デスのー子 作:リュークの子
原作のアクア人格は出てきませんのでご注意ください。
「ふざけるな、松田ぁああああ、誰を撃ってる」
身体が熱い。
撃たれた箇所から赤い熱が溢れ出ている。
それに比例すように叫ぶ、口から発する怒声とは裏腹に、頭の中は不思議と冷静になっていった。
「キラが正義、キラが必要だろうが、ニアを撃て!」
松田が撃たないことを百も承知の上で、叶わぬことを命じていた。
これで僕は死ぬんだろうか。
ここから逆転する手段は浮かばなかった。
仮に松田を引き込めたとしても、この出血では助からないだろう。
燃えるような痛みが無ければ、意識が飛んでいたはずだ。
朦朧とする中で考えていた。
僕はどこで間違えたんだろうか。
デスノートを使って犯罪者の罪を裁き、犯罪者のいない新世界の神になる。
僕の考えは間違っていたんだろうか。
「父さん……夜神総一郎か」
松田が父のことで責め立ててきた。
撃たれたこと以上に胸が痛む。
ああ、そうだ。僕は間違えていた。
どこかでブレーキを失ってしまっていた。
父さんのことを守れなかったのは、僕のミスだ。
そして、父を失っても止まれなかったのは、僕は壊れていたのかもしれない。
デスノートを使った人間は、苦悩や恐怖に支配される。
僕なら大丈夫。そう思っていた。そうやってきたつもりだった。
それでも、その支配からは逃れることができなかったんだろうか。
抑え込むように突き進んだ結果が、これだ。
ニアを追い詰めようとして、逆に追い詰められて僕は死ぬ。
いまさら、助かろうとは思わなかった。
僕が死ぬのはいい。負けた結果だ。それは受け入れるしかない。
ただ、最後に父のことを思ってしまったせいか、心残りが生まれた。
残されることとなる母と妹のことだ。
僕がデスノートを使ったせいで、妹には怖い思いをさせてしまった。
誘拐されて脅される。
身体は無事だったが、心は病んでしまった。
少しずつ良くなっているとは聞いていたが、外に出られるようになったんだろうか。
母は、愛する夫を失い、息子は犯罪者となってしまった。
今も引っ越した先の田舎で妹の世話をしているはずだが、こんな人生は望んでいなかっただろう。
人であることを辞めて神であることを目指し、キラとなった僕には家族を想うような資格はないのかもしれない。
ただ、それでも家族のことを想わずにはいられなかった。
神を目指して人の心を捨てたつもりが、最後の最後で家族のことを思って死ぬ。
とんだ茶番だ。
「あんたなんか神じゃない」
キラの信者だったはずの三上の言葉を否定できなかった。
おまえの言うとおりだよ、三上。
僕は神なんかではなかった。
「た、頼む、リューク書いてくれ」
リュークならこうしてくれるだろう。
確信に近いものを抱き、リュークへと縋りつく。
今の僕でも最後にできること。
せめて松田には、僕を殺したという荷物を背負わせたくはない。
僕に止めを刺すのは、松田であってはならない。
松田はあくまでも僕の暴走を止めただけで、殺したのは別の相手であるべきだ。
父さんの部下だった松田との付き合いは長い。
ほとんど兄弟みたいな付き合いだ。
そんな松田に要らない十字架は、背負わせてはならないだろう。
リュークの手がデスノートに動く。
「死ぬのはおまえだ、ライト」
さすがは、僕の死神だ。
本人は自覚していないだろうが、僕の思うとおりに動いてくれた。
願いどおりにリュークがデスノートに僕の名前を記入した。
ありがとう相棒。
色々と困らせられることも多かったが、リュークが僕の死神で良かった。
こうして、僕は死んだ。
◇◇◇
「いいこでちゅね愛久愛海~っ」
とりあえず、すごい名前をつけられた。
なんだこれは。
いや、現実逃避はやめよう。
現実と向き合うしかない。
デスノートを使って新世界の神になろうとして、ニアに敗れて死んだオレは、気づいたら新しい母親に抱かれていた。
最初は戸惑ったが、何度も繰り返されるうちに慣れてきた。
新しく生まれ変わったことを受け入れつつあった。
いや、前世の記憶が残っている場合は、生まれ変わりではなく転生になるんだろうか。
どうして、こうなった。
考えてみると思い当たる節があった。
あれはデスノートを拾ってすぐの頃の話だ。
リュークと初めて出会った時に、聞いたことがあった。
問、デスノートを使うことに代償はあるのか?
それに対するリュークの答えは何だったのか。
答、代償は何もない。
しいて言うなら使ったものにしか訪れない苦悩や恐怖。
そして、デスノートを使った人間が天国や地獄に行けると思うな。
これがリュークの答えだった。
苦悩や恐怖は十分味わったから知っている。それはいい。
問題は後半だ。
『死んでも天国にも地獄にも行けない』
それがどういう意味かは分からなかったが、こういうことなのか?
夜神月は死んだ。
そして、天国にも地獄にも行けずに、新しい生を受けて生まれ変わった。
夜神月としての記憶を持ったまま。
本来ならば、デスノートを所持していなければ記憶は消えるはずだ。
それがデスノートのルールだが、僕は記憶を残している。
記憶が消えないことが与えられる罰なのか。
前世で僕は、デスノートを使い、失敗し、死んだ。
その苦しみを抱えて新しい人生を過ごせ、だと。
新世界の神になり損ねた惨めな僕に、もう1度やり直せ、だと。
ふざけるな。
「……ひどいボーナスステージだ」
考えるだけで最悪だ。
どの面下げて生まれ変われ、と言うんだ。
そのまま消滅した方がマシだ。
いっそのこと死ぬか?
いや、ダメだ。転生が1度だけなのかループするのか。
判断できるだけの根拠がない。
なにより、今の僕には母親が居て、双子の妹が居る。
僕のエゴで、無関係の彼女たちを悲しませるわけにはいかない。
つまり、生きるしかないってことか。
いいだろう。やってやろうじゃないか。
それがデスノートを利用したものの運命だというのなら、デスノートを使った責任を取るしかない。
しばらくの赤ちゃんライフは勘弁して欲しいが、それが罰だというのなら甘んじて受け入れよう。
それにしても、父親の姿を見たことがないのは何故なんだろうか。
母親は、シングルマザーとして育てるつもりらしい。
夜神月として父親を失った僕には、父親のいない転生が神の用意したステージだろうか。
わざわざ双子にしてまで妹まで用意されている。
因果関係を感じるなと言う方が無理があるだろう。
それにしてもだ。
夜神月という名前もなかなかだったが、生まれ変わったら星野
まだ夜神月の方がマシだったんじゃないか。
これも前世で僕が犯した罪への罰なんだろうか。
キラだけにキラキラネーム縛りとは笑えない。
妹の名前は、星野
アクアマリンに比べたらだいぶマシだが、もしこの名前が僕に巻き込まれた結果だとしたら申し訳ない。
「ちょっと、どうして起こしてくれなかったの!?」
妹を見ていると視線に反応したのか目が開き、時計を確認した後で責められてしまった。
まだ赤ん坊と評されるような、意思表示するには早すぎる年齢だ。
それでも妹は、はっきりとしゃべることができる。
テレビのチャンネルを見たい番組に合わせることもできる。
なぜならば、この妹も前世を持っているからだ。
今は必死になって画面を追っている。画面に映っているのは、アイドルである僕たちの母親だ。
母親を応援しているというよりも、どうやら妹はドルオタらしい。
「まさか……な」
初めて妹にも前世があることを知った時、ある人物が脳裏をよぎった。
デスノートを使った人間は、天国にも地獄にも行けずに転生する。
これがデスノートの持つルールだとしよう。
僕が転生している理由として考えられるのは、これしかない。
そして妹も転生者だ。
これを結び付けて考えると、妹もデスノートを使った過去を持っていてもおかしくはない。
僕の知る限り、デスノートを使って死んだ女性が1人いる。
大学の同級生として出会い、キラの信者として再会した高田清美だ。
ただ妹の前世が高田である可能性は低いと判断していい。
妹は熱狂的なドルオタだからだ。
高田が実はドルオタだったとかなら笑えるが、どちらかといえばくだらないと切り捨てる女性だったはずだ。
デスノートを使った女性という条件で言えば、死んだのかどうかは分からないが、もう1人いる。
僕のパートナーである
ミサは割とミーハーなところがあったので、ドルオタだったとしてもおかしくはない気がする。
両親が強盗に襲われることが無ければ違った人生を歩んでいただろう。
僕が死んだ後で、ミサはどうなったんだろうか。
僕が居なくなった世界で、ミサは生き続けているだろうか。
ダメだ。詮索するのはやめておこう。
妹も前世を持っている。それだけでいい。
もしルビーがミサだったとしても、僕が月だと明かすつもりはないのだから。
知る必要は、ないはずだ。
どこかの誰かの生まれ変わりの兄と妹。
それだけでいい。