デスのー子   作:リュークの子

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ピーマン地獄

「勘弁してくれ」

 

 数年後。僕とルビーは幼稚園に入園していた。

 これで親の手を離れて自由を手にしたようで、より不自由になっている。

 

 幼稚園では異常な園児だと思われないように、大人しくしておくしかない。

 周りに合わせるのが結構しんどかったりする。

 

 幼稚園の場合は、保育士の言うことが絶対だ。

 拒否は許されない。

 

 幼稚園で行われるお遊戯の定番であるダンスは、必須事項と言っていい。

 

 音楽には、人を引き付ける何かがある。

 ましてや何でもが楽しいお年頃だ。

 

 1度始まってしまえば、何かに熱中したときの幼稚園児のすさまじい集中力により、ひたすらダンスダンスダンスの繰り返しだ。

 目安として1時間、エンドレスダンスの時間となってしまう。

 

 これも幼稚園児の義務だ。仕方ないと思いたい。

 

 ただ、よりにもよって踊る曲が知人の曲だというのが調子を狂わせる。

 

『ピーマン体操』

 

 10分で泣かされる女こと人気子役の有馬かなが、音を若干外しながら歌った曲は、大ヒットしていた。

 歌に合わせた体操が子供でも出来るような簡単な振りだったのもあり、全国の幼稚園で踊られていることは知っていたが、まさか自分が踊ることになろうとは。

 

 有馬かなの呼びかけから音楽が始まる。

 

「始まるな」

 

 毎回ツッコミたくなる。

 始まらないで欲しい。

 

 終わったと思えば、始まる。無限ピーマンだ。無限スーパーマンだ。無限ピーターパンだ。

 怒涛の無限ループ。毎日1時間をピーマン体操に捧げている。

 

 大人になり切れないピーターパン症候群ってこのことなんじゃないか。

 翌日にはリセットされるのが怖すぎる。いい加減に飽きて欲しい。

 

 ピーマンが好きな子もこれだけ続けば嫌いになりそうだ。

 

 有馬のセリフ部分がいちいちイラっとする。

 何がもっと踊って、だ。もっと踊っても嫌い度が増すだけだ。

 

 ついでに有馬への恨みも溜まりかねない勢いだ。

 

「……はぁ」

 

 これだけぼやきながらも、無駄に完璧に有馬の振りをコピーしてしまう自分の才能が憎い。

 保護者への披露イベントでは、センターに選ばれてしまった。

 

 ルビーは、ダンスが苦手らしくイマイチぱっとしていない。

 

 いまだに、前世のことをすり合わせてはいないので詳しくは知らないが、簡単に聞く限り、前世では大人しい子だったようだ。

 外で遊ぶのは好きみたいだが、運動は苦手というアンバランス。

 

 何か事情を抱えているのか。

 もう少し詮索しようか。

 いや、下手に年齢を聞いて兄と妹という関係が崩れても困るから、このままでいいのだろう。

 

 どうにかフォローしたいが、どこまで接すればいいのかが分からない。

 これが粧裕(さゆ)なら教えれば終わる話だが、相手のプライドのことも考えると、僕が教えるというのも嫌がられそうだ。

 

 アドバイスを求められたら応える。

 そうでなければ見守る。

 それと家でも自主練をして、どう踊るのが正解かを見せる。

 

 冷たいかもしれないが、これくらいが妥当なところだろう。

 

 あとは、有馬かな本人にコツを聞いてみるというのもできるか。監督に聞けば連絡は取れるはずだ。

 もしくは、DVDでは踊り方を解説してあるらしい。それを取り寄せるというのもできる。

 

 アイにもそれとなく相談して見るか。崇拝するアイの言うことなら素直に聞くかもしれない。

 

 

 と、色々と考えていたが、僕が動くまでもなくアイが動き、翌日には解決していた。

 

 アイと一緒に踊ることで克服したようだ。

 1度できると分かってからは、見る見るうちに上達していった。

 

 こうなるとお遊戯会が楽しみだ。

 というか、さっさとお披露目会が終わって、ピーマン地獄も終わって欲しい。

 

 

 

 お遊戯回まであと2週間

 

 今日も朝から1時間ピーマンだった。

 有馬かなの声が脳裏に残って離れない。

 

 ちょっと音を外してるのが余計に印象に残るから質が悪い。

 

 まあいい。今日のピーマンは終わりだ。あとは、乙一の本でも読んで過ごそう。

 

「午後は何したい?」

「「ピーマン体操ーー」」

 

 読書と言う僕の声は、かき消されて終わった。

 

 朝に1時間踊ったばかりだということは、体力のありあまった園児には関係ないようだ。

 

 スピーカーから流れ出す有馬かなの声。

 

 始まるな。始まらないでくれ。

 

 そんな僕の願いかなしく踊りだす園児。

 ダンスの楽しさに目覚めて、笑顔のルビー。

 強制的に踊らされて笑えない僕。

 

 何だこの地獄は、早くこのピーマン地獄から解放して欲しい。

 

 無理に笑うと不気味すぎると恐れられたときの笑顔が出そうで怖い。

 みんなの楽しいピーマン体操の時間に恐怖を巻き起こすわけにはいかない。

 

 笑うな、笑うのは全てが終わってからだ。

 僕はどうにかこの苦難へと挑み続けるのであった。

 

 

 

 お遊戯回まであと10日

 

 お遊戯会が待ち遠しい。こんな気持ちは生まれて初めてだ。

 神よ、僕をこのピーマン苦行から救ってくれ。

 

 このままだと頭がおかしくなってしまう。

 

 

 

 お遊戯回まであと5日

 

 ついに僕は無心のままピーマン体操を踊る術を身につけてしまった。

 これで何も怖くない。

 音楽を聴けば条件反射で身体を動かすだけだ。

 無敵だ。チート能力を手に入れてしまった。

 

 ふははははは、星野アクアマリンに不可能は無い。

 

 

 

 お遊戯回前日

 

「アクア、なにやってるの?」

「はっ!?」

 

 みやこさんに連れられてスーパーに買い物に行ったときに、やらかしてしまった。

 野菜コーナーで流れていたピーマン体操に身体が勝手に反応して踊ってしまったのだ。

 ルビーの呆れた視線が痛い。

 

 誰だ。条件反射さえ身につければ無敵だとか言ってた奴は。

 最低な能力じゃねえか。

 

 明日だ。明日で全てから解放される。頑張れ僕。負けるな僕。

 

 

 

 後日談。

 

 僕とルビーが参加したピーマン体操は、アイには大好評で終わった。

 アイは直接顔を出せないので、みやこさんがビデオにとってくれた。

 

 それは喜ばしいことだ。

 これで万々歳と言いたいところだったが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 何があったかだって?

 

「今日は何したい?」

「ピーマン体操!」

 

 お遊戯会が終わっても、幼稚園のピーマン体操ブームは終わらなかったわけだ。

 

 有馬かな。なんてものを流行らせやがった。

 ピーマンは許しても、有馬かなのことは絶対に許さないからな。覚えておけ。

 

 デスノートならぬ、心の中の絶対許さないノートに有馬かなの名前が載ったのだった。

 

 

 なお、このときの僕は知らなかった。ピーマンブームが終わった後で、パプリカブームが来ることを。

 恐怖は終わらない。

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