「ミユキちゃんの様子がおかしい?」
「う、うん。と言っても、別に悪い事じゃないんだけど……」
ガボラと偽ウルトラマンが出現した数日後、ラーメン屋『背文』のハヤトの部屋。
ハヤト、コユキ、フォスの三名が顔を突き合わせ、まかないのラーメンを啜っていた。
怪獣が出た程度でイベントその他が中断されたりしないのがウルトラマン世界。
当然アルバイトも夏祭りも花火大会も、予定通り決行される事になっている。
そして今日は花火大会の日、夕方までにはアルバイトで何度も向かった山へ行く予定だ。
なので、こうしてハヤトの部屋でまとめて昼食を取り、ハヤトの親の車でまとめて向かう事になったのだが……。
(あれ、考えてみれば部屋に女の子入れたのとか初めてじゃね?)
(あれ、考えてみれば男の子の部屋に来たのなんて初めてじゃない?)
二人そろってこんなところでも変な方向に思考が向かっていた。
部屋の真ん中に置いてあるちゃぶ台を囲み、余り物で作ったラーメンを三人で啜る。
緬やスープは店で使ってるモノだし、チャーシューはきれっぱしだが量はあるし、ネギは自分で切ればいい。
さくっとハヤトが三人前作っただけのまかないラーメンを食べ終わったところで気が付いたのである。
「……と、ところで、フォスもメシ食えるんだな!」
「そ、そうだね!そういえばウチの家にいた時もお饅頭食べてたもんね!」
『余剰エネルギーを使って一時的に実体化可能なのでね、食事もできる』
露骨に話題をそらした二人に、後方保護者ヅラしてるフォスは『そこはもっと押して行けよ……』と思っているが、流石に口には出さない。
こういう甘酸っぱくもほんのり近づいたり遠ざかったりする距離感を繰り返すうちに仲良くなるのだ、と、生前の経験で知っているからだ。
というわけで、じれったいが今回は助け船を出すことにした。
『しかし、現代の食事は美味になったものだな。特にラーメン、素晴らしい!
コユキの家で食べた饅頭も、昔は高かった砂糖をしっかり使っている。*1
こういった美食が身近にある、豊かな国になったものだ。いい時代だよ』
「そういうもんかなぁ……?まあ、メシの事で悩まなくてもいい、っていうのはいい事だと思うけどさ」
『そうだとも。 ところでハヤト、ラーメンもう一杯頂けるかね?』
「居候なのに厚かましいなお前!?替え玉で我慢しろ!」
「私の家にいた頃も、お饅頭よく食べてたから……」
『和菓子屋【光】のヨモギ饅頭はいいぞ、ハヤト』
「知ってるよ、ウチのお茶請けだよ」
「え、えっと、御愛好ありがとうございます……?」
コントじみたやりとりを連続させながら、しゃーねぇなぁ、と替え玉の緬を茹でて持ってくるハヤト。
人間サイズの光の巨人がラーメン啜ってるのはだいぶシュールだが、正直ハヤトもコユキも慣れつつあった。
その口で食べられるんだ、とか、ハシ使うの上手いなオイ、とか、その辺のツッコミは既に一通り終わっている。
「……で、話を戻すけど、ミユキちゃんの様子はいつからおかしいんだ?
ってか、そもそもどんなふうにおかしいんだ?」
「ええと、様子が変わったのは……私達のアルバイト初日、かな?
あの『偽物のウルトラマン』と、頭がドリルの怪獣が出た日……」
「自然教室の初日か……ただ、ウルトラマン見たからってそうそう変わるはずもない。
俺達が見てない所で、ミユキちゃんに何かあったと考えるのが無難か?」
「うん、そうだよね……ふさぎ込んでたミユキが突然明るく笑顔になるなんて、どうしても違和感があるし……もちろん、元気になってくれたことはうれしいけど……」
「元気になった原因が不明だもんなぁ……」
そのミユキだが、今日も自然教室に喜んで参加しており、ハヤトやコユキよりも先にマイクロバスで現地へ向かっている。
彼らは後から追いかける手筈になっているのだが……。
「うん、ちょっと花火大会の前に様子見に行ってみるよ。家族じゃないからこそ気づける事もあるだろうし」
「あ、ありがとう、ハヤト君。 ……その、それが終わったら、えっと。
……今日の花火大会、一緒に楽しもうね」
「……お、おう、うん」
『(甘ずっぱい青春の波動を感じる)』
色ボケM78星雲人、フォス。今日も宿主と子孫の青春を見届けるのであった。
ところ変わって、ミユキの参加している自然教室。
偽ウルトラマン事件から何度目かの自然教室だが、あれからミユキは毎回これに参加。
川遊びの時間になるたびに、こっそり集団を抜け出し、ゾーイが準備した【特訓場】に移動する。
「さ、今日も特訓を始めますよ」
「はーい!」
特訓場といっても、外見は他の河川と大差ない。
ザラブ星人の技術力を使い、川の一角を外から見られないように隔離しただけの即席閉鎖空間だ。
そこにいるのは水着姿のミユキと、何故か偽ウルトラマン(人間サイズ)に変身しているゾーイ。
「……しかし、毎回思うんですが、特訓のたびにウルトラマンになる必要があるんですか?」
「だって、そっちの方がやる気でるんだもん。ウルトラマンに特訓手伝ってもらえるから」
「うーん、よくわからない概念ですね……」
おいっちにーさんし、と河原で準備運動をするミユキとゾーイ。
小学生女子とウルトラマンが準備運動やってる光景は大変にシュールだが、ウルトラマン世界では稀に良く見そうな光景なので多分セーフである。*2
準備運動を追えればざぶざぶとゾーイが先に川に入っていき、後から入って来たミユキの手を取り、今日も特訓が始まる。
初日は顔を水につけるのに慣れる事から始まり、息継ぎの練習、体の力を抜く事に慣れる練習。
そんなことを繰り返すうちに、補助ありきとはいえちゃんと泳げるようになりつつあった。
「さ、まずはバタ足の練習からですよ!今日はクロールにも挑戦してみましょう」
「はーい。 ……でも、大丈夫かな?」
「ははは、まあ、溺れそうになったら私が助けますから」
両手を持ってバタ足の練習をしたり、片手をゾーイが持ったままもう片方の手でクロールをする『片手クロール』で息継ぎと腕の動きを覚えたり。
意外なほどにしっかりとした練習法だが、このあたりはゾーイに知識があった。
こう見えて宇宙工作員、潜入用の水連についてもお手の物。25も泳げないミユキやガチのカナヅチなコユキよりよっぽど水泳は上手い。
当然水泳の特訓方法についても一通り学んでいるし、人間に近い種族に化けた時の水泳訓練も行っている。
それを民間人にもこなせるよう、可能な限り簡単なメニューに改良したモノを、ミユキにさせているのだ。
「よしよし、この調子なら夏休みの間に泳げるようになりそうですね、ミユキ」
「ホント!?」
「本当ですとも。努力が実を結んだんですよ」
にこやかに会話を続ける二人、少々絵面がシュールだがほほえましい光景である。
だがその時、ふとゾーイは首を傾げた。
(あれ、私なんだか大切な事を忘れているような……?)
【地球の衛星軌道上 某所】
地球を中心にぐるぐると、船体全てを透明化させて移動している宇宙船が一隻。
ザラブ星人が使用しているポピュラーな『円盤型宇宙船』*3である。
さて、ゾーイがこの星に送り込まれた経緯を、諸君らは覚えておいでだろうか。
他の侵略的宇宙人や宇宙怪獣とカチ会うこの任務には、失敗前提で新米工作員を送り込み、ベテラン工作員がそのバックアップに回る、と。
新米工作員であるゾーイの乗った宇宙船は既に地球に降りているが、ベテラン工作員が乗っている方の宇宙船はずっと遠くから通信で指示を出していたのだ。
『ええい、ゾーイめ。定時報告を何度もすっぽかしおって……まさか、ロクに作戦行動も進めないまま失敗したのではあるまいな?あるいは怖気づいて引きこもっているのか?』
そう、ゾーイがすっかり忘れていたモノ。
それは定時報告……もとい、地球侵略作戦そのものである。
すっかり日本での生活に慣れてしまい、地球侵略作戦の一環である偽ウルトラマン作戦そっちのけで水泳の練習メニューを組んでいたのだ。
ベテラン工作員であるザラブ星人は当然お冠であり、遠い宇宙から通信を飛ばすだけでは不十分と判断。
わざわざ円盤を地球の付近まで移動させていた。
『……まあ、よい。元々失敗前提で立てた作戦だったからな。
こんな時のために『アレ』をゾーイの宇宙船に乗せておいたのだ。
まあ、ヤツは戦闘が苦手な自分への増援と思い込んでいたが……。
まさかアレが自分が失敗したときの後始末用とは思うまい』
クックック、と邪悪な笑みを漏らしながら、自身の宇宙船からゾーイの宇宙船へと通信を飛ばす。
ただし、それはゾーイの宇宙船の通信機ではなく、その倉庫に収縮状態で格納していた『ある兵器』に、だ。
ゾーイが自信満々に語っていた『切り札』。マッチポンプ用の旧式侵略兵器だけでなく準備されたとっておき。
とあるザラブ星人が、作戦中に『ペダン星人の宇宙船から鹵獲したロボット兵器』。
技術的な解析を終えた後、在庫処分と実戦テストのため……。
そして、失敗したゾーイの『後始末』のために、遠隔操作機能を付けて宇宙船に搭載したソレを起動させる。
『目覚めよ、宇宙ロボット【キングジョー】!!』