『ジュアッ!』
『グオォ……!』
ベムラーが地表を突き破って出てきた街の中心で、銀の巨人……『不完全体フォス』とベムラーが睨み合う。
互いに間合いを取った状態で、いつでも動けるように構えを崩さずにいたが……。
『グォアッ!!』
『シェアッ!?』
ベムラーが口から青い火球を吐き出す。
二発、三発と自分目掛けて放たれる火球を、慣れぬ動きで横っ跳びに避けるフォス。
しかしこのままではラチがあかないと足を止め、自分の中の中に眠るフォスの記憶から、使えそうな技を引っ張り出す。
(エネルギーを胸に集中、カラータイマーを意識して……)
『ヘアッ!!』
大胸筋にエネルギーを集中させることで、一部の防御力だけを限定的に上昇。
大きく胸を張ったポーズで火球を受け止めると、火球の方がかき消されて消えた。
『大胸筋バリア』、M78星雲人にとっての防御技の1つである。
やせ我慢とか言わない。
『(今度はこっちの番だ!)シュアッ!!』
伸ばした左手に右手の手のひらを重ねる様な取るのと同時に、胸に集めていたエネルギーを手のひらに移動。
集中させたエネルギーが鏃型の光弾となり、ベムラー目掛けて連続発射される。
『スラッシュ光線』、M78星雲人にとっては牽制や相殺に使われる技だ。
これに対し、ベムラーもホーミング火球で迎え撃つ。
連射できる特性を生かしてベムラーの顔や足を狙うフォスに対し、ホーミング火球でスラッシュ光線を相殺。
本来ならベムラーの火球を貫通できるほどの威力と速射性がある技だが、やはり不完全な融合が響いている。
数発当てなければ火球と相殺に持ち込めないため、後だしで放っているベムラーと撃ち合いで五分にまで持っていかれる。
だが、元からコレは牽制技。本命はもう1つにあった。
『シャア!!』
『ギャォァ!?』
火球とスラッシュ光線の相殺によって発生した爆炎を一気に駆け抜け、ベムラーに距離を詰める。
両腕の鎌のような爪といい、尻尾を伸ばして攻撃する方法といい、ベムラーの戦闘スタイルは近~中距離に適応している。
ならば、近距離よりさらに内側。互いの額をつき合わせるような超接近戦に持ち込めれば、と考えたのだ。
『デュワッ!!ヘアッ!!』
『ギイイィィイ!?』
そして、その目論見はドンピシャリに当たる事となる。
慌てて迎撃しようと突き出された鎌爪を避けて懐に潜り込み、顔面に右ストレート。
それに怯んだベムラーの頭部を右腕でヘッドロックのように抱え込むと、左手で顔面に鉄拳二発。
悲鳴を上げたベムラーに、うるせぇと言わんばかりの膝蹴りを、鳩尾めがけて三発。
トドメとばかりに両腕を組み、ダブルスレッジハンマーを振り下ろすと同時に膝を突き上げる。
頭頂部にダブルスレッジハンマーが、アゴに膝蹴りがブチ当たり、衝撃が上下にサンドイッチ。
口が無理やり閉じられているせいで悲鳴を上げる事すらできず、ベムラーは己の脳が盛大に揺らされる音を聞いた。
『(こ、こいつは……こいつはおかしい!?なぜここまで強い!?)』
先日戦った『フォス』と比べれば、間違いなくパワーもスピードも防御力も落ちている。
へっぴり腰で出してきたパンチと、このフォスが全力で出すパンチが、単純な威力だけは大差ないと思えるほどに。
しかし、当たった拳から体の奥にずしりと衝撃が届き、骨格や内蔵がギシリと軋む。
しっかりと腰を入れ、肩を入れ、体の回転を乗せた『殴り方を知っている人間のパンチ』だからだ。
オマケにかなりカンもいい。ベムラーの反撃を紙一重で避けて、カウンター気味の拳が鼻先を捉えて来る。
格闘技経験は薄そうだが、何故か『相手を殴りなれてる』者の動きだ。
『(だ、だめだ!肉弾戦など付き合ってられるか!!)』
ぐらつく視界のまま、無理矢理体を振り回してフォスを振り払う。
投げ出されたフォスが受け身を取った時には、既にベムラーは最後の切り札を切っていた。
ネズミと同じく、事前に支配していたカラスが群れを成してベムラーに殺到する。
デートの時にハヤトが見かけた『カラスの群れ』。アレはベムラーに支配され、周囲に配置されていた『強化素材』だったのだ。
ベムラーの背中に集結したカラスを分解・融合させ、新たなパーツとして『翼』を生成。
肉弾戦が困難な空中目掛け、勢いよく飛び立った。
「あ、アイツ飛ぶのか!?こんなもんどうしたら……!?」
『追え、ハヤト!このままでは逃げられるぞ!』
「いや追えって言われてもさ!?」
フォスの肉体の中にある不思議な空間*1で、ハヤトとフォス・アバターがコント、もとい口論をおっぱじめる。
飛び回っているベムラーは今もこちらに火球を放っており、大胸筋バリアで防いだりスラッシュ光線で相殺したりと大忙しだ。
試しに空を飛ぶベムラーをスラッシュ光線で狙ってみるが、当然のように避けられる。
その時、ベムラーが一気に流れを引き戻そうと、必殺の【ベイル熱線】を放ち……。
「うおおおぉぉっ!?お、お……?」
大きくジャンプして飛びのいたハヤトは、自分の体がいつまでたっても落ちない事に気づく。
少しばかり意識を集中すれば、ふわりとフォスの体が宙を舞う。
重力の鎖を容易く振り切り、己の思うがままに空を駆けていく。
少し上を見上げれば、こちらを見下ろしているベムラーの姿。
ぐっ、と僅かに体に力を籠め……。
(飛べる…!?)
『シュワッチ!!』
一瞬でベムラーを追い抜き、その上方を容易く取った。
ベムラーがあまりの速度にこちらをしばし見失い、再度見つける前に……。
(俺は、この空を飛べる!!)
『シュアッ!!』
一機に急降下し、ベムラーの後頭部へ跳び蹴りが炸裂。
『ギィガァアアァ!?』と悲鳴を上げてきりもみしながら落下したベムラーだが、間一髪で体勢を制御。
その巨体を翻し、火球を撃ちながら再度舞い上がった。
当然、それを見逃すフォス/ハヤトではない。シュワッ!と掛け声を上げてベムラーを追っていく。
飛んできた火球を時に避け、時に防ぎ,時に撃墜し、じわりじわりとベムラーとの距離を詰める。
そして火球とスラッシュ光線の相殺で爆発が起きた瞬間、体内のスペシウムを右手に集中。
『円状の刃』のように成形し、ジェアッ!という掛け声とともに撃ち放った。
『八つ裂き光輪』。M78星雲人の代表的な必殺技である。
しかし……。
『! ギュルアッ!』
「な、避けられた!?」
爆炎の中から飛んできた八つ裂き光輪を、ベムラーは身をひるがえして避ける。
スラッシュ光線の破壊力ならば致命傷にならないと判断し、スペシウム光線や八つ裂き光輪といった【決めに来る技】だけを警戒し始めたのだ。
スラッシュ光線を相殺し、スペシウム光線と八つ裂き光輪さえ回避していれば、先に限界が来るのは……。
「!? なんだ、胸のタイマーが点滅して……」
『まずい、そろそろ制限時間が超過する!M78星雲人は、地球上では短時間しか活動できないんだ!』
「それを先に言え!!」
ピコン、ピコン……と、フォスの胸についた『カラータイマー』が点滅する。
これはフォスの活動限界時間を示すタイマーであり、これが点滅しているということは、もう少しで変身が強制解除されてしまう。
ベムラーは徹底的に肉弾戦を避け、飛行しながらのホーミング火球を使った引き撃ちに徹している。
なにより、不完全体であるフォスはエネルギーの保有量も多くない。
火球をスラッシュ光線で相殺しながら追うが、それらの消費も決して無視できないのだ。
オマケに、まだハヤトは飛行にも不慣れ。空中戦のイロハを収めるには時間が足りなすぎる。*2
つまり、ベムラーはフォスの動きだけ警戒していれば、まず攻撃は当たらない。
(クソ、一瞬だ、一瞬でいい!一瞬でも動きが止まれば……!)
『ハハハハハ!このまま貴様が力尽きてから、ゆっくりと丸焦げにして……』
だからこそ、その一撃を察知することが、ベムラーには出来なかった。
高速で飛来した飛翔物が、ベムラーの頭部に二発着弾する。
ガギィっ!?と悲鳴を上げたベムラーの隣を、2つの『流星』が駆け抜けていった。
「着弾確認、頭部に直撃だ!」
「いまだ、銀色の巨人!やれーッ!!」
そう、その流星の正体は、ベムラー迎撃のために出撃していた自衛隊のジェット戦闘機!
フォスとベムラーの空中戦を追跡し、フォスが八つ裂き光輪を当てられずに苦戦していると判断。
後から駆けつけて来た援軍にもそれを通達し、一時的な『銀の巨人との共闘』が許可された。
そして不意打ちになるタイミングで、ベムラーの頭部目掛けて空対空ミサイルを叩き込んだのだ!
無論、ダメージはそれほどでもない。ベムラーは頭部への攻撃で一瞬怯んだだけだ。
だが、その一瞬の間に!フォスは次の行動を起こしていた!
「デュアァッ!!!」
「?! ギャルアアァ!?」
両腕に八つ裂き光輪を生成し、同時に放つ『ダブル八つ裂き光輪』を発射。
ベムラーの翼を容易く切り裂き、上空で飛行能力を奪いとって見せた。
「逃がすかぁッ!!」
悲鳴を上げて落下するベムラーを、当然のように高速飛行で追っていく。
それに気づいたベムラーが、苦し紛れの火球で迎撃するものの、ホーミングをかける余裕もないのか軌道は単調。
ジオングのビームを避けながら前進するアムロじみた回避を見せつつ、一気に落下中のベムラーに距離を詰める。
『シャアアアァァ……!』
右手に集中させるのは、ウルトラマンが必殺技に使用する『スペシウム』。
それを今のフォスにできる限界まで臨界させ、火花が散るほどにスパークさせる。
使うのは『ウルトラかすみ切り』*3の発展型、かつて生前のフォスが得意とした技の1つ。
臨界させたスペシウムが、水色と淡い緑色を混ぜた様な輝きを放ち、手刀に宿る。
そして、高速飛行の加速度を乗せた全力の手刀が、横一閃にベムラーを捉えた。
「『フォスライトカッター』!!」
『ジェアアアァァッ!!』
燐葉石(りんようせき)*4によく似た輝きを放つことから命名された必殺技が、ベムラーの体を紙のように切り裂く。
『ギョガアアアアァァァァァァァ!!??』
(バカな、こんな、出来損ないの光の巨人にぃ!?)
真っ二つになったベムラーが断末魔の悲鳴を上げ、体内に叩き込まれたスペシウムが反応し、空中で大爆発を起こす。
切り裂いた直後から減速をはじめ、ふわり、と巨体に見合わない軽さで地面に着地した。
カラータイマーの点滅からして、変身時間はもうほとんど残っていない。
今のフォスライトカッターで余力も使い切った。文字通り、紙一重の戦いだったのだ。
その時、戦いを終えたフォスの頭上を、数機のジェット戦闘機が飛び回る。
何事かと思いきや、編隊飛行を行いながら、あくまで『警戒の為です』とイイワケできる範疇で曲芸飛行を始めたのだ。
まるで、戦いを終えた巨人を労う様に。
「……なあ、フォス」
『む、どうした?』
「まだ、色々のみこみ切れてないけどさ。 元気が出たな!」
『……ああ、まったくだ』
それを見届けてから、フォスはゆっくりと両ひざを軽く曲げ……。
『シュワッチ!!!』
体をピンと指先まで伸ばしたポーズで、空の彼方へと飛び去っていった。
航空自衛隊のパイロット達は、巨大生物と戦った『巨大な勇者』の姿を、いつまでも敬礼で見送っていた。
いつまでも、いつまでも、その巨体すら遠く見えなくなるまで……。
翌日の新聞には、二体の巨大生物の写真が乗り、見出しが踊る。
『巨大生物三号と四号、出現!』
『銀色の巨人、巨大生物四号!』
『敵か味方か、光の巨人!』
様々な見出しが載る中、ある新聞がつけた『あだ名』がネットミームとなった。
それは現代の情報化社会の波に乗り、あっという間に広がっていく。
その見出しとは……。
『光の巨人、ウルトラマン現る!』
この日、この宇宙に『ウルトラマン』が誕生した。