「青い海!」
両手を広げ、全力で空を仰ぎ見る。
「白い雲!」
入道雲が立ち上り、青と白のコントラストが美しい。
「ビーチサンダルで歩くと火傷しそうな砂浜!」
そう言いながらもあっつ!あっつ!?となりながら砂浜を走っていき。
「いやー、海って素晴らしいモノだと思わんかね、フォス君!!」
『開始早々なんだそのテンションは』
恐らく一話以来のハイテンションなハヤトがそこにいた。
上着は安っぽいアロハシャツ、下は黒い海パンを携えて。
オシャレ用の色付きサングラスをかけて、自分にしか見えない宇宙人に振り向いた。
ちなみにフォスは俗にいう『もう一人の僕』状態である。あるいはアストラルとかナストラル状態である。
え、遊戯王シリーズの視聴者にしかわからないだろって?
そんなことは作者の管轄外だ。
「だってお前、男女比1対3で海水浴だぜ?こんなもん実質ハーレムだろお前」
『一人は幼女だぞ』
「そこだけは残念だな(げしっ)あいっだぁ!?」
突如スネに走った激痛に、片足を抑えてぴょんぴょん跳ねながら悲鳴を上げたハヤト。
涙目になりながら振り返ってみれば、子供用水着に身を包んだミユキが頬を膨らませていた。
「残念ってなによ。こんな素敵なレディ捕まえておいて」
「レディは人のスネにローキック入れたりしねーよ。
第一捕まえたも何も、お前ただ単に俺達の海水浴についてきただけだろ。
ナンパしたみたいな言い方やめろ、俺の性癖が疑われる(どごっ)おっふぁ!?」
ゾーイとの一件からだいぶ図太くなったようで、顔見知りであるハヤトへのスネ蹴りが容赦ない。
あたしだってあと5年もすればー、と言いながら、あはーん、と見よう見まねでセクシーポーズ。
当然ハヤトは「はっ」と鼻で笑ったので、三度目のローキックを叩き込まれた。
ちなみに、小学生と考えると割と発育はいい方である。*1
フン!とそっぽを向いてしまったミユキを横目に、スネを抑えつつハヤトは呻く。
「ぐおお……この手、いや足の速さは姉と大違いだ……!」
『いや、これに関しては君が悪い』
「うるせーやい!……さーて、ミユキが来たって事は、本命は……」
くるり、とミユキの来た方を振り向けば、今度こそハヤトの待っていた『本命』が目に入る。
「ど、どうかな。見苦しいほどじゃないと思うんだけど」
「……ビュリフォー……」
「そんなFPSゲームみたいな声出すほどかなぁ!?」
読者諸君は、文学少女が自分で選んだ水着……となればどんなのを想像するだろうか。
肌面積を少しでも減らすためにレオタードタイプとか、肌のラインを出さないワンピースタイプとか、なんなら上にシャツでも羽織ってるとか。
そんな『あんまり自分を見せないスタイル』を想像するだろう。
だがしかし、ここでコユキは攻めて来た。そりゃあもうひと夏のアバンチュール狙いで攻めて来た。
上下ともに紺色のビキニタイプ、か腰にはパレオを巻いて太ももあたりまでを軽く覆うことで若干の『清楚さ』をだしてきた。
これががっつりビキニだと、ギャップが強すぎて『ヤル気出し過ぎじゃない?』感が出てしまう。
普段からイケイケな女子ならともかく、コユキだとギャップを抑えきれないのだ。
そこで、あえてパレオで下半身だけを若干隠し、ギリギリのラインでギャップの色気を成立させている。
そしてなにより。
「意外と着やせするタイプッ……!!」
「ハヤトお兄ちゃん、目が怖いよ」
「いいかミユキちゃん、男は狼なんだ」
「ハイエナの間違いでしょ」
「最近の女子小学生の語彙力ヤバくない?」
(だ、大丈夫かな。変じゃないかな、私の水着……むしろ私の体!?)
普段はゆったりした衣服を好む上に、制服もブレザータイプなので目立たなかったようだが。
小柄な彼女には不釣り合いな胸部燃料タンクが2つ搭載、破壊力はソルディオス砲*2並みだ。しかも二連装。
そのスリーサイズは上から86/54/82。出るとこ出てるトランジスタグラマー体型である。
外見イメージはゼンノロブロイに近い癖にスタイルはイナリワンだ。
え、どっちも頭サイゲのメスドラフ体形だろって?諸君らも好きだろう?
「いやー……来てよかったわマジで」
「そ、そう?荷物持ちほとんど任せちゃったし、寧ろ申し訳ない気が……」
「パラソルやらクーラーボックスやら全部担いで歩いてたもんね、ハヤトお兄ちゃん」
「いやー、いいよいいよ。どうせ海までえっちらおっちら歩くだけだし。
ラーメンの岡持ちで慣れてるからな!こんぐらい軽いもんよ!」
ある程度開発された地方にありがちなのだが、北上すれば山、南下すれば海、という地形はそこそこある。
花火大会をやった山と反対方向へ歩いていけば、地元民ぐらいしか使わない浜辺があるのだ。
小さめだが海の家やシャワーや更衣室も設置され、家族連れや地元の学生がちょこちょこと来て遊んでいるのが見える。
沖合のブイも色あせてるような、ビーチなんてシャレた表現が似合わないような地味な浜辺とはいえ、海水浴には十分。
岩場の方に行けば潮干狩りもできるが、それはまた今度ということになっていた。
「普段はオヤジやオフクロと一緒に来てただけの海に、こんな晴れやかな気分で来ることになるとは……!!」
「そ、そんな喜ばなくても……ところで、なんでさっきから前かがみなの?」
「迸るパッションを抑えきれないだけだ、気にしないでくれ」
『いろんな意味で最低だぞハヤト』
フォスのツッコミを盛大に無視しつつ、よっこらせ、と抱えていたパラソルやクーラーボックスを下ろすハヤト。
シートを引いてパラソル立てて、あとは適当に泳いだり遊んだりしたらパラソルの下で休んで、海の家で食事をして。
また夕方まで遊びまくって帰る、それだけのシンプルな一日……。
そこに、もう1つスパイスが加えられた。
「すいません、着替えに手間取ってしまって……」
「ああ、まあ、水着着るの初めてだろうし別に……オオゥ……」
コユキですら、歩けば『たゆん』とか『ゆさっ』とかの効果音が鳴る発育良好ボディ。
だが、最後の一人……ゾーイの体は、もはや発育良好を通り越して発育の暴力であった。
いやまあ、変身能力によって地球上で美形とされる女性の特徴を繋ぎ合わせたから当然と言えば当然なのだが。
ようはアイドルやモデルや俳優の顔の形とスタイルを平均化して作り上げたわけで……。
3ケタに迫ろうというサイズのスイカップを、スリングショット型の水着に包んだ乳の暴威がソコにあった。
「胸革命(バスト・レボリューション)……!
(ごすっ)あいっでぇ!?ちょ、コユキちゃん、なんでぇ!?」
「知らないッ!」
「……何かあったのですか、あの二人は?」
「ハヤトお兄ちゃんがデリカシー足りてないだけだから大丈夫」
「は、はあ……?」
妹と同じく無駄にキレのいいローキックをスネに叩き込み、ぷいっ、と頬を膨らませて歩いて行ってしまうコユキ。
そんなコユキを「コユキちゃーん!?」と微妙に情けない声と共に追っていくハヤト。
困惑するゾーイをヨソに、コユキはやれやれといった風に二人の背中を見送ったのだった。
【二時間後】
「機嫌なおしてくれよー、コユキちゃん。いや未だに俺何が悪かったのか微妙に分かってないけど」
『君が分かってないのは女心だぞ』
「……まあ、うん。冷静に考えたら私が怒る理由無いんだけど、うん……」
『よかったなハヤト、コユキが理解のある女の子で』
「なんか俺バカにされてないか?」
なんのかんの言いつつ、しばらく遊んでいればギスった空気も緩む。
元々『片思いの男の子の視線が別の女性に行っている』という、ラブコメではよくあるけど現実なら理不尽なジェラシーが原因だ。
いやまあ、それはそれとしてコユキをほめた直後にバスト・レボリューションとか言っちゃうハヤトもアレなのだが。
ともあれなにあれ、事を荒立てないタイプであるコユキと切り替えの早いハヤトという両名だったこともあり、おおむね落ち着きつつあった。
「なによりさっきまでビーチフラッグやらビーチバレーやらやりまくってたのに今更モメるわけもないしな」
「まさか海水浴に来て一回も海に入らないまま二時間経過するとは思わなかったよ私……」
「でも楽しかったろ?」
「……うん」
パラソルの下で座っている二人は、持ち込んだオレンジジュースの缶を片手に一休み。
無限のスタミナ持ちの宇宙人&小学生なゾーイとミユキは、今もビーチボールでリレーをやっている。
ぽーん、ぽーん、と跳ねまわるビーチボールを見ていると、ついついゾーイのでっかいビーチボール×2にも視線が行きそうになるが、ここはグっと我慢。
同じ失敗を二度繰り返すハヤトではないのだ。
「……そろそろお昼ご飯にしないか?ちょっと早いけど」
「ん、そうだね。二人ももうすぐ疲れて戻ってくるだろうし……海の家行く?」
「いや、海の家の席も他の客で埋まってそうだし、俺が適当に買ってくるよ。
確かやきそばとフランクフルト、イカ焼きと焼きトウモロコシもあったな。
かき氷は溶けちゃうし、昼飯のあとでいいか」
「あ、今お財布出すからちょっと待ってね」
「いいよいいよ、バイト代に加えて臨時収入があって懐温かいからさ」
コユキにいーからいーから!と返しつつ、『臨時収入』が入った財布を片手に海の家に向かう。
コユキ達と海水浴に行く、というのを両親が聞きつけたせいで、盛大に面倒くさい質問攻勢が始まった昨晩の『背文』。
しかし、怪我の功名と言うべきか。デートに行くのに懐が寂しいとアレだろう?と言って、両親が諭吉さんを一枚くれたのだ。
少なくとも海の家で4人分の食事を買う程度は全然問題ない、地元価格なのでお安い優良店である。
というわけで、パラソルを離れて焼きそばを焼いているスペースへ歩いていく。
祭りの屋台を再利用しているようで、焼きそばやイカ焼き等は焼く所から見られる仕組みだ。
で、焼きそばを買うために屋台に来たのだが……。
そこには盛大に異物感を放つ『ナニカ』がいた。
辛子明太子を直立させたような頭部と胴体。
後頭部や背中にあたる部分にはタコのような吸盤が見える。
黄色いエリマキのような部位で頭部と四肢が区切られ、四肢は水色で両手の指は長く細い。
妙につぶらな瞳のそれは、『幻覚宇宙人 メトロン星人』に他ならない。
「おや、いらっしゃい」
「やきそば4つね。大2つに中2つ」
「はいよー」
そんなメトロン星人が、何故かねじり鉢巻きを巻いて両手にヘラ持って焼きそばを焼いている。
周囲の観光客も宣伝用の着ぐるみか何かだと思っているのか、大した騒ぎにもなっていない。
これが都会なら写真を撮ってSNSに上げる者もいそうだが、ツイッタラーもティックトッカーも少ない田舎の地方都市である。
現代の情報社会とは思えないほどにゆるーい空気で焼きそばを売っていた。
「削り節とマヨネーズ、あと紅しょうがはどうします?」
「あ、全部オッケーですー。おっちゃん、それと焼きトウモロコシと焼きイカを3つずつ」
「あいよっ!」
そして、メトロン星人の隣では禿げあがった日焼け頭のオッサンがイカやトウモロコシを焼いている。
こちらはハヤト達も見慣れている、毎年ここで海の家を経営しているオッサンだ。
本名は別にあるのだが、海の家ではいつもねじり鉢巻きをしているため、『ハチマキさん』と呼ばれている。
彼が海の家を開くのが、この浜辺での海開きの合図なのだ。
「はい、焼きそば4つあがったよー」
「焼きトウモロコシと焼きイカ、3つずつね!」
「ありがと。そっちの人は新人さん?」
「おう!色々あってウチで面倒見ててな、中々スジもいいぜ!」
「恐縮です。『ケイン』といいます」
「へー……よかったねハチマキさん。焼きそば作るのが上手い新人が来て」
まったくだぜ!とカラカラ笑うハチマキさんと、照れくさそうに頭(?)をかく『メトロン星人ケイン』から料理を受け取る。
屋台の隣にある海の家をちらりと見るが、やはりそう大きくもない海の家の席は他の海水浴客で埋まっていた。
パラソルの下にシート引いてあるし、予定通りあそこで食べるか……と、屋台を後にして。
日に照らされた砂浜を時々「あっつ!?」となりながらもパラソルまで戻り……。
「……なんで宇宙人が海の家で焼きそば焼いてんだよ!!!」
『ノリツッコミのタメがやけに長かったな』
ようやっと、真夏のシュールな光景にツッコミを入れた。