君は、このソラを飛べる。   作:ボンコッツ

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ポスターの縁

 

『か……勝った……?』

 

 

ズタボロになりながらもキングジョーに組み付き、間一髪爆発する前に飛びのいたゾーイ。

 

半ば呆然としながらも、目の前で木っ端みじんに吹き飛んだキングジョーを見て、ぽつりと呟いた。

 

ゆっくりと視線を上げてみれば、あれだけの奮戦の後なのに、自分と違って威風堂々と立ち続けている『ウルトラマン』の姿が目に入る。

 

 

(ああ、やはり……『本物』は、違うなぁ)

 

 

どうしようもなく、ゾーイにとってもウルトラマンは『本物』だった。

 

そして、同時に覚悟もできる。なにせ彼女もまた、今退治されたばかりのザルドと同じザラブ星人。

 

作戦遂行はグッダグダだったとはいえ、地球侵略に来た宇宙人であることは変わりないのだから。

 

ウルトラマンがゾーイの方を振り向き、一歩一歩近づいて来る。

 

カラータイマーの点滅からいって、既に残存エネルギーに余裕はない。

 

しかし、ボロボロの『偽物』一匹片付けるのには十分すぎる。

 

目の前に来たウルトラマンを見て、ゾーイは意を決したように目を閉じ……。

 

 

「よっと」

『ジュアッ!』

 

『え……?』

 

 

しかし、ゾーイが覚悟していた痛みはいつまでたっても訪れず。

 

それどころか倒れこんでいたゾーイに肩を貸して、掛け声と共に空へ飛び立っていった。

 

……といっても、この飛翔はあくまでアリバイ作りのためのモノ。

 

途中で両者共に縮小化し、人間サイズに戻ってから元居た山林地帯の某所に着地した。

 

困惑するゾーイの前で、ウルトラマンフォスが変身を解除する。

 

 

「……! 貴方が、『ウルトラマン』……?!」

 

「え?あー、まあ、一応?」

 

「そう、ですか……貴方が、本物の……」

 

 

やはり地球人と融合していたのか、と自分の予想が当たっていた事を確信しつつ、ようやく少しだけ肩の力が抜けた。

 

ザルドは倒れたが、同胞を撃った罪悪感等はあまり感じていない。

 

元々ゾーイを使い捨てにする気満々なのをなんとなく察していたからかもしれないが、なんにせよ。

 

今日この日をもって、ザラブ星人ゾーイは宇宙工作員を退職した。

 

でもこれからどうしようかなぁ、と遠い目になるゾーイであった、が。

 

 

「本物……って言ってもな。アンタだって『ウルトラマン』だろう?」

 

「いえ、私はその、姿かたちを真似て化けていただけで……M78星雲人でもありませんし」

 

「『ウルトラマン』が姿や種族で決まるかよ。

 元々、誰かが平和を守る宇宙人につけただけの名前なんだから。

 なら、アンタだって『ウルトラマン』を名乗っていいはずだろ」

 

 

『ウルトラマンを名乗るなんて恐れ多い』と遠慮するゾーイに、ハヤトは胸を張って言い切った。

 

そも、ウルトラマンがM78星雲人限定になったらティガやダイナだってウルトラマンじゃなくなってしまう。

 

大事なのは『誰かを守ろう』と思える心意気だと、ハヤトは自信満々に断言できる。

 

元々、ハヤトだって半分M78星雲人、半分地球人みたいな状態なのだから。

 

 

「私も、ウルトラマンだと?」

 

「ああ。少なくとも俺はそう思う。ここ数日、ミユキちゃんの面倒見てくれてたのアンタだろ」

 

「え、ええ。泳ぎが苦手と言っていましたから、水練の手伝いを」

 

「立派な大人のやる事じゃないか、誰に隠す事でもない。

 暴れるだけのベムラーや、さっきのロボットに乗ってたヤツより100倍マシだ。

 だから、アンタもウルトラマンだ。ほら、その証拠に……」

 

 

ハヤトが指さす先は、野山の先にある見覚えありまくりな川。

 

ゾーイとミユキが水泳の特訓をしていた川の、いくらか上流に当たる部分。

 

そこを、えっちらおっちらと岩場を乗り越えて上がってくる、小さな影が一つ。

 

 

「み、ミユキ!?なんでこんなところに!?」

 

「アンタがボッコボコにされてたから心配になったんだろ、多分。

 行ってきなよ、顔出して安心させてあげるぐらいの義理はあるだろ」

 

「それは、まあ、そうかもしれませんが……」

 

「デモもストもない。このままあの子を放置してる方がウルトラマン的じゃないぞ。

 それとも、あの子が泣きながらアンタを探してる方が好みなのかい?」

 

「うっ……」

 

 

痛い所を突かれた、というような声がゾーイの口から洩れる。

 

おたおた、わたわた、と数秒ほど悶えながら悩み、唸り、悶え……。

 

 

「……私は、いつまでも地球にはいられません。ザラブ星からの追っ手も来るはずです。

 これから宇宙船に戻って、なるべく早く地球を離れなければいけません」

 

「ミユキちゃんをザラブ星人のゴタゴタに巻き込まないために?」

 

「……はい。だから、私とあの子の関係は、このひと夏の思い出で終ります。

 それでもなお、貴方は私に、あの子に会いに行けというのですか?」

 

「もちろんだ。胸を張って言えるぜ、何度でもな。

 ここで会いに行かなきゃ、あの子はこの出会いを『思い出』にできないぞ」

 

「……」

 

 

それを聞いて、どうしようどうしよう、と迷い悶えていたゾーイの動きがぴたりと止まる。

 

きゅっ、と口を真一文字に結んで、腹を括った顔で駆けだす。

 

産まれて初めてできた『友達』が待つ場所へ、がさがさと藪を駆け抜けて降りて行った。

 

そんな微妙に情けない背中を見送るハヤトに、フォスが問いかける。

 

 

『よかったのか、ハヤト?彼女も恐らく、この地球を狙っていた一味だぞ』

 

「いいんだよ、少なくとも『今の』アイツは悪党じゃなさそうだし。

 それに、こういう時はまず信じる所から始めないといけない、そう思うんだ。

 そうじゃなきゃ何も始まらないだろ。違う?」

 

『……いいや、違わないさ。宇宙警備隊的にもソレは正しい。

 いや、あるいは……ウルトラマン的にも、のほうがいいか?』

 

「あんまりこねくり回すのも無粋なんだぜ、そういうのは」

 

『そういうモノか……まあ、そういうモノだな』

 

 

木陰に身を隠したまま、追って来たミユキに駆け寄るゾーイをこっそりと見守る。

 

半泣きだったミユキが、ゾーイの姿を見た瞬間にギャン泣きにシフトした。

 

一方のゾーイも、ギリギリ保っていた大人の仮面がぺりぺりと剝がれていく。

 

飛び込んできたミユキを泣き顔のまま抱き留めて、そのままひんひんと泣き声の合唱をしているゾーイ。

 

そんな『親友同士の抱擁』を見届けてから、ハヤトとフォスは無粋なのぞき見を中断し、その場を去っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【三日後 ラーメン屋『背文』】

 

 

 

「それじゃあ、ミユキの事を励ましてくれてたのは、そのゾーイさんだったんだ……」

 

「ああ。どうもそうらしい」

 

 

あれから無事に花火大会を終え、蒸し暑い夏の日が戻って来た。

 

こうして話しているのは、店番を頼まれたハヤトと、一緒に夏休みの宿題をやりにきたコユキの二人。

 

ついにおうちデートか……!と色ボケた事を考えてたりもするが、それ以上に心配なのは……。

 

 

「でも、ミユキちゃんは大丈夫なのか?ゾーイは宇宙に帰るって言ってたし」

 

「うん……ちょっと寂しそうだったけど、ふさぎ込んでる感じじゃなかったから。

 きっと、ゾーイさんとちゃんとお話して、お別れできたのが良かったんだと思う」

 

「……そっか」

 

 

家でのミユキの様子をコユキに尋ねてみれば、どうやらゾーイとの別れは暗いものではなかったようだ。

 

今日は学校のプールに行っているらしく、去年までは行こうとしなかったのに笑顔で出かけて行ったとのこと。

 

『ウルトラマン』とのひと夏の出会い、そして水泳の特訓は、少女にほんの少しの自信を与えてくれたようだ。

 

だが、ハヤトのおごりで出されたラーメンを食べ終えたコユキが「でも」と言って表情を少し暗くする。

 

 

「……このまま、ミユキとゾーイさんが一生会えないのは、ちょっとだけ可哀そうだね……」

 

「ま、ザラブ星人の追っ手さえなんとかなればまた会いに来れるだろ。

 こればっかりはフォスの元同僚のお仕事次第ってわけだ」

 

『うむ。宇宙警備隊は優秀だ、きっと宇宙工作員に対処してくれるだろう。

 その時が一刻も早く来るのを、元警備隊として祈るばかりだな』

 

「……そう、だね。人事を尽くして天命を待つ*1って言うもんね」

 

「おお、文学少女っぽい含蓄ある言葉」

 

「『ぽい』じゃなくてちゃんと文学少女の端くれだからね?!」

 

『それでも端くれを自称するのは謙虚なのかどうなのか……』

 

 

会ってから一週間と少し程度なのに、もはや恒例になりつつあるコメディタッチなやり取りをする三人。

 

ミユキとゾーイだけが特例なのではない。宇宙人にもちゃんと心があり、分かり合える事もある。

 

ザルドのような悪党もいれば、フォスのようなお人好しもいる。

 

ゾーイのように、悪党になりきれずこちら側に来る者もいる。

 

人間……『地球人』だって善も悪もいるのだから、〇〇星人というだけで全てを判断できるわけじゃない。

 

ハヤトとフォスは、この事件を通じてそんなことを学んだのだった。

 

 

その時、がらがら……と店の入り口が開く音。

 

別に貸し切りでもなんでもないので、次の客がやってきたらしい。

 

夏休みとはいえ昼間からアツアツのラーメンを食べる客なんて少ないので、店内はがらっとしている。

 

冷やし中華目当てかな?*2なんて考えながら、奥側のカウンターに座っていたミユキから、入口の方へ視線を向けるハヤト。

 

 

「いらっしゃい……あっ」

 

「す、すいません、表にあったアルバイト募集の張り紙を見て、まかないありって書いて……あっ」

 

 

金色の髪、グンバツボディにジャージ姿、とんでもなく整った顔。

 

『どこかで見覚えのある女性』が、目を真ん丸に見開いてハヤトを見る。

 

コユキだけが「え、え?」と様子のおかしい二人を交互に見比べていた。

 

 

「……ゾーイ!?なんでいるの!?」

 

「こっちのセリフです!美味しそうな匂いに釣られて入ってみたら……!?」

 

 

キングジョーが宇宙船の中で巨大化して出て来たせいで、宇宙船が盛大に故障。

 

宇宙航行システムの修理は可能だが、食糧庫も潰れていたせいで盛大に飢えるハメになり。

 

ふらふらーっと冬眠に失敗したクマのように人里に降りてきて、ラーメン屋に迷い込んだ宇宙人(バカ)がいた。

 

……野山でのサバイバルにも失敗しているあたり、本当に宇宙工作員の才能はさっぱり無かった模様。

 

 

 

そして、この日から『背文』に一人、アルバイトが増えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

ザルド&キングジョーとの激戦を制したハヤトとフォス。

 

だがしかし、邪悪なる意思による地球侵略は待ってはくれない!

 

 

「ベムラーもザルドも失敗したとなれば、私の出番ですね。

 私の捕獲したこの『最強の宇宙怪獣』……しかもなんと三匹!

 いかにウルトラマンと言えど、鎧袖一触で蹴散らせるはず……!」

 

 

次なる刺客メトロン星人『ケイン』

 

何とコイツは、この宇宙でも有数の凶悪な宇宙怪獣を引き連れていた!

 

 

「戦力の逐次投入なんて愚は犯さん、まとめてけしかけてくれる!」

 

 

コユキと共に海に来たハヤト/フォスに襲い掛かる宇宙怪獣!

 

ウルトラマンすら容易く無力化する最強の能力が、今解き放たれる!

 

危うし、ウルトラマンフォス!?

 

 

次回、ウルトラマンフォス。

 

 

 

第三話 【狙いそこねた街】

 

 

 

 

『次回も絶対』

 

 

 

「見てくれよな!」

 

*1
人としてできる限りの事をしたら、あとは神様にでも祈ってろ、という意味の言葉。

*2
なお、コユキは「冷たいモノ食べ過ぎるとお腹痛くなるから」と言う理由で冷やし中華もアイスキャンディーも控え目に食べるタイプ。

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