前回のあらすじ
ポンコツ系金髪美人工作員(種族・ザラブ星人)
(いや、クールになれゾーイ!これはチャンスだ!)
前回のラストで、うっかり偽ウルトラマン(人間サイズ)から擬装用の地球人形態になるのを目撃されてしまったゾーイ。
しかし、こう見えて座学だけはザラブ星人の中でもそこそこできた方。
新米とはいえ工作員らしく思考を切り替え、この状況を利用する方に舵を切る。
幸い、見られたのは『ウルトラマンが人間に戻る』変化と大差ない。
これが光の国の住人相手ならば誤魔化しも効かないが、地球人ならば……。
「ねえ、今、ちっちゃいウルトラマンからお姉さんになったでしょ?お姉さんがウルトラマンなの?」
(しゃああああああ!いい具合に勘違いしている!第三部完!!)
「ええ、そうですが……言っておきますが秘密ですよ?家族にも友達にも!」
即座に頭の中で計画のチャートを軌道修正、オリチャーに入る。
幸い、乱入してきたガボラを撃退した所を彼女は見ていたようで、偽ウルトラマンへの感情は悪くなさそうだと判断。
かといって自分が偽ウルトラマンであることを広められすぎても活動に支障が出るので口止めしつつ、ここから先に予定していた作戦を再開する。
(真っ先にやるべきなのは、『本物のウルトラマンの所在確認』!
M78星雲人は、有機生命体と融合することで現地に適応する能力を持つ!
あの『ウルトラマン』が不完全体になったのは、恐らくは融合が不安定だから。
融合先である人間を探し出しさえすれば、変身する前に如何様にもできる!)
工作員としては頭脳派*1と言うだけあって、計画そのものは非常にガチもガチである。
最大の障害になるM78星雲人に対しても一切油断しておらず、偽ウルトラマン作戦による地球人の取り込みと並行して対策を立てていたのだ。
ザラブ星人のデータベースを利用して立てた推測だが、ウルトラマンと呼ばれているM78星雲人は地球人と融合していると推測。
ベムラーに敗北したときは、恐らく地球の環境がM78星雲人に適さなかったか、ここに来る前に負傷か疲弊していたと判断。
そこから地球人と融合してベムラーを撃破した……というのがゾーイの仮説だ。割とニアピンである。
(M78星雲人の体に変身さえさせなければ、融合先の生命体と大差ない能力のはず。
ただの地球人と同程度の能力なら簡単に始末……いや、寧ろ捕虜にするか?
どちらでもいい、どっちにしても必要なのは『地球文化圏への潜伏』!
この地域で2度もウルトラマンが目撃されたのは偶然ではないハズ。
融合対象がいるのはこの近辺!そのためにこの地球人の子供は利用させてもらおう!)
この近辺どころか、その融合対象はほんの1~2キロ先で資材運びのバイトを再開しているのだが知る由もない。
なんにせよ、地球人にもまた文化的なコミュニティがあるのは彼女も十分承知している。
ならば、工作員としての常套手段。現地人を篭絡することでそのコミュニティに紛れ込むのだ。
だからこそ、己をウルトラマンだと思い込んで勝手に好感度を上げている目の前の少女を利用する事にしたのである。
「あー……ところで、なぜ貴方は一人でこんなところに?
私が怪獣と戦っているというのに、子供が近寄ってきては危ないでしょうに」
「……河原で遊んでても、楽しくないから。
泳ぐの、あんまり得意じゃないし。お姉ちゃんもいるし」
「ふむ? 姉と仲が悪いんですか?」
「ううん……でも、お母さんもお父さんも、お姉ちゃんが入院してからお姉ちゃんばっかり心配するんだもん。具合は大丈夫か、痛い所ないか、って」
「あー……なるほど」
(そういえばベムラーが暴れた後か、そりゃあ怪我人ぐらいいますよね)
それに関して一々胸を痛めるほど共感性が高いわけでもないし、ダダ甘い生涯を送ってきたわけでもない。
寧ろ、色々と抱えている少女(推定小学校低学年)に上手く取り入り、そこから子供同士のコミュニティに食い込み、それを経由して親へ……。
……といった流れで情報網を構築し、最近行動が様変わりした地球人がいないかを探り出すつもりなのだ。
M78星雲人と融合した以上、地球人の意識が残ってようと残っていまいと行動に影響が出る。
そして、そういう不自然さはコミュニティの中であっという間に広まるのだ。
具体的にはおばちゃんの井戸端会議という方法で。
ともあれ、うんうんと聞き上手に徹しながら、程々の所で内面に切り込んでいく。
「ですが、そう言って貴方のお姉さんを心配するのも、ご両親が貴女やお姉さんをしっかりと愛しているからですよ」
「……そうかなぁ……あたしの事なんて、どうでもいいんじゃ……」
「世の中にそういう親がいないとはいいませんが、そんな親ばかりでもないはず。
子どもの事を愛しているからこそ、こうして自然教室に行かせてくれたんです
家を出る前に、あまり深い所で遊ばないとか色々言われたでしょう?」
「うん、ちゃんと引率のおじさんやおばさんの言う事聞くようにって」
「貴方に危ない目にあってほしくないからこそ、口煩く言うんです。
感謝しなさいとは言いませんが、せめて愛されていると信じてあげなければ。
世界は広いんですから、そういう愛情を注いでくれない親だっているんです」
(……私の親も、そうでしたしね)
まだまだふさぎ込んでいる美雪を見ながら、ふと、ゾーイは己の過去を思い出した。
第8銀河系にあるザラブ星、広い宇宙で『凶悪宇宙人』と恐れられるザラブ星人の故郷だ。
他の星の文明を滅ぼす事を目的とし、宇宙中に『宇宙工作員』を送り込んでいる悪の星。
宇宙警備隊とも因縁の相手、まさしく根っからの悪党……それが、ゾーイの種族であるザラブ星人だ。
幼い頃から様々な訓練を施され、他の星の文明を滅ぼすための知識や技術をたたきこまれる日々。
両親を含めた家族からは、やれ【訓練校での成績が悪い】だの【何故こんな無能が我々の子なのだ】だの言われ続ける日々。
そんな両親や兄弟姉妹も、どこぞの星に謀略を仕掛けた際に宇宙警備隊と衝突、まとめて殉職したのはいつの事だったか。
親兄弟と思えるほどの親愛の感情すらなく、残ったのは中の下以下の能力しか持たないザラブ星人が一人。
訓練を終えて配備された後も、優秀な同僚がどんどん手柄を立てるのを見ているしかできない日々が続いた。
【自分は期待されていない】……たったそれだけの事実が、どれほどゾーイを打ちのめしたか。
(そうだ、だからこそ私はこの任務を成功させるんだ!そのためには……)
「貴方の名前は、確か……」
「ミユキだよ。佐藤美雪」
「そうですか、ではミユキと呼ばせてもらいます。
ミユキ、いっそのこと、私と泳ぎの特訓をしてみませんか?」
「特訓?」
「ええ、そうです。自然教室は明日以降も行われるのでしょう?*2
その時にこっそり抜け出して、私と一緒に水泳の特訓をするんです。
泳げるようになれば、子供たちに交じるのも恥ずかしくはない」
まずは偶然出会った彼女、佐藤美雪とツテを繋ぐことを優先するゾーイ。
元々この計画は長期目標だったのだ、焦らず一歩ずつ進めるのは計画通りである。
「それともお姉さんに教えてもらいます?」
「お姉ちゃん運動音痴の上にカナヅチだからダメ」
「それはそれで心配ですね……え、川辺に子供の面倒見に来てるのに?」
(そう、これは長期的な計画……決してこの子に情が沸いたわけではない。
あくまで将来的なコミュニティへの先行投資のため、何一つ他意はない)
そんな会話と思考を交えながら、ふと、ゾーイはとあることを思いつく。
「……ところで、怪獣騒ぎがあったのなら、お姉さんたちが探しているのでは?」
「……あっ」
今思いついた。そんな声が美雪から洩れた。
【川の下流 川遊びの予定地】
「とりあえず向こう岸まで泳いで行ってみたけど気配ないぞ!バイト切り上げて探しに来たけど、このあたり一帯にはもういないかもしれない!」
『むぅ、私に子供を感知できる力でもあればよかったのだが……』
「泣き言言ってる場合か!ただでさえ怪獣騒ぎの時になんもできなかったんだから目を皿にして探せって!」
『いや、それはハヤトがベータカプセルをうっかりバスに積んだ荷物に置いてきたせいだろう』
「過去の事を気にする時じゃない!今は未来に目を向ける時だ!」
『忘れ物をした君が言うな。近頃の若者はウルトラ情けないな』
「ウルトラ付ければいいと思うなよ!
いっそのこと変身して気円斬でここらの木切り飛ばして探すか!?」
『気円斬じゃない、八つ裂き光輪だ。鳥〇明に怒られそうな名前を使うんじゃない』
「じゃあウルトラ気円斬で!」
『ウルトラ付ければいいと思うなよ』
「みゆぎいいいいぃぃぃ、どごぉぉぉぉぉ……!!」
ゾーイ達から数百mほど下った場所で、引き返してきた大人たちやアルバイターによる捜索が開始されていた。
フォスと融合してから体の調子が良い*3ハヤトが川を行ったり来たりしながら藪の中まで探し回り。
コユキも半泣きで済まない程度の泣き顔のまま、川岸をえっちらおっちらと歩きながらミユキを探していた。
こそこそと戻って来たミユキは、そんな光景を見て一言。
「どうしよう、すごい出ていきづらい……!?」
……意を決してハヤトの前に飛び出し、怪獣が現れたので腰を抜かしていた、と言ってごまかすまで、あと五分……。