ミレニアムサイエンススクール自治区、春葉原。キヴォトス一の電気街という側面と、ミレニアム内の最新の文化が揃う街。ある意味観光、というナギサちゃんの目的には十分に合うんじゃないかと思いやってきた。
ちょうど時間的には色んなお店の開店時間だし、この時間帯なら人も少ない。ベストタイミングだ。
車はコインパーキングに停めて、私たちは街へと繰り出していた。
「D.U.よりも少し、整然としていると言いますか……ミレニアムらしさが強く出ていますね」
「そうかな?」
さすがというか、まず入った大通りでナギサちゃんが目についたのが街並みだった。目線が流石に違う。私なんて以前、初めて来た時はちょうど人が多いのもあって、周りの建物なんて気にする余裕もなかった。
「元より都会的ですが、よりその雰囲気が強いと言いますか。ミレニアムの中でも活気が特に強い場所なのだと思います」
「すごいねナギサちゃん。私そんなこと考えもしないよ」
「あ、すいません、つい……つまらない話でしたね」
「ううん。真面目なナギサちゃんらしくていいと思うよ」
やっぱり生徒会長なんだなぁ、と思う。ナギサちゃんは私から目を逸らしてなぜかそっぽを向いてしまった。
「ナギサちゃん?」
「エリカさん。あまり、褒めすぎると軽く聞こえます」
「そうなの?ごめんなさい。でも、本心だよ」
「……もぅ………」
思ったことそのまま出ちゃうせいでごめん……とりあえず、せっかく来たんだし、ナギサちゃんにも楽しんでもらわないとね。といっても、このあと会談とかあるし、控えめなの…というと。
「えっと、そういえばナギサちゃんって、お菓子作り以外に趣味ある?」
「そうですね………絵を描くのも趣味です」
「絵?どんなものを描いてるの?」
「少々お待ちください。……こちらです」
ナギサちゃんが携帯の画面を寄って見せてくれた。映っていたのはなんと立派な絵画………なんだけど、描かれていたのはロールケーキ。ものすごい上手だけど!
「上手だね。油絵、っていうやつ?」
「はい。ただ、これという拘りと言いますか、一つに絞ってやっているわけではないので、アクリル絵の具でしたり、水彩……好き嫌いはせず、あれもこれもと手を出してます」
スライドしてナギサちゃんが見せてくれる。ほんとだ。色んな画材や画風、彼女の言う通り好き嫌いなく楽しんでいるみたい。
えっと、それならちょうどいいお店があったはず。
「なら、画材屋さんがあったはずだから、ちょっと覗いて見る?」
「よろしいのですか?」
「時間あるし。このあとのこと考えると、ゲームセンターとか行ったら疲れちゃうかなって」
私の提案に、ナギサちゃんは頷かずに少し悩んだ仕草をする。ダメだったかな。
「エリカさん。大丈夫です。なにも人混みの中に入るわけではありませんし」
「そう?」
「はい。それに、私、ゲームセンターに行ってみたいのです」
ものすごく意外だ。ナギサちゃん騒がしいの苦手だと思ってたけど。わざわざ言うあたり、何かやってみたいものがあるのかな。前にミカさんは連れて行ってるし、話を聞いたのかな。
「何かやりたいものあるの?ミカさんとやったパンチングマシーンとか?」
「いえ、それではなく」
「それじゃあ」
「ぷり、というものを撮りたいのです」
ぷり、って一体なんだと思ったけど、プリントシールのことね。最後にそんなのやったのいつだろう?うーん……思い返せば、ヴァルキューレでまだぺーぺーだった頃にチヒロちゃんと撮ったっけ。まだチヒロちゃんもグレーなことしてた時期で、私と大きなヤマへかかるとき、一蓮托生とか言って嫌がる私を連れて無理やり撮った。
あれなんで撮ったんだろう。今でもよくわからない。
「そんなものでいいの?写真撮るだけだよ?」
「トリニティにはない文化ですから!」
「そ、そっか。じゃあ行ってみよっか」
「はい!」
なんだかノリノリなナギサちゃんに圧されてしまった。ま、まぁ、いいか。写真撮るだけ。
近い位置にあるゲームセンターへと向かって行き、店内へと入ると客はやっぱりまばらで、これならこんな時間にトリニティの生徒会長がここにいるなんて見る人もいないだろう。
「想像していたより静かなんですね」
「今はお客さん少ないからだと思うよ」
不良なんかも流石に開店一番に入ってくることもなくて平和だ。私も初めて来る店舗なので、天井から吊り下げられてる案内板などを見ながら目的のプリントシール機に向かっていく。
コーナーまでやってくると、いっぱい並んでてどれがどうなのかはわからない。ナギサちゃんも同じなのか、目がどれに入るべきか悩んでいた。うーん。わからん。こういうのは誰に聞くべきなんだろう。
「あの、エリカさん。あちらに入ってみましょう」
ナギサちゃんが指を指したのは白の筐体でただ「美白」と書かれていた。他の筐体と比べてシンプルだし、あれなら初心者でもいいかもしれない。二人で並んで筐体まで近づいて、長い暖簾をくぐって中に入る。中も白いというか、レフ板みたいな効果あるのかな?
なんか色々アナウンス流れるけど、見た目通りシンプルな感じらしく、撮ると肌が綺麗に映るらしい。
「私は恩恵ありそう」
「エリカさんも肌は綺麗ですよ」
「いやぁ、お世辞はいいって。ナギサちゃんなんてこんなにシミもなくて綺麗で」
隣にいる彼女をついまじまじと見てしまう。本当に肌が綺麗で、お手入れがしっかりとされている。ほっぺたなんかとっても柔らかさそう。
なので、思わず指先でぷにっと触ってしまった。
「ひゃぅ!?」
「あ、ごめん」
「い、いきなり何を」
「いや……ほっぺ柔らかそうだなって」
「急に触られたらびっくりしてしまいますっ」
「ほんとにごめんって」
「それで」
「ん?」
「か、感想は」
なんだろう。ものすごく、いけないことをしてしまった気がしてくる。ナギサちゃんが照れながらそんなことを聞いてきた。うぅ、私までなんか変な気持ちになってきたかも。お、落ち着け。本能を刺激したらまずい。
けど、正直に感想は言う。嘘はつけないのだ。
「や、やわらかかった、です」
「…………ど、どうも」
沈黙。何も話せない。お互いなんでか顔が見れなかった。
『もっと寄ってね!』
そんなことをしていたら機械から指示される。もう撮影が始まるみたいだった。画面を見れば私がちょっと外れてる。寄らないと、と動こうとしたら、ナギサちゃんが私の手を引いて抱き寄せてきた。
「な、ナギサちゃ」
画面の中で、ナギサちゃんは顔を赤くしつつも、ピースをしていた。私もなんとか笑顔を浮かべてシャッターは切られた。
今撮られた写真が画面に表示される。………なんだろう、この、まるで付き合いたてのカップルみたいな写真は。ナギサちゃんらしくもない表情が何故かグッとくるものがあった。慌てて引き寄せられたのでてんぱってるだけだろうけど、ナギサちゃん。
「どうするナギサちゃん?もう一回撮れるみたいだけど」
「………これでいいです………」
「いいの?」
「いいです」
てっきり撮り直しをしそうなものだけど、ナギサちゃんは口数少なめにこれでいいと言う。
ボタンを色々押したりしたら筐体の外に排出された。外に出て、出されたものを見る。サイズは指定できたので、二人分。カードぐらいのサイズだ。
「はい、ナギサちゃん」
「あ、ありがとうございます」
ミシン目があるのでそこで分けた。撮ったはいいけどこれどうしよう。とりあえず、生徒手帳の中に入れておこうかな。
「ナギサちゃんはそれどうするの?」
「もちろん記念ですので、大切にします」
「そっか」
なんでもないプリだけど、ナギサちゃんは大事にするようにかけていたポシェットの中に仕舞っていた。
「初めてのプリの感想はどうかな?」
「え。……そうですね。合法的に二人きり──」
「はい?」
「あ、いえ!そうではなく、友人同士で撮れるのはいいですね!」
とりあえず、楽しめた、のかな?よくわからない。まぁいいかな。
「エリカさんは、嫌でしたか?」
唐突にそんなことを言われた。嫌とかはないかな。
「別に嫌とかはないよ。今はそんなに写真とか、撮るのは嫌いじゃないから」
「そうでしたか。よかったです」
「ナギサちゃん。今日は隙間時間だけど、もし機会があれば今度はゆっくり遊びに行こうよ」
「よろしいのですか!?」
「もちろん」
お互いそんな暇があるのかわからないけど、いつかは行こう。そういえば、ハルナと初詣に行こうとしてたし、ナギサちゃんも一緒に連れて行こうかな。流石に三が日ぐらいはナギサちゃんも休暇を取るはず。
「よければさ、初詣行かない?ハルナとも行こうと思ってたし、3人で」
「………えっと、よいのですか?それはハルナさんに」
「……?」
何故かハルナに悪いと言われたけど、私たち三人で遊びに行くのは特に問題ないはずだけど……いやいや、忘れちゃいけない。ハルナはテロリスト、ナギサちゃんはトリニティのトップだ。世間体が大変よろしくないって。
「とりあえず、その件は私と、彼女で話し合っておきますので」
「え」
どういうこと。やっぱり無しと言おうと思ったらナギサちゃんがハルナと相談するらしい。
「詳細が決まったら連絡します」
「よくわからないけど、行くってことでいいんだよね…?」
「もちろん。あなたからのお誘い、無碍になんてできませんから」
ともかく行くらしい。予定はとりあえず押さえておこう。三人で初詣だ。
もう少し時間に余裕があるかなと思ったけど、思いの外なかった。そろそろエリドゥに出発しないといけない。
「ナギサちゃん、ごめん。もう時間だ。行こう」
「もうですか?時間が過ぎるのがあっという間すぎます。わかりました。参りましょう」
ゲームセンターを後にする。次来るときはお互い落ち着いてる状況で来たいね。
「ホシノ先輩」
「どったのシロコちゃん、そんな慌てた様子で」
エリカ、ナギサがミレニアムへと向かったその頃、アビドス高校の廃校対策委員会室にシロコが彼女らしくもなく慌てた様子で飛び込んできていた。他の委員、アヤネやノノミ、セリカでさえも珍しい彼女の様子に驚く。
「……アビドスの外縁部に向けて、ほとんどのカイザーPMCが集結してる」
その報告に、ホシノは好々とした雰囲気を外し、目を細める。
「カイザーが……?」
「うん。流石に全部じゃないけど、戦車とかの機甲部隊、ゴリアテとかの人型戦車も多かった」
「な、なによそれ、どこかと戦争でもしようっていうの!?」
セリカが戦力の多さにそのようなことを言うが、アヤネは冷静に思考を続ける。
「セリカちゃん。今、カイザーと強い敵対関係なのはライバル企業のセイントネフティス社だけだよ」
「じゃあそことやるんじゃ」
「いえ。そのような話は聞いていないですし、ないと思いますよ、セリカちゃん」
キッパリとセリカの想像をノノミが否定する。ホシノは実家のこととなればすぐに発言してしまうノノミが、一ヶ月前のハイランダーとの接触以降、ナイーブになりつつあると察していた。余計な詮索を後輩たちにさせないために、ノノミの発言をホシノは補足する。
「まぁ、カイザーが武力でセイントネフティスをどうにかしちゃったら流石にまずいと思うし、やらないと思うよ?一ヶ月前にグループ会社があんなことしちゃったし」
「それもそっか……」
「でもそれなら、余計に気になる。カイザーが戦力を集中させるなんて、先生が来たとき以来」
「ま、なんかしでかそうって感じはするね。シロコちゃん、悪いけど、監視頼める?」
「ん。任せて」
目的不明だが何もしないわけにはいかず、ホシノはシロコに偵察を頼む。
「異変があったらすぐに知らせて。先生に報告するからさ」
「わかった。じゃあ、装備を借りるね。アヤネ、バイクは?」
「ありますよ!この前、ブラックマーケットでどこかの学園が廃棄した偵察用バイクをジャンク品から再生したので!」
「相変わらずアヤネちゃん器用だね……」
「そんなことないよセリカちゃん」
もはやパーツひとつからでも装備を再生できるのではないかという同級生で親友のアヤネにセリカは慄いた。シロコは満足そうにグッジョブと手でサインを飛ばし、教室からまた飛び出して行った。
「アヤネちゃん。シャーレの予定は?」
「確認します。公式サイトの予定表ですと、今日は先生がシャーレに常駐。草鞋野さんは出張。聖園さんはシャーレお休みです。当番の生徒はミレニアムですね」
「わかったよ。先生がシャーレにいるのは助かるね。それじゃあ、こっちもすぐ動けるようにしとこうか」
「「「はい!」」」
連邦生徒会長代行であるリンはサンクトゥムタワー内、とある司令所の扉を極力大きな音立てずに急ぎ開け、室内へ飛び込んだ。
「状況を」
「一ヶ月前に観測されたエネルギーが急激に上昇しつつあります!」
「……」
画面内にはキヴォトス中心部、リンが今いるサンクトゥムタワーを含め、主要な自地区を囲うように成層圏に近い位置の上空にエネルギー波が感知され、大型モニターに表示されていた。
「いやぁ、急になんだろうね。まるで漏れ出すみたいに」
「モモカ」
「やっほ先輩。早かったね」
この司令所で観測を任されたのは防衛室ではなく、何故かキヴォトス全土の交通網の監督を担当する交通室室長である由良木モモカだった。彼女はその手に開けたポテトチップスの袋を持ちつつ、空いている右手で数枚を掴んでバリバリと食べていく。
「こんな朝方から食べて。生活習慣病になりますよ」
「先輩こそ昨日寝たの?そっちも不健康っしょ」
「…………不毛な話になりそうですね。やめましょう。それで、監視員の彼女から言われた通りのようですが」
「うん。一ヶ月前、先生が来た時に言ってた世界の破滅なんて笑える予言と同時に出ちゃったこれね。なんかやばいかも」
リンは一ヶ月ほど前に先生からキヴォトス破滅の予言を聞かされていた。突拍子も無いありえないような話であったが、先生が言うことであり、その予言と同時に発生した上空の不明エネルギー反応から半信半疑であるも交通室に監視を依頼していた。
「防衛室長は?」
「繋がんない。寝坊でもしてるんじゃない?」
「カヤが寝坊をするというのは俄に信じがたいですが」
「でも最近忙しそうじゃん?防衛次長通してこの件頼んだら断られたし」
「……そのことですが、カヤに聞いたところそもそも話すら来ていなかったようで」
「え、初耳。なんで黙ってたの先輩」
「カヤから、防衛室の役員たちが最近妙に、言うことを聞かないと」
そもそも、防衛室が担うような案件を畑違いの交通室に頼むということ自体がおかしなことであったが、リンはカヤから「様子がおかしい。今の防衛室には頼まないでほしい」と直々に言われてはこうするしかなかった。
その結果、リンは防衛室の権限を侵害しているとこの一ヶ月間、一部の室長、それこそカヤの派閥に所属していた室長たちから非難されていた。特に強く非難したのはカヤが最近は現場に赴き真っ当に頑張りをみせていることに感心していた財務室長のアオイであり、リンは若干であるが精神的な疲れがあった。
「なんかきなくさいねぇ」
「………アユムにカヤのことは確認させておきます。ともかく、今はこれをどうするか」
現実として目の前に迫った脅威ともわからないものに、リンは対策を講じる必要があった。
「複数の自治区に跨って発生している事象である以上、連邦生徒会のみでの対応は厳しいと判断します。よって、ここに非常対策委員会の招集を宣言します」
「えっ!?大袈裟すぎでしょ」
「いいえ。不確定情報ですがキヴォトスに厄災が降りかかる可能性がある以上は必要です。何も起きなければよかった、それで済む話です」
「──本当にそうかしら」
宣言と同時に、司令所に新たに入ってくる者がいた。
「財務室長」
「リン行政官。防衛室長との協議も無しにこのような宣言が罷り通ると思っているの?」
「……権限はこちらにあるものです。防衛室長との連携は当然行います」
「この不明エネルギーの監視を交通室にさせているのに?」
リンは眉をひそめる。防衛室がおかしくなっているという情報は当然、リンとカヤの間だけに共有されていた機密情報であり、今初めてモモカに明かしていた。アオイが知る話ではない。
「モモカ、人材室長を通して全自治区に発信を。応答する自治区は少ないと思いますが」
「りょ、りょうか〜い」
モモカが逃げるように司令所を飛び出して行った。
「先輩。あくまで強行すると?」
「強行ではありません。………アオイ、聞いてください。カヤは」
「彼女の頑張りに報いずにいることを私は看過できない。先生に対しても、裏切り行為よ」
「アオイ」
「あなたは彼女じゃないわ。この一ヶ月、まるであの人みたいに働き通して。冷静じゃないのよ、あなたは」
「私は至って冷静です」
「そんな隈をつけた顔で言われても説得力はないわ」
アオイはリンのファンデーションに隠された隈を見抜いていた。
「なんであれ、財務室としては非常対策委員会の招集はやりすぎと考えているわ。欠席させてもらうわ」
「………そうですか」
「……私たちは超人じゃないのよ。そんな顔をして、綺麗な顔を台無しにしないで」
司令所からアオイが出ていく。リンはメガネを少しずらして、こめかみを揉んだ。アオイに言われたことなど、とっくにリンは自覚している。しかし、自覚していても、止まることができないのが七神リンという少女だった。
「先生にも連絡をしなくては。杞憂で済めば、それに越したことはないのです」
『FANG1より防衛次長。防衛室長の引き渡し完了しました』
「了解しました。非常対策委員会の招集も今かかりました。防衛室はこれより、不知火室長の派閥を通して不信任案を用意します」
『………これで、ようやく始まるのですか』
「えぇ。約束を守ったものが報われる世界が到来します」
『こちらはカイザーの指示にしばらく従います』
「わかっていますよ。先生、彼女のこともエスコートしてください」
『了解』
防衛次長は腰掛けていたとあるオペレーションルームの椅子から立ち上がる。手に持っていた携帯を制服のポケットに仕舞うと、その場から歩き出す。
「プレジデント。あなたはどうやって七神代行を不信任とするのか、疑問に思われていたようですね」
彼女は盗聴によりプレジデントの目論見を全て知っていた。それを見越して、彼女はあらかじめ楔を打ち込んでいた。
「簡単な話です。そもそも、七神代行は敵が多い。反感は私たち子供からすれば飲み込むことなんて出来はしないものです」
連邦生徒会は連邦生徒会長という巨大な一本柱を失い、一枚岩とは程遠く、だからこそ春先にカヤがカイザーへと近づくことが出来た。そして、来るべき日に向けて準備が進められていた。
「だから不知火カヤには期待した。だというのに…彼女もあの女と変わらない。約束を破るものでしかなかった」
しかし、それは他ならぬカヤの手によって捨てられた。防衛次長は約束を簡単に破るような真似をするカヤに反感を持っていた。
ゆえに、彼女はカヤが捨てたものを全て引き受けた。解任されたカヤ以前の防衛室長への信頼が厚く、元より連邦生徒会のあり方に疑問符があった役員たちは役員の信任もなく室長を任されたカヤに忠誠心などカケラもなく、防衛次長の案に乗っていた。
「必要なのは起爆剤だけ。その点、タイミングがよかった。防衛室の権限を侵害する状況。そして、非常対策委員会の開会で最も権利を脅かされる防衛室長の失踪」
まるで待っていたと言わんばかりに、状況は防衛次長に味方した。クーデターをすればいずれ倒される。だが、今回は自ら手を下さない。まさに理想とも言える状況。子供だからと侮り、驕って自ら事を起こす大人たちの存在は彼女にとって実に都合がよかった。
「連邦生徒会長のような横暴が通るのは彼女が超人であるから。七神代行、あなたは違う」
防衛次長からして、リンは決して悪い人物ではなかった。公正でかつ公平であろうとしている人物であった。だが、シャーレという防衛室の存在そのものを脅かす存在を手厚く支える姿に、防衛次長は許せなかった。
「絵庭防衛室長を解任した時のような、絶対の正義の権限をあなた方は持っていないのですよ」
絶対の権力もなく、あやふやなまま進む世界。防衛次長はこんな世界だからこそ、”彼女”が犠牲になったのだと強く信じていた。
「私たち子供は、管理されるべきです」
キヴォトスに、災厄が迫りつつあった。
次回は未定です。しばらくお待ちください。
感想やここすき、いつも励みになっています。よろしくお願いします。
カヤ、君の頑張りすぎだ!というところで、不信任に至る種は真面目に頑張ってる人を無視して勝手に話進めたら……という形になりました。防衛室内はともかく、カヤは本作ではわりと周りの室長からエデン条約事件で鉄火場に突っ込んでそのあとすぐに非常事態で議会を開いたことが評価されてます。