「いやぁ〜既にいい匂いするね〜〜〜」
温泉、日本人にとって風呂とは身体を清潔に清める為だけのものでは無い、簡易的に入れるスーパー銭湯にも暖かいお湯に浸かりながら富士山の絵を見て心身共にリフレッシュするなど、日本人のお風呂好きは筋金入りと言ってもいいだろう。
そんな日本人が温泉に入るためだけに遠くにわざわざ行く、それなのにワクワクしてしまうのがなかなか憎い、そんな風に目的地についてテンションが上がっているのかフラフラと辺りを歩き回って居る、サングラスをかけて帽子を被った黒い髪の艶やかな、高校生と間違えそうな風貌をしているアイ、そして
「まさかの泊まりにしてまで僕を独占したかったのかお前は…」
恐るべき行動力と資金力を見せつける若干大人気なくもないようなやり方に苦笑いしながらも、その口元には軽い笑みを浮かべている
「そんなこと言って〜先輩だって温泉って聞いてワクワクしてたでしょ?」
「いや、それは確かにそうだけどさぁ?」
問題は少し存在する、今フラフラとテンションマックスではしゃいでいる人物は超人気の芸能人、明智と結婚しているというのが広まっているとはいえもしバレてしまえば多少なりともめんどくさい事になると考えてしまう
「大丈夫だって、なんせ私が予約した所は泊まるところに露天風呂があるからさ」
「まじか、でもでかい所に入りたいとかじゃないのか?」
「ん〜?まぁそれはそうだけど、先輩忘れてない?」
そういうと明智にピッタリと近づいて
「この3日間先輩のこと独占するって言ったでしょ?」
「っ!!お、お前はさぁ?」
身長差がある為わざわざつま先立ちで耳元にポショポショと可愛らしい声を聞かされてしまうと顔を赤らめてしまう
「ふふーん、ほら?早くチェックインして荷物置こ?これからこの辺り観光しなきゃだし!」
そういうとさっさと歩いていってしまう、先程までの甘ったるい雰囲気を吹き飛ばされてしまい、相変わらず振り回される、いや、どちらかと言うと
「なんか久しぶりだな」
「何してるの〜?置いてくよ〜」
「はいはい」
確かに関係は昔とは違うかもしれないが、ああやって自分を振り回すところは少し昔に戻った気がして、手を振り回して早くしろとアピールされると、少し早歩きで行かなければと思ってしまうあたり、もうとっくに手遅れだと自覚してしまう。
「う〜〜ん!!この温泉卵美味しい!」
「温泉地来たら絶対1個は食べるよなそれ」
荷物を預ける時思いのほか豪華すぎる旅館に案内された明智は自分が今のところ財布の紐を緩めていないことに気づき、慌ててアイに尋ねたがスラスラとはぐらかされ、こうして現地の食べ物に舌鼓を売っている
「あ、見て先輩、温泉まんじゅうって言ってるけど温泉ってつけてるだけでただの饅頭があるよ」
「おい、みんなが分かってて黙ってることをあえて言うんじゃありません、でも揚げまんじゅうもあるみたいだぞ?」
「お〜ほんとだ!すいませ〜ん!抹茶とごまとさつまいもくださーい!」
毒を吐きながらも揚げまんじゅうを見つけると目を輝かせて注文をし始める、それを見て明智も同じく注文して、
「僕は普通のやつ2つください」
「あれ?そんなので足りるの先輩?」
届いた揚げまんじゅうを食べながらアイが聞く
「いや、旅館に帰ったら夕飯出てくるだろ、だからセーブしてるんだよ」
「ぁ…」
すっかり忘れていたのか既に1個目を完食し2個目に伸ばそうとしていた手が止まる
「先輩って饅頭好きだったよね?」
「なんだその本人ですら初見の情報、はぁ〜1個手伝ってやるから」
ありがと〜と言いながら饅頭を渡す、ある程度小腹を満たしたところで日陰になっているちょうどいいベンチを見つけそこに腰をかける
「本当はさぁ冬が良かったんだよね〜だって夏に温泉って熱いし」
「この旅行全否定すんなよ、というかお前本当に良いのか?流石に全部払ってもらってるのは気が引けるんだけど」
宿のお金どころか先程から買い食いしている物までアイがお金を出しているので流石にいたたまれなくなった
「えぇ?だって先輩あの子たちいっぱい遊びに連れて行ってちょっと金欠でしょ〜?」
「ぐぅぅ!?」
普段の明智からは考えられないような声を上げてしまう、そう一応働いていて大学卒業をまじかにしているとはいえまだ大学生、そんな明智が色々やりくりしているとはいえ夏休み暇があれば遊びに誘っているので財布にはそこそこのダメージが積み重ねられている
「まぁ私纏まったお休みがどう取れるか分からなかったからしょうがないかな、それにいつも頑張ってくれてる先輩を労う意味もあるし、私旅行ってしてみたかったんだよね」
そうやって本当に嬉しそうに笑う、光を木が遮っているとはいえ焼け付くように照らす太陽の光に照らされて、星のように弾ける笑みを浮かべられてしまえばどうすることも出来ず
「そうかよ、じゃあ今度はあの2人も連れてってやらないとな」
「だね」
そう言って暑い風を感じながら汗をかいて、2人で笑いあった。
旅館に戻った2人は豪華な夕飯を食べて、そうしてしばらく寛いでいる
「アイ、そろそろ風呂入ったらどうだ?」
「ん〜?そうだね〜でも先に先輩入って?」
「まぁ、別にいいけど」
そんなやり取りもあり身体を洗った後、温泉に浸かる
「あぁ〜この時間帯は夏といえども少しはマシかな?」
日が沈み辺りにあるのは街灯の光のみ、そんな中で個室にある露天風呂に入ると、思わず力が抜けてしまう。
そんな風に贅沢な環境の入浴を楽しんでいるとガラッと音がする、ボーとしたまま音のなる方を振り向くと
「この時間だったら気持ちよさそうだね〜」
「おっまえ、何してんの?」
「何ってお風呂に入りに来たんだけど?」
ガラス戸を開けて入ってきたのはもちろんアイ、バスタオル1枚で体を隠した状態で当たり前ですけど?というように、身体を洗い、そして
「んっぅぅ〜〜〜〜」
明智と少し離れた場所で湯船に浸かり、伸びをする
「あのさぁ?せめて事前に言っておいて欲しかったんですけど?」
責めたいような、嬉しいよな、よく分からない感情で話し始める、この時から周りの景色がどうとか湯加減がどうとかそういうものに頭が回らなくなってしまう
「私言ったよ、先輩のこと独り占めするんだ〜って」
そう言いながらゆっくりと近づいていく、明智も特に距離を置くでもなくそれを見守り、2人の距離はほぼ0に。
「いや、確かに言ってたけどさぁ」
「というか先輩だったら私が何考えてるかぐらい当てれたんじゃないの?」
それを言われてしまうとぐうの音も出ない
「お前がそれを全部理解した状態で利用してくるけどな」
「そんなことないでーす!」
そう言いながら明智の前に移動してゆっくりと体重を預ける
「あの、暑いんですけど」
「こんなに可愛い女の子にくっつかれて出る感想がそれぇ?」
ちらっと後ろを振り向いて不満な顔をするが、余裕のない明智の顔を見てにっこり笑う
「お前ってホントくっつきたがるよな」
「だって先輩くっつくと面白い反応するんだもん」
「はぁ?そんなことしてませんけど、お前がくっつき虫ってだけだろ」
確かにと笑いながら明智の左指にある指輪を軽く撫でる
「こんな時ぐらい名前で呼んでよ、先輩ってそういうところデリカシーが足りないよね」
「お前だって名前で呼んでないだろ」
それもそうかとカラカラと笑う、遠く離れた場所で2人っきり、邪魔する存在などないこの場所で密着してしまえばどちらの心臓の音か分からなくなってしまう、汗が落ちるとアイの身体を伝って流れ落ちる
「先輩とくっついてなきゃ不安だもん…」
そう、突然ボツリと呟く
「ホームシックかよ」
そう言いながら明智もアイの指に着いている指輪を撫でる
「違いまーす、ずっと何時までも続くのかなぁって思っただけ」
いつも通り、にしてはずっとテンションが高かったアイ、その少しの違和感に気づいていない訳ではなかったが、こうやって見せられると
「ごめん、アイ…」
「ぇ?ちょ…せんぱ…んっ、、」
突然アイの顔を自分に向けさせると少し乱暴にアイの唇に明智の唇を重ね合わせる、お互いに火照った唇で、火傷しそうなキスをした
「いい加減そのいじらしい感じやめろ、まじでくるものがある」
「え、せ、せんぱ!?」
「僕は名前で呼んだのにそっちは呼ばないんだ?」
「ちょ、ちょっと!ま、まって!!」
そういうとバシャっと水音を立てて立ち上がるアイ、その顔は真っ赤に染まっていてのぼせたにしては目が潤んで居る
「わ、私、先に上がるね」
「お、おう」
流石にやりすぎたかと少し反省していると
「女の子には準備しなきゃいけないことがあるんだよ、乱歩のバカ」
そう鳥が囀るように言われてしまえば、その後どうなったかは言うまでもない、
ひとつ言うことがあるとすれば明智の背中には引っかき傷と噛み跡、アイの身体の目立たない部分には蚊に刺された様な跡があり、翌日は2人ともテカテカとした肌で観光していたということは伝えておく。