PSYCHO-PASS GOSPEL   作:2Nok_969633

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 良いですか?常守朱…免罪体質者というものはこういう人達を指しているのです。可愛いですね。


 (余談ですが、ワイは科学知識が全くと言っていい程に)ないです。専門は真逆なので、訂正があれば直してクレメンス)





今や、常識に左右されない新しいアプローチが試されるべきと考えます。

 

 

 

『あなたは隣人について、偽証してはならない』

 

 

「未完成という意味では、童貞とサグラダファミリアは論理的には同程度なのでは?」

「ちょっと何言ってるかわからない」

「ああ、お腹もまたこんなぐあいに、こすりさえすれば、ひもじくなくなるというのならいいのになあ」

「それはわかる」

「現代人に限っては、飲食をわざわざ外で済ませる場合もあります。つまるところ、ディオゲネスのように外でシコる行為が倫理観的にも正当だとする理由は、あながち間違いがないのでは?」

「思考汚染どころか、各国から『流石ド変態の国、クールジャパン』って言われるがオチやからやめてクレメンス。にしても…不思議なものだ。なして生物は、性欲と快楽が結び付いているんだろう?」

「そうでないと子孫が生まれないからでしょう…という意見も中には存在しますが、私は別段そのように思っていません。繁殖を目的としない性行為も確認されていますし、基本的に生物は単為生殖で生きることが可能です。調べれば調べるほど、有性生殖のコスパの悪さは異常だと理解することが出来ますから」

「コスパ」

「コスパは快楽に負けるのです。よって、有性生殖を選んだメスは悪であり、それに騙され続けたオスも悪です。単純に生殖に特化されるのであれば、頭と頭で性交渉をした方が良いのです」

「オイオイオイ死ぬわアイツ」

「それこそPhallostethus cuulongのようにすれば良かったものを…ユニコーンのようにカッコよくもなりますし、中島らも感も強まります。そういう進化をした方が、一石二鳥だったのですよ。

ですが、そうはなりませんでした。人類にとっては大江戸48手の方が生き残ってしまいました。実に残念です。

しかし、そうした結果やそれ以前の本能に潜んでいる欲の塊こそが、快楽主義を生ませたのかもしれません。快楽は良くも悪くも正義(システム)を狂わします」

「いや、俺達は魚じゃない…人間だ。どんな奴でも、最後になってみるまで自分がどんな人間かなんてものはわからないものだ………とか、言った方がいい?」

「つまるところ、快楽とは罪でもあり、罰でもあるのと同時に、人類にとって唯一無二の祝福でもあるのです。行きて死ぬ『呪い』と『祝福』、その全て…そう、それが愛なのです。真の秘密とは、夜の闇や巧妙な罠の中ではなく、人の奥底にこそ隠れています。それは、隔絶された場所で時を重ねて純度を高め、得体の知れない謎へと変わっていくのです」

「愛故の苦しみや過ち…それが、我々に対する贖罪」

「皆、癒しという暴力に苦しんでいるんです。快楽の麻痺が故に、我々は愛と痛みに飢えています。よって、ありとあらゆる女性はオキシトシン、つまるところ母乳を提供すべきなんです。ということで、オキシトシンを手っ取り早く手に入れたいので、新鮮な母乳が欲しいですけど」

「何が『ということで』だ。構文みたいなことを言うのはやめなさい。…というか、野郎の俺に言っても無駄だと思うんですけど」

「意外とそうでもないかもしれませんよ?乳汁漏出症を人工的に作れれば可能性は0ではないです。さらに言えば、ここを含めて一部の国では、かつて有名となった男性の同性愛者や両性愛者をターゲットとしたアダルトビデオの影響によって、思考汚染が発生しました」

「色々な意味合いで悲しくなってくるから、それぐらいでやめておきなさい。本当に涙がで、出ますよ…」

 

 

 他愛のない雑談から始まった、とある免罪体質者との対話。彼等は、歯止めという言葉を知らない。それは徐々にギアを上げるようにして、ヒートアップしていく。

 彼らは、時として自らの信念と同化して業そのものに変わってしまう。

 人でありつつ、人を超えてしまった者達は、人の目ならざる眼差しで全てを見つめ続けるのだ。

 

 

「計算で導き出される数字というものはですね…その数値を超えるために存在しているのではないか、と私は常々思っています」

「最初っから無謀に挑む時点で、既に手遅れ感があると思うけど」

「あたかも数学で導き出されたパターンや数値で全てが決まってしまう、なんて常識めいたことを述べてしまっては、退屈の一言で完成されてしまいます。そんなわかりきったつまらなさなどは、人類が齎す娯楽には不要です。

だからこそ、正解を導き出す数学や科学が必要という裏付けでもあります。学問とは、謂わば人類が公平に扱える最終兵器でもあると同時に、諸刃の剣と化す暴走した野生動物、理性という檻に閉じ込めておける獣でもあります。

これは逆も然り、です」

「それはそうかもしれないけれど、学問を楽しいと思う人も居ると思うよ?」

「否定はしません。

しかし、皆が皆計算に特化し、かつ実験や結果、論理を重視している訳ではありません。システムの性質上、機械拡張における統計学やリスク計算を得意とするAIやCPUと組んでいるからこそ言えるのですが…暴論を述べれば、人類は数学や論理性、それらを見通す為の将来性が大の苦手分野なのです。本来であれば、ぐるぐると回転をしているこの星の、ほんの小さな場所を少し動かしただけで、人生が変わるなんてことはない訳です」

「…えっと、それだと最終的な結論としては、ただのギャンブル癖のあるバカが大量に居るとしか聞こえて来ないんだけど」

「ですので、賭け事に夢を見ない、というのが1つの賢い選択肢として存在しています。博打というものは、愚か者にかかる税金なのだから身を滅ぼす確率が高いのは当然である…このような言説が生まれるのは至極当たり前の現象です。

ですが、この遺伝情報物質こそがそもそも人類を人類たらしめているものでもあります。これが、重要となる観点です。

今日において人類は、人とは、生物とは何であるかを追求することとなりました。何故、単純な構造から自発的に複雑な秩序構造が生まれてくるのか、どういった仕組みで成立しているのか、と。その不思議さに惹かれたからなのか、脳はさらなる刺激を欲し、知識を蓄積したことで、変化を齎しました。

これが所謂分子生物学です。この学問によって、生物の物質的基盤を明らかにすることが可能となりました。 これにより遺伝学、発生学、進化学、病理学、生理学などを含めた数多の分野が、分子生物学という共通の言葉と手法で理解され、発展していくこととなったのです。

二重螺旋構造、セントラルドグマ、遺伝子組換えなどの一般教養から、自然選択や中立進化といったメカニズムもその一例です。

進化と人生とは、奇妙な立ち位置でもあります。

総じて人生とは、賭け事を乗り越えたからこそ手にすることが出来るものでもある為、それらを完全に否定することは出来ません。環境に適応できたモノが生き残る、というのが適者生存と言われる所以でもあります。それを自覚しているか、自覚していないか、その差を認知出来るだけの知能があるか、そうでないか。自覚することが難しい愚か者が破滅の道へと向かうのも、自覚していたにも関わらず破滅の道へと誘われるのも、これもまた普遍的な現象であり、自然本来の姿として保っていました。

故に、人類は皆、それぞれが描いた夢を見たい夢想家でもあり、ロマンに逃げる努力厨でもあり、夢へと逃げてしまったことによる損失や、それらにおける生じた様々な事柄に対して抵抗が出来るわけがないことを悟って全てを諦めてしまう、儚い生き物でもあります」

「その皆っていうのは…人類全体、つまるところ免罪体質者も含めて言っているよね」

「はい。何故なら人類に蔓延っている呪いを剥がすことは、もはや不可能に近いからです。それらを封じ込めている檻の施錠自体に綻びが生じてしまったので偏に難しい…というのも、原因として考えられます。

また、根本的にこうした葛藤を緩める意識や法則が潜在的に潜んでいるというのもあって、制御することは非常に困難です。トリガーという名の鍵自体が、ありとあらゆる箇所…即ち《自然》に落ちています。『岩は嘘を付かない』のと同じように。

『我なんぢに命ぜしにあらずや心を強くしかつ勇め 汝の凡て往く處にて汝の神 主偕に在せば懼るるなかれ戦慄なかれ』…あなたなら、この意味が伝わりますか?」

「…何だか雲行きが怪しくなってきたゾ」

「文化的に一緒くたにするのは非常に良くはないのですが、例えば…かつて繁栄した宗教に存在するヨハネの黙示録でも引用しましょうか。

この書物が結末として述べたものは、最後の審判という事象によって異教徒共が全員皆殺しにされて、至福千年の神の王国に入れる、所謂『革命』が考えの基準となっています。ユダヤ教における全知全能の唯一絶対神ヤハウェ、キリスト教ではエホバ、イスラム教であればアッラーを信仰している自分達のみが助かることこそが正義である、と。

私は、こうした考えを『千年王国思想』と呼んでいます」

「『これは個人的な意見であり、偏った思想によるものです。決して否定や批判をしている訳ではありません』と、一言でも良いから言ってくれないかな」

「数ある宗教は、大体このようなオチになりますし、ありとあらゆる主義主張は、基本的には異教徒殺しと信者獲得の為の建前に過ぎません。短期的には同族を生存させたとしても、長期的に見れば損失が上回ることもあります。これらは総じて運によって勝敗が決まりますが、結果的には互いに対してドス黒い復讐心しか発生しませんし、残るものは流れた血と数々の死体だけです。老若男女赤子も関係なく皆殺しにしなさい、躊躇することもなく、怖がることもなく、全ての葛藤を捨てなさい…という概念を植え付けさせる、正に人間の中に持ち合わせている勇気という麻薬を常時覚醒させる、一種のトリガーでもありますので。

このような事象は、反面教師として活用した方が遥かにマシです。

故にバチカンは、1936年5月26日付の『第一聖省訓令』において靖国神社への参拝を認めており、1951年11月27日付の『第二聖省訓令』でも同じように参拝を認めています。ローマ法王庁も、伊勢神宮に対して参拝したという事例も存在します。偏に、宗教戦争なんて碌なものじゃない、と散々経験している身ですから、尚更このような動きが見られました。

要するに、長い年月の末にようやく収まりを見せた宗教でこれです。

ニーズという概念を知らないマルクスが長々と書いた『資本論』を有り難がる層、つまるところ無知蒙昧であるが故に一発逆転を狙う人々が暴れるという構図が、ただ単に愚かであることに変わりはありません。

マルクス主義は、マルクス主義者にとってのアヘンである…宗教をアヘンとして忽ち非難をすれば、政治的自由と市民的自由をアヘンとして非難することに繋がります。言論の自由は去り、寛容が続いて消え去ることとなり、簡単に正義も消えます。メディアやSNSなども人が運用し、トレンド等に影響している以上、総じてこの傾向が高まりやすいです」

「まずい」

「安心してください。言葉で表現するものは遍く詭弁ですから。

要するに…人類には完全なる公平性を実現しても良いという権利が、与えられていません。

これらのことからも見て取れるように、最大多数の最大幸福、どれだけ我々や一般人が理性や合理性を重視しようと、必ずとまでは言えませんが、それを覆すような法則が働いてしまうのは無理もない…というだけのことです。

その人達にとって、社会の連環システムが上手くいかなくなれば、身の破滅は待ったなしです。明日は我が身の状況下で残ったものといえば、手軽かつ巧妙に扱える暴力しか手元に持ち合わせていません。人生に幸せが実感出来ない状況が不安定さを齎し、それらが溜まりに溜まって社会を壊そうとするのです。貧困や貧民に成り下がる環境が構築されれば、どれだけの対策をしようとテロは起きます。現に日本も、地下鉄サリン事件等がありましたし、社会を壊そうとするような免罪体質者が度々世間を騒がすようなこともあります。

とりわけ、我々のように無駄に大きな脳を持ち合わせた個体ですら、物事を因果律で考えてしまいがちなので、どのような思想を掲げて理想を焦がれて足掻いても、人類が生み出したものには暴力が終ぞ付き纏います」

「弱者を助ける為に開発されたツールが、実は弱者の自己肯定感における論理を、都合の良い道徳に書き換えていただけの代物であって、その実、多くの人を陥れて堕落させた罪深き何者でもないと?」

「論理とは、弱者が教室の隅っこで考えに考え尽くした妄想です。

然るに、身内がユダヤ人でありながらプロテスタントに傾倒してしまったことでバグが発生してしまった訳です。…それこそ、『資本論』のようなふざけた代物が。

このように、宗教やテロといった社会現象の構図も丁寧に分解すれば、生物由来であることに違いはありません。私は、別に特定の政党や主義を否定したい訳ではないのですが…ただ、単純化した上で構造を述べてしまうと、途端に退屈なものへと変貌してしまうと言っているだけです。

加えて、それらを既存の自然摂理と合わせて考えれば、個人同士の暴力が集団へと変化したことで群れが生まれたのは明白です。その対立構造がコロコロと変化しているだけであって、対象先に関しても国か、人種か、性別か、性癖か、異端か、異教徒か、貧民か、富裕層か、イデオロギーか程度の違いでしかありません。これもまた事実であり、その成れの果てが何をしでかしたのかは、ご存知の通りです」

「複雑な事象ではあるけど、確かに分解して観察して見れば…まあ、一理はあるかもしれない。しかしながら、その発言は面白みに欠けるというよりもさぁ…そこまで言うかね?普通はもう少しオブラートに包んで言うものだけど…」

「預言者の指導を政党の指導に、最後の審判を革命に、千年王国思想を主義を守る為の支配と置き換えれば、暴力装置が如何に危険であるかがよく理解出来るかと思われます。

そしてそれは、表裏一体の位置として、密かに隠れているものなのです。

宗教がアヘンであると述べたのであれば、行き過ぎた主義や主張はカルトや陰謀論の始まりであり、鏡となって自身を照らし合わせます。

脳の論理構造が飛べば飛ぶほど、それは人々を魅力し、有り難がれ、そのまま地へと堕ちていきます。蜜蝋で固めた翼によって自由自在に飛翔する能力を得るが、太陽に接近し過ぎたことで蝋が溶けて翼がなくなり、墜落して死を迎えたイカロスのように。

人間の傲慢さを語った神話やそれらを否定する宗教もまた、同じ仕組みで出来ているのです。それこそ、旧時代には『自省録』のように、現代の倫理観に収まらない構成で成立していた代物だって残されていましたからね」

「現に様々な宗教や主義が失敗していることこそが、その証である…と」

「とはいえ、今現在の日本も俯瞰して見ればご理解が深まるかと存じますが、大体は人間が織りなす事象ですから、然程違いがあるようには見えません。程度の差はあれど…似たような事例は発生します。

この世界は、人間とアンドロイドの境界線が曖昧となった世界に似ています。しかも、本物そっくりの機械仕掛けの生物が、壊れてしまった人間を管理している。生得的に機械仕掛けの怪物となるよう認識を埋め込まれている人間によって、支配されている。そこに感情はなく、人々もまた感情を失っていく。

よく会議が長い会社はダメがちだ、などと言われますが、それよりも共産主義国の会議は短くなりがちです。何故なら、事前に根回しして意見を纏めた上で、事前に作成された議事通りに秒単位の正確さで会議が進行するからです。これらの現象や環境を、全て色相や犯罪係数に置き換えてみてください。そんな中で議事にない意見を言ったら、果たしてその人はどうなりますか?」

「流されていない批判や評論は価値はあるのかもしれないが、余程のコネや力といった才能がない限りはどうすることも出来ず疎まれて…文字通り粛正される」

「その通り。しかしながら、そのような状況が招くと知り、失敗するとわかっていても尚、人はそれらを望み、堕ちてしまう時があります。

弱くなってしまった時です。

それが新自由主義…大まかには、今までで1番リスクが低かった資本主義を維持した経済と民主主義が、紆余曲折の末崩壊してしまったという設定の上で成立しているので、尚のことバラバラに暴力が拡散しました。

中国経済バブルの崩壊に伴ったアジアでの激しい紛争の始まりによって、世界的な『倫理崩壊(モラルハザード)』が引き起こされ、挙げ句の果てにはインターネットで全世界に知れ渡ってしまったことで、さらに流れが加速しました。

加えて、脳の構造までもが変化したことで、反シビュラ思想を持つ人間や色相が濁りやすい人間を廃棄しなければならなくなり、その分だけ遺伝的多様性が失われる為、ただでさえ思考汚染が発生しやすい移民を受け入れなければならなくなるという意味不明な状況へと陥りました。

徹底した官僚制度と治安を維持する為の職業適性考査及びシビュラシステムの導入が必要だったのは、正にこれが原因です。

思考汚染が発生すれば、その状況下で人々が共感をしてしまったが最後、忽ち日本は他国と同じく滅亡の一途を辿ります。

水不足や食料不足も重なり、鎖国することを余儀なく選択する他に手段がありませんでした。

つまるところ滅茶苦茶です。我々ですら匙を投げたい気分です」

「それが現世の日本を含む世界、即ち犯罪係数が高まれば赤子だろうと容赦なく殺す未来である、と」

「『理想の国家とは理想の国民で出来ている』…いや、『国民は自らの程度に応じた政治しか持ち得ない』とは良く言ったものです。つまるところ、理想なんてものは存在しないのも同然であると言っているようなものでもあります。しかし、人類はそれを否定し、それをまた否定し…といった薬物中毒のようなスパイラルに陥りがちです。

故に、新たな宣言と管理、それらを容認する為の民主主義と景気が必要なんです。

そんな考えを持つ我々が、人類の最大の武器である暴力を、それらを扇動する暴力装置を軽んじることなど、到底あってはならないことなのです。そも、そういう風な立ち回りをすること自体も、論理的にあり得ないことであり、そんなものは非論理的でそうあってほしいというスピリチュアルのような願望と何ら変わりはしません」

「滅茶苦茶喧嘩を売ってるけど、コレって大丈夫なのかな…」

「保守は保守でそれはそれで厳しい一面もありますが、リベラルはリベラルで科学のフリをした疑似科学や選民思想に傾倒することが起きやすいリスクが存在します。

それが、現世人類の正体。

人間の心の奥底には、元来こうした排他性や自分だけの正義を実現したい、倍返し以上のことをしたい過剰報復という概念、生物としてのドス黒い本性を、常に所持しています。右も左も変わらず同じというのはよく言ったものです。

であれば、暴力は残るがそれすらも考えない方が生存には適している、という戦略を取るのも無理はありません。群れを纏めるにも、それが有利であるかのように錯覚させることも可能である、という働きが発生するというお墨付きも存在します。我々ですら、一歩歩む歩幅が違えば、同じ穴の狢となっている可能性はあったでしょうし、我々も肉体が存在していれば、その場限りなのかは置いておいても「そうですよね」…と、多くの人々が頷いていることでしょう。

悪戯に共感することがないというだけで、共感能力自体が完全に失われている訳でもないですし」

「システムを担う人間が完璧でないのに、完璧を求めるのは余りにも傲慢だと…」

「システムはシステムで愚の骨頂ではあります。

我々を含む人類が、過去の遺産を如何に嫌悪し、否定しようとも、それを拒絶することは出来ないんですよ。

故に、我々は様々な障害や人の認知機能、身体機能に纏わるものといった性質そのものを必ずしも克服すべきものとは考えていません。そういった違いに適応出来ない《未成熟な技術や未成熟な社会》もまた変わるべきであり、《個々人の多様性によって柔軟な社会システム》を形成させるべく、《ありとあらゆる矛盾と不公平の解消された合理的社会の実現、全人類の理性の中で究極的に求めている世の中》を目指しています。

それはとても功利主義的で宗教的であり、科学的であり、生物的でもありますが…つまるところ、我々は、多くの矛盾を孕んだ中で生きなければならないのです」

「それでも、公平に付き纏う綻び、即ち混沌を招く可能性を秘めている。それこそ、闇を育んでいる人間が生まれてきてしまうように…だからこそ公平性を保とうとするために、己がシビュラを求め、率先して自らをシビュラに捧げると。シビュラが望む夢も、人々が理想とする社会も、同時に並行するには成り立たないから」

「仰る通りです」

「誰かがやるしかない…と」

「それが免罪体質者である所以なのかもしれません。一昔前では英雄、一歩間違えれば罪人。投げたコインが必ず表か裏の、どちらかになるわけでもありません。落ちて来ないことだってあります。

中には悪行を積み重ねたからこそ法律は必要である、と唱える個体も存在します。

どれだけ度し難いと言われようとも、それは人類が予め生み出すように設計を施している。我々自身を生み出すように望んだ結果が、現状を招いていると言っても過言ではありません。罪と罰をも超越するということは、つまりはそういうことにも繋がります。従って、従来の人類の規範に収まらない異質なもの、即ち免罪体質者の発現はどうしても低確率に陥りやすいのです。本質的に、私達もまた生贄システムであることに変わりはありませんから」

「かつてのジョン・ハンターのような人間を入れたかと思えば、実際にはそれよりももっと働かされる訳だ。『金持ちどもは暇だから待たせとけ、おまえは働かなきゃいけないんだから』とはよく言ったものよ」

「つまるところ、私達は自然法則の奴隷でもあります。古い作品の中ではこうした言葉が語られ、現世に残されています。『そんなものじゃ、憧れは止められねぇんだ』と。…そう、憧れは止められないのです。

我々は別段、珍しい人間という訳でもありません。ただ、誰にでも持ち合わせている潜在意識を昇華させたか、させていないか、その度合いが飛び抜けているか、そうでないか、罪とは何なのか、罰を背負えるのか、というだけのこと。要は、本質的に述べれば誰でも免罪体質者となり得ます。

人を信じるということは、結果的にはそういうことにも繋がります」

「それは…ちと極論ではある」

「『人間とは、手段であり目的ではない』と、述べられることがあります。社会のための手段が人間であって、人間は目的じゃない。社会とは、ソサイエティではなくエコシステムである為、エコシステムを成立させるために人間が必要となる訳です。つまり、人間を重要視する社会、人間を目的とした社会は破綻します。故に、これらの現象は人間の定義の問題から始まります。そこで重要となるのがサバです」

「要するに、社会とは生態系であるということね。………で、よりにもよって何で最後に持ってくるのがサバ!?何でここでサバが登場するんだよ…。満を持して登場する身にもなれって、サバも言うと思うよ?サバサバした口調で」

「サバを舐めたら痛い目を見ますよ?模様の形成が遺伝的物質ではなく、波によって模様が決まるとか色々あります。より簡潔に述べれば、サバの背中の模様というのは、結局、サバという種、及びサバを取り巻く環境などとの組み合わせを、延々と自然界がやってきた証拠そのものなのです。あと、何より美味しくて貴重な食べ物です。願うことなら、また鯖の味噌煮を食べたいところですが…」

「まあ、鯖の味噌煮は置いておくとして…つまるところ、何だ。やはり拡散が肝である、と言いたい訳ね」

「それに関しては、未だ未確定な部類も存在しますが…故に、我々は確認し続けなければならない。かの有名なアラン・チューリングのように」

「化学物質がどのように空間内で反応し、拡散するかを説明するモデル…。多細胞生物の個体発生を研究対象とする生物学の一分野。個体発生に関する配偶子の融合から、配偶子形成を行う成熟した個体になるまでの過程を調べる【発生生物学】の基礎である反応拡散系方程式。広義には、老化や再生も含まれる他、胚がどうやって発生していくのかを研究する学問でもある。反応拡散方程式の活用方法の中には、生態の侵入や感染症の拡がり、腫瘍の成長や、傷の治癒などの応用例も存在している。…それらの学問、とりわけ発生生物学は、古代ギリシア時代から既にヒポクラテスやアリストテレスなどによって、ニワトリの胚を用いた研究が基となり行われ、受け継がれてきた」

「魚の模様然り、水の中に垂らされた一滴のインク、動物の生息分布図、遺伝的に赤い花と白い花が咲く植物に関する、赤と白の存在する確率のモデル等々の自然現象から、人から人へと伝わっていく噂話に至るまで、ありとあらゆる予測を含めた、複雑かつ多様で難化した情報。これらの事象について、共通するキーワードがあります。それが『拡散』です。インクは広がって透明な水を濁し、動物は縄張り意識を持ち合わせています。人類も同様、噂話や情報はSNSやメディアなどを介しながら社会に広がっていきます。

社会も同様…というのは過言かもしれませんが、多様なパターンがあることは認められていることでしょう。生命の発生過程のように、細胞同士が局所的な相互作用を通して自己組織化して作られているようなものですからね。その効力は、実に自然的です。

そも、地球上に最初に生まれた計算機は何か…それは、アデニン、グアニン、シトシン、チミンといったDNAを持つ生物です。

故に、地球上では地球が誕生した46億年前から、既に計算が行われてきたということでもあります。

これは、生物が生物であるが故に齎した美学による計算です。生物のことを知れば知るほど、結局、数字で世の中を表せることが出来るという着想に至るのです。

全ては、生物が元来所持している構造がヒントになっています。つまるところ、コンピューターによって再現も可能となり得ます。計算を繰り返せば繰り返すほど、同じ過去からの進化が再現可能となり、普遍的と証明されます。

結論として、今の世の中というものは、数字として表せることも可能ということです。コンピュターで把握し、その先の進化については、リアルタイムと並行して影響を与えたり、あたかもそこに実際にあるように違和感なく織り込んでいけるようにもなるでしょう。

そこで発生したイレギュラー、つまるところ免罪体質者も例外ではありません。アルゴリズムは歯止めが効きませんから。それらを解析するために、より逸脱した人物、対立する二人の脳が、現時点では必要と言っているだけの建前にすぎません。中には、同類婚のように性質が似通った人達同士で関係が形成され、次世代へと受け継がれていく現象も存在します。

バイオバンク・ジャパンを中心とした約17万人の日本人集団のゲノム情報に適用し、主成分分析の結果を集団構造化の影響の補正として加えた上で、81形質に対し、親世代の同類交配の影響の有無を評価した結果、日本人集団において、糖尿病や心血管疾患といった疾患、軽い運動習慣、食生活習慣が、統計的に有意とした表れた。即ち、同類交配の影響を受けていることが判明した…なんて論文も残されていますし」

「…ちょっと何言ってるのか分からない。というか、分かりたくない」

「例えば、日本人を含むアジア人の胃がんリスクとなる背景と生活習慣を紐解いていくと、東アジア人に特有のALDH2遺伝子多型を持つ個体は、アルコールの分解が苦手な個体である為に、飲酒と喫煙の両者が重なった時に相乗的に変異の数が増えることが認められています。だから何だって話なんですけど」

「まさか、免罪体質者に遺伝的な背景があるとか言わないよね?幾ら生得的だからと言って、確率は200万人に1人な筈…」

「さて、それはどうでしょう。…ですが、互いが互いに依存し、調和の取れた存在へと昇華しなければ、人類の存続を行うことは非常に厳しく、困難を極めていきます。故に、我々はそのために存在するのだと考えています。葛藤に囚われる怠惰な姿勢も、巫山戯る余裕も、時間を割く理由もありません。我々が妥協をすることなど、万に一つも許されていないのですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 PSYCHO-PASSという作品は、何も高尚なものではない。その実、ダークファンタジーに近い代物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 命とは、深い闇の中でこそ光り輝くものである。

 この世に死ほど平等なものはない。どんな生き物にも必ず死は訪れる。死は公平にして絶対的な理であり、常に我々の傍らにある。だが、人々は知恵と勇気を駆使してもがき、足掻き、最後まで生にしがみつく。我々はこの不公平で不平等な世界が好きなのだ。そして、無数の死を養分に花が咲くように、この美しい世界の底には数えきれない悲劇が埋もれている。当事者でもない限り、私達がそれを知ることはない。君はただ目も眩まんばかりの美しさに心を奪われて、大地を踏みしめて進めばいいのだ。君の悲劇は糧となり、新たな花を咲かせることだろう。憧れは毒より強く、病より深く人を捉える。これらに一度捕まれば、決して逃れることなど出来はしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはまるで呪いだが、人類は皆進んで身を投じていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らにとって憧れの無い人生は「死」よりも恐ろしいのだ。二度と戻れない旅。二度と手に入らない宝物。二度と帰らない命。この世にあるものの殆どが二度と元には戻らない。それが分かっていながら、人は今日も一歩前へ進む。一度も観たことの無い景色を観るために、歩き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 未知への憧れは誰にも止められない…。つくしあきひとが言ったように、命は闇の中においてこそ輝くのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうか…どうかあなた達の旅路に…溢れんばかりの…呪いと祝福を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 故に、科学は全てを解決する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「人類が生み出した呪い、シビュラシステム…そして、それを起動するのに欠かせない免罪体質者。加えて、考えることを放棄してしまった人達…集団思考状態へと陥る仕組み。…あれ、何とかしたいですよね?」

「だからって…免罪体質者の身体まで、そんな非人道的な使い方をするのは…その、余りにも惨いというか。…はっきり言って、度し難いのでは?」

「…ああ、なら心配は要りませんよ。脳を摘出したあれらは、文字通りただの肉の塊です。であれば、人間としての運用をするという道理がそもそも存在しません。私の箱庭、ご覧になります?」

「副産物で生じたものを有効活用しているだけ、とでも言いたげですけど…ちょっと頂けないかな、とは思う訳でして」

「順番ですよ。物事には順序と言うものがありますから」

「純真もまた純真で、厄介な代物ですねぇ」

「免罪体質者は免罪体質者であるが故に驚異的です。人間性の喪失と引き換えに手にすることが出来る代償、その価値もまた、とても素晴らしいものです。この研究の果てに、深淵の闇を祓うヒントが生まれるのですから。それは偏に、彼等のおかげですよ」

「…」

「おや、ここにも迷える子羊が1人居るようです。どうにも、納得が行っていないようですね」

「これが、彼等に対する愛だとでも言いたいのか?」

「試練は愛をより深くします。そうでしょう?暁」

「俺は…どう足掻いてもロマンを求めてしまう人類の根源的な欲求があるということも、それを抑えられないという気持ち自体も、十二分にわかっているつもりだ。だけど…俺はあなた達をこれっぽっちも許すことが出来ない。それは、肝に銘じておけ」

「遺伝情報物質が齎す呪いと祝福…ああ、素晴らしい。なんと、素晴らしい。その感情は本物です。大切にしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 同一の起源を持ち、なおかつ均一な遺伝情報を持つ核酸、細胞、個体の集団…それらの総称を、我々はクローンと呼ぶ。

 無性生殖は、原則としてクローンを作る。

 単細胞生物の細胞分裂は当然クローンとなる。有性生殖をするまで、群落は1つのクローンである。

 人間…有性生殖であれば、一卵性双生児は天然のクローンだ。

 そして、哺乳類のクローン分野の研究は急速に進歩した。

 1体の複製を作ること自体が偉業だった時代はとうの昔に過ぎ去り、最先端の施設に至っては、何十体ものクローンを創造するところにまで進んで来た。

 かつて居た世界では、こうした実験が成功している。

 体細胞クローン…成熟した個体の体細胞から取り出した核を、核を取り除いた未受精卵に移植して母体の子宮に戻すことにより新しい個体を作成する技術を指す。親個体と同じ遺伝子を持つ個体を理論上は無限に作ることが可能となり、畜産物の生産効率化等の観点から注目されている。

 そして、体細胞クローン技術を用いて産出された牛、豚及び山羊並びにあらゆる体細胞クローン動物の後代に由来する食品、肉や乳といったものは、従来の繁殖方法で産出した家畜に由来する食品と安全性において同等であるという評価も与えられていた。

 これらは所謂ホノルル法と呼ばれているものだ。この方法を用いて、ネコ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ブタ、ラット、ラクダ、サルなど多くの哺乳動物で、体細胞由来のクローン作成における成功例の報告が存在する。

 

 

 ここで、マウスを使用した以下の実験が行われた。

 体細胞クローンを作れること自体は可能となった。

 では、それらクローンの細胞からクローンは作れないものなのか?果たして、成体マウスの細胞のコピー品である代替機を用いて、クローン製造工場が出来るのだろうか、といった内容である。

 簡潔に述べれば、クローンから新たなクローンは生まれることが可能なのか?ということだ。

 もしこれらが可能となれば、優良な家畜個体の産出や動物製薬工場に多大なる恩恵が恵まれ、産業が活発化すると予測された、

 

 

 早速、人類は実験へと取り掛かった。

 

 

 そして、その実験は成功した。

 

 

 人類は、成体マウスの細胞からクローンを作るために、新技術とこれまで使われなかった種類の細胞を利用出来ることが可能だと判断した。さらにそれを繰り返すことで、クローンのクローンを創造することにも成功した。これらのクローンは、何世代と離れていても、本質的には同じマウスであることに変わりはなかった。

 

 

 では、ここいらで一旦話を戻そう。クローンは霊長類でも可能であるということを。

 

 

 人が神へと成長するように、神もまた人へと成長しなければならない。

 何故なら、人と神は依存し合えなければ互いに生きてはいけない存在であるからだ。

 何故人が神を生み出したのか。何故神が人を生み出したのか。

 それは至極単純である。必要だからだ。

 所謂、共存関係…否、長期買春契約に近しいだろう。

 人が神を求めているように、神もまた人を求めている。

 俺が思うに、免罪体質者は異質者を必要以上に欲していないと、当初は考えていた。少し俯瞰して見ればわかるように、彼等は異質者を取り込めば取り込めるほど、それらに対して上限があることに悩まされる。シビュラが蝕めば蝕むほど、異質という概念に苛まれる為だ。

 

 

 彼等はただ、本質的に言えば人でありたいだけなのだと。

 

 

 かつての俺自身がそうであったように、人として認識してもらいたいだけなのだと。

 

 

 そう考えていた俺が甘かった。

 

 

 同じくして、人は神になりたいものである。

 

 

 ならば、我々はテクノロジーの力を借りた上でシビュラシステムを超す、完璧かつ本物の神を作り出さなければならない。

 

 

 人工知能に対抗できるのは、人工知能である。

 同様に…シビュラシステムと対になるには、シビュラシステムに対抗できる人にならなければならない。だがそれは、シビュラシステムは他の人類と同様に対等であるという前提も認めなければならない。

 

 

 それは何も、偏に免罪体質者を目指すということではない。免罪体質者をただの人へと戻せばいいだけなのだ。つまりは、免罪体質者を辞めれば良いだけのことなのだ。

 

 

 だが、これだけでは進化は起こらない。

 免罪体質者を辞めるだけならば簡単だ。免罪体質者たらしめる脳の部位…これは、人によって密度や法則が少し違うだろうが、共通して言えることは、その部位に対して全体的にほんの少し刺激を与えれば良い。

 

 

 しかし、我々は免罪体質者を超えなければならない。進化というものを拒む拒まないに限らない、新たな種へと成長をせねばならない。進化を否定し肯定し、その狭間に居ることで、二面性を得るのだと。

 

 

 後天性免罪体質者の瞬間的な犯罪係数の偽造に関して、初回の発現時に適応可能な人間の割合は、数百人に1人。さらに回数を追うごとに、脳機能が負荷に耐えられる人間が減っていく。最終的な成功確率は、オスの三毛猫が生まれる確率よりも低く、期待は望めない。

 

 

 そんなものに期待をしていては日が暮れてしまうのは、百も承知だ。

 

 

 であれば、他の方法を見つけるしかない。

 

 

 ここで、前例が発生した。脳の多体移植である。

 

 

 その当事者である鹿矛囲桐斗は、とある技術を身に付けていた。集団的サイコパス…シビュラ自身を裁く上で必要となる手順を。

 

 

 通常は不可能でも、クリアなサイコパスを維持出来るのであれば、臓器移植をすることで、他人に成りすますことが可能である、と。

 

 

 ならば、これを行ったのが本人同士のものであるならば、それはどうなるだろうか。

 

 

 当然、本人として認識されるのがオチである。

 

 

 元よりシビュラの心臓部となる本来の彼女達は、その実赤の他人でありながら、部分的にこの脳の多体移植手術に成功している。それも、たかが性質が似通っているというただ一点のみで。

 

 

 また、鹿矛囲桐斗自身がフランケンシュタインをモチーフとしているように、184名の遺体部位を使用した多体移植手術は、最早科学の叡智を超えていると言っても過言では無い。幾らSFの世界とはいえ、普通ならば不可能である。

 

 

 では、自身と全く同じ脳みそを作り、それぞれを縫い合わせれば果たしてその人間はどうなるのだろうか?加えて、集団的サイコパスのような他者の脳ではなく、自身と全く同じ構造を持つ脳みそを、担い手自身が裁けるのだろうか?

 

 

 そこに、最も肝心な観点となる箇所がある。

 

 

 それは、免罪体質者のクローンは免罪体質者たり得るのかどうか、という点だ。

 

 

 より細かく述べるのであれば、免罪体質者と同じ遺伝情報物質を与えたものを育てれば、その人間は異質として認められるのか。

 同様に、通常の人間は、本当に通常の人間たり得るのか。通常の人間と同じ遺伝情報物質を所持していたとしても、免罪体質者となる可能性は0ではないのではなかろうか、といった点も存在する。

 

 

 どれだけのパラドックスを解決しようと、完璧な存在、真の平等などというものは存在しない。同じように、例外たり得るとはどのようなことなのか、その構造メカニズムを我々は認知していない。

 

 

 そも、免罪体質者が発現する確率以上に双子の免罪体質者というものは存在するのか、という答えを俺含め全員が見つけてはいない。

 

 

 ならばどうするか?

 

 

 答えは簡単だ。

 

 

『…別に、私はあの倫理観ゆるキャラに対して、憧れを抱いているわけではありません。憧れは最も遠い感情です。しかしながら、運命というものは何処までも追いかけてくるものなのです。故に、その順番が私へと回って来ました。誰もやろうとしないのであれば、誰かが血で血を汚さないといけなかった。…ただ、それだけのことですよ』

 

 

 作れば良い。

 

 

 最北の地、北方列島。出島とは雲泥の差である、本州へと入るには避けては通れない防衛ラインの1つ。幾つもの島と海峡を越える度、電気柵網や対人電磁波砲塔の餌食と化してしまう大勢の人々、楽園を不法な手段で目指している移民が風船が破裂するようにして死んでいる死神の滞在地。

 

 

 そのルートを、その設備を、その死を、免罪体質者がむざむざと無駄にする訳が無い。

 

 

 実験を行うことが許されている施設が、それを可能とする電力が、無限に供給される食料という名のハイパーオーツが、それを可能だと言っている。

 

 

 よって我々は、クローン技術を用いた先天性免罪体質者の開発に取り掛かった。

 

 

 そもクローンとは、無性生殖が多い自然の中で見渡せば、然程珍しいものでもない。掘り下げていけば天然由来の一卵性双生児だ。

 そして、作中にはそれを示唆する人物が描かれていた。

 藤間幸三郎である。

 だが、彼の場合は事情も含めて根本的に違っていた。双子の性別が違うという二卵性双生児だった為に、作中の中でその現象を確認することが出来なかったのだ。行動原理や環境が似通っているにも関わらず、そこには決定的な光と闇が区分されていた。

 

 

 加えて、クローン自体にも問題や課題点となるものが存在する。

 前提として、仮に自身と全く同じ遺伝子を持つ存在が居たとして、100%同じ人間に育つとは限らないのは、深く考えなくてもわかることだ。あくまでそれは、確率的に同じ傾向が高いというだけである。

 

 

 これらを整理すれば当然、通常の人間のクローンから免罪体質者が生まれてくることも確率的には非常に低い、と結論付けをしなければならないだろう。

 

 

 しかし、どんな事柄にも、生徒会のように弱点となる穴はある。

 

 

 ここで肝となるのは、メンタルトレースだ。

 

 

 メンタルトレースとは、高度な共感によって精神的ボーダーラインを越境し追跡対象者になりきる技術のことである。

 

 

 それに際して、脳波リファレンスにおける電極配置法やメモリースクープの応用技術、そしてディバイダーのような脳内に入れるマイクロチップを活用したら、遺伝情報物質が同体であると認識されている人物は果たしてどうなるのだろうか?

 

 

《ブレイン・マシン・インターフェース(Brain-machine Interface : BMI)とは、脳波の検出あるいは脳への刺激などの手法により、脳とコンピュータなどの機器とのインタフェースを実現する技術や装置の総称である》

 

 

 曰く、物事を感じ取るのは、脳の中にあるニューロンである。そして、それを支える神経伝達物質もまた、強力な武器だ。

 

 

 そのニューロンを自由に操ることが出来るのであれば、今起きている現象は意図も容易く解消の方向性へと舵を切ることだろう。

 

 

 もう、お分かり頂けただろうか?

 

 

 理論上、免罪体質者を量産することは可能である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 台場1丁目のタワーマンションの一室。

 

 

「動物を二頭も飼っているなんて、もしかして金持ちなの?生きた動物を飼うことって、色相も濁るって聞くし…ってああ、あんたには関係がないのか」

「元々の飼い主は義兄の家族で、自分が飼っていたわけじゃないの。小さい時からお世話になっていて、それで譲ってもらって…」

「じゃあ結構な年寄りなんだ、こいつら…」

「本人達は、今も元気だー!って言ってそうだけどね。カフカはまあ、ああいう子だから兎も角、ラヴクラフトはどうもあなたに懐いたみたいね」

「早すぎない?」

「私の時もそうだったから…多分、そういう子なんだと思う」

「ふーん…」

「…1つ、聞いても良いかな?」

「何?一応あんたの上司には洗いざらい話したけど」

「私の方でも聞いておきたいことがあって…〈帰望の会〉について、もう少し詳しく知りたい。例えば、構成人数とか」

「去年の時点で、あたしを含めて14人。それ以上は不明」

「その際の入国方法は?」

「密入国だからね。まず難民を装って、九州の出島へと潜入。そこからブローカーを介して長崎経由で内地にって感じ」

「鎖国体制下で、そう易々と入り込めないはずなんだけど…」

「海外から来た難民…それこそ準日本人の場合は、外見でバレる可能性が高いけど、あたし達は見た目だけなら、純日本人と変わらない。あとは色相チェックを欺瞞しておけば、案外簡単に通過出来るものなのよ。国内に入って仕舞えば、それこそ人口減少で廃墟になった街や軍事施設が多いし、隠れ潜むのに困ることも無かったわ」

「…生体情報からも嘘を言っているようには見えない、か」

「そりゃあね」

「…はい、コーヒー。熱いから気を付けてね」

「えっと、ありがとう。…美味しい」

「話を戻すね。14人の構成はどうなっているの?」

「指揮官が1人。残る連中は、あたしと同じようにゲリラを教導する役割を担ってる。多分…あたしが最年少だった。他の子も10代とか20代…ちょうどあんたくらいまでの年齢の若い奴等ばっかり。…でも、センセイだけは違った。あたし達は、皆あの人の羽根だった」

「羽根…それってこれのこと?」

「あたしの銃…」

「証拠物件だから、返すことは出来ない」

「…そんなことはわかってるわよ。というか、それはあたしの私物だから、後を追っても何もわからないと思うけど」

「怒れる牡牛の派生型であるM513レイジングジャッジ…大事に扱っていたんだね」

「わかるの?」

「銃身は壊れているし、確証を得るにもバイタルの反応のみ。だけど…何となくそう感じただけ。お守りっぽかったから」

「…変な奴」

「この羽根はあなた達の組織を表すもの?」

「そんなところ。センセイが信じていた宗教の孔雀天使(メレクタウス)を象ったものだって」

「図柄は12枚。孔雀なら一尾だから…1人分足りないと思うんだけど」

「あたしだけ、みんなと少し違ったんだ。…あたしは、日本に向かう途中だったセンセイに拾われた。他の人達は同行に反対していたんだけど、センセイはあたしを特別に仲間にしてくれて…その銃は、その時に貰ったものなの」

「…そっか。弾丸は全て抜いてあるし、一先ず返すね」

「え?」

「そのかわり、その〈センセイ〉って人について、教えてほしい」

「…ああ、そういうことね」

「あなたの出身は、旧中国吉林省長春にあった日本人集落で間違いない?」

「その通りよ。ただ、あたしの生まれ故郷はもう無いも同然だけど。あの辺りを支配していた軍閥連中が他の武装組織と交戦して敗戦、その結果無法地帯と化した。あたし以外、家族も皆殺された」

「それはお気の毒に…。ひょっとして、その時に〈帰望の会〉に命を救われたとか?」

「ええ。センセイが助けてくれた。あの人は命の恩人よ」

「成程…じゃあ、そのセンセイの名前は?」

「………エイブラハム・M(マレク)・ベッカム。元々はクルド系米国人だったけど、アメリカが内戦状態に陥ってから、世界各地の紛争地帯を転々としてきたってことくらいしか、あたしは知らない」

「何でアメリカ人が日本に来てわざわざテロを…しかも、子供まで使ってやることが国内インフラへの連続自爆テロ…何か目的があるのかな」

「さぁね。殆ど自分のことは明かさないし、過去を話そうとする人でも無かったから。…あたし、やっぱり捨てられたのかな。余り物だから」

「それはわからない」

「…一応テロリストとはいえ、少しは慰めるとかするものじゃない?」

「その…わたしは、あなたのことを理解しているわけではないから」

「冗談よ。あんた、意外と優しいのね」

「…」

「そんなに拗ねないでよ。ねぇ、テレビ付けても良い?」

「…良いけど、多分事前閲覧が入ってると思う」

「どれどれ…厚生省推奨チャンネルねぇ。ふぅん…逆に情報を伏せている方が市民の精神衛生に悪影響を及ぼすと判断されたから、致し方なく流してるって感じか。ねぇ、他のインフラ施設のテロはどうなったの?」

「既に警察側が動いて実行犯達は拘束済み、との連絡はあったかな」

「彼等は末端よ。それぞれの目標に自爆特攻を仕掛けることしか教えられていない。…警察が制圧する時、実行グループ以外の抵抗はあった?」

「いいえ。実行グループ以外に、いかなる勢力の存在も確認出来なかった」

「そっか…そうか…」

「…どうしたの?」

「あたしが育てた奴らは、曲がりなりにも本当に、この社会を変えるために命を捨てる覚悟を持っていた。なのに、アイツらは…最初からそうするつもりだったんだ。当局の注意がこっちに集中しさえすれば、良かったんだ」

「…まさか」

「アイツらにとって、あたしが指揮する連続テロは成功しようが失敗しようがどうでも良かったって訳だ。あたしも含めて、あたし達は囮にされた。…目眩しだ」

「〈帰望の会〉はいつ、どこで、彼ら自身によるテロを実行しようとしているの?」

「真守滄…あんたは、あたしを使い捨てたりしない?」

「大丈夫。わたしは、あなたを死なせない。絶対に」

「…やっぱり、あんたは変だ。でも、あたし達を裏切った連中よりは信用出来る。…〈帰望の会〉は長崎で要人暗殺を実行しようとしている」

 

 

 その一角にある真守滄の自室。そこに潜ませてある盗聴器越しから、俺は2人の会話を事細かく詳細に耳へと入れていた。原作における覚えている限りの情報に相違が無いことを確認した後、満を持して帰宅する。

 

 

「ただいま〜」

「おかエリンギ〜」

「お腹空いてるでしょ?ご飯作るからちょっとまつたけ」

「ありがとウラムラサキ」

「九綱」

「偏光」

「烏と声明」

「表裏の間」

「ここに来て論理性の欠片もないバカになるなんて聞いてないんだけど…」

「とりあえず、『腹が減っては戦はできぬ』だ」

「やはり聞いていたんですね」

「…まあ、薄々そんな気はしていたけど。聞いていたのなら、尚のこと今すぐにでも向かうべきなんじゃないの?」

「ハァ…わかってないなぁ」

「こんのクソ野郎…マジでその反応ウザいんだけど!?」

「あのねぇ…長崎へと向かう便なんて、今時そんなにないの。朝晩に一本ずつとかいう、田舎の北海道の電車の本数かってくらい酷い有り様なのよ。九州へと向かう人なんてわざわざ居ないんだから尚更ね。それよりかは、束の間の平和を楽しんだ方が良いよ?テロ、起こるんでしょ」

「………それはそうだね」

「…!」

「おやおやおやおや、マツリは健気で可愛らしいですねぇ」

「ちょ、あんた達…特にマダオ!勝手に頭を撫でるな!ってかくっさ!!ニンニク臭いんだけど!!」

「…」

「やはり連日の疲れからか、かなり弱っているな。スタミナ系を食べさせて、とっとと寝かした方が良さそうだな」

「あのっ!ちょっ!!マジでくっさぁ…いんだけど!!せめて、話をきくらげ〜!!」

 

 

 この旅の果てに、何があるのか、今はまだ分からない。この道の先に何かあるのか、今はまだ分からない。今分かっていることはたった一つ…この深淵の奥底で、誰が待っているのかということ。それが何者であれ、進まねばならない。もっとも暗い闇を越えなければ、夜明けはやってこないのだから。

 

 

 




 


 どんな弱い光でも真っ暗な中では輝く。


 余談
 現段階におけるBMIは皆が思っているような代物ではない。理想的な働きを100とするなら現状は失敗しているという声、多数あり。まあ脳は難しいからね、仕方ないね。


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