「粗茶ですが……」
「あ、どうも……」
前回ラストの全開シャウトから30分後、ハヤトは食事を切り上げて海の家のスタッフルームに訪れていた。
焼きそばと焼きトウモロコシと焼きイカをかっこんで、コユキとミユキをゾーイに任せ、事情を説明して抜けて来たのである。
そして昼食目当てに訪れる海水浴客がひと段落するタイミングで、ハチマキさんに許可を取ってメトロン星人を呼び出したのだ。
宇宙警備隊云々について説明し、事情聴取……という名目でメトロン星人を借り受けたのである。*1
すると、ハチマキさんも「従業員の事なんだ、同席させろい!」とついてきてしまい、断り切れずに三人で裏手へ。
結果、海の家の裏手にある休憩室に通されて、畳敷の床の上に座布団をしいて、あぐらをかいて向き合う事となる。
古ぼけたちゃぶだいの上に、メトロン星人が運んできた冷えた麦茶を出され、思わず丁寧にお礼を言ってしまうハヤト。
こういうところは割としっかり教育されている。
「……で、ケインさんだっけ?何がどうして宇宙人がここで焼きそば焼いてるのさ」
「それがそのぉ……長い話ではないのですが、かなりぼやけた理由と言いますか……」
「ワシもそれほど詳しいわけじゃあねぇ。コトの始まりからして推測だらけだからなぁ」
「? まあ、とりあえず事情話してくれよ。こっちも真面目に聞くからさ」
「わ、わかりました……では、私がハチマキさんと出会った日から順番に……」
『ホワンホワンホワンメトメト~』
「待って、これ回想に入る時の効果音なの!?メムメムちゃん!?それともエリちゃん!?」
ハヤトのツッコミは残念ながらむなしくスルーされ、回想シーンに突入した。
それは数日ほど前、ゾーイと協力してキングジョーを撃破した翌日の事。
ハチマキさんはいつものように『海の家』と書かれた暖簾を担いで浜辺にやってきていた。
既に町内会の手伝いもあって必要な道具やガス等は準備が終わっており、あとはこの伝統の暖簾を掲げれば準備完了である。
しっかりと暖簾をかけて、麻紐で端を縛って固定する。
戦後まもなく、まだまだ貴重だった布を使って作ったと言う伝統の暖簾は、今年も潮風にあおられはためいていた。
夜中までかけておくと傷んでしまうので、いくつかの道具は来る時に使う軽トラに積んで毎日持ち運んでいるのである。
『おっと、こいつも忘れちゃならねぇ』
ついでのように、家の物置から持って来たちゃぶ台も休憩室に置いておく。
古ぼけて細かいキズも目立つちゃぶ台だが、あると部屋の雰囲気が柔らかくなる気がしていつも持ち込むのだ。
というわけで、業務用冷蔵庫に焼きそばの具やイカやトウモロコシがしっかり入っている事も確認。
ラムネ等のドリンク系もしっかり冷えている事を確認し、最後に『焼きそば』とか『トウモロコシ』とか書かれた旗を外に立てるために砂浜に出たのだが……。
『うーん、うーん……』
『おおう!?なんだいお前さん、長靴人間か!?』
『え、ああいえ、通りすがりの宇宙人です……』
そこには、砂浜で体育座りをして頭を抱えて唸っているメトロン星人が一名。
よくよく見ると、目の間のちょうど中央……額に当たる部分におおきなたんこぶができている。
それが痛むのかと思いきや、どうにも別の悩みがあるようで。
とりあえず、悩んでいるメトロン星人を、ハヤト達が今座っている場所に招き入た。
それからこれまた同じように座布団を勧め、ちゃぶ台を挟んで事情を聞いてくれたらしい。
『実は、自分がメトロン星からやってきたメトロン星人だと言うのは思い出せるのですが。
地球に来た経緯や目的まで、さっぱりと思い出せないのです。当然、宇宙船の在処も……』
『ほー、ドラマで見た記憶喪失ってやつかい。
頭ぁぶつけるとなるらしいが、宇宙人でもなるもんなんだなぁ。
そのでっけぇタンコブはそのせいか?』
『かもしれません……多分、頭をぶつけたショックで記憶を失っていると思うのですが。
これからどうしたものやらと、朝焼けを見ながら途方に暮れてしましまして……』
困ったもんだな、とおおよその事情を聞いたものの、当然ハチマキさんには宇宙人やら宇宙船やらはさっぱりだ。
分かるのは、目の前のメトロン星人『ケイン』が遠い星から地球にやってきて、住処も職もなく困っている事だけ。
良く言えば人情家、悪く言えば単純なハチマキさんは、こういう時も即決即断でお人好しを発揮した。
『それなら、とりあえず夏の間はこの海の家を使うといい!もちろん、仕事はしてもらうが。
すくねぇがバイト代も出してやるからよ、それからゆっくり先の事を考えりゃあいいさ!』
『い、いいんですか?』
『おう!どうせ暑すぎて中々アルバイトも集まらねぇ時期だ。猫の手どころか宇宙人の手もかりてぇのが本音さ!』
『おお……ありがとうございます!』
というわけで、最初はお冷を出したり注文を取ったり、あるいは食材の入った段ボールを運んだり。
そんな単純な仕事から始まったメトロン星人のアルバイトは、日々の指導もあってか完成度を上げ。
数日程度で特製やきそばの作り方をマスターし、現在は焼きそば屋台を任される事になったのであった。
着ぐるみを着た店員が焼きそばを作っている、と軽く近所で話題にもなり、売れ行きは好調らしい。
そして、今日ハヤトが焼きそばを買いに来たことで、同じ宇宙人同士で遭遇することになったのだ……。
「イイハナシダナー、って言いたいけどハチマキさん色々雑過ぎない!?」
『意外と地球人は宇宙人を受け入れるハードルが低いのか……?』
「まあ、こまけぇ事は言いっこなしよ。良く働いてくれてんだ、店員として文句はねぇさ」
ハチマキさんやメトロン星人『ケイン』には聞こえていないものの、フォスの困惑の声がハヤトに届く。
当のハヤトもしっかりツッコミ入れてしまったが、別に地球人全体のハードルがここまで低いわけではない。
ハチマキさんのハードルだけ地面に埋まっているだけで、ハヤトやコユキだって最初は葛藤ぐらいはあった。
侵略者の襲来でそれどころじゃなくなっただけで。
「……で、じゃあバイトしながら宇宙船探してるわけ?」
「はい、日が沈んでからと、早朝に。宇宙人ボディは意外と寝なくても動けますから」
「わしゃちゃんと休めといっとるんだがなぁ、コイツぁこういう時だけ素直じゃない。
ま、故郷に帰る方法も吹っ飛んじまってるんじゃ、焦るのも当然かもしれねぇが……」
「うーん……(どう思う?フォス)」
『悩みどころだな、記憶喪失、というのは真実のようだが。
少なくとも彼からは悪の意思は感じない。それにメトロン星人は個体差の激しい宇宙人だ。
ザラブ星人のように、デフォルトで宇宙工作員というわけでもない』
(本気でただの遭難者って場合もあるのか……)
『だが、記憶喪失の影響が人格に及んでいる可能性もある、断定はできんな』
フォスの『悪意を感知する力』は本物だ、休眠状態でも、地球に迫る4つの悪意を感知し目覚めるぐらいには。*2
同時に、ゾーイのように『悪意はあったけど今は改心している』場合は感知できなくなる。
すなわち、記憶喪失の結果、悪意の根っこになる部分が吹っ飛んでいる場合は見抜けなくなるのだ。
記憶喪失が治れば別だが、それはせっかく消えた脅威を復活させることに他ならない。
「……宇宙船の操縦方法とかは覚えてるんだよな?」
「え?ええ……場所も何もさっぱり思い出せませんが」
「よし、じゃあ宇宙船を見つけるまでは様子見ってことで」
『……まあ、それが無難だろう。記憶喪失が治って暴れだしたら対処する。
そうでないのなら、記憶喪失のまま宇宙船で母星に帰ってもらった方が手っ取り早い』
「(流石に、何もしてない相手を『宇宙人だから』で倒すわけにもいかないもんな)」
はっきりいって、そのあたりは二人とも対応が穏健派である。
宇宙警備隊は警備隊であって、軍隊ではない。
宇宙の平和を守るために活動する以上、悪意が無いのなら怪獣の保護すら行う組織なのだ。
一方のハヤトも、ケンカの経験ぐらいはあってもつい先日まで一般人。
この宇宙人は危険かもしれないから殺そう!なんて過激な思考は持ち合わせていなかった。
結果として『ナニかするまでは要観察』という、若干先送りっぽい結論に行きついたのである。
「というわけで、変なことしなければ特に何もしないから。
警察に着ぐるみだと思われて補導されない程度に宇宙船探すといいよ」
「はい、ありがとうございます……」
「なんか未成年を補導した警察官の気分なんだけど……まあいいや。
ハチマキさん、そろそろ休憩終わりでしょ。俺も海水浴に戻るよ。
あ、ついでにラムネ一本頂戴、麦茶もいいけど炭酸が欲しい」
「ったく、最近の子供は甘い飲み物ばかりでなぁ」
「いや、両津勘吉だって子供の頃はラムネ飲んでたでしょ、最近の範囲が広すぎるって」*3
何はともあれ、良く冷えたラムネの瓶を受け取って休憩室を出る。
そろそろ戻らないとコユキ達と遊ぶ時間も無くなってしまう。
パラソルをちらりと見たが見当たらない、もしかしたら海の方で遊んでるのかもしれない。
そう考えて、手に持っていたラムネをとっとと飲んで戻ろうと思ったのだが……。
「……あれ?ラムネって、どう開けるんだっけ……?」
『む、前にコユキが飲んでいた『ペットボトル』とは確かに違うな。
この色付きの瑠璃の玉が飲み口を塞いでるのか』
「そうそう、あと瑠璃ってお前、ガラスだろ。もっというとガラス玉じゃなくてこれは……」
これは……と言ったところで、またもハヤトが黙り込む。
ラムネの瓶の入り口をふさいでいるビー玉を見ながら、あれ、あれ?と首を傾げ始めた。
「あ、あれ?このガラス玉、なんて名前だっけ……?」
『……おい、どうしたハヤト。なんだか様子がおかしいぞ?』
「おかしいな。そこらにあり触れたモノだったはずなんだけど……?
いや、今はそんなことは後回しでいい、これ飲んで戻らないと……ん?
……あれ、これなんて飲み物だっけ?というか飲み方どうするんだっけ?」
『何をバカな、君がさっき言っていただろう。この飲み物の名前は……。
……名前は……なんだったか?あれ、うん?おや?』
ラムネの瓶をもったまま、ふらふら歩きつつ不可思議な会話を繰り広げるハヤトとフォス。
これどうやって飲むんだっけ?飲み口塞いでるガラス玉ってなんだっけ?そもそもこれなんて飲み物だっけ?
ボケ老人みたいな会話がループしているというのに、それに微妙に気づいていない。
あれれー?とふわふわした会話のまま、ぱしゃぱしゃと波打ち際を歩いていく。
いつのまにやら、コユキ達に合流するという目的まで頭の中をふわふわしつつあった。
次の瞬間。
観光客でごった返す浜辺の沖合から、巨大な影が3つ、水上へと浮かび上がる。
そして、巨大な水柱を立てながら、その奇怪な姿を現した。
『ニ゛ャアアアアアアァァァ!』
『フシャアアアアァァァ……』
『ゴロゴロゴロ……ニ゛ャァー!』
猫の鳴き声をダミ声にしたような、巨大な咆哮が響き渡る。
その姿は、一見すると黒い球体に巨大な黄色い目玉をくっつけたような独特のフォルム。
球体部分からは無数のトゲが生え、目玉の下には鋭いキバの生えた口がついている。
球細長い触手のような手足が生え、よくよく見ると、なぜか猫の尻尾や耳によく似たパーツまでついている
アメリカの都市伝説である、妖怪バックベアードのような外観に近いが、猫パーツのせいで妙なコミカルさが生まれていた。
大騒ぎになった海岸で、避難する人々の流れに乗らずに宇宙怪獣と向き合いながら、ハヤトが叫ぶ。
「なんだあの化け物!?バックベアードと猫娘足して二で割ったりしたの!?
計算式がおかしいだろ!猫娘は単体でくれよ、特に5期か6期!!」
『言ってる場合か、変身するぞ』
「お、おう!よし……」
前回ベータカプセルをバスに置きっぱなしにした反省から、胸ポケットに入れっぱなしにしていたソレを引き抜く。
そして、いつものように変身しようとして……。
「……なあ、変身ってどうやるんだっけ?」
『……すまない、私も忘れた』
【宇宙化猫タマ・ミケ・クロ】
その能力は、近隣にいる有機生命体の記憶の喪失と思考力の低下。
メトロン星人が対ウルトラマンのために持ち込んだ、三匹の宇宙怪獣であった。