宇宙の平和を乱す、悪魔のような怪獣【ベムラー】。
それに対峙するのは、光り輝く銀色の巨人。M78星雲人【フォス】。
周囲の建物を倒壊させながら行われる極限の戦いの中、ハヤトはその場を離れる事が出来ずにいた。
(あれが……コユキちゃん、いや、そんなバカな……!?)
目の前で連続で起きた超常現象に、ついさっきまで一般人だったハヤトの脳が追いつかない。
人生初デートの日になるはずが、いきなりモンスターパニック映画の中に放り込まれたのだから当然だろう。
しかし、ここで後ろを向いて一目散に逃げる……という行為ができない程度には、彼もお人好しかつ好奇心旺盛な性格であった。
現実味がなくて危機感が切羽詰まっていない、という見方もできなくはないが、それ以上に。
『片思いの女の子がなんかヤバい!』……これだけで突っ走ってしまう『若さゆえの愚かさ』がそこにあった。
銀の巨人と巨大生物の戦闘は、じわじわと戦場を郊外に移しながら継続されていく。
恐らく銀の巨人が人の少ない場所に誘導しているのだろう、おかげで避難民も少なく、ハヤトが追っていく難易度も高く無い。
常に動き回られたらもうどうしようもないが、時折立ち止まって格闘戦に入るのでなんとか追いかけられるのだ。
当然だが、彼以外にソレを追いかけようと言う者はいない。
地方のマスコミですら、突然の事態にフリーズ状態だろう。なんならイタズラ電話を疑うレベルだ。
だからこそ、新谷 ハヤトはただ一人、その戦いの行く末を見るという立ち位置にいることができた。
「お、押されてる……!?」
銀色の巨人は、凶悪な巨大生物の攻撃にほとんど一方的にやられ放題であった。
ここまで誘導してきたといっても、殴りかかって何とかするのではなく、なんとか攻撃を凌いで自分を『追わせる』ことで誘導したに過ぎない。
巨大生物……怪獣『ベムラー』の放つ火球に対し、ぎこちなく腕で防ぐ程度の防御しかできず。
尻尾による殴打や巨体を活かしたタックルは、吸い込まれるように銀の肉体を吹っ飛ばし。
なんとか反撃しようとする拳はしかし、みるからにへっぴり腰のへろへろパンチ。
当然と言えば当然だが、佐藤白雪は武術の経験など無い。
それどころか、生まれてこのかた人とケンカや言い争いをした経験すらほとんどない。
怒鳴られるだけで縮み上がってしまうほどの気の弱さに加え、図書室に大きなクモが出ただけで悲鳴を上げてしまうほどの箱入り少女。
比喩でも何でもない『虫も殺せぬ女の子』……それが、佐藤白雪という少女だった。
そんな少女に光の巨人の力が備わったからといって、いきなり怪獣と戦えるはずもない。
あの場で変身しようと決意できたのは、ひとえに『ハヤトから怪獣を遠ざけなきゃいけない』という思い1つだけ。
……『叶わぬ恋だとしても、片思いの男の子に生き延びてほしい』。それだけのために変身したのだ。
『ギュルアアアアアァァァァ!!』
『ジュアッ!?』
「こ、コユキちゃん!?」
ベムラーのトゲだらけの尻尾がゴムのように伸び、フォスの首に絡みついて引きずり回す。
トゲでダメージを与えつつ拘束し、確実に火球を当てて『トドメ』を刺しにきたのだ。
ベムラーにとっても、フォスの頑丈さは想定の範囲外。
ミユキは心技体の『心技』が欠けているだけで、『体』に関しては十二分にウルトラ戦士の素質があったのだ。
とはいえ、ここまで一方的に攻撃を受け続け、既に胸のランプ……『カラータイマー』は点滅中。
ダメージが限界に近づくか、M78星雲人が地球で活動できる限界時間に近づくと、このカラータイマーは点滅する。
すなわち、人気のない郊外までベムラーを引っ張り込むだけで、コユキ/フォスは力尽きる寸前であった。
『(よし、このままこの『M78星雲人』にトドメさえ刺しちまえば、このベムラー様を邪魔するモノはない!)』
宇宙怪獣ベムラーにとって、この地球は新たな『ナワバリ』として非常に都合が良かった。
科学技術は未発達で、一番近い衛星である月へ行くのにも多大な苦労がいるレベル。
当然、配備されている兵器もベムラーからすればうっとおしい蚊と大差ない。
核弾頭だけは少し面倒だが、対処法は思いつく。すなわち、目の前のM78星雲人さえ始末してしまえば、障害らしい障害もなく征服できる星なのだ。
『(他にも目を付けてるヤツがいるのは想定外だったが……『協定』通りなら、これで俺の一人勝ちだ!)』
当然、そんな都合のいい星を、悪の心を持つ宇宙人たちが見逃すはずもない。
ベムラーを含めて『4名』の邪悪な意思が地球を狙っており、相互に目の前の地球(エサ)のために威嚇しあう状態だったのだ。
その時、その中の一人が声を上げた。
【このままでは宇宙警備隊に嗅ぎつけられる、ちょっとしたゲームでこの星の侵略権を奪い合おう】、と。
ルールは簡単、ランダムに決まった日数だけ暴れまわり、その間に征服した土地の面積を競い合う。
自分の日数が終われば次の者に、それが終わればまた次の者に……これを繰り返し。
地球全土を征服した時、最も広い領土を持っていた者が地球を手にする。
その一番手の権利を手に入れたのが、宇宙怪獣ベムラーであった。
口内に高熱のエネルギーがため込まれ、放射するために収束・加速される。
ベムラーの必殺技、青白い熱線【ペイル熱線】の構えだ、食らえばM78星雲人だろうとタダでは済まない。
そして、一方のフォス/コユキだが……。
「ごめん、フォス……やっぱり、無理、みたい……」
『諦めるなコユキ!?本当に死んでしまうぞ!!』
ぐったりとした状態で引きずられているフォスの中で、2つの意識がテレパシーで会話を交わす。
1つは、フォスの血を継いだ和菓子屋の娘、砂糖白雪。
もう1つは、己の血筋の中に残された、フォスの『精神とエネルギーのアバター』。
本人曰く、『フォス・アバター』である。
そう、フォスは己の妻と同じ時間を生きるために、M78星雲人としての全パワーを封印。
ほんの100年足らずで衰弱死してしまうほどに弱体化した状態で、光ノ助として『寿命』を全うしたのだ。
そして、封印した己の全パワーを己の一人息子に受け継がせ、いずれ『必要な時』が来たら目覚めるように仕込んだのだ。
この美しき青い星に、宇宙からの邪悪なる意思が迫ったその時に。
『清き心を持ち、最もM78星雲人の力を引き出せる子孫』の中で目覚めるように。
だが……。
『(く、まさか清らかな心を持っていても、闘争本能が皆無な子孫が選ばれるとは!
【次の候補】を探すまでに襲来しない事を祈っていたが、間が悪すぎる!)』
佐藤白雪は、間違いなく『善良な良い子』である。
聖人とかそういう話ではなく、人に思いやりを持ち、困っている人にはそれとなく手を貸そうとする。
家の手伝いも率先して行い、成績は中の上程度だが宿題の出し忘れも遅刻も無し。
才能はある、一時的な融合状態だというのに、フォスの戦闘力『だけ』は生前に近い。
だが……心の清らかさが高すぎて、闘争本能というモノが欠け過ぎていた。
フォスの生きていた時代は安土桃山後期から江戸初期、すなわち割と血生臭い空気が日本に満ちていた頃。
その当時の日本人を基準に『闘争本能』まで選定条件に加えてしまうと、シグルイに出てきそうな面々が選定される可能性があった。
故に、力を受け継ぐ対象は『心の清らかさ』と『M78星雲人との適合率』の2つで選ばれるようにしていたのだが……。
その後の数百年で、日本人は全体的にとんでもない勢いで平和ボケ。
結果として、この状況では最悪とも言える人選ミスを誘発する結果となってしまったのだ。
『コユキ!とにかく振り払って逃げるんだ!ソレを食らえば無事では済まないぞ!?』
「でも、もう、力が……」
『あの少年……ハヤトといったか!きっと君を待っているぞ!
今だけでいい、【生きたい】という心を奮い立たせるんだ!』
「……ハヤ、ト、君……」
グッ、とフォスの手が握られる。尻尾が巻き付いたのが首だったので、両手が自由なのが功を奏した。
心の奥に残っている、線香花火よりも儚い【闘志】を無理矢理引きずり出す。
戦う事にまるで向いていない彼女が、それでもハヤトを守るために火をつけた【闘志】。
今にも消えそうなソレが、最後の輝きを見せる。
「そうだ……ハヤト君を、皆を、街を……守らなきゃ!!」
フォスの両腕に、M78星雲人が体内で生成できる特殊な物質『スペシウム』が充填される。*1
途切れそうな意識を無理矢理つなぎ止め、右手にマイナス、左手にプラスのエネルギーを集中。
ピンと指先まで伸ばした両手を、顔の前で十字に交差、プラスとマイナスのエネルギーをスパークさせる。
その動作が終わったのと、ベムラーがペイル熱線のチャージを終えたのはほぼ同時であった。
『ジェアァッ!!!』
『ギャルアァッ!!』
【スペシウム光線】……宇宙警備隊所属のM78星雲人にとって、基本であり奥義ともいえる必殺技だ。
己の適正等に合わせて細かく改造するモノも多いが、基本を極めてこれ一本で押し切る剛の者もいるほどの大技。
スペシウム光線とペイル熱線の射線が交差し、互いに僅かに擦れ合いながら直進。
……そう、『相殺』ではなく『交差』した。
スペシウム光線はベムラーの右胸から右肩にかけてを突き抜け、ペイル熱線はフォスの胴体に直撃。
ギャガアアァァ?!と悲鳴を上げたベムラーがもんどりうって倒れこむ。
一方のフォスもまた、爆炎のなかでぐったりと倒れたままであった。
『グ、ギギ、ギィ……!!(ぐ、く、くそ、油断した!次こそは……)』
「! あ、アイツ、逃げるつもりか!?」
ベムラーが這うように立ち上がると、己の肉体を青い球体で包み込む。
この青い球状の発行体もまたベムラーの能力であり、この形態になることで空中や宇宙を飛行する事も可能なのだ。
スペシウム光線で負った傷は、放置すれば致命傷になると素早く判断。
いつでも倒せるフォスへトドメを刺すよりも、急いで撤退して回復に専念するつもりなのだろう。
空の彼方へと青い球体が飛び去って行き、残されたのは倒れ伏した銀色の巨人のみ。
「……そ、そうだ、コユキちゃん!!」
銀色の巨人に駆け寄ろうにも、その周囲には未だにペイル熱線によって生まれた青白い炎が残っている。
やきもきしながらもどうにか近づけないか思考錯誤していたが、不意に銀色の巨人が光り始めた。
今度は何!?と悲鳴を上げたハヤトの前で、その光が段々小さくなっていき……。
ふわり、と『小さな赤い球体』となって飛び立ち、ハヤトの元へ降りて来た。
「! コユキちゃん!?」
「……ぁ、はやと、君、だぁ……」
赤い球体が割れ、中からぐったりしたコユキがほうり出される。
最後に残ったエネルギーを使い、フォスがコユキを安全圏へ避難させたのだ。
咄嗟にコユキを抱きかかえるハヤト、彼から見ても一目でわかるほどに、コユキは心身共に消耗している。
「救急車……だめだ、この騒ぎじゃ来てくれない!こうなったら……」
(よかったぁ、ハヤト君、無事だったんだ、なら……)
コユキをお姫様抱っこで抱き上げて、彼女がとり落としたベータカプセルを咄嗟に拾い。
これしかない!と即座に判断して、己の両足で一番近い病院へ走るハヤト。
そんな彼に抱き上げられたまま、薄れゆく意識でぼんやりとした頭で今の状況を認識し。
(痛くて怖くて苦しかったけど、これなら、いいや……)
最後にそんなことを考えながら、コユキの意識は闇へと落ちていった。
Q 文学少女がウルトラマンになったら戦えますか?
A 無☆理