デスのー子 作:リュークの子
「バブ!」「バブ!」
「「バブ!」」
はっ!?
気づけば、乳児である僕は、母親のライブを満喫しまくっていた。
どうしてこうなった。
◇◇◇
夜神月あらため星野アクアマリン。
2度目の人生で僕は、哺乳瓶派になった。
個人的にはどちらにこだわっているとかはないが、ルビーの視線がきつかったのでそれに応えた形だ。
なお、ルビー本人は、母親にしっかり吸いついている。
見た目的には問題ない。が、中の人の精神年齢を考えるとルビーの前世が女だと分かっていても、なんとも言い難い構図だ。哺乳瓶派になって良かったかもしれない。
夜神月の頃はどうだったのかは、覚えていない。
ただ、3歳下の妹の時を参考にするのなら、母乳で育てられたことが推測できる。
僕が母乳だろうが哺乳瓶だろうが、どうでもいいか。
胸に吸いついていないということだけ、分かってもらえればいい。
こんな感じで、普通に意思疎通ができる僕とルビーだが、基本的に大人しくている。
兄妹で常に一緒にいるため、必然的に互いの秘密を知ることとなってしまったが、これは不可抗力に近い。
隠せるならば、周囲には隠しておいた方がいいだろう。
少なくとも、母親のアイにはバレたくない。
自分が苦労して産んだ子供が異常だとは、知りたくないはずだ。
この点では、ルビーとも意見が一致していた。2人だけの秘密だ。
夜神月として秘密を抱えて失敗してしまっただけに、余計な秘密は抱えたくないが、こればかりは仕方がないんだろう。
強制的に秘密を抱えて生きる。
僕がやってしまったことに対する罰として相応しい。
転生ごときで逃げられるとでも、と言われているのか。
兄さんだけに。
とはいえ、自力では生活できない年齢だ。
基本的に、常に誰かが傍についている。
ずっと無邪気な赤ん坊を演じ続けるのは、楽ではない。
常にキラではないと演じ続けていた僕はできるが、ルビーの方は限界だった。
たまに赤ん坊が抱かない欲望が漏れ出している。
これではバレるのも時間の問題だった。
どう対処しようか。せっかくできた新しい家族だ。母親も妹も不幸にはしたくなかった。
家族を大事にできなかった僕だからこそ、家族を大事にしたい。
これが僕がアクアとして最初に決めた目標だ。
色々と重なった結果、ベビーシッター代わりの女性をどうにかこうにか協力者に引き込むことに成功し、その女性の前では、多少は乳児らしきことから外れても、咎められにくくなった。
前世の記憶があることは明かさなかったが、少し特殊な存在であることを示すことで仲間になってもらった。
脅し半分だったこともあり、とりあえず黙っていてくれるようだ。
あとは秘密を守り続けてもらえるのかどうかだが、要観察と言ったところか。
当面はその女性に面倒を見て貰っているときは、あまり気を使わなくて済むようになった。
これでルビーのガス抜きができれば、絶対に知られたくない母親に対しては、秘密を守り通すことができるだろう。
ほっと一安心だ。
僕の方も、協力者を得て色々と行動を起こせるようになった。
我慢していたニュース番組とかをチェックすることで、気になっていた情報を調べられる範囲で集めていく。
これまでの間に分かったことがいくつかある。
どうやらこの世界は、夜神月のいた世界とは違うらしい。
夜神月が居たのかどうかは分からないが、キラという存在が確認できなかった。
あれだけ社会に影響を与えていたキラの痕跡を完全に消すということは不可能だろう。
調べる範囲とはいえ、一切出てこないのは、最初からキラが存在しない世界に生まれ変わったと捉えた方が自然だ。
そうなると、この世界にデスノートがあるのかどうかも分からない。
不審死なども、ほとんど確認できなかった。
デスノートさえあれば死因は操れるから、参考程度にしかならないが、どうやらデスノートも存在しないのかもしれない。
あったとしても手に入れるつもりはないから、どちらでもいいか。
次に、母親のアイのことだ。
彼女は、色々と癖が強い人物のようだ。
アイドルをやりながら一時休業して非公開で子供を産んでいる。
父親が誰なのかは、所属事務所にも明かしていないらしい。
よく僕とルビーの名前を間違えている。
給料はあまり良くないみたいだ。
売れていないわけではないが、超売れっ子というわけでもない。
レッスンに仕事に忙しく、それなりに大変なようだ。
そのおかげで、日中は家に居ないこともそこそこある。
その間に育児を受け持ってくれているのが、事務所の社長夫人であり、マネージャーであり、僕らの協力者となったミヤコさんだ。
僕らの異常さを知る女性である。
ミヤコさんが居なければ生きていけないくらいに世話になっている。
基本的には手のかからない方だと思うが、それでも大変なことに変わりは無いだろう。
感謝しても感謝しきれない相手だ。
そんなミヤコさんを引き込めば何ができるか。
僕とルビーは、母親の職場見学に連れて行ってもらうことに成功していた。
ライブ会場にベビーカーで連れ出してもらい、母親のライブを見る。
ルビーの希望をかなえるためだ。
僕自身は、家で大人しくしていてもよかったわけだが、アイの仕事中はミヤコさんが1人で面倒を見る都合上、ルビーとはセットで動かなければならない。
前世で妹の粧裕のことがあったせいか、どうやら僕は妹に弱いようだ。
前世で
それでも、僕のエゴとして僕にできることは、したかった。
「おしゃぶり付けて大人しくしててくださいね」
言われるまでもない。当たり前の話だ。
そもそも僕はアイドルに欠片の興味もない。何の心配もないはずだ。
ドルオタのルビーには念を押しておこう。暴れられたら面倒だ。
「大人しくしとけよ」
「分かってるよ」
こうしてライブが始まった。
僕にとっては、母親のライブということ以外はどうでもいいライブだが、ルビーが楽しんでくれれば、それでいいか。
◇◇◇
アイドルのライブなんて、という僕の気持ちは吹っ飛ばされていた。
アイが母親なせいか、自分の中の何かが叫んでいるのか。
抑えきれない衝動に襲われて、持たされていたペンライトを一心不乱に振っていた。
隣に良い
初見での完璧な対応。
前世では、テニスで全国制覇をしたこともある僕の運動神経をもってすれば、造作もないことだ。
「ばぶ!」
「ばぶ!」
夜神ペンライト。
う、頭が……。
脳裏に浮かんだワードが酷い。
僕はドルオタではなかったはずだ。
むしろ、アイドルどころか芸能界そのものに対して、あまりいい感情を持っていない。
ミサや高田を通じて、芸能界の表に出ない綺麗では済まされないところまで目にしていたせいだ。
さくらテレビには、かなり振り回されたというのもあったか。
あくまでも利用する場所であって、楽しむために純粋に見たことはなかった。
そんな僕が母親であるアイの持つアイドルのパワーに圧倒されていた。
思わず身体を動かしたくなる衝動が、僕をオタ芸へと走らせる。
目立つことはせずに、大人しくするべきだ。
冷静な僕が呼びかけてくるが、知ったことか。
相手は母親だ。一生懸命応援して何が悪い。
「バブ!」
「バブ!」
これが僕が初めてアイドルにハマった瞬間だったのかもしれない。
僕の母親は、推せる!
後日談。
誰かが撮った乳児2人がオタ芸を披露する動画が拡散されてバズってしまった。
そのせいで、ミヤコさんがかなり怒られていた。
僕たちの姿を見た母親は何かを掴んだらしく、そこからアイの更なる快進撃が始まっていったので、どうか広い心で許して欲しい。
ドヤ顔になっているルビーは少しは反省しろ。