デスのー子 作:リュークの子
あれから1年。
やばいドルオタっぷりを発揮する妹を見ていられないというのを除けば、順調に成長している。
べたべたされて母親もうれしそうだからそれでいいのかもしれない。
転生者だと知っている僕からすれば、オギャバブランドなんか滅んでしまえ。
心の声が乱れた。落ち着こう。
母親のアイは、知らずに甘えられて喜んでいる。
そう考えるならば、僕ももっと甘えるべきなんだろうけど、いまさらどう甘えていいのかが分からなかった。
僕がアイにできることといえば、仕事の邪魔にならないように大人しくしておくくらいか。
静かにテレビを見ていよう。
そういえば、僕の中で1つ大きく変わったことがある。
相変わらずというか、この世界でもニュースを見れば犯罪が報じられているが、そこまで何も思わなくなっていた。
犯罪は許されない行為だ。その思いに変わりは無い。
が、身内が関わらない犯罪にまで、いちいちどうにかしようとは思わなくなった。
これが良いことなのか悪いことなのかは、判断が難しいところだ。
神になろうとして失敗した前世の反省を、今更ながらしたということかもしれない。
「ママの演技楽しみ!」
なお、テレビのチャンネル権は、僕にはない。
ニュースを遮られてドラマの時間となった。
「…………」
そういえば、
それによって助けられたこともあった。
あれは確か、Lによって家に監視カメラが設置されたときか。
疑われていた僕は、犯罪のニュースを見ることなくキラとして動く必要があった。
リビングのテレビで犯罪者の情報を仕入れることなく過ごし、部屋へと戻る。
ポテチに隠しておいた小型テレビとノートで、犯罪者を裁いた。
これで僕は監視カメラの映像を誤魔化したわけだ。
当時は、大真面目だったが、あそこまでする必要があったんだろうか。
ゴミの分別がうるさかったらアウトだったが、当時はまだ緩かったから使えた方法だ。
今ならスマホで簡単に確認できるから、必要のない努力になるか。
「えっこれだけ!?」
ドラマを見終わったルビーが騒ぎ出した。
アイとルビーと3人で見たドラマは、ドラマとしての評価は悪くなかったと思う。
だが、出演者の家族として見る分にはひど過ぎる中身だった。
ドラマの中でのあいは、出演シーンがほとんどないモブ中のモブになっていた。
意識して見なければ居たかどうか分からないレベルだ。
ルビーのわがまま発動によって撮影現場に顔を出した時に見たシーンすら10分の1もなかったと思う。実際には他にも撮影日があり、もっと多くのシーンが撮影されていたはずだが、ほとんどカットされてしまったようだ。
台本を頑張って覚える姿を見ていたが、覚えたセリフはどこにいったのか、ちょっとした一言だけまで削られている。
息子の贔屓目があるにしても、アイの演技は悪くなかった。
本職の女優には劣るが、同じ脇役でもグラビアアイドルよりは、いい演技をしていたはずだ。
芸能界は、演技の良し悪しだけで決まるわけではない。
違うパワーで動くことがあることを知っている。
だからなんだ。そんな知識なんか意味がない。
ルビーが悲しんでいるのと、あいが少し凹んでいるのを見て、僕がどう思うかだ。
この場にいることが、居たたまれない。
家族を大事にすると誓った僕は、この理不尽に立ち向かわなければならないだろう。
今の僕には、武器があった。
撮影現場で入手できたコネだ。
せっかくもらった名刺だ。利用させてもらうか。
オレはドラマの監督へとクレームの電話をかけた。
◇◇◇
「ここはプロの現場なんだけど」
ルビーが騒いでいると、偉そうな子役に怒られた。
同意しかない。撮影現場で「オギャバブランドに返して」と泣き叫ぶ子供が居たら誰だって怒るはずだ。妹だからまだ我慢できるが、ルビーじゃなかったら切れていただろう。
あれが妹だというのは、あきらめるしかない。
どうして今の状況になったのかというと、監督へのクレームが原因だ。
監督と交渉した結果、監督の次回作の映画になぜか僕のバーターとしてアイが出演することが決まり、僕も撮影に参加するはめになってしまった。
映画の出演には興味ないが、アイのために必要なことだ。諦めよう。
今日はその撮影日だ。
ルビーの出番はないが、セットで動くのはいつものことだ。連れ出されたことがよほど不満だったらしい。ルビーが暴れだして、僕まで怒られてしまった。
「せいぜい足を引っ張らないでね」
盛大にコネ扱いされた上で、嫌味まで言われてしまった。
監督に直電して決まったので、否定できないから困る。
足を引っ張らないでね、と聞けば偉そうに聞こえるが、それだけの実績がある子役だった。
有馬かな。
確か年齢は僕の1つ上だ。
せいぜいアイドルオタクの妹に付き合う程度でしか芸能ニュースを見ていない僕でも知っている名前だ。
演技に定評のある天才子役という評価を受けている売れっ子だ。言えるだけの立場にいるだろう。
お兄ちゃん、あいつムカつくとルビーが言ってくるが、言い方はともかく相手の方が正論だ。
どうしようもない。
ルビーの睨みっぷりがひどい。デスノートがルビーの手にあったらどうなっていたことか。
この冗談は不謹慎か。控えよう。デスノートをネタにするのはよくない。
撮影本番。
僕の出番は、ほとんどない。
映画の冒頭で、主役に気味の悪い印象を与えて物語の舞台へ案内するだけだ。
子供と言うこともあり、セリフも多くなければ、役名すらない子供Bだ。
子供Aの有馬1人でも成立しそうなポジションだけに、本当に監督のコネでねじ込んでもらったんだろう。有馬が怒るのも当然か。
先に有馬のセリフから始まる。
なるほど。うつむき加減で表情を消して、ゆっくりとセリフを1文字1文字聞かせるように発することによって、不気味さを与えている。天才子役の名に恥じぬ上手い演技だ。
アイの出番のためにも、僕も足を引っ張らないようにするか。
それに、やられっぱなしだと後でルビーがめんどくさいことになりそうだ。
ずっとキラではないと演じ続けていたおかげで、演技は得意な方だ。
ホラー映画というのが、僕には合っていると思う。
死神を実際に見たことがある人間が、どれだけいるだろうか。
僕は死神を見たことがある。これはホラー映画で演じる上で大きなアドバンテージだ。
リュークの姿をイメージしろ。
目を見開いて、口の端を上げて笑う。
笑うことで表情を消して不気味さを与える。
アルカイック・スマイルに似たような形か。
一歩前に出て、主人公とカメラのレンズを自分に引き込めば、そのまま有馬の演技を引き継ぐように、1文字ずつゆっくりとセリフを発していく。
普通の声ではない。絶望を知る者にしか出せない低く暗い声だ。
夜神月で知ったあの感情を思い出せ。
正しい演技の答えは、僕の中にある。
父親が死んだときの悲しみ。
松田に撃たれたときの苦しみ。
記憶に刻み込まれているすべての負の感情を引き出せば、自然と声に力がこもった。
地獄を知っている僕だからこそ出せる声。
有馬の演技に応えて、今の僕にできる全力をぶつけてみせる。
「…………」
どうしたんだ。セリフを言い終わったのに、次に進まない。
戸惑いながら笑顔を崩すと、ようやく遅れて監督のカットが入った。
どうやら、問題なかったらしい。さすがは僕だ。こういうこともできる。
「すげえな、お前。何人も殺してきました、みたいな演技しやがって」
監督からは笑えない誉め言葉をもらってしまった。
前世で味わった地獄を演技に込めたせいか、前世での業まで演技に出てしまっていたようだ。
「何人殺ったんだよ、教えろよー」
冗談だからこそ気軽に重い言葉が飛び出してくる。
1万人から上は覚えていないといったら、絶対引かれてしまうだろう。
ここは、ノーコメントの一択だ。
「も、もっかい。もっかいやらせて」
有馬かなが泣きながら訴えだしたが、有馬かなの演技も十分に優れていたから通らなかった。
有馬かなの方は分からないが、僕にはさっきの演技が上限だ。
やり直して悪くなることはあっても、これ以上の演技はできそうにない。
撮り直しがないのは、助かる。
「お、お兄ちゃん……」
想定外にルビーまでびびらせてしまったが、それだけ良い演技ができたと思うか。
後から聞いた話だが、ルビーは有馬が泣いたのを見て、スッキリしたらしいので、兄として妹のために頑張れたってことでいいだろう。
これが僕の初めての演技だ。
そして、これが僕と有馬かなの初めての出会いだ。
有馬かなの第一印象は、10分で泣かされる女で終わった。