偽書 第18.8弾 東方禍福宴~The world of justice and evil.   作:加賀アスナ

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◆◆第29話◆◆
第29話


 京都の観光名所といえば天橋立が思い浮かぶだろう。何せ日本三景の一つである。

 一目見ようと観光客は全国津々浦々からやってくる。

 その為、そんな観光客相手の商売をする地元民は多い。

 天橋立を眺めながらの食事、宿泊。そういった施設が充実しているのも当然と言えるだろう。

 立地としてはなかなかにいい場所を押さえられた喫茶店に観光を楽しむ者とは毛色の違う少女二人組がいた。

 快晴の天候というのに風景には目もくれていない。

 テラス席に向かい合って座る一人は観光客向けの洒落た雰囲気に似つかわしくない和綴じの古書をテーブルに広げていた。

 肩口までの栗毛の髪で黒いバケットハットを被っている少女は宇佐見蓮子といった。

 難しい顔をして古書とにらみ合っている。

 向かいに座っている長い金髪でフリルの付いた可愛らしい帽子を被っている少女はマエリベリー・ハーンといった。

 彼女の前にも古書が数冊積み上がっていた。

 彼女達は京都の大学へ在籍しており、二人でオカルトサークル『秘封倶楽部』を結成している。

 

「う~ん。わかんないなぁ。何でこれだけ偽書なんだろ」

 

 頭を抱えて呟くのは蓮子である。

 蓮子が手元に置いている古書の表表紙の外題にはこうある。

 ――――『東方禍福宴』と。

 しかし表紙には題箋が貼ってあり、そちらには『偽書第拾捌と捌弾東方禍福宴』とある。奥書を見るに著者は稗田阿求であるようだ。

 対してマエリベリー――メリーの前に重ねてある古書には偽書は一冊もない。

 

「偽書は単純に偽りを書かれた物と歴史的背景もあって正統と見なされなかったから偽書になった物もある。題箋を見るに偽書となった物として見る方が有力かしら。この東方禍福宴も装丁は同じようにしてあるし」

 

 言いつつもメリーも自信はなさそうだった。

 

「後世に残すには偽書とするしかなかったって事?」

「その可能性もあるわ。そもそもの話、稗田阿求が書いたとあるけれどゴーストライターの可能性もある訳だし」

「でもそうするとそうまでして残す理由があるじゃない?」

「それはそうなのだけど」

 

 歯切れの悪さを見るにメリーにもその理由は分かり兼ねているようだ。

 

「はぁ~、ダメダメ。ちょっと休憩入れようよ。メリー、なんか頼も」

「そうねぇ」

 

 椅子の背もたれに寄りかかりぐっと伸びをする蓮子は古書から目を離し、海へ視線を動かす。多くの観光客が天橋立の写真を撮っている。

 その中で――――蓮子たちも人の事は言えないが――――場違いな二人組を見つけた。赤い外套を着込んだ女性と船乗りめいたセーラー服を着る少女だ。少女の方はどこかへ走っていく。赤い服の女性は一分も経たない内に待つのを止めたようで蓮子たちのテーブルの方へ歩いてくる。

 ――――と。

 傍をすれ違う時だった。

 赤い服の女性が立ち止まった。

 

「おや? 随分面白い本を持っているのね、貴方達」

 

 どうやら話しかけられているらしい。

 

「あの~どちら様?」

 

 訊ねると女性は、ああ済まない、と頭を下げた。

 

「私は岡崎夢実。一応教授なんてことをしているわ。それで、貴方達の古書が気になってね。どれどれ? やっぱり東方の古書ね」

「御存じなんですか?」

 

 岡崎夢実と名乗る女性はこの古書に覚えがあるようだ。

 

「ん? まあね。知らないわけではないってところかな。東方か、東方はいいわよ。観察には持って来いだわ」

「はぁ」

 

 いまいち噛み合わない言い方に教授クラスになるとやっぱり変人も多いのかしら? と蓮子は思った。

 そこへ。

 

「ちょっと置いてくなんて酷いじゃないか」

 

 セーラー服の少女が小走りにやってきた。紙袋を三つ四つ持っているところから土産物でも買っていたのだろう。

 

「いくら何でも買い過ぎよ、ちゆり。そろそろ私達の世界へ戻るのよ?」

「だから、買ったんだぜ。で、こっちの二人は?」

「ちょっと珍しい本を持ってたから」

「どれどれ……東方……へえ?」

 

 ちゆりと呼ばれた少女は特に興味はないらしい。

 

「邪魔したね。珍しいものを見せてくれて礼を言うよ。じゃあ帰るわよ、ちゆり」

 

 夢美はそのまま歩き出した。

 

「一個ぐらい持ってくれたっていいじゃないか」

 

 悪態を吐きながらもちゆりは蓮子とメリーに頭を下げて後を追っていた。

 果たして今の二人組はなんだったのだろうか。

 不思議な出会いだった。

 

「う~ん。これの事知ってそうだったし、ちゃんと話を聞けばよかったかな?」

「けれど知ってるって事は調べられる事でもあるわ。大学の資料室にないかしら」

「やっぱり地道にやるしかないのね」

 

 大きく溜息を吐いた蓮子は喫茶店のスタッフにコーヒーとフルーツタルトを頼み、メリーは紅茶とクリームあんみつを注文した。まるで和洋があべこべな注文だったことに後から気付くと先ほどの行き詰った空気はどこへやら、折角の観光名所を楽しむ女学生の二人組へと姿を変えていた。

 ちなみにフルーツタルトとクリームあんみつは絶品だった。

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