佐藤白雪は、いつも誰かに譲ってしまう少女であった。
行列に並んでいる時に横入りされても、相手に強く出られたら引いてしまう。
クラスの女子に掃除当番や日直を押し付けられても、断り切れずに受け入れてしまう。
いじめられているわけではないが、都合よく利用されがちな弱気な少女。
えてして、こういうタイプは2パターンに分けられる。
Aパターンは、弱気ではあるが内面は屈折しているタイプ。
創作物等で力を手に入れたらいきなり性格が変貌するいじめられっ子等がこのタイプだ。
あれは性格が変貌したのではなく、元々の下衆っぷりやサディズムを表に出す勇気が無かっただけ。
転生なりチートなり手に入れて、それを発散しても自分に文句を言える相手がいなくなったからこそ、本性をあらわにしただけなのだ。
Bパターンは、弱気さと善良さが同居しているタイプ。
弱弱しくとも優しく、野に咲く花のように誰かの心を癒せる人。
佐藤小雪は完全に後者のタイプであり、M78星雲人の力を手に入れても、何一つ変わることはなかった。
それを私利私欲に利用することもなく、むやみに使う事すらなく。
ただただ、誰かを守るためだけに使おうとした。たとえ、それに結果が伴わなかったとしても。
「……ん、ぅ……?」
体中のだるさを感じながら、白雪はゆっくりと瞼を開ける。
フォスと融合している間、融合先の人間には高い治癒能力が与えられる。
変身後にハヤトが駆けつけた時点でほとんどケガもなく、病院で一晩眠っている間に残っていた負傷も完治していた。
体からフォスが分離した時点で完全に健康体、体がだるいのは、単純に眠りすぎたせいである。
「ここ……病院?」
きょろきょろと周囲を見回せば、病院の個室病棟だとアタリがついた。
知らない天上だって言い損ねたなぁ、なんてナナメ方向な事を考えながら、どうしてここにいるのかを少しずつ思い出す。
(ハヤト君と出かける事になって、デートかも、なんて思って舞い上がって。
公園のあたりを歩いてる最中に、突然地震が起きて、大きな怪物が……)
「そうだ、ハヤト君!?!」
がばっ、とベッドから起き上がり、気絶する前の光景が頭の中に蘇る。
ベムラーとの戦いを辛くも相打ちに持ち込み、追い払った後に力尽きて。
ハヤトに抱き上げられながら気絶した……所まで思い出して、顔がボンッ!と赤面した。
(ハヤト君結構太い腕してたなぁ、岡持ちとかで鍛えられてるのかな。 じゃなくってぇ!)
ついつい乙女なピンク色に染まりそうになる脳内を全力でマトモに戻しながら、何があったのかを調べようとする。
ナースコールを押して事情を聞こうとした瞬間、コンコン、とドアがノックされ……。
つい、いつものクセで「あ、はい、大丈夫です」と答えてしまった瞬間、ドアを開けて入って来たのは。
「おお、本当に目が覚めてる!」
『だから言っただろう?大丈夫だと』
「それで鵜吞みに出来るほど素直じゃなくてわるぅございましたね?」
「ハヤト君!?それに、フォス!?」
自分以外には見えなかったはずのフォスと、自分が片思いしている少年がフランクに会話している。
その事実に「なんで?なんで??」と目を回していたが、ハッと思考を取り戻し。
「コユキちゃん、体の方は大丈夫?フォスはもう治ってるって言ってたけどさ」
「あ、うん。眠りすぎたせいかちょっとだけけだるいけど、大丈夫。
その、フォス。あれから何があったの?なんでハヤト君と話せてるの!?」
『ふむ、そうだな。そのことについての説明も必要だろう。アレからあった事だが……』
フォスとハヤトの口から語られる、コユキが気絶している間にあった出来事。
強化されたベムラーが隣県に出現し、暴れ始めた事。
フォスがコユキとの半融合を解除し、ハヤトと融合した事。
7割程度の力しか出ない事を承知で変身し、ベムラーと戦うために飛び出したこと。
火球を叩き込まれる寸前の自衛隊を庇い、ベムラーを倒したこと。
それらをかいつまんで語り終えると、コユキはショックを受けたように俯いてしまった。
ハヤトが「ちょ、コユキちゃん!?」と焦った声を出す。無理もない。
なにせ、そのくりっとした目から、ぽたぽたと涙がこぼれ始めたのだから。
「ご、ごめ、ごめんなさい。ハヤト君……私、私がやらなきゃ、いけなかったのに。
あんな、怖くて、痛い事、させちゃいけなかったのに、私が、弱かったから……!」
「コユキちゃん……」
必死にあふれ出る涙を拭いながらも、彼女の嗚咽はおさまらない。
佐藤白雪は、確かに戦う事には向いていない少女だ。
人に力を振るう才能も、それを割り切る才能もまるで欠けている。
だがしかし、それ以上に『誰かに苦しみを押し付ける事』に向いていない。
自分が損をした代わりに、誰かが損をしなかったのならそれでいい。
そんな甘すぎる少女こそが、佐藤白雪という『普通の優しい女の子』であった。
どう声をかけるか悩んでいたハヤトは、少しだけ深呼吸をした後に一歩踏み出す。
泣いているコユキの頭に手を添えて、ぎこちない手つきで彼女を撫でた。
「ぇ……」と、涙を流しながら顔を上げたコユキに、精いっぱいの優しい笑顔を向けて。
「そんなふうに、誰かのために泣ける女の子だから、俺は戦わせたくなかったんだよ。コユキちゃん」
「でも……!これ、私とフォスの問題で、ハヤト君には何の責任も……」
「いいや、ある。確かにある。あんなのは地球人全員にとっての災害なんだから。
極論言えば、地球に住んでる人間全員が考えるべき問題なんだよ」
スケールをだいぶ大きな話にして色々勢いで誤魔化しながら、取り出したハンカチでコユキの涙を拭く。
家を出る前に、デートのためにおろしたオニューのハンカチでよかった……なんて謎の安堵をしながら。
少しだけ嗚咽が収まって来たコユキの頭から手を放した。
コユキが「あっ……」と小さく残念そうな声を出したが、ハヤトはうっかり聞き逃した。きっと主人公特有の難聴スキルである。
「だから、戦うよ。コユキちゃんが泣かなくてもいいように。
誰かが、あんな奴らの犠牲にならないように……俺は戦う。戦い抜いて見せる。
……どうかな、ちょっと頼りないかもだけど、落ち着いた?」
コユキをなんとか励まそうとする彼の、ちょっとだけ不器用な強がり。
それをみて、コユキはほんの少しだけ、自分の心が軽くなったのを感じた。
恐怖とか、責任感とか、義務感とか、戦う事への忌避感とか。
己の背中にのしかかっていたモノを、代わりにハヤトが背負ってくれた。
そのことにどうしようもない罪悪感を覚えるのと同時に……。
目の前の少年を見るだけで、今まで以上に心臓の音が高鳴るのを感じた。
「……その……」
「ん?」
「もうちょっとだけ、頭を撫でてくれたら、大丈夫になるかも」
「? ……そんなことでいいの?」
「うん。それがいいの。 それが、一番……」
自分の頭に再度触れる手の感触を感じながら、罪悪感と同時に覚えた感情を大事に大事に抱え込む。
年頃の乙女が立派に育てた、小さくとも熱い『恋心』。
元々芽生えていたソレが、彼女の心にしっかりと根を張った瞬間である。
(私はもう戦えないけど、だから、せめて……ハヤト君の『日常』になってあげよう)
……ただし、彼女は無自覚だが非常に愛が重い。
仮にこの場でハヤトに押し倒されたのなら、戦いの恐怖を和らげるためなら仕方ないよね!で受け入れる程度には。
頑張れハヤト!負けるなハヤト!
年頃の女子はめんどいぞ!!
第一話『光の巨人、ウルトラマンフォス!』完
次回予告
辛くも宇宙怪獣ベムラーの襲撃を退けたハヤトとフォス!
しかし、次なる邪悪な力が地球に迫りつつあった!
「ベムラーは頭が弱すぎる、侵略と言うのは計画を練って進めるものだ。
私が今、それを証明してあげましょう」
第二の邪悪なる力、ザラブ星人『ゾーイ』による侵略作戦が開始される!
しかし、どうやら様子がおかしいようで……?
「お姉さん、くたびれたOLみたい」
「お、おーえる……?」
次回、ウルトラマンフォス。
第二話 【君はウルトラマン】
『次回も絶対』
「見てくれよな!」