「ええと、確かこれで変身するのはあってるんだよな?」
『そのはず……そのはずだ、多分……?』
「『でもどう使うんだっけなぁ……?』」
沖合でタマ・ミケ・クロの三匹がにゃーにゃーわめいている間に、ベータカプセルを片手に右往左往するハヤトとフォス。
タマ・ミケ・クロの能力は、全身から放出する特殊なエネルギー波による記憶・思考の妨害だ。
基本的にこのエネルギー波は目に見えず、赤外線や放射線のようにこの3匹の周囲に無差別に放たれている。
そのため、沖合から上がって来た瞬間に浜辺にいた人々はモロに影響を受けてしまっていたのだ。
とはいえ、怪獣が出現したことで慌てて逃げ出した一般人には大きな影響はない。
問題は、それを迎え撃つために浜辺に残っていたハヤトとフォスである。
「こうか!」
とりあえず歯ブラシのように構えてみるハヤト。
『いやいやこうだろう』
アイドルのライブで使うサイリウムのように振らせるフォス。
「ならこうか!?」
ペン回しのように器用にくるくる回転させるハヤト。
『これでもか!』
マイクのように握って適当な歌を熱唱させるフォス。
当然、どれもベータカプセルの使い方からは程遠いので変身などできようはずもない。
本来精神体であるフォスはこのエネルギー波の効果を受けないのだが、ハヤトと融合してしまっていたのが災いした。
ハヤトというアンテナを通じ、フォスの方にまでエネルギー波の影響が伝番してしまったのである。
フォスの力でハヤトの体を治療できるように、フォスは融合した生命体に己のエネルギーで干渉できる。
同時に、ハヤトに対して何らかのエネルギーで干渉すれば、融合しているフォスにまで影響が出てしまうのだ。
「わからん!どうやって変身するんだっけ!?さっぱりなんですけど!?」
『ヤケになるな!何か手だてがあるはず……』
そして、彼らに起きている影響は突発的な記憶喪失だけではない。
普段なら危機に陥るほど回りまくる頭脳のネジが1ダースほどすっぽぬけ、端的に言って二人そろってIQが悲惨な事になっている。
だからこそ、周囲の状況の変化に気づくのが盛大に遅れた。
浜辺からはほとんどの人間が退避してしまい、波打ち際にいる二人の周囲には人っ子一人残っていない。
即ち、あの3匹にとって『目につく動くモノ』は、怪獣からすればアリとまでは言わないがバッタ程度の大きさであるハヤト一人になるわけで。
『ニ゛ャアアアァァ……』
「やっべこれ死んだわ」
『諦めるのが速いぞ!?』
当然、ぐるりと陸地の方を向いた怪獣の視界にはハヤトが写る。
そのうちの一匹が、ちょっとした気まぐれでハヤトにちょっかいを出した。
人間で例えるなら、そこらを歩いてるアリを気まぐれに飲み残したジュースで狙い撃ちしたとか、その程度の話。
だが、跳んできたのはジュースではなく『目から放たれた破壊光線』だ。
ちなみに3匹同時に放てばウルトラマンですら瀕死にさせる必殺技である。*1
「ぎゃああああああああああああ!?!?」
『避けろ!次は右だ! ……右ってどっちだっけ?』
「俺が知るか!?えーっと、右、右、右……」
思わず無駄に綺麗なランニングフォームで駆けだしたハヤトの後ろで、破壊光線が浜辺に着弾。
大爆発と共に大量の砂を巻き上げ、それとほぼ同時にハリウッドジャンプ*2したハヤトの上に砂が雨のように降ってくる。
直撃どころか、余波だけでも人間なんて塵すら残らない破壊光線だ、既に二人は生きた心地がしない。
え、片方は江戸時代に死んでるって?無粋な事言わない。
「死ぬ!死んでしまうぞ杏寿郎!」
『誰だ杏寿郎』
「ウルトラマンになれ!!ウルトラマンになれると言え!俺は選ばれし強き者なのだ!!」
『最低な自画自賛だな』
アホなやり取りをしながらもとりあえず逃げようとするが、落ちてくる砂に足を取られてうまく立ちあがれない。
それどころか、今の衝撃で手からベータカプセルがすっ飛んでしまったようだ。
ベータカプセルの存在を忘れなかったのは奇跡に近いが、どこだどこだ!?と足元の砂をかき分けてみても見つからない。
いいやそもそも、現状も思考を乱し記憶を消すエネルギー波は放たれているわけで。
「なあ!?ベータカプセルってどんな形だっけ!?これだっけ!?」
『いや、それではないと思うが、どうだったかな……?!』
どうやらベータカプセルの存在は覚えていたが、どんな形状だったのかが脳みそからすっ飛んだらしい。
具体的には、そこらを歩いていたスナガニ*3を掴んで
『ベータカプセルってこんなんだっけ?』
と大真面目にフォスに質問する程度には。
そして、フォスの方も記憶が薄れていってるのか、否定の言葉が弱弱しい。
二人してスナガニを見ながらどうだったかなぁ?と首をかしげている間に、再び破壊光線の光が目に宿り始め……。
その瞬間、二人の頭に声が響いた。
『二人から見て左の足元!』
「左……左ってどっちだっけ」
『ごはんを食べる時にお茶碗持つ方!』
『お茶碗、ええと……』
二人の頭に響いたのは、この世界における初代ウルトラマン、コユキの声であった。
コユキは一度フォスと融合し、精神体となったフォスの姿も視認でき、テレパシーでの会話もできる。
ミユキをなんとか避難させ、テレパシーを使ってハヤトとフォスの安全を確認しようと思ったら、二人そろってコントみたいなやりとりを生み出しているのを目撃したのだ。
フォスの感覚が共有されている事を利用して事情を把握、距離が離れていたおかげであの三匹のエネルギー波の干渉も受けていない。
色々と忘れている二人をサポートするため、フォスの視界に写ったベータカプセルを拾えるようにアドバイスを始めたのだ。
ああして、こうして、とハヤトとフォスが箸と茶碗でご飯を食べるジェスチャーを始めた。
もう画面の全てがふざけているが、本人たちだけは大真面目である。
「まずは沢庵から」(ぼりぼり)
『ねぇちょっとだけ考えてみて?今そこまで本格的にやってる場合!?』
『そしてみそ汁を一口』
『パントマイムやってる場合じゃないんだよ!?』
沢庵を齧り、お茶を啜り、みそ汁を一口。
納豆にネギと醤油を入れかき混ぜる。
ここで無情にもタイムアップ。破壊光線(二発目)が砂浜に直撃。
ハヤトの体が衝撃で宙に吹っ飛ばされ、海上目掛けて【すぽーん】という効果音で射出された。
『ハヤトくーん!!?』
「えーっと、みそ汁のしょっぱさで飯を……」
『そう、こっちの手に箸を持って……』
『空中でもまだパントマイムやってる!?』
流石にハヤトも常時ここまでバカではない。
思考を鈍らせるエネルギー波の影響である。
たぶん、きっと、おそらく。
何はともあれ、右手に箸を持ち、左手に茶碗を、というジェスチャーをしたところでハッと目を見開いた。
バッ!と勢いよく左手を上げ、片手でバンザイしながら叫ぶ。
『「そうか、左はこっちか!?」』
『そうだね!でも反応が盛大に周回遅れだよ?!
っていうかなんでもいいから受け身とかとってぇ!?』
なにせ現在盛大に吹っ飛んで落下する最中である,この勢いで海面に叩きつけられたら大怪我では済まない。
吹っ飛んだ時の衝撃自体は融合体故のスーパーボディがなんとかしてくれたが、これもそこまで万能じゃない。
続けざまに常人なら即死する衝撃を受ければ、再生能力が追い付かずに死体に変わる。
このままいけば数秒後にはアワレ、ハヤト=サンは爆発四散!サヨナラ!となること請け合いだ。
しかし、運命の女神というやつは、ウルトラマン/ハヤトにさらなる逆境を期待しているサディストらしい。
すぱんっ、と心地いい音を立てて、片手バンザイしていたハヤトの手に何かが収まる。
大きさはマジックペンほど、主なカラーはライトグリーンの、SFチックなペンライト。
高く掲げていた左手に、爆発の衝撃で一緒に巻き上げられていたベータカプセルが、導かれるようにすっ飛んできたのである。
ロン・ベルク製のアレやコレやもびっくりの自動帰還機能だ。*4完全に偶然だが。
そして、完全に咄嗟の反応で、手の中に納まったベータカプセルを握りしめたハヤト。
その親指が、変身のためのスイッチを押し込んだ。
タマ・ミケ・クロの目の前で、自分達が破壊光線の的当てゲームに使っていた人間が光輝く。
そして、浅瀬に光の巨人が顕現した。
「シュワッヂブグブグゴボッ!??」
……うつ伏せですっとんでいたせいで、顔面から海面に突っ込んで溺れかけながら、だが。