君は、このソラを飛べる。   作:ボンコッツ

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キングジョーの猛威

 

『へぎゅっ……!?』

 

『フン、威勢がいいのは最初だけか!』

 

 

退職届パンチを叩き込んでから三十秒後、とんでもない勢いでゾーイとキングジョーの戦局は傾きつつあった。

 

先手をうって放った拳の一撃はとても有効打とは言えない程度のダメージしか与えられず、返しの一発だけでゾーイの体が吹っ飛ぶ。

 

山林地帯を勢いよく転がって、ふらつきながら立ち上がった瞬間に勢いよくタックルが直撃。

 

本日二度目の空中浮遊を経験し、そのまま背中から地面に落着した。

 

 

『げふっ、ごふっ……!?』

 

『バカめ、元々キングジョーは戦闘力に不安が残る貴様の補佐として付けたのだぞ?

 戦闘要員が工作要員に直接対決で劣るわけがあるか!阿呆がァー!!』

 

『ぶグッ!!?』

 

 

サッカーボールキックのような一撃が、何とか起き上がろうとしていたゾーイの鼻っ面にめり込む。

 

変身能力によって外見だけは健常に取り繕っているが、人間で言えば今の一撃で鼻がへし折れている。

 

もんどりうって地面に倒れこみ、仰向けのままあが、おご、と呻きながら思わず顔面を手で覆う。

 

瞬間、ガラ空きになったボディを思いっきり踏まれた。

 

 

『げぅっ……!?』

 

『ちょっとでも私とキングジョーに勝てると思ったのかマヌケがぁ!!

 その慢心の代償を、命をもって払わせてくれるわぁ!!』

 

 

九の字に折れたゾーイの体に馬乗りになり、キングジョーが拳を振り上げる。

 

なんとか押しのけようとするゾーイの手を容易く振り払い、顔面へ一発。

 

衝撃で地面に後頭部からゾーイの頭部がめり込んでも、二発、三発と拳を叩きつける。

 

十数発も振りぬいた頃には、既にゾーイは虫の息となっていた。

 

 

(や、やっぱり、無理だったのか……私が、ウルトラマンの真似事なんて……)

 

 

元々、ゾーイは戦闘が得意な宇宙人ではない。

 

ザラブ星人全体で考えればそこまで貧弱な種族ではないのだが、そもそも生まれつき戦闘の才能に乏しかった。

 

変身能力や電子機器に対する理解は種族の平均を上回っていたが、直接戦闘に関しては不得手なのである。

 

薄れてゆく意識、霞んでいく視界、体に感じる痛みと苦痛を前に、ゾーイの心は折れそうになる。

 

 

 

(も、もう、無理……)

 

「頑張ってー!!ウルトラマーーーン!!」

 

(!!)

 

 

消えかけていた意識が一瞬で覚醒する。

 

聞こえた声は、間違いなくゾーイが守ろうとしていた少女のモノ。

 

なんとか視線を声のする方に向けてみれば、小さな体を必死に使って声を張り上げるミユキの姿。

 

逃げろと言って素直に逃げてくれる子ではないと気付くべきであった……が。

 

 

(そうだ、私は、あの子にとっての……)

 

 

少なくとも、今のゾーイにとっては百万の応援団よりも尊いモノであった。

 

燃えつきていたはずの気力にニトロを叩き込み、全身の活力を絞りだして薪にする。

 

両腕にありったけの力を込めて、キングジョーが拳を振り上げたことで上体が浮いた一瞬のスキを突き……。

 

 

『……ダアアアァァーーッ!!』

(ウルトラマンだ!!)

 

『何っ!?』

 

 

キングジョーの胴体と自分の間に両足を潜り込ませ、巴投げの要領で放り投げる。

 

工作員としての訓練で何度も何度もやらされた、ザラブ星人にとっては見慣れた技だ。

 

相手が巨大化したザルドならば、この技も見切って仕留められただろう。

 

キングジョーに乗り込み操作する、という間接的な戦闘に終始しているせいで対応できなかったのだ。

 

背中から地面に落下したキングジョーが起き上がる前に、ゾーイもまた、ふらつきながら起き上がる。

 

 

『食らえっ!!』

 

『むぅっ……!?』

 

 

指先から放たれるロケット弾を連射し、倒れたままのキングジョーを爆炎に包み込む。

 

元々緊急用に装備していた武装だ、撃ち尽くすまでにそれほど時間はかからなかった。

 

同時に、この瞬間が唯一の勝機だとゾーイが判断する程度には『機』が訪れている。

 

 

『トドメに、これだッ!!』

 

 

現在のゾーイが使える武装の中で、最も威力が高いモノ。

 

ロケット弾と同じく、指先から放たれる破壊光線が爆炎を突っ切っていく。

 

キングジョーがいるあたりにやたらめったらにバラまき続け、十数秒ほど照射したところでぐらりとゾーイの視界が揺れた。

 

 

『がはっ……はっ……はぁ!』

(こ、これだけやれば、少しぐらい……!)

 

マウントを取られてタコ殴りにされた時点で、既にゾーイの体は限界を突っ切っている。

 

巴投げも、ロケット弾や破壊光線も、体に残った気力の残照で無理やり放っただけに過ぎない。

 

もうもうと上がった爆炎と煙の中、ソレが晴れるまでフラつきながらも立ち続ける。

 

そして……。

 

 

 

『……随分と無駄な足掻きが好きになったようだな、ゾーイ!!』

 

『やっぱり、ダメか……!』

 

 

爆炎の中から、4つに分割されたキングジョーが飛び出し、素早く合体してゾーイと相対する。。

 

キングジョーの詳細な性能はゾーイの頭にも入っているが、ペダニウム合金製の頑強なボディは今のゾーイの手持ち武装では有効打は厳しい。

 

関節部や装甲の隙間が比較的脆く、また分離中は弱点となる内部機構が見えることからその点を突けばチャンスはあった。

 

しかし、ゾーイの動体視力と攻撃速度、そして戦闘技術では弱所だけを狙う等夢のまた夢。

 

分離機能に関しては、操縦しているザルドも当然弱点は承知の上。それぞれの円盤同士でカバーしあう動きをしながら合体していた。

 

倒れたら分離・合体しないと起き上れないのも大きな弱点である以上、不意打ちでの巴投げは本当に千載一遇の好機だったのである。

 

 

それでも、ここで自分が立ち向かわなければ、ザルドはそのままキングジョーを使って侵略活動を再開するだろう。

 

偽ウルトラマン作戦がご破算になった今、ザルドは長期的視野を前提にした作戦など取るはずもない。

 

残る二人の侵略者とのスピード勝負になるのだから、今更回りくどい手など打つはずがないのだ。

 

 

(それだけは、させるわけにはいかない!!)

 

 

当然、そうなったら真っ先に狙われるのはミユキ達のいる街だ。

 

別に、ゾーイは正義の味方に目覚めたわけでもなければ、地球人に同情したわけでもない。

 

だがしかし、自分が背にしているあの街が地図から消えれば、路頭に迷い泣く少女がいる。

 

その少女こそが、今のゾーイにとって何よりも大事なだけなのだ。

 

 

『貴様をきっちりと始末して、それから手始めにこの国を更地に変えてやる!!』

 

『やってみろ!!』

 

 

キングジョーの目に当たる部分が光り輝く。必殺技の『デスト・レイ』を放つ予備動作だ。

 

ゾーイも、もはや消える寸前の線香花火程度の力しか残っていない己の体にムチを打ち、破壊光線の発射姿勢を取る。

 

発射したのはほぼ同時、目から放たれる熱線と、指先から放たれる光線が一直線に対象へ向かう。

 

夕暮れの野山をバックにして、互いの奥の手とも言うべき光線同士がぶつかり合った。

 

 

『ぐ、ぐぐ、ぐ……!!』

 

『ハハハハハ!こちらはまだ半分の力も出していないぞ、ゾーイ!』

 

 

しかし、元よりコンディションも破壊力も段違い。

 

フルパワーには程遠いデスト・レイですら、ゾーイの破壊光線をじわじわと押し返していく。

 

目がかすみ、耳も鈍り、ミユキの応援ですらぼんやりとノイズがかかって聞こえている。

 

両脚は枯れ木のように頼りなく、飾りでつけただけのカラータイマーは、本来の機能がついていたのならとっくに点滅中だ。

 

それでも、ゾーイはこの場所を一歩も引く気はない。

 

 

(たとえ、私が殺されたとしても、これだけ時間を稼いだのだ。

 『本物』がすぐに来てくれる、そうすれば、ミユキは助かるはず。

 それでいい、十分だ。偽物のウルトラマンにとって上出来に過ぎる)

 

 

『その後』の事など考えず、破壊光線の照射に全エネルギーを投入。

 

一分一秒でもこのつばぜり合いを持たせることで、『本物』が駆けつけるまでの時間を稼いでいるのだ。

 

『本物』が自分を助ける義理など無い。だが、本当に正義の使者ならば、ミユキを見棄てるハズもないだろう、と。

 

 

(ああ、ですが、ミユキ。最後に未練を言うのなら。

 泳げるようになった貴方と、この星の海へ、共に……)

 

 

間近に迫る死の熱線に、ゾーイはゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

その瞬間。

 

 

 

『ジェアッ!!』

 

『……えっ!?』

 

『なんだと!?』

 

後方から放たれた『スラッシュ光線』が、ゾーイの破壊光線に加勢しデスト・レイを押し返す。

 

慌ててザルドがデスト・レイの出力を上げようとするが、突然の事で間に合うはずもなく。

 

そのまま2つの光線が一気に熱線を押し切り、キングジョーに直撃した。

 

重厚な装甲でそれを受け止めたものの、後方に押し返されたキングジョーがぐらりと傾き、膝をつく。

 

 

『うおおおっ!?く、バ、バカな!?

 何故貴様がゾーイに味方をする!ウルトラマン!!』

 

『う、ウルトラマン……本物か!?』

 

 

『……ジュアッ!!』

 

 

突如現れた銀の巨人…『ウルトラマンフォス』が、ゾーイとキングジョーの間に割り込む。

 

まるでゾーイを庇う様に立ち、腰を落とした戦闘態勢を取ってキングジョーを睨みつけた。

 

 

『……なるほど、確かにあのザラブ星人の疑問ももっともだ。

 ハヤト、君も介入には随分慎重だったが、何を理由に変身したのかな?』

 

 

そして、ウルトラマンフォスの体の中の謎空間にて、フォスもまたハヤトに問いかける。

 

実のところ、ハヤトはゾーイとキングジョーが戦い始めた時にはかなり近くまで来ていたのだ。

 

しかしすぐには変身せず、『あるもの』を目撃するまで事態を静観していた。

 

 

「そりゃあ、どっちが味方でどっちが敵かさっぱりだったからな。

 あの金ぴかロボットが味方とは思えないし、もう片方は偽ウルトラマンだぜ?

 敵同士の仲間割れって考えた方が自然だし、それなら放置した方がいい」

 

『そうだな、放置して、勝った方と我々が戦った方がいい。それをわかっていて、介入した理由は?』

 

 

責める様な口調ではなく、あくまで『なんでかな?』と疑問に思ったような声色で問いかける。

 

とはいえ、既にフォスにはおおよその事情が理解できていた。

 

ハヤトと融合したフォスには、ハヤトが放つ感情の色がしっかりと伝わっている。

 

その上で、彼の口から答えを聞きたかったのだろう。

 

 

「決まってるだろ,そんなもんは」

 

 

チラリと視線を向けたのは、ゾーイよりさらに後方にいるミユキ。

 

小さな体を必死に動かし、全力でゾーイを応援し続けている。

 

そして、ゾーイはそんなミユキに戦闘の余波すら届かないように立ち回っていた。

 

それに対して、ハヤトが言い放つ答えなど1つしかない。

 

 

「俺は、無垢な子供の味方をするヤツの味方で、それを殴るヤツの敵だ!文句あるか!!」

 

『……成程、それは正しい。6500年生きたが、それ以上に正しい光の国の法は知らないな。

 ならばハヤト。そんな法を犯した罪人に相応しい、光の国の裁きを教えよう』

 

 

 

謎空間の中で、真っすぐにフォスの指がキングジョーとザルドを指さした。

 

そしてそれが、最終ラウンドのゴングであった。

 

 

 

『思いっきり、グーで殴れ!!!』

 

『応ッ!!』

 

 

 

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