Area-01「連邦捜査部シャーレ #ボロボロ #予算不足 #閑古鳥」
「はっ。草鞋野エリカ、これより新任地へと向かいます」
「よろしくお願いします」
綺麗な敬礼をするのは彼女がヴァルキューレ警察学校の出身だからだろうか。実質、追い出されたも同然の彼女に私はただ、事務的な言葉を投げることしかできない。普通なら怒るはずだ、悲しいはずだ。これが二度目ということなのだから、今、連邦生徒会会長代行である私に当たってもいいはずだ。
それなのに、薄い青色の髪から悲しさなんてものは感じさせず、頭の上の耳は伏せずに立っている。瞳の碧の奥には優しさを湛えたままで何故いられるのか。
連日の事件、先生から報告の上がったアビドスでの一連の騒動の始末、疲労を外に出すことを認められない今の私の脳内でそれを考えてしまえば、必然、口が動きそうになる。
「よかったのですか?連邦生徒会を抜けるとなれば、ヴァルキューレへの復学も」
「いいえ、七神代行。本官は任地がどこであろうと、そこで求められる役目を全うするまでです」
いっそ、晴れ晴れとした表情で彼女は――元防衛室庶務の草鞋野エリカは言う。ヴァルキューレへの復学は遠回しに断られ、休学という名の実質退学、彼女が防衛室に配属直後に会長は失踪し、立て続けに起きた矯正局の大失態とそれを抑え込めなかった防衛室。
疫病神、とはっきりと私は不知火室長から伝えられた。仕事だから、感情で人員を動かすなど許されない行為だった。けれど、居場所がもうないのであれば……“転校”も止むなし。人材資源室へ意見を問えばそのように返ってきた。
会長であれば、どうしていただろうか。不知火室長を叱りつけ、草鞋野庶務を救えていたのだろうか。
「では、これで。………どうか、代行はご自愛下さい」
最後に彼女はこれまでの整然とした姿勢を崩し、悪戯っぽく彼女ははにかみながら、懐から取り出した小さなチョコレートを机の上に起き、もう一度姿勢を正す。
敬礼し、その場で回れ右、一定の間隔の足音を残して、退室していった。
少し、ほんの少しだけ、息がつまった。一瞬で雲散していく甘い花の香水と、残されたチョコレートはわずかに溶けていた。
デスクの上に広げられた彼女のプロフィールに今一度目を通す。
「――草鞋野エリカ。成績、普。職務への態度、良。射撃成績、最良。D.U.市民からの信頼、高。ヴァルキューレにおける最終経歴、生活安全局、副局長」
人当たり良く、優しく、困った人がいれば助けるおまわりさん。責任ある役職についてもなお、現場主義だったという彼女を防衛室の受付として配置させたのはなぜなのか。資料の最後にその答えはあった。
「特記事項、草鞋野いるところに事件あり。功績を得るために事件の自作自演の疑い」
人を優しく包み込むような香水はそれを隠すためのものだったのか。確認しようにも、彼女がいた痕跡はもうその場から消え去っていた。
「ん〜〜〜!クビになっちゃったなぁ」
忙しすぎたヴァルキューレでの生活から一転して暇すぎる連邦生徒会の防衛室の庶務になったと思ったら、あれよあれよという間にクビになって今度はよくわからない“連邦捜査部シャーレ”なる組織に私は配属されるそうです。
サンクトゥムタワーを出たところで体を伸ばせば、自然と目に入るタワーの影。実質いたのは2、3ヶ月ぐらいかな。不知火室長とは仲良くやれていたはずだけど、2週間ぐらい前に急に「自宅謹慎です」と言われ、久々に呼び出されたら七神リン連邦生徒会会長代行にお暇を言い渡された。
「一生懸命にまたやりすぎたのかな」
連邦生徒会に入る前も母校で疎まれちゃったし、出る杭は打たれるのはしょうがないのかな。縦割り組織だったからね。
「わ、草鞋野副局長!」
「ん?」
悲しむ暇もないので、とりあえずスマホに入れられた地図を頼りにシャーレへと向かおうと思ったら、サンクトゥムタワー入り口で警備のために立ってたヴァルキューレの娘が声をかけてきた。なんで私の元の役職を?と思ったら、見覚えがあった。私が生活安全局で副局長をしていた頃に、生活局から警備局へ異動した子だった。真面目でいい子だったね。
「わぁ、久しぶりだね!元気にしてた?」
「っ…!副局長…平気なのですか…!また、あなたは」
「おっと、滅多なことは言わない言わない」
私のどこがいいのかな?連邦生徒会に入る時も局の子は引き止めてきたし、キリノちゃんなんかまさに今私を引き止めてるこの子みたいだった。悲しい顔をしてる。けど、私のせいで他の子の頑張りが報われないのは頂けない。
「ですがっ」
「大丈夫。私はどこにいっても一生懸命に頑張るだけだし、頑張りはいつか報われるって信じてるから。君だって頑張ったから今、ここを任されてるわけだし」
元気付けようとして言ったはずが、もっと悲しい顔された。えー!?なんでー!?
「しかし、副局長は」
うーん、あんまり好きじゃないけど、しょうがない。息を少し吸って、私は姿勢を正した。
「貴職の今の役目は」
「え」
「答えてください」
ものすごく悲しい顔してる!ど、どうしよ、やっぱりよくないよね。叱るのだからいやなのに〜。
「わ、私の役目はサンクトゥムタワー、及び連邦生徒会の警備、です」
「よろしい。なら、その役目を全うせよ。よろしいか」
「……ぅ、ぅ……は、いっ」
「声が小さい!」
「あいっ!まっどう、じますっ!」
そんなつもりじゃ、なかったんだ。泣かせるつもりは、なかったんだ。けど、一度始めたらちゃんとやりきらないと…ビシっと決めた後輩にビシッと返礼して私はその場から逃げ出すように立ち去る…前に、訂正しとかないと。
「あぁそうだ。今の私は生活安全局の副局長でもないし、ヴァルキューレの生徒でもない。連邦生徒会の役員でもない、ただの休学中の生徒。副局長とは呼ばないで」
振り向くのが申し訳なさすぎて出来ないので、背を向けたまま言うと、泣く声に混じって「はいっ!先輩!」と聞こえた。先輩、そっか、先輩か〜。そうだよねぇ、私たち学生だもんね。
「じゃあ最後に先輩から一言。頑張りはいつか、絶対報われるよ」
きっとそう。だって、みんながそうだからね。だからきっと、私もいつか、報われる!はず。
よし、ちょっと時間をとられちゃったけど、シャーレに向かおう。泣き声から逃げるように私はサンクトゥムタワーから駆け出した。
シャーレの建物は意外とサンクトゥムタワーから離れていた。連邦生徒会の部活の一つとはいえ、実質別組織だからだねたぶん。防衛室案件だって噂で聞いた、アビドス自治区の事件を単独で解決したって話だったかな。
「お、コンビニあるね。寄って行こ」
せっかくこれから新しい上司になる人がいるし、チョコレートも代行にあげた分で最後だったから買っていかないと。そう思ってコンビニに入ればがらんとしてお客さんの一人もいない。「い、いらっしゃいませー!」と裏返って震えた声が聞こえてきただけだった。レジの方を見れば、どうみても中学生入りたてみたいな金髪の小さい子が店番をしていた。
「こんにちは!」
「こ、ここ、こんにぢっ…か、噛んだ…」
「大丈夫?」
「は、はひっ!大丈夫です!って、あれ、お巡りさん?」
店員の子が私をちゃんと認識してそう言った。今の私の格好、ヴァルキューレの紋章は外して代わりにシャーレの紋章をとりあえず付けたヴァルキューレの制服なので、勘違いされちゃった。
「ごめんね?私、元お巡りさんなんだ。今日からシャーレに入部するから来たんだよ」
「え?シャーレに?ならどうぞ!お買い物していってください!」
このあと、店員さん。ソラちゃんって名前で、彼女と少し話したけど、ここのお店全然人が来ないらしい。閉店してもおかしくないところなのに何故か閉店せず、お客さんはほぼ先生だけ。アルバイトもソラちゃんだけとのこと。確かに店内商品見ると、閑古鳥なせいで品物が絞られているのも見て取れるし、食玩とか銃弾も、去年あたりの品物がまだ陳列されてる。
手が届かないのか、レジ裏の高い棚に置かれているトリニティ製手榴弾は埃をうっすら被っている。
うーん、僻地にきちゃったかな?まぁ、海警でもそこで頑張って公安局に成り上がった例もあったし大丈夫大丈夫!
ひとまず、ソラちゃんがかわいそうなのでチョコ以外にも予備の銃弾やミレニアム製の閃光弾、その他に事務用品を購入して改めてシャーレの中に足を踏み入れた。
「人の気配が全然しない」
そしてまったく伽藍堂なシャーレの中。受付は無人で、ロボすらいないし、復旧が追いついてないのか入館用のゲートは無惨にも破壊されたまま。弾痕もところどころにあって廃墟かなにか?
用心するに越したことはないので、左腕にコンビニの袋を下げつつ、右手で腰に据えていた愛銃を手に取る。通常の拳銃よりもバレルを延長した、ヴァルキューレ制式拳銃の試作品。これを抜くのも久しぶりだなぁ。ここ最近は事務と受付だったからね。
構えつつ、結構前に実験的に受けたSRTでの研修を思い出しつつ、静かに駆けて壊されたゲートを抜ける。ゲートの先には停止したままのエスカレーター。ここは音が出てしまうから用心して登っていく。
スナイパーがいたら危ないけど、そこはもう撃たれないことを祈るしかない。
キリノちゃんだったらこういう状況でもガンガン行けるだろうからなぁ。私はついつい心配して用心しちゃう。
「クリア。ここからはエレベーター、かな」
エスカレーターの先にはエレベーターホールがあって、ちゃんと稼働しているようだった。ただし、エレベーターの現在位置は不明。そりゃそっか、先生って私たちとは身体の強度が違うって、七神代行が説明してくれたもんね。要人用になってるね、この建物。
そのわりには建物の修復がされてないあたり、組織の懐って寒いのはどこも似てるね。
エレベーターを呼び出し、壁に背をつける。エレベーターが開いた瞬間に犯人と出くわさないためだ。いやいや、犯人って誰?
数十秒後、エレベーターが降りてくる。扉が、開く。瞬間的に私は銃を構えエレベーターの前に立ち塞がった。
「へ」
中に人は――いた。私よりも深い青色の髪を両サイドに結って、黒いスーツのような制服の上にコートを着崩して羽織った生徒。校章からしてミレニアムサイエンススクールの生徒。
「え?え!?なに、なになになに!?」
「ヴァルキューレだ!手をあげろ!」
「いや意味がわからな…私何もしてないわよ!」
あっ……ごめん、つい癖で。
なんて言う暇もなく、目の前の子はコートの中からそれはもう立派なサブマシンガンを両手に抜いた。直後、多量の弾丸が私を襲った。あっぶない!
「ヴァルキューレの制服に見えるけど校章が違うし、まさか先生を襲う気!?」
「あ、いや、ちが、むしろ私は先生?の補佐に」
「先生の補佐は各校で持ち回りの当番よ!専任がいるとは聞いてないわ!」
うう、またやっちゃった!から回った!どうしよ!とりあえずさっきから地味に背中に弾があたって痛いので反撃しとこう!
「いきなり銃口向けたのは謝るから落ち着いて!」
「そっちこそ!」
エスカレーターを飛び降りて一階のホールに着地、勢いのまま滑りつつ、休憩用に備え付けられたベンチの裏に隠れる。うん、耐弾タイプの素材だ!サブマシンガン二艇のものすごい量の弾が当たってるのが耳に痛い!
「ちっ、隠れて…弾切れ!?」
「そおい!」
「きゃっ!?」
弾切れなんて大声で言っちゃダメだよ!私はとにかく顔を最小限ベンチの影から出して右手の銃で適当に相手へと撃つ。ミレニアムの子は私の攻撃を軽やかに避ける。足も鍛えてるのかずいぶん立派だし、ミレニアムの子にしては結構動けてる。いやほんと全然弾が当たらない。私、自慢じゃないけどそこそこ腕いいんだよ?
というか、ちょっと見覚えがある気が。名前を聞かなきゃね!となれば自分から!
「本官は草鞋野エリカです!本日より連邦捜査部シャーレの先生専任補佐として配属されました!」
銃声に負けないように大声を出すと、銃撃が一瞬止む。
「わらじの…?聞き覚えが…」
「隙ありぃ!」
「うわっ!?しまった!」
動きを止めればこっちのもの!サブマシンガンを撃ちつつ接近していた相手はもうすぐ近く!ベンチの裏から飛び上がるように駆け出して私は荷物を置いて空いた左手に伸縮式警棒を持って相手の懐に飛び込んだ。何やらミレニアムの子も咄嗟に右の銃を放り投げて、右手にコートの下から機械を取り出したけど遅い!
「ていっ!」
「くっ!?」
警棒ではじき、その機械を手から叩き落とし、銃を相手の眼前に突きつける。
「ヴァルキューレ…じゃなかった。連邦捜査部シャーレです。これ以上の抵抗はやめてください。あなたは?」
銃を向けて聞けば、相手は何故か余裕の表情だった。不敵な笑みさえ浮かべてる。なんで?まさか救援でもいるの?
「彼女はミレニアムサイエンススクール生徒会、セミナーの会計、早瀬ユウカ。…ん、ユウカ、無事?」
「えぇ、助かったわ。砂狼さん」
ゴリっ、と後頭部に突きつけられる硬いもの。銃口だね。私は銃にセーフティーをかけたうえで、警棒と一緒に床へ置いた。
「降参?」
「……すいません。その、そもそも、戦う気なんてなくてぇ」
「嘘を言わない!というか連邦生徒会から新しく人が派遣されてくるなんて聞いてないし!そうよね!?砂狼さん!」
「…アビドスはあんまりそういう情報、入ってこないからわからないけど……ここで暴れるなら先生の敵」
お、終わった。頑張る前に終わった。どうしよう……カンナちゃん、助けて…。
「なんの騒ぎですか!?って、あれ?草鞋野副局長?」
背後の砂狼さんという生徒に銃口突きつけられて動けないでいると、騒ぎを聞いてかシャーレの中に誰かが入ってきた。知ってる声!ヴァルキューレの後輩かな!とおそるおそる振り向くと、銀髪の狼っ子、銃を突きつけてる砂狼さんという生徒の更に後ろにピンク色の狐耳が見えた。
校章はヴァルキューレでなく、黒白の標準的な制服に何故かエプロン姿。よく見れば立派な装備……ショットガンも携行しているのが見える。
「ニコちゃん!?」
「そこの生徒!すぐに武器を下ろしなさい!」
素早く武器を抜いて構える彼女はSRT特殊学園での研修で会ったことのあるFOX小隊のニコちゃんだ。優しくていい子で、いなり寿司を作るのが上手い子。けど特殊部隊の隊員なのでとっても優秀。
「げっ…SRT…!?」
「えすあーる…どこの学校?」
場がまた緊張しちゃった!いや、まって!これ全部私のせい!また変な方向に頑張った私のせいだから!
「み、みんな!まって!待って!私、降参!ニコちゃんも銃下ろして!」
「ですが――」
「全部私が先走ったせいなの!」
ということで、その場で私はぶちまけた。用心しすぎて先走って銃を向けてしまったこと。さらに応戦までついしてしまったこと。
最初に銃を向けてしまった早瀬ユウカさん…知ってるはずだ、彼女は数度生徒会へ陳情をしにきてた。そんな学校のお偉いさんに銃を向けてあまつさえ応戦しちゃったし何を私はしていたのか。
洗いざらい私が喋ると、早瀬さんは大きくため息をついた。
「はぁ〜〜〜…まったく、私もイライラしてたからすぐ撃っちゃったのは申し訳ないけど……“事件わらし”の異名は伊達じゃないわね」
「うっ。ごめんなさい」
「ユウカ、事件わらしって?」
久々に聞いたな〜そのあだ名。早瀬さん私のあだ名を言おうとして口を開きかけたけど、止まった。
「なんの真似?」
「その話、やめてくれませんか」
なんでニコちゃんショットガン構え直してるの?というか、見たことないぐらい怖い顔してるけど、なんで?
「……………はぁ。そうね、わかったわ」
ずっと無言の間が続くかと思ったらすぐに早瀬さんは私のあだ名について話すのをやめた。いやいや、そんなやばい話じゃないよね?と、とにかく、これ以上どんぱちするのはいやだから、私は立ち上がった。そうすると、ニコちゃんも銃を下ろしてくれた。
「えっと、そのぉ、ほんとうにごめんなさい」
「よくわからないけど、もういい?」
「そうね…砂狼さん、ごめんなさい。当番前に」
「いい。先生のところに行くね」
場の空気が緩んで、砂狼さんという生徒は銃を下ろすと、その場からさっきまで私が下ってきたエレベーターホール方へと歩いていく。クールな子だ…それに、アビドスってさっき言ってたけど、確か今のアビドスってヴァルキューレの介入もできない僻地だったよね?そんなところからここにどうやってきたんだろう。
「それで……草鞋野さんはどうしてここに?」
「シャーレへ配属になったんです。さっきはその、すいません」
「もういいわよ。けど、本当にそんな話聞いてないのよ」
「あ〜、それは辞令が急に降りたせいだと思います」
急な人事異動だったので公示される前にここに来てるんだよね。一応、そのために私のスマホに先んじて辞令書があるので、それを見せることにした。
「書類はこれです。今日の午後には公示されます」
「……どれどれ…確かに、電子印は間違いないし、公式なものみたいね」
早瀬さんはミレニアムの生徒だからかすぐに書類の電子データを見て納得してくれた。ふぅ、よかった。書類は大事。
「それにしてもなんでこんなタイミングで?連邦生徒会からの内偵?」
「ううん。本当にただの異動だよ。ごめんね」
「よくわからないけど、まぁいいわ。私はミレニアムへ戻るわ。今後はよろしく、草鞋野さん」
「こちらこそ、早瀬さん」
出会い方は最悪だったけど、優しい子みたいだからか大丈夫だったかな……。早瀬さんは落とした機械とかを回収してスタスタとシャーレの建物から出て行った。今度お詫びを持って行こう…ミレニアムに。
そして…ニコちゃん、か。残ったのは。
「副局長、どうして…シャーレなんかに…」
「そういうニコちゃんこそどうしてここに?」
「……私は近くでアルバイトしてて、銃声が聞こえたので。一応ここも、連邦生徒会の部署ですから」
SRT特殊学園は連邦生徒会会長の直営組織だった。会長が失踪して、確か廃校が決まって順次ヴァルキューレに統合、生徒たちも大半は警備局に吸収合併されたはず。だったのに、そういえばなんでニコちゃんはSRTの制服着てるんだろ。まあ、不知火室長の預かりになってるから完全に廃校手続きは終わってないし、おかしくはないか。
「そっか。私は成り行き…かな。ただ、どこの現場でも私は私の役目を全うするつもりだから、いつも通りだよ」
「……それが正義だから、ですか?」
「うん。一生懸命に頑張ればいつかは報われるからね。じゃ、私は先生に会わなきゃだから。ニコちゃん、またね」
「ふくきょく……草鞋野先輩…はい、また…」
またサンクトゥムタワーみたいなことしたくないので、私は先生のいるであろうシャーレの上階へ向かうことにした。ニコちゃんも元気がなかった。なんで私の周りの子は最近元気がないんだろう。七神代行もだったし。
「失礼します。本日からお世話になる草鞋野エリカです」
エレベーターで上がった先、先生がいる執務室の扉にノックすると、向こうから少し間を置いて「どうぞ」とさっき聞いたばかりの砂狼さんという生徒の声が聞こえた。シャーレの当番制度は来る前に聞かされたけど、各校から生徒が志願しているらしい。もちろん、私が来ても継続される。
「草鞋野、入ります!」
扉を開け、中に入る。先生一人の執務室、というにはかなり広く、その中に先生がいた。ヘイローのない、大人の女性。身長は160ある私よりも10cmぐらいは高いだろうか。綺麗な黒髪を伸ばしていて、格好はYシャツに黒のスラックス。シンプルだけど、優しい顔つきで、かわいいと美人が同居してる感じ。
「はじめまして、草鞋野エリカさん」
とても優しい声だった。大人の、奥行きがあるって言えばいいのか。さっきあんなことがあったせいで頼りたいと思ってしまう。そっか、これが、大人…先生なんだ。私は姿勢を正した。
「改めまして!本官は本日より、連邦生徒会防衛室より連邦捜査部シャーレに配属となりました、草鞋野エリカと申します!若輩の身ではありますが、粉骨砕身、頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」
いつものあいさつをして、先生へ敬礼する。先生は少しきょとんとしてから、笑った。
「ふふっ、よろしくね。けど、そんなに硬くならなくていいよ」
「は、しかし」
「確かに私と草鞋野さん……エリちゃんは先生と生徒だけど、シャーレの生徒だからね」
「エリ、ちゃん?」
「いやだった?」
「いえ。ですが、公私はわけるべきかと」
カンナちゃんにこのあたりはきつく言われてるので私がそう言うけど、先生は「いいよいいよ」と私に手招きした。来いということだと思うので近寄ると、隣の空席のデスクの椅子を先生は引いた。
「エリちゃんは私の、シャーレ自体の生徒第一号だから、仲良く一緒に頑張ろうって思ってるんだ。それに、ここはヴァルキューレじゃないからね」
椅子に座りつつ、どういう反応をすればいいのか悩んでいると、さきほどから先生の傍で黙っていた砂狼さんが口を開いた。
「ん。さっきみたいな口調でいいと思う。先生は先生だからね」
………肩肘張らなくていい、そういうことなのかな。それなら、その言葉に甘えて。
「えっと、すいません。それじゃあ、よろしくお願いします。先生」
「うん!よろしくね!」
この人なら不思議と、私の頑張りが認められるかもしれない。そんな気持ちにさせるぐらい、先生の笑顔はまっすぐで温かった。
この先生はケモ耳っ子が性癖の一つなので、主人公の耳をいつか好き勝手したいと思っています。