪い…」
「まあまあ、そう言わずに…良くも悪くも悪運が強い同士、仲良うしようや」
「あんたと同士なんて死んでも嫌だね!…あれから何時間経ったの?」
「拘束から既に5時間は経過した感じかな…依然として、君の色相は
「だってさ、聞いての通りだよ。いつまでそこに隠れているつもり?」
すると、俺の報告を聞いていた上司がヌッと顔を出した。
見るからに亡霊のようだし、背後から現れるものだから心臓に悪い。
「…そのようだな」
短めの返事で済ませている以上、会話を弾ませる気も無いのだろう。
何処ぞの管理官のように、相変わらず堅苦しいお人である。
「あんた達、何者なの?」
「厚生省国家安全保障麻薬取締局だ」
「…チッ、ってことは麻取ね。道理で警察には見えない筈だ」
「君は、我々の拘束下にある。残念ながら一切の権利は認められない。本来であれば、君は公衆精神衛生の観点から重大な脅威を及ぼすものとして、社会から隔離されなければいけない立場にあるが、それと同時に重要参考人でもある」
「成程…それで、拘束対象ってわけか」
「事件捜査において必要なことであれば、私たちはあらゆる超法規的措置を適用することも認められている。拘束、及び研究施設への送致が妥当であると判断されようと、これを無視することも可能だ」
「ふーん…あっそ」
唐之杜が懐から煙草を取り出し、一本口に咥える。昔ながらターボライターに指をかけると、シュボッと音を出して火が点いた。
煙草特有の独特の間の後、天井の方へと上がっていく白い煙によって、視界が少しだけ揺らぐ。
「あのさ、その煙草…あたしにも頂戴?もうすぐ誕生日なんだ」
「一応聞くが…君の年齢は?」
「14」
「なら駄目だ。何人たりとも、君のような子供が生き急ぐことはないし、生き急いだところで良いことなんて何もない…虚しくなるだけだ」
「余計なお世話よ」
呆れたようにしつつ、淡々と会話を切っていく。そも、これは会話ではなく尋問だ。何よりも、彼女は主犯である。その主犯を尋問している時点で、部屋の空気の温度が下がるのは必然だった。寧ろ、こちら側が何か情を移すような理由はないし、する必要もない。
俺は重苦しいこの空気に、何とか慣れようと耐えていた。
だが、それは無駄な努力に終わる。
いくらテロリストの主犯だからって、ここは元平和ボケをした日本…しかも相手は子供だ。時間も時間とはいえ、もう少し緩くこなしても良いのではないか?そう思った瞬間に、俺は即座に行動に移してしまった。
「あっ、丁度良かった。ジャーン!はいこれ!お台場名物レインボーブリッジ最中!中の餡子が7色になってる洒落た逸品となっております!」
「こういう場に持ち込むな…と、何度言ったらわかるんだ」
「何が丁度良かったんだよ。何もよろしくねぇよ」
「その顔色の様子だと朝御飯食べてなさそうだね。見るからに調子が悪いって顔をしてるもん。絶対小腹空いてるでしょ?遠慮せず食べてね。あっ、良かったら唐之杜さんも一緒に食べます?」
「…その味には飽きた」
「そういう問題か⁉︎」
「いやぁ、本店の中目黒だったらね。誕生日ケーキとかお菓子とか色々と買えたんだけど…このクソ上司、いかんせん秘密主義でさ。頭ガッチガチなのよ、ごめんねー」
「個人情報、下手したら機密情報漏れまくりじゃない!何でこんな奴が官僚やってんのよ!」
「私にもわからん」
「ってかどうやって食べれば良いのさ!」
「あ、そっか…手塞がってるもんね。そうだ、食べさせてあげる。はい、あーん…」
「人の心とか無いんか?」
「鬼畜だな」
「あ、唐之杜さん。お茶いる?」
「…いる」
「わかりました、淹れてきますねー。では、ごゆっくりー」
「モッキュモッキュ…モッキュモッキュ……。おい…」
「………何だ」
「あんた、この変態の上司なんでしょ⁉︎せめてツッコミくらい入れなさいよ‼︎」
「すまん、無理だ」
「諦めんなよ!」
さて、空気が変わったところで本題へと移ろう。
「さて、取引だ」
「…何よ、改まって」
「君には、二つの選択肢が与えられている」
「具体的な内容は?」
「一つは、全てを黙秘したまま新型違法薬物の検体として然るべき研究施設へと送られモルモットとなるか。もう一つは、私達の協力者として必要な情報を提供する代わりに命を保証させるか。どちらか選べ」
「何方も碌でもなさそうね。…挙げ句の果てに、命乞いをして仲間を裏切れっての?」
「既に裏切られているんじゃないか?」
横から聞いては居たが、思わず無意識に口を滑らせてしまったのは…流石に不味い。
場が、完全に凍てついたかのようにして固まってしまった。
どうにかして軌道修正をするべく、2人分のお茶を置きながら、内心慌てながらも口を冷静に動かす。
「君が爆弾を装備していなかった。正直に言ってこれに尽きる。それに限らず、何よりも疑念を抱かせるようにして明解な行動をとった理由…つまるところそれは、そういうことなんだろ?まあ、あそこまで憤慨していたにも関わらず、死ぬつもりは毛頭なかった時点で察せない程…俺も鈍感じゃないから」
「加えて、ダムを襲撃したテログループの別動隊というわけでもなかったのは、こいつと真守が証人済みだ」
「…」
「沈黙は肯定と見做すぞ。であれば、軍事顧問だと認めた君は、あの場で別の仲間と落ち合う予定だったと考えるのが自然だろう。しかしながら、あの場に仲間は来なかった。周辺施設に残されていたのは、旧き時代にあった妙なカセットテープのみ。それ以外の痕跡は何一つとして残されていない」
「…わかった。知っていることは全部話す」
「再度確認しよう。君は、自分の仲間を売り渡すことによって、司法取引を望むつもりか?」
「自分で誘導させておいて、どの口が言うのやら…」
「お生憎、これでも大分譲っているつもりなんだが」
「………条件は飲む。その代わり、あたしの命を保証して。そして捜査に同行させて欲しい」
「…わざわざ危険を冒してまで、何がしたい?」
「あたしを裏切った連中を追い詰める以外、何かあるの?」
「そうこなくっちゃな…」
少女の答えに、嘘偽りはない。彼らが何故、衣彩茉莉を裏切ったのか。それを彼女自身自らの手で見つけ出し、確固たる理由を問い質さなければならない。
ああ、これこそ実に美しいと思える魂の耀きだ。
それはさておき、今は尋問の最中だ。出過ぎた真似はしないよう、唐之杜取締官に主導権を戻し、拍車をかける。
「続きと行こうか…君が所属する組織は?」
「──名は〈帰望の会〉よ。一年前に日本国内に潜入した。構成員達は、既に各地に潜伏してる」
「〈帰望の会〉か…聞いたことのない組織だな」
「…念の為聞いておきたいんだけど、何て漢字で書くの?」
「帰るのを望むで帰望よ。…なんで?」
「いや別に。…日本国内に潜入したということは、十中八九海外からの刺客でしょう。それに漢字を見る限り、どうにもきな臭い」
「すぐに調べた方が良いだろう。公安のリストと照合しろ」
「あたしも捜査に同伴させて!」
「それに関してだが…君の提案については、検討する用意はある」
──暫し沈黙。
「…今から3時間以内に、二瀬ダムと同様のインフラを狙ったテロが実行される。場所は福島と新潟、そして千葉。それ以外の情報が知りたければ、あたしの身の安全を最大限保証して」
「駄目元で聞くけど、これ以上の内容を話すつもりは?」
「流石にここから先は厳しい。あたしも生存の確約が欲しいから」
「その情報に対する明確な根拠はあるのか?」
「あたし、彼らの連絡係だから。中枢が崩れれば、連携なんて破綻したも同然よ」
「…いいだろう」
現状、これくらいで済ませるのが妥当であることは誰が見ても明らかだった。唐之杜取締官もナイフを片手に拘束を破るつもりでいる。概ね小説の流れの通りとなっている。差し詰めやることはやった、と言えるだろう。
「テログループについての対処は、警察に一任する。帰望の会における詳細な情報は、引き続き俺が引き出す。お前は公安へ情報を送った後、ゆっくり休め」
「わかりました。では、後の方はよろしくお願いします」
「今朝方、真守を呼んだ。もうすぐこちらに来る頃合いだろう。引き継ぎも頼むぞ」
と、ここで…彼女の口から予想だにしなかった爆弾が、俺に投下された。
「そういえば…千葉に関してはちょっと違ったかも。確か、職業体験見学とやらに被っているとかで、ウキウキにしてたのが居たから」
「…なんだって?」
「何でも、大勢の人を巻き込めるチャンスだとか言ってて、それで…」
先程まで舞い上がっていた深夜テンションが一気に引き、直様悪寒が俺を襲った。それを聞いた瞬間、居ても立っても居られず、振り向きざまにガツガツと足跡を鳴らしながら少女の肩へ掴みかかる。
この時の俺は、自分自身の色相を清純に保とうとする余裕や、この先に起こるであろう事件を考える余地すら無かった。
「本当か?何処の学校が職業体験を実施しようとしているのか、わかるか?」
「いや、流石にそこまでは…」
「唐之杜取締官…俺は、今すぐ千葉県に向かいます」
「待て…その情報に信憑性はあるのか?」
「…手札の一つよ?それに、調べて直ぐにバレるような嘘は言ったって損しかないもの」
「間違いないんだな?」
「新潟、福島、千葉でテロが起きるのは間違いないよ」
「こちらから文部科学省と教育委員会、千葉県知事と県警に連絡を取る。追ってその都度最新情報も知らせる」
「了解」
その一言で事を済ませ、俺は部屋から颯爽と飛び出した。
「ねえ、あたしが言うのも何だけど。あいつ…なんか異様に鬼の形相をしたかと思えば、今度はこの世の終わりかってくらい顔を真っ青にしてたんだけど。しかも、慌ててここを出て行ったし…本当に大丈夫なの?」
「さあ…思えば私は、彼がここへ配属されたその時から、何かしらしでかすことに度々悩まされている。今更、気にしたところで無駄なだけだ」
「思い出作りをするにはもってこいじゃない」
「巫山戯るな」
「これは失敬」
「ベラベラ喋るな」
「喋らせないといけない仕事をしているのは、あんたでしょうが。んで…さっきのあれは何だったのよ」
「………発作のようなもの、として認識している。確か、泉宮寺自身が目を引くほど将来有望視している、ある種弟子とも呼べる子が千葉に居た筈だ。恐らくそれが原因だろう」
「…その子って今何歳?ってか、あたしにそれ話していいの?」
「事件とは無関係の他人だ、問題はない。ましてや、何処の誰とも言った訳ではないからな。それに…私がここで上手く濁したところで、あいつ自身が勝手に口を開くという点もある」
「うわぁ…」
「小耳に挟んだ程度だが、丁度君と同じくらいの年齢だそうだ。聞く限りでは…かなりの逸材だという噂も入るくらいだ」
「やっぱあいつ…ロリコンの才能があるよ」
「否定は難しいだろうな」
「寧ろ、あの白髪の人との関係から見るに、何で色相を清純に保てているのか、説明が付かないし…シビュラもシビュラでいい加減ね。あんなテキトーな人間がここで働けるのか、余計に意味がわからなくなりそう」
「尋問している時に話す内容ではないが、わからなくはない。にしても、泉宮寺のやつ…見事なまでに職務放棄しやがって。後で始末書だな」
千葉県へと向かう道すがら、俺はプライベート用の通話へと切り替え、呼び鈴を鳴らしていた。
自動運転に設定している為、法定速度を守らなければならないのは致し方ないが、その分だけ業務に徹せられるのが強みの一つだ。
そうして簡潔に情報を精査している途中、通話先の相手が反応するのが目に入った。
「常守、無事か!」
「うるさっ…朝から何度も通知を鳴らして一体どうしたんですか?今、朝御飯を食べてる最中なんですけど」
咄嗟だった為か、デバイスを掴みながら思わず想いが溢れてしまうようにして声が出てしまった。心を落ち着かせるべく深呼吸をして、改めながら再び声を出す。
「呑気なことを言っている場合か!今、千葉の方で…」
「知ってますよ、学校側から通達がありましたから。それで、私に手伝えと?」
「馬鹿野郎!未成年者を巻き込める訳無いだろうが!ただ、その職場体験には向かうなと…」
「………あなたは馬鹿なんですか?職場体験のような大がかりな行事が無くなったら、普通は学校で授業か休みになりますよ。一生徒を預かる身なら、尚のこと中止にするのが責任者として当然のことじゃないですか」
「………………………あっ」
やってしまった…。
「以前にも慌ててミスした際に、あって言う癖…そろそろやめましょうねって、私言いましたよね」
「あっはい…あっ、あ…あっ‼︎」
「事件が解決したら、正義の平手打ちを行いますので」
「わァ………ァ………」
「泣いちゃった‼︎」
これってもう処罰が確定してる…ってコト!?イヤッイヤ!イヤッ‼︎
「何はともあれ…お久しぶりですね、あーちゃん。それとも、
「そのあーちゃん呼びも、名前弄りもやめてくれ。鳥肌が立っちまうよ」
「なら、電話切りますね」
「ちょ、ちょっと待てって!謝るから!俺が全面的に悪かったから!お願いだからビンタだけは勘弁してくれぇ!」
「本当に切りますよ」
かなり辛辣に対応してくるが、この子こそ…あの遵法精神の塊にして、2期主人公である常守朱の祖母、常守葵である。
大学生がいいな 高校生もいいな 中学生もいいけどね
小学生もいいな とろけそうでいいな 幼稚園児もいいけど
『対象の脅威判定が更新されました 執行モード リーサル エリミネーター 慎重に照準を定め 対象を排除して下さい』