ハリネズミと天才【完結済み】   作:妄言a〜

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本編
ハリネズミ化けの皮を剥がされる


 

 

「なぁ〜んだ、ただの臆病なハリネズミじゃん」

 

 中学1年の夏頃廊下ですれ違った人に一言ボソッとそう呟かれた。

最初はなんのことか分からなくて??ってなってたけど後で調べたら刺激に弱くデリケートで臆病なんて書いてあってあの人は一瞬、ほんの少しすれ違っただけで私の嘘を暴いて弱い私の中身を一瞥してしまった人。

 

 いや…ほんっっとう…ね?

 

 コホンッ…。

 

 それから妙にその人のことが気になるようになった。

 その人はクラスを回ってみたけど見つからなくて、恐らく先輩なのかな〜っと思って探してみたら…いた。

 周りの子があの人の噂をしてたのをたまに聞いたことがある。

 

「ぁ〜あの先輩?めちゃくちゃかっこいいよね〜」

 

「そーそー!頭もすっごいいいんだよ?」

 

「でも」

 

「誰かと話したとこあんまり見かけないな」

 

 他の子達の話も聞いてみたけどそれ以外のことはほとんど出てこなかった。

 

 秋になって図書室で本を読んでるあの人を見かけた。

 眼鏡をかけてなにか難しそうな本をじっと睨みつけるように読んでる。

 

 普段他の人に興味なんて湧かなくて、名前も顔も覚えることが出来なかった。 でも何故かその人はあの一瞬すれ違った時から忘れることがなくて、記憶の隅にずっと残ってた。

 

「あ、」

 

 こちらの視線に気づいたのかチラッとこちらを見たけど、すぐに視線を逸らして本を読み始めてしまった。

 

(私って一応アイドルなんですけど!人気はまだまだこれからだけど私が見てるのに全く興味も示さないでスルーするってどういうこと!?)

 

 変に興奮しちゃってた。

 

 たぶんこの時からあの人に対して…まぁ…あの…言葉を選ばないようにすると…ムカついちゃった…?のかな…?

 嘘で塗り固めて真実なんて零れるわけもないのに、あの人相手には私の中の本音が零れる感じ…この感覚がなんなのか全く分からなくて、

 

「先輩前に私にハリネズミって言ったの覚えてます?」

 

 思わず話しかけてしまったのが始まりだったと思う。

 

 

 一目見るだけで、彼女の雰囲気がモブとは全く違うことは誰もが認めるだろう。

 顔を見たなら彼女につい近寄って愛を囁いて、自分1人では抱えきれない思いの丈をぶつけたくなる。

 その瞳に見つめられれば全人類彼女の虜になってしまう。

 そういう噂が立っていた。

 どんなものだろう?そういえばアイドルだっけ?

 まぁ…一目ぐらいは見ておくか。

 

 廊下ですれ違う瞬間にわかった。確かに彼女は特別だ。すれ違うだけで振り返り思わず声を掛けたくなってしまう。

 

 でも分かってしまった。嘘で塗り固めて真実を隠し、全ての人間に都合のいいように振る舞うことの出来る彼女は、確かに完璧で究極のアイドルの名を欲しいままにできる逸材だろう。

 しかし、それでファンになるのは彼女の嘘を暴くことも無く彼女の愛(嘘)に溺れることの出来る存在のみだ。

 

 だから思わずボソッと呟いてしまった。何の気なしに生きづらそうな彼女を見ていて思わず…。

 

 はぁ〜。

 

「先輩〜可愛い後輩が構ってほしそうにこっちを見てますよ〜?」

 

「可愛い後輩だったら今僕は読書をしてるんだから邪魔しないでくれるよな?」

 

「えぇ?先輩いっつも読書ばっかじゃないですか〜?たまには私に構ってくださいよ〜」

 

 「うりうり〜」正面に座り、ほっぺたをぐりぐり指で押してきてかまって欲しいアピールをしてくるこの女、名前を星野アイ。あのつぶやきから懐かれたのかなんなのか校内で引っ付かれるようになってしまった。

 

「僕の普段を知らないくせによく言う。というかお前アイドルなんだろ?男相手に引っ付いてるところとか誰かに見られたら不味いんじゃないの?」

 

「いやいや。先輩って全然人目のつかない所に居るので大丈夫じゃないですか?」

 

 そう言って机にうつ伏せになる。

 

「まぁお前がそれでいいなら良いけどさ」

 

「というか」

 

 ずいっと突然顔を近づけてくる。

 

「先輩のせいですからね?」

 

「は?何が?」

 

 意味がわからず思わず本から目線を外してじっと顔見つめる。

 

「私ってこれでもバレたことないんですよ?まぁ、そりゃ事務所の人は嘘をつくの前提でアイドルやってるって分かってますけど、でも普段の私の嘘は絶対にバレないのに、それをあっさり、しかも一瞬すれ違っただけで言い当てられて、私ちょっと自信無くしちゃったんですよ?」

 

 ブーブーといじけるフリをしながらジト目で見つめた。

 

「それに…自分ではどれが嘘で何が本当か分からないのに、なんで先輩には分かるんですか?」

 

「はぁ〜」

 

 ため息とともに本を閉じてじっと見つめる。

 

「なんでって言ったか?見たから」

 

「…見た?」

 

「お前を見た瞬間に、ぁ〜こいつめちゃくちゃ嘘ついてるわ〜って。特別なんだよ僕は」

 

「全然説明になってないですよ?先輩」

 

「ったく…家族構成は父、母、そしてお前。父親は小さい頃によそで女を作って出ていった。母親はお前を何年かまでは愛情を持って接したが、劣等感や日々のストレスでお前相手に虐待を繰り返すようになった。その影響で白米を食べるのが未だに苦手。恐らくガラスの破片などが混入したことによるトラウマだろうな」

 

(突然この人は何を語り出したんだろう…やめて欲しい…苦しい…なんで?なんで?)

 

「その後母親は万引きを繰り返し捕まり、お前は児童養護施設に入る。刑期を終えた母親は出所したがお前を迎えには…」

 

「やめてッ!!」

 

 突然大声を出して中断する…。静かな図書室に、普段じゃ考えられないような切羽詰まった声が響いた。

 仮面の中身を、嘘で塗り固めた真実を引っペがされるのを拒むかのように。

 

「な、なんで…。し、調べたの?私の事…なんでそこまで」

 

「調べてない。僕は君のことなんてすれ違う瞬間まで全く知らなかった」

 

「じゃあ…なんで…?」

 

「今、僕が君を見ているから。言ったろ?僕は特別だって」

 

「ひ、一目見ただけで?」

 

「だからそう言ってるだろ?僕が他人の人生を知るのにそいつの卒業アルバムを見る必要はない。その人間を少し見れば、それだけで大抵の事は分かる」

 

「私が…ハリネズミって」

 

「言ったよ?お前は些細なことに反応し恐れ、否定されるのを拒む。だから自分を嘘で塗り固めて、他人に愛を語るんだよ。そうすることで誰もがお前に愛を持ってくれる。でもお前自身誰かを愛せると思ってない」

 

「そ、そこまでバレちゃったか〜あはは…。ほんっとなんて言うか…すごいね…先輩」

 

(すごいとか、すごくないとかじゃない…。私のことを調べれば出てくる情報を繋ぎ合わせればこれぐらいは出来ると思う…でも、この人はそんなめんどくさいことをしないって分かる。

それに…普段から嘘をついている私は、この人がひとつも嘘をついてないって分かってしまう)

 

「だから…ハリネズミ…?」

 

「そうそう。まじでピッタリだと思うよ?」

 

「愛ってなんだと思う?私は愛が知りたい…だから嘘をついてみんなに愛を語ってるのに、私は誰かを愛したことがない…愛されてる訳でもない」

 

「愛されてないなら今頃干されてるだろ」

 

「というか愛が分からない?はぁ〜まじハリネズミ」

 

「そのハリネズミやめてよ」

 

「い〜やハリネズミだよお前は」

 

「というか愛されてないとかまじ言ってんの?馬鹿なの?」

 

「ば、ま…まぁ…頭は悪いけど」

 

 

「愛っていうのは一方通行なんだよ。恋は私はあなたの事が好きだから貴方も私のことを好きになってください!ってやつ。

んで愛は一方通行。私は貴方の事を愛してます。貴方からどう思われてようとその気持ちは変わりませんってこと」

 

「恋と…愛…」

 

「んで?お前はアイドルとして今活動してんだろ?少なくともお前相手に愛を持ってなきゃファンなんて誕生してないしな」

 

 そう言って言うことを言い終わったのか、また本に視線を戻し読み始めた。

 

「で、でも私は嘘で愛を」

 

「愛にも色々あんだよばーか」

 

「ばぁ…」

 

 突然の罵倒に怯む。

 

 というか後輩の、しかも女子相手に馬鹿って普通言う?

 

「ババアが孫に向ける愛、熟年夫婦がお互いに向ける愛、両親が子供に向ける愛、友達が友達に送る愛。

愛っていうのは一方通行。でもお互いのことを信用したり、こいつなら信じれるなぁ〜って思ってる奴が居るなら、それも愛だ」

 

「色んな愛…でも私は愛されて…」

 

「だからァ!!」

 

 だんっっと机を叩いてずぃっと顔を近寄らせる。

 

「ちょ!!せ、先輩顔近いッ!!」

 

「いいか?そんなうだうだ理屈こねくり回して考えるものじゃないの!相手からしたらお前に愛されてるって思った時点でそれは本物なの!そーやってうだうだ考えてる暇あったらとっとと恋人作ったり友達作ったり普通の女子っぽいことしてこい!」

 

 ったく…。なんてそのまま困惑してほんの少し頬を赤らめているアイを無視し、読書を再開する。

 

(意味わかんないんだけど。ぜんっぜんなんの説明にもなってないし納得出来る要素ひとつも無いし、私の悩みをかっこよく解決してくれるわけでもない…)

 

 ぼぉーっとした顔でじっと読書に戻ってしまった先輩の顔を見つめて…。

 

「なんか…いいかもな…」

 

「あっそ。なんか良いのが浮かんだか?うだうだ変な理屈考えてる暇あるんだったら青春してこい青春」

 

(本当に…デリカシーないし、人の気持ちも知らないでうるせぇとっとと青春してこいとか…。アイドルに向かってこの人は何を言い始めてるんだろう…。ほんっっと…最低な人だ…。真剣に悩んでて結構心の奥底を出したのに、それすら一蹴して)

 

「1個決めた」

 

「ぉ〜いいじゃんか。やっぱできる時にやっとくもんだよ青春ってさ」

 

 ページをめくってこちらに完全に興味を無くしてしまったのかもう目線を上げてくれなくて…。

 

「じゃあ先輩…付き合お?」

 

「ぉ〜なんかやる気になったんだな。そーだな〜気が向いたら付き合ってやるよ。気が向いたらな」

 

「そーじゃなくて」

 

「?」

 

「恋人なってよ?」

 

「…………………はぁ?」

 

 やっと目があったね…先輩♪




多分続かない

その後あの瞳の人間に気に入られたらどうなるかをしっかりと教えられた先輩さんは無事色んなところを連れ回されなんなら襲われているかもしれない
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